※ この作品の前編を読んでいない方は、先にそちらをお読み下さい。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾七 夢・・物・語  その3

 ~ シンジる夢、シンジる心 ~ 後編


 「碇君……」 だき

 レイは、いきなりシンジに抱き付いた。


 「!!!!」 (シンジ+トウジ+ケンスケ+アスカ)


 ファースト! あんた一体何考えてんのよ!? こんな朝っ
 ぱらから!」

 (……夜ならいいのか?)

 「……分からない」

 「はぁ~~~?」

 「でも、こうするとなぜだかとても落ち着くの……碇君のぬくもり……暖かい……」

 ムッカー

 「いいからとっとと離れなさい!」

 アスカは無理矢理二人を引き離す。

 「そうだ、私、碇君にお願いがあるの

 「え?」 ドキ

 シンジは先ほど抱き付かれた事や、今朝見た夢の事もあり、思わず期待してしまう。

 「待ちなさいファースト、あんたまさか、自分の事を名前で呼んで欲しいなんて
 たわけた事を言うつもりなんじゃないでしょうね?」

 「……どうして分かったの?」

 「ふん! あんたがバカな事を口走るから阻止しろって夢でお告げがあったのよ」

 「夢……あなたも見たの?」

 「え?」

 「あの……綾波やアスカも同じ夢を見たの?」

 「どういう事よ? シンジ、一体どんな夢を見たのよ?」

 「だ……だから……その……」

 内容が内容だけに、なかなか口にできないシンジだった。

 「ああもうっまどろっこしいわね! まさかこんな夢じゃないでしょうね?」

 そう言って、アスカは自分の見た夢の内容を話す。

 「あ、僕が見た夢と同じだ……」

 「私も……」

 「へぇ、三人とも同じ夢を見るやなんて珍しい事もあるもんやな?」

 「ネルフの訓練や実験の副作用か何かか?」

 「実験……そうか、そういう事か……」

 そう言うと、アスカはキョロキョロと周りを見回す。

 「……どうしたの、アスカ?」

 「そこだーーーっ!!」

 そう言って、アスカは電信柱の影に向かってカバンを投げる。

 「きゃっ!」

 軽い悲鳴を上げて、電信柱の影から一人の人物が現れた。

 「リツコさん」

 「赤木博士」

 「アスカ、危ないじゃないの。いきなりカバンをぶつけてくるだなんて……」

 「うるさいわね。どうせ今回の事、リツコが絡んでるんでしょう?」

 「あら、何の事かしら? 私はただ朝の散歩をしていただけよ。夢の事なんて
 知らないわよ

 「……何で夢の事だって分かるのよ? 私は一言もそんな事言ってないわよ」

 「あなた達が夢の事を話してるのを散歩中に偶然聞いただけよ」

 「しぶといわね、あくまでしらを切るつもり?」

 「しらを切るも何も、私には関係の無い事だもの」

 リツコは巧みにアスカの追求をかわしていく。そのため、アスカは作戦を変更する
 事にした。さっきと同じように周囲を見回すと、何かを見つけてそっちに向かって
 走り、何かを手にして戻って来た。

 「どうリツコ、おとなしく白状しないと、このネコの命はないわよ

 「にゃ~ん」

 「……あのねアスカ、何でこの私が、見知らぬ可愛い子ネコのために脅迫に屈し
 なきゃならないのよ?」

 「ふっ、甘いわねリツコ……パス!

 そう言って、アスカは子ネコをリツコの方へ投げた。

 「あ、危ない!

 リツコは慌てて子ネコをキャッチする。

 「にゃ~ にゃ~」

   すりすり  ごろごろ

 「う……」

 「にゃ~~~ん」

 「ああっ、可愛い! 可愛い! 可愛いわ~~~っ!」

 リツコはネコに頬擦りまでしていた。アスカは、そんなリツコから子ネコを取り
 上げる。

 「ああっ私の子ネコちゃんを返して!」

 「どうリツコ? この子ネコの命が惜しかったら、素直に本当の事を話す事ね」

 「うう……分かったわよ。その代わり、その子は開放してあげると約束しなさい。
 いいわね?」

 「ええ、いいわよ」

 アスカは勝ち誇ったように子ネコを開放した。リツコはその子ネコを抱き上げ、再び
 頬擦りしていた。そんな様子を、シンジ達はあっけに取られて見守るしかなかった。

 「……で、どういう事なわけ?」

 「……ちょっとした実験に協力してもらったのよ」

 「実験?」

 「そう、私の思い通りの夢を見させる事により、相手の深層心理に働き掛けるの。
 毎日繰り返す事で、本人が自覚しないうちに私の思い通りの行動をするようになる
 の。そうすればあの人も私の思い通りに……。だから、ちょっと機械のテスト
 に協力してもらったの」

 ぽかっ!!

 「痛ーい」

 「協力ってーのは相手の合意があってこそのものよ! 何考えてん
 のよ! まったく!」

 「でもリツコさん、相手の夢を操作するなんて本当にできるんですか?」

 「ふっ……。シンジ君、私にできない事はないのよ。そうね、特別に見せてあげる
 わ。これが私の作ったメカ、

 『ゆめゆめくんRX1号』 (じゃじゃーん)

 よ!

 そう言って取り出したのは、とてもポケットの中には収まらないような、かなり
 大きなメカだった。日本一有名なポケットでも持っているのかも知れない……。
 おまけに、メカのバックには効果音フラッシュまでついている。

 「ああっ美しくかつ機能的なデザイン……私ってやっぱり天才だわ!

 リツコはうっとりとして、『ゆめゆめくんRX1号』に頬擦りしている。


 「……マッドサイエンティスト……」

 「碇君、こういうのって『メカフェチ』って言うのよね」

 「二人とも……本人前にしてそんなにはっきりと言っちゃ悪いよ」

 『くっ……エントリープラグに唐辛子でも混ぜてやろうかしら……』


 「で、何だってあんな夢見せたのよ?」

 「だから実験よ。色恋沙汰に全く興味なさそうなレイが反応すれば、あの人だっ
 て……。どうやら実験は成功のようだし」

 「だったらファースト一人にしなさいよ! 何で私まで巻き込む
 のよ!?」

 「だって、データは多い程いいでしょ? そんなに怒らなくてもいいじゃない。
 お詫びに加持君の夢にアスカをすり込んであげるから」

 「え……できるの?

 「もっちろん! 私は天才なんだから」

 リツコによる悪魔の誘惑にアスカは少し心が揺れる。

 そして、レイはというと……

 「碇君、私と同じ夢を見たのなら知ってるでしょ。私、もう一度……ううん、これ
 からも、名……」

 「ちょっと待った! ファースト、あんた今の話聞いてなかったの? 今朝見た
 夢はリツコが勝手に作ったストーリーを見せられただけなのよ。あんたの思いじゃ
 ないのよ。勘違いするんじゃないわよ!」

 「いいえ、違うわ

 「何が違うのよ?」

 「あの夢を見た時、私はドキドキした。こんな事今までなかったのに……。それに
 さっき名前で呼ばれた時、とても嬉しかった。抱きしめてくれた時も……」

 「あんたが勝手に抱きついただけじゃないのよ!!」

 「だから、これが私の想い……願いなの」

 「ちょっとリツコ、メモ取ってんじゃないわよ! これは一体どういう
 事よ!?」

 「う~ん……私の作ったストーリーが、偶然レイ自身気付いてなかった深層心理の
 願いと見事に一致したのかしらね。それで眠っていた感情が目覚めたのかしらね。
 やっぱり私って天才ね

 「いいから元に戻しなさい!」

 「あら、別にいいじゃない。それともアスカ、やきもちかしら?」

 「なっ!?」

 「ひょっとして、アスカの深層心理の奥にあったものまで目覚めさせ
 ちゃったのかしらね~?」 にやり

 「な な なっ!」 赤っ

 「加持君じゃなくて、シンジ君の夢を操作した方がいいかしら? もし望むなら
 年令制限モードもあるわよ」

 「な、な、何言ってんのよ!?」

 「碇君、年令制限モードって何の事?」

 「な、何って言われても……」

 「あ、あのリツコさん、どんな夢でも見られるんだったら、僕エヴァのパイロットに
 なれる夢を見せて欲しいんですけど……」

 「わ、ワシはうまいもんを腹一杯食う夢を……」

 「あら、結構人気あるわね。商売始めようかしら、結構稼げるかも……」

 「バカな事言ってないで、ファーストを元の人形女に戻しなさいよ!
 できるんでしょうね?」

 「う~ん……一度手にした感情を無くさせるのは難しいわね……。毎日シンジ君と
 ケンカする夢を見せ続ければ、仲を悪くする事ならできるだろうけど……」

 「えい」

 ぐちゃ

 「あ~~っ! 私の『ゆめゆめくんRX1号』がーっ! レイ、何する
 のよ!?」

 「私はそんな夢は見たくない。だから、壊すの」 ぐしゃ

 レイは、そう言って踏みつける。

 「そうよ、人の心を操作しようなんて最っ低よ!」

 げし げし げし

 二人に踏み潰されて、ゆめゆめくんRX1号は粉々にされてしまったが、リツコは
 めげなかった。

 『ふっ……早速帰って、ゆめゆめくんRX2号の制作に入らないと……』

 しかし、その後、レイとアスカのたれこみによって事態が発覚し、リツコに対して
 常にネルフ本部の監視が付き、予算も全て管理されたため、二度のリツコによる
 夢への侵入は起きなかったという。


 なお、その後、レイが何か言い出さないようにアスカは常にシンジの周辺で目を
 光らせ、一緒に登校するようになった。もちろんレイも一緒なので、結果的に
 三人揃って登校するようになった……とさ。

 めでたし、めでたし


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 外伝 拾七

 夢・・物・語 <完>


 ・ ・ ・


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き


 レイ編とアスカ編しか作ってなかったのに、いきなりその他のを作れ
 と言われたって、そんなのは加藤文書のシナリオにはない
 のに……。

 うわっ時間がない!

 とりあえずシンジの話でも作るか……。

 でも、はっと気付くとシンジ活躍してない。

 ……ま、いつもの事だからいいか。


 <おわり>


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