新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十三部 Dパート


 「ところでアスカ、一つ聞いていい?」

 「何よ、急に?」

 「さっきから気になってるんだけど……やけに落ち着いてるわね。何でなの?」

 「はぁ?」

 「だって、シンちゃんがあんなにレイの事を大事にしているのを目の前で見たわけ
 だし……やきもち妬いてないのかなぁ~と思って」

 「やきもち~?」

 「そ。さっきレイが言ってた 『ここにいてもいいよね?』 の 『ここ』 って、
 シンちゃんの腕の中って事よ。シンちゃんはともかく、アスカは気付いてるんで
 しょ?」

 「そりゃあね……」

 「じやあ、何でそんなに落ち着いてるわけ?」

 「だって、やきもち妬く必要なんて無いもの」

 「……そっか、アスカ、シンちゃんの事諦めたんだ……。ちょっと意外
 だったわね。こんなに簡単にレイに譲っちゃうなんて……」

 「ミサト、何わけの分からない事言ってんのよ。何で私がシンジの事諦めなきゃ
 なんないのよ?」

 「ほえ? だってさっき、やきもちなんて妬く必要無いって……一体どういう事
 なの?」

 「ふっ……それはね、もし私が何かの理由で、さっきのレイみたいに取り乱す
 事があっても、シンジは絶対に私の事も助けてくれる。レイと同じように守って
 くれるって知ってるからよ。今回はたまたまレイだっただけよ。だからやきもち
 なんて妬く必要が無いのよ。分かったかしら、ミサト」

 「あらまぁ、随分と信頼してんのね」

 「当たり前じゃない。シンジの事を信頼してんのはレイだけじゃないんだから。
 いつまでもミサトにからかわれ続ける私たちじゃないんだから」

 「ほほぉ~~~。じゃあせっかくだからシンちゃんとレイを二人っきりにして
 あげようかしらね~~~ん」

 「何でそうなるのよ!!」

 「あ~ら、だってシンちゃんの事信頼してんでしょ? なら別にいいじゃないの」

 「それとこれとは話が違うの!! ほら、バカな事言ってないで
 さっさと布団取って来るわよ!!」

 「ふふ~ん。やっぱりこーいう反応してくれないと面白くないわね。あ~、楽しい
 わ~~~」

 「まったく性格悪いんだから……さっさとシンジの布団取って来なさい」

 「はいはい」

 これ以上からかうとアスカが本気で怒り出しそうだったので、ミサトは素直に布団を
 取りに行った。そしてアスカは自分の布団を、ミサトはシンジと自分の布団を手に
 して、レイの部屋に戻って来る。

 「ちょっとミサト、なに部屋の中に布団敷いてんのよ? 私の寝る所が無いじゃない
 のよ」

 「あら、そこが開いてるじゃない

 「え? そこって……」

 アスカはミサトの指差す方を見る。そこには、レイのベッドにもたれているシンジが
 いた。

 「ちょ、ちょっとミサト……」

 「アスカ、これは命令よ。シンちゃんが 寝てるレイにいたずらしないように、
 横に付いてて監視してなさい。いいわね、アスカ」

 「…………ま、命令じゃ しよーがないわね。文句無いわね、シンジ?」

 「え? う……うん……」

 「うん、よろしい」 (アスカ)

 『ありがと、ミサト』

 『ふ~ん、結構素直に従ったわね。ま、幾ら信頼してても不安でしょうし……
 優しい上司に感謝してね』


 「じゃあ二人とも、電気消すわよ。おやすみ」

 「おやすみなさい」

 「おやすみ」



 それからしばらくして、ミサトは豪快な寝息をたて始めた。それを確認してから、
 アスカはシンジに話しかける。

 「ねぇシンジ、起きてる?」

 「うん、起きてるけど……何?」

 「うん、あのね。もし……私が……さっきのレイみたいに……」

 「ん?」

 「ううん、いいの。何でもない、忘れて」

 「?」

 『そうよね、信じるって決めたんだから最後まで信じなきゃね』

 「ねぇシンジ……手……繋いでていい?

 「え!?」

 「静かにしなさいよ。レイが起きちゃうでしょ」


 「う、うん……でも……何で……?」

 「だ……だからほら……ミサトが言ってたでしょ。シンジがレイにいたずらしない
 ように見張ってろって。でも私が先に寝ちゃったら監視できないじゃない。だから
 手を繋いでおくの。そうすればシンジがおかしな動きをすればすぐ気が付くでしょ。
 もし拒否するのなら、レイに何かする気があるって事になるわよ。どうする、シン
 ジ?」

 「僕はそんなつもりは無いから別にいいけど……」

 「そ。ありがと、シンジ」

 「え?」

 「何でもないわよ。ほら、寝るわよ」

 「う、うん」

 そして、アスカはシンジと手を繋ぐ。その温もりに安心したのか、しばらくすると
 シンジにもたれるようにして眠り始めた。そして、一人残されたシンジは、当然の
 ように眠れない。眠れるはずもなかった。

 『……僕も一応男なんだけど……何でみんなこんな風に平気で寝れるんだろう
 ……男扱いされてないのかな……それとも、信用されてるのかな……。複雑な気分
 だな……』

 一人自分の存在について悩んでいると、微かな声が聞こえてきた。

 「いか……り……く……ん……」

 「え? 綾波、起きたの?」

 シンジはレイの顔を見る。暗くて良く分からないが、静かな寝息が聞こえてくる
 だけで、起きている気配はなかった。

 「寝言かな?」

 寝言で自分の名を呼ばれる。しかも女性から。ヤケに恥ずかしくなり、体中が真っ赤
 になってしまうシンジであった。

 『綾波、夢でも見てるのかな? 悪い夢じゃなきゃいいんだけど……。もし僕が
 綾波の夢の中に出てるんだったら……綾波が僕の事を頼ってくれてるのなら……
 夢の中の僕、ちゃんと綾波を守ってあげて。起きてる間は僕が守るから……』

 そうつぶやくと、シンジは眠りに落ちていった。



 そして次の朝、レイは部屋の雰囲気がいつもと違うせいか、いつもより少し早く
 目が覚めていた。

 「え、碇くん? どうして私の部屋に碇くんが……? あれ、アスカ……ミサトさん
 も……? どうして……。あ、昨日の事……夢じゃ……無かったんだ……。
 碇くん、ずっと……ずっとそばにいてくれたんだ……。あれ、どうしたんだろ?
 ……私、また泣いてる……。前は涙なんて殆ど流した事なんて無かったのに、
 どうしたんだろ……私……弱くなったのかな……でもいい、弱くなってもいい。
 だって、私は一人じゃないもの。一人で強く生きなくてもいいんだ。泣きたい時
 には泣いてもいいんだ……。碇くんが守ってくれるから……泣いてもいいんだ……
 嬉しいな……。

 碇くん、私、生まれてきて良かった。

  心からそう思える。

 碇くんと同じ刻に、女として生まれて来れた事、
  出会った事、
   好きになった事、
    一緒にいられる事、

 碇くんがいて、私がいて、みんながいて……

 それ以上、何もいらない。

 生まれた意味なんていらない。
  だって、私は今、ここにいる。
   私は今、生きてる。
    こんなにも幸せだもの……。

 碇くん、私、好きになった人があなたで良かった


 レイは随分と長い間、とても嬉しそうに、眠るシンジの顔を見つめていた。そして、
 何かを思いついたように、手の届く所に置いている手鏡を手にして覗き込む。

 「さようなら、たくさんの私たち。でも、碇くんが言ってたでしょ。
 あなた達は死んだわけじゃないって。私と一つになったんだって。
 綾波レイ、という一人の女の子。一人の人間になったんだって。
 私もそう思えるの。だから、誰が碇くんと一緒に生きるかで争わなくてもいいの。
 だって、私たちは一つになったんだもの。みんなで一人の私だもの。
 これからも私と一緒に生きていこう、碇くんと一緒に。
 これからもよろしくね。たくさんの私たち

 そう言って、レイは鏡の中の自分に微笑みかける。
 自分自身と対話するかのように……。

 そして再び、眠るシンジの顔をいとおしそうに覗き込み、いつまでも、いつまでも
 飽きる事なく見つめ続けていた。

 この日以降、レイが悪夢を見る事はなくなった。


 レイとアスカ、二人の少女が見る夢は、希望に満ちあふれたものに
 なるだろう……側にいる優しい少年の笑顔と共に……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十三部 レイ、さよならの後に 


 ・ ・ ・


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き


 どうも皆さんこんにちは、作者の加藤です。

 「ふ~……やっと書き終えた」

 というのが、今の正直な気持ちです。

 海編の深夜のデートと今回の話を書きたいがために始めた
 -if-シリーズ、思い起こせば、随分と長く続いて来たものだ
 と自分でも思います。

 これも、読んでくださる皆さん、感想をくださる皆さんのおかげ
 です。本当にありがとうございました。

 自分でも、まさか二年半も続くなんて思ってもみませんでした。
 最初はほんの数話で終わる予定だったのですが、予想外に
 自分の中の煩悩が爆発してしまったのと、鬼畜な同人誌を
 読んでしまった事による反発力、さらには鬼担当ゆ○く氏の
 精神攻撃などがあり、

 「くそぉ!! こうなったら僕のこの手でレイ
 ちゃんを幸せにしてやるんだーーーっ!!」

 と、一人で燃えてしまったわけです。

 で、レイの幸せ=シンジとラブラブという加藤流の世界を
 作ったのですが、アスカの幸せもまた、シンジとラブラブ
 いう世界しか思い浮かばなかったので、今の形に落ち着き
 ました。

 それにしても今回の話、シンジのセリフが中学生じゃない
 ですね。自分でも、書いてる時、思いっきり恥ずかしかった
 です。しかし、レイとアスカに惚れられている以上、甘えは
 許されないし、二人を守るくらいには強くなってもらわないと
 困ります。劇場版のシンジでは使い物になりませんからね。

 今、改めて読み返してみると、結構みんな性格変わったかな
 と思います。あまり変えないように意識してたんですが、
 ゲンドウなんかすっかり親バカになってますし……。
 しかし、ゲンドウも劇場版のままでは使い物にならないから
 仕方ないかな。

 特に悩んだのは、やはりレイの性格です。少し喋らせすぎた
 かも知れないと思う反面、やっぱり喋って欲しいと思う
 気持ちが葛藤していた毎日でした。

 しかし、今回の話で自分の中にあるものは書ききれました。
 今、補完の達成感を十分に味わっているところです。

 さて、この後は……

 A.筆を置き、壱読者として小説を読み漁る。
 B.まだまだ続きを書く。

 さて、どっちでしょう?

 ・ ・ ・

 どうも皆さん、ありがとうございます。たくさんの方から手紙を頂き、
 大変感謝しています。正直言って、こんなに楽しみにしてくれている
 人がいるとは思いませんでした。書いていて良かったと、心から思い
 ました。

 ですが、今回の話で自分の中の補完がほぼ終わった事もあり、自分でも
 そろそろこの辺までかな、と思う事も多くなりました。

 特に、本編ではシンジ、レイ、アスカの三人は何があっても不幸には
 しないと思って書き続けてきた結果、この三人が仲良くなったら、
 この話は終わってしまうという事に気が付きました。今さらどちらかを
 別れさせるのは絶対に嫌なので……。

 ですが、皆さんからの手紙を読み、

 「僕にはまだ書ける場所があるんだ!」

 との思いで一杯なので、今後も

 できる限り書き続けていこう

 と思います。ただ、昔ほどネタがぽんぽんと出て来ないので、どうしても
 出来なくなった時は勘弁して下さいね。

 では、引き続きお楽しみください。


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