「碇君」

 「え? なに、綾波?」

 「碇君にお願いがあるの……二つ……」

 「僕に? 別にいいけど、何かな? 僕にできる事?」

 「ええ、碇君じゃなきゃだめなの」

 「? なに?」

 「私の事、レイって呼んで欲しいの」

 「え!? ど、どうして……」

 「そう呼んでもらえると嬉しいから…………だめ?」

 「そ、そんな事はないけど……」

 「そう、良かった」

 「え、えーと、それで綾波、もう一つのお願いって……」

 「…………」 くすん

 「あ! ご、ごめん。あの……レ、レイ

 「何、碇君?」 にこっ

 「だから……その……もう一つのお願いって何かな?」

 「碇君に、私を幸せにして欲しいの」

 「へ? 幸せって?」

 「私の幸せは、碇君と一緒になる事

 「え? え? え?」

 「だめなの? 私を幸せにしてくれないの? 碇君、お願い……」

 「あ、あの……。う、うん、僕で……いいのなら……」

 「ありがとう碇君!」 だきっ

 綾波っ!

 がばっ!! ←枕に抱き付く音



 はっ!?」

 「…………ゆ、夢か……。そうだよな……綾波が僕にあんな事言うわけないか……」

 シンジは枕に抱き付きながら、まだ寝ぼけた頭でつぶやいた。

 「……なんか……惜しかったな……」


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 

 外伝 拾七 夢・・物・語  その3

 ~ シンジる夢、シンジる心 ~ 前編


 その後、シンジはいつものように朝食の準備に取り掛かったが、夢の事が気になり、
 結構派手な妄想に突入したりしたので、珍しく料理を焦がしてしまった。


 「ふぁ~~~ おはよーシンジ君」

 「あ、ミサトさん、おはようございます」

 「ん? シンちゃんが料理を焦がすなんて珍しいわね。どこか具合でも悪いの?」

 「いえ、そういうわけじゃなくて……ちょっと考え事を……」

 「どうせいやらしい夢でも見て、それを思い出してニヤニヤしてたんでしょ。
 まったくバカシンジはいやらしいんだから」

 「な、な、何だよそれ!? だいたい、何でアスカ、僕が起こさないのに起きて
 きてるんだよ?」

 「あーーーっ、ごまかしてる! やっぱりそうなんだ!」

 「ち、違うって」

 「ふふ。まーまーアスカ落ち着いて。シンジ君だって、ぅわぁ~っかぃ男の子なん
 だから、そういう夢の一つや二つ、見て当然よ」

 「ミ、ミサトさん~~~。それ、全然フォローになってないですよ」

 「ま、いいじゃない。それよりアスカ、シンジ君に起こされないうちから起きてくる
 なんて、ほんと珍しいわね。どうしたの?」

 「最っ低! な夢見て目が覚めちゃったのよ。あ~、思い出しただけでも腹立つ
 わ」

 「ふ~ん。で、どんな夢なの?」

 「言ったでしょ。思い出すだけでも腹立つのよ! 口になんて出せるわけ
 ないじゃないの。良かったわね~シンジ、いい夢だったみたいで~」

 アスカは嫌味を込めて、そう言ってシンジを見る。シンジはというと、逆らうと
 何されるか分からないので、おとなしくしている事に決めたようだった。


 そして、朝食も終わり、食器を片付け、学校に行く用意が整った頃、玄関のチャイム
 が鳴った。

 「ん? シンジ君、迎えが来たみたいね」

 「はい、それじゃあ行ってきます」

 「ええ、車に気を付けてね」

 「はい」

 そしてシンジは玄関を開ける。

 「おはよーシンジ!」

 「学校行こうぜ、シンジ!」

 待っていたのは、いつものようにトウジとケンスケだった。シンジ達三人はいつも
 一緒に登校している。

 「うん。……あれ? アスカ、どうしたの?」

 「学校に行くに決まってんでしょ、悪い?」

 「いや、そんな事ないけど……アスカいつも一人で学校行ってたから、どうしたの
 かと思って」

 「気分転換よ」

 「はぁ……」

 「何や、惣流もワシらと一緒に行くんか?」

 「あんたバカぁ!? 気分転換だって言ったでしょ! たまたま
 シンジと一緒の時間になっただけよ! ほらシンジ、学校行くん
 でしょ。さっさと行くわよ!」

 「う、うん」

 こうして、シンジ、アスカ、トウジ、ケンスケの四人は学校へ向かった。

 シンジは、『アスカの事だから、同じ時間に家を出たからといっても、一緒に登校
 する事はないだろうな』と思っていたが、どういうわけか、アスカはシンジと付かず
 離れずの距離を保ちながら、何かを警戒するかのような目つきで周りを見ていた。

 トウジとケンスケはそんな二人に気を遣い、少し離れて歩く……なんて事はせず、
 いつものように三人でくだらない話をしていた。アスカは、自分一人が取り残されて
 いるような気がして、だんだんと不機嫌になっていった。

 「シンジ、あんたいつもこんなくだらない事を話しながら登校しているわけ?
 そんなんだからいつまでたってもバカシンジのままなのよ。いいシンジ、一緒にいる
 人間のレベルによって、自分も影響受けるものなのよ。こんなのと一緒に登校して
 たら、いつまでたってもロクな男になんないわよ」

 「何やて!?」

 「あら、ほんとの事でしょ? ま、私みたいなレベルの高い天才美少女と一緒に
 いれば、少しはマシになるかも知れないわね」

 「ふ~ん、つまり惣流は、僕達と一緒に登校するんじゃなくて、自分と二人きり
 で登校しろ、とシンジに言ってんだな」

 「な、何でそうなるのよ!?」

 「どう聞いたってそうなるじゃないか、なぁトウジ?」

 「そういうこっちゃな」

 「ま、まぁまぁみんな、落ち着いて……」

 「シンジは黙ってて! 今日という今日は、このバカどもにガツーン
 と言ってやるわ!」

 「おう! こっちこそお前には言いたい事が山ほどあるわ!」

 トウジとアスカが一触即発の状態になった時、ケンスケがある人物を見つけた。

 「おいシンジ、あれ、綾波じゃないのか?」

 「え?」

 「ファーストですってぇーーーっ!?」

 シンジよりもアスカの方が過敏に反応していた。

 「ほんとだ、綾波だ。でも、どうしてこんな所にいるんだろ? 綾波の家からだと、
 この道は通るはずないのに……」

 そうシンジが思っていると、レイが近づいてきた。その間に、アスカはシンジを背に
 して割り込む。

 「ファースト! あんた何でこんなとこ歩いてんのよ!?」

 「あなたこそ、どうしてここにいるの?」

 「私はあんたと違って、いつもこの道を通るのよ。この道を使ってて当然よ」

 「そうじゃない。いつも一人で登校してくるのに、なぜ今日は碇君と一緒にいるのか
 を聞いてるの」

 「き、気まぐれよ」

 「なら私もそう。単なる気まぐれよ。問題ないでしょ」

 「くっ……こ、この女……」

 レイはアスカを無視してシンジに話し掛ける。

 「おはよう、碇君」

 「あ、おはよう、レイ

 シンジは夢の影響からか、ついそう言ってしまった。

 「え……」

 「なっ!?」

 「……惣流以外を……呼び捨て……」

 「いや~んな感じ……」

 「い、いや……こ、これは、その……」

 「碇君……」 だき

 レイは、いきなりシンジに抱き付いた。

 「!!!!」 (シンジ+トウジ+ケンスケ+アスカ)


 <つづく>


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