新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾七 夢・・物・語  その1

 ~ 綾しい夢と怪しい作戦? ~ (タイトル命名 Imaizumiさん)


 「碇君」

 「え? なに、綾波?」

 「碇君にお願いがあるの……二つ……」

 「僕に? 別にいいけど、何かな? 僕にできる事?」

 「ええ、碇君じゃなきゃだめなの」

 「? なに?」

 「私の事、レイって呼んで欲しいの」

 「え!? ど、どうして……」

 「そう呼んでもらえると嬉しいから…………だめ?」

 「そ、そんな事はないけど……」

 「そう、良かった」

 「え、えーと、それで綾波、もう一つのお願いって……」

 「…………」 くすん

 「あ! ご、ごめん。あの……レ、レイ

 「何、碇君?」 にこっ

 「だから……その……もう一つのお願いって何かな?」

 「碇君に、私を幸せにして欲しいの」

 「へ? 幸せって?」

 「私の幸せは、碇君と一緒になる事

 「え? え? え?」

 「だめなの? 私を幸せにしてくれないの? 碇君、お願い……」

 「あ、あの……。う、うん、僕で……いいのなら……」

 「ありがとう碇君!」 だきっ

 「レイ……」



 ……はっ!?



 「……何……今の? ……夢? …………最近見るようになったもの……。
 いつも碇君が出てくる……なぜだろう? 胸がドキドキする……。
 私……望んでるの? 今見た事を……?

 ……そう、そうなのね。……私、絆が欲しいんだ……みんなとの絆じゃなく、
 碇君と私だけの絆が……。碇君にお願いしてみよう……」

 そうつぶやくと、レイは身支度もそこそこに学校へと向かった。

 しかし、レイはいつもクラスで一番に教室に入っている。その上、いつもより随分と
 早く家を出たため、当然クラスには誰もいなかった。

 「どうしよう……碇君の家まで迎えに行こうかな……」

 そう思って校庭を見ると、ぱらぱらと生徒が登校してきていたので、シンジが登校
 するのを待つ事にした。

 『不思議……一人で過ごす時間には慣れてるはずなのに……どうしてこんなに
 そわそわするの……?』

 レイは自らの変化にとまどいながらもシンジを待っている。教室に誰かが入って
 くる度にシンジではないかと入口を見て、シンジではない事を知りがっかりする。
 そんな事を何度か繰り返していると、ようやくお目当てのシンジが登校してきた。

 『碇君……』 ドキン

 しかし、シンジを待ってたはずなのに、夢で見た事をお願いするはずだったのに、
 体が動かなくなってしまった。

 『どうしたの私……体が動かない……なぜ? ……人の目が……惣流さんの目が
 気になるの? ……どうして? こんな事、今までなかったのに……』

 初めて、他人の目が気になる、恥ずかしい、という思いが涌いてきて体が動かなく
 なってしまったので、とりあえずシンジが一人になるのを待つ事にした。その日
 一日、レイは窓の外を眺める事はなく、ずーっとシンジの方ばかりを見ていた。

 そして放課後、そのチャンスが訪れた。

 「碇君」

 「え、何? 綾波」

 (ドキッ)

 そう言って振り向くシンジの顔を見ると、また体が動かなくなってしまった。

 『なぜ? ……ここには碇君と私しかいないのに……他に誰もいないのに……
 どうして? ……体が震えてる……。恐い? ……何かを怖がってるの……私?
 ……使徒の攻撃だって恐いと思った事なんかなかったのに……何を怖がってるの?
 …… ……碇君に……断られるのが……恐いんだ……私……。でも……
 伝えたい……この想いを……でも……どうすれば……』

 「どうしたの、綾波?」

 「え? あ、あの……」

 『どうしよう……どうしよう……何か言わなきゃ……お願いしなきゃ……』

 そう思うほど頭が混乱し、顔が赤くなっていくのが自分でもはっきりと分かった。

 「綾波、顔赤いよ。どこか具合が悪いんじゃないの?」

 そう言ってシンジは心配そうにレイの顔を覗き込む。

 『い、碇君がこんなに近く……ど、どうしよう……どうしよう……』

 「ご、ごめんなさい。わ、私、よ、用事があるから……」

 そう言って、レイはとりあえずシンジの前から逃げ出した。

 「? ? 綾波、どうしたんだろう? 僕に何か用があったんじゃないのかな?」

 一人取り残されたシンジは、何がなんだかさっぱり分からなくなっていた。

 『どうしたの私……自分の体が思い通り動かないなんて……こんな事今まで
 なかったのに……どうしよう……。そうだ、赤木博士に聞いてみよう。私の体の事
 なら私以上に知ってるはずだから……』

 レイはそう結論付けると、リツコの元へと向かった。しかし、三十歳独身女
 の上、マッドサイエンティストのリツコには最も向かない相談である事を
 レイが気付くはずもなかった。しかも、間の悪い事にリツコの研究室にはミサト
 までいた。

 「あら、レイじゃない、どうしたの?」

 「私、体がおかしくなったんです……病気でしょうか?」

 「? 病気? 体が動かない? でも昨日までのデータには何もおかしな所はない
 し、今だって普通に動いてるじゃないの」

 「でも、碇君の前に出ると体が動かなくなったし……顔が赤くなるんです」

 「レイ、とりあえず最初から話してみて。今のままじゃ何も分からないから」

 「はい、私、最近夢を見るようになったんです」

 「夢? って寝てる間に見る夢の事?」

 「はい、少し前まで夢なんて見た事なかったのに、最近良く見るんです。それで、
 いつも碇君が出て来るんです。

 ほほう!! シンジ君が!」

 ミサトは目を輝かせて身を乗り出す。

 「レイ、確認しておくわ。夢に出てくるのはシンジ君なのね。碇司令じゃなく」

 「? はい、碇司令が夢に出てきた事はありませんけど……」

 「そう、いい事ね。で、どんな夢を見てるの?」

 「はい、それは……」

 レイは今朝見た夢をミサトとリツコに説明した。

 「……これはまた……結構強烈な夢見てるわね……」

 「そうなんですか?」

 「でもミサト、夢というものは潜在的な願望が形になってると言ってもいいもの
 よ。そんな夢を見るって事は、レイ自身気が付かないうちに、それを望んでいる
 って事よ」

 「ふ~ん、そうなの?」

 「やっぱりそうなんですか。私……碇君と……。あの……赤木博士、私もそう思っ
 て碇君にお願いしようと思ったんです

 「え? レイ、シンジ君にお願いしたの!?」 ググッ

 「それで、シンジ君は何て言ったの!?」 ググッ

 ミサトとリツコはレイに詰め寄った。

 「それが……他人の目が気になって……体が動かなくなって……碇君と二人きりに
 なったら今度は顔が熱くなって……何も言えなくなって……。私……病気なんで
 しょうか?」


 「……どう見る、リツコ?」 (ひそひそ)

 「どう見るったって、この状況で導き出される答えは一つしかないでしょ」

 「そうよね、それ以外の答えを出せって方が無理よね……」


 「あの、私、どうなったんでしょうか? やっぱり病気なんですか?」

 「そうねぇ……一種の心の病、病気と言えなくもないわね。何しろ、昔から
 『お医者さまでも草津の湯でも治らない難病』と言われてる
 ものね」

 「そう……ですか……私……病気なんだ……」

 「でも心配する事はないのよ。むしろレイにとってはいい事よ」

 「?」

 「その心の病の名は、というものよ」

 「鯉? 鑑賞用の淡水魚?」

 「……お約束のボケね。私が言ってるのは恋、人を好きになる気持ちの恋よ」

 「ひ、人を好きになる……恋……私、碇君の事を……好き……私が?」

 「まず間違いないわね」

 「私、どうすればいいんでしょうか?」

 「シンジ君が好きなら告白すればいいじゃないの

 「で……でも……」 真っ赤

 『……やだ……また顔が熱い……』

 「うおっ!? レイが照れてる。う~ん、どうしたものかしら」

 「ミサト、悩む事なんてないんじゃないの」

 「リツコ、何かいいアイデアでもあるの?」

 「簡単よ……レイ

 「はい」

 「シンジ君に告白しなさい。これは命令よ」

 「あ、そうか、その手があったか」

 「でも……私……恥ずかしいです。それに……もし断られたら……」

 「おおお? レイが『命令』というキーワードに反応しないなんて」

 「これは意外な展開ね」

 「どうすればいいんでしょうか?」

 「う~ん……難しいわね。ちなみに、『諦める』という選択肢はないの?」

 「嫌です」 きっぱり

 「う~~ん……でもさすがにこればっかりは科学や医学でどうにかなるもんじゃ
 ないし……」

 「……そうですか……」

 「あ、でもがっかりしないで。まだダメと決まったわけじゃないし。恋の相談には
 乗ってあげるし、応援もしてあげるから」

 「……ありがとうございます」

 「ふっ……甘いわね、ミサト」

 「え?」

 「科学に、ネルフに、私に不可能はないのよ。任せなさい、レイ。
 私があなたの想い、遂げさせてあげるわ」

 「お願いします」

 「ええ、任せなさい」

 「ちょっとリツコ、一体どうするつもりよ?」

 「ん? そうね、まず、作戦の第壱段階として、シンジ君を家に誘いなさい。
 これくらいできるでしょ」

 「はい、私が学校を休めば、碇君は見に来てくれますから」

 「……まぁ、わざわざ休まなくても、用があるとか言って誘えばいいじゃないの。
 あ、それと、この時シンジ君一人を誘うのよ。他の人、特にアスカがいると、この
 作戦は失敗だから、覚えておいてね」

 「はい」

 「で、第弐段階だけど、私が作ったこのを飲み物に混ぜて、シンジ君に飲ませ
 なさい」

 「薬? 碇君、どこか悪いんですか?」

 「そうじゃないわ。これはシンジ君が元気になる魔法の薬よ。これを使えばレイの
 望みは叶うわ。頑張ってね」

 「はい」

 「ちょっとリツコ、あんた中学生相手に何て事薦めてんのよ!!

 「いいじゃないの別に。それがレイの望みなんだし、手っ取り早いわよ。大丈夫
 よ。無味、無色、無臭だから気付かれる心配はないし、後遺症もないわ」

 あんた一体、誰で試したのよ? とにかく、これは没収します」

 「ミサト、加持君にでも使うつもり?

 「何で私があんな奴に使わなきゃなんないのよ!?」

 「じゃあ、ミサトがシンジ君に使うつもり?

 「あのね、私はそんなシュミは持ってないの。だいたい、何でも薬で解決しよう
 っての、いい加減で直しなさいよ」

 「だったらどうする気? あのシンジ君とレイのカップルなんて、放っといたら
 地球が滅びるまで待っても成立しないわよ。ミサトにいい作戦でもあるの?」

 「そ~ね~……ま、第壱段階はいいとして、問題はシンジ君を連れ込んだ後ね」

 「連れ込む……言い方が卑猥ね」

 「うっさいわね……。う~ん……あ、そうだ! レイ、シンジ君を何とか騙して
 ビール飲ませなさい

 「ビールですか?」

 「そ、いくらシンジ君でもアルコールの力を借りれば一気にダーーーッと」

 「……ミサト、それ私の作戦と基本的に何も変わらないじゃないの」

 「非合法な怪しいクスリ使うよりよっぽどマシよ」

 「何言ってんのよ。未成年者にアルコール飲ませるのはきっちり違法よ」

 「あれ? そうだっけ?」

 「まったく……」

 「あの……結局、私はどうすればいいんでしょうか?」

 「レイ、ちょっと待ってて。今、リツコと大事な話をしてるところだから」

 「そうよレイ、重要な問題って事はあなたにも分かるでしょ。だから少し待って
 て」

 「はい、分かりました」

 レイにとって、自分一人ではどうしていいか分からない問題なので、ミサトとリツコ
 の話し合いの結論が出る事をおとなしく待つ事にした。

 しかし、ミサトとリツコはお互いの作戦の問題点を指摘しあうだけで、話は全く
 まとまらなかった。


 そして、一時間が経過した。


 「……はぁ……はぁ……なんだか話が行き詰まっちゃったわね」

 「……はぁ……はぁ……そうね……ここは視点を変えてみるのが得策ね」

 「視点を変える?」

 「そう、あの”おくて”のシンジ君とレイをどうにかくっつけようとしたのが間違い
 だったのよ」

 「そう言えばレイの相談って、どうすればシンジ君に告白できるか、
 だったわね。どこで脱線したのかしら?」

 ようやく自分達の間違いに気付いた二人だった。

 「そうと分かれば簡単ね。シンジ君と二人っきりの時に、私が作った薬をレイが
 飲めばいいのよ」

 「だから、薬に頼るんじゃないって言ってるでしょ! それより、
 レイがシンジ君と二人っきりの時にビールを飲めば……」

 「だからそれは私の作戦と何も変わらないってさっきから言って
 るでしょ!」

  ……この二人って一体……

 ミサトとリツコの作戦会議は、深夜遅くまで続いたという。


 そして、翌日……。


 何を怒っているのか、顔を真っ赤に染めたアスカが、何を照れているのか、顔を
 真っ赤に染めたシンジの首根っこを捕まえて、ネルフ本部に怒鳴り込んできた。

 しかし、こうなる事を予測していたのか、ミサトとリツコはすでに安全な場所まで
 避難を終えていた。

 そのため、ぶつけ所を失ったアスカの怒りは、シンジの横で頬を染め、妙にニコニコ
 しているレイに向けられた。しかし、レイは普段からアスカの嫌味に全く動じる事が
 ない上、今はやたらと機嫌がいいらしく、何を言われても全く平気だった。そして、
 その態度がさらにアスカの機嫌を悪くする。

 ちなみに、シンジはグニャグニャ状態なので、こちらもアスカに何を言われても、
 殴られても全く気にならない状態だった。


 ミサトとリツコがレイにどんな作戦を授けたのか、レイとシンジの間に
 何があったのか、アスカがなぜ怒っているのか、それは、作者も
 知らない、永遠の謎である……。


 <おわり>


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