新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十三部 Eパート


 それから、数時間後……。

 ゲンドウは、ネルフ本部内の自分の執務室で、『SOUND ONLY』と表示された
 モニターを前にして、口元をゆるめていた。

 ゆるめるといっても、いつものような邪悪なニヤリではなく、信じられないほど
 優しい微笑みだった。そして、ある一つのボタンを押すと、机の一部が開き、一枚の
 ディスクが出てきた。このディスクの中身は、つい先程諜報部から提出された、葛城
 家の昨夜の出来事の音声データで、ノイズや無音部分がカットされた完全版だった。

 (……結局盗聴しとるんか、このオヤジは……)

 「ふ、シンジ、良く言った。それでこそ私の息子だ。ユイ……シンジは立派に成長
 しているぞ。お前もさぞ喜んでいる事だろう…………。レイ、お前には随分と辛い
 思いをさせたようだな……済まない……。だが、今のシンジなら、ちゃんとお前を
 支える事ができるだろう。共に幸せに生きてくれ。

 お前から父さんと呼ばれる事を楽しみにしているよ。

 そして、アスカ君もまた、シンジの事を……。三人で共に暮らしていけるよう、環境
 を整えてやらねばならんな。さて、アスカ君は私の事を何と呼ぶのかな。楽しみな
 所だな」

 作者コメント

 ゲンドウの頭の中では、シンジは二人と結婚するという確信があり、それに向け、
 様々や計画を画策し、日本政府に民法改正の圧力を掛けていたりする……。
 まったく困ったオヤジである。

 「しかし、やはり音声だけというのはつまらんな。こういうシーンはやはり映像が
 あってこそなのに……。しかし室内の事に手を出せば冬月がうるさいし……」

 (十分手を出してるぞ、オヤジ)

 「俺がどうかしたか?」

 どふぁぁぁッッ!!! ふ、ふ、冬月ッ!?
 い、いつからそこにッ!?」

 「『シンジ、良く言った』 辺りからだ。何やら熱中してるようだったのでな、
 邪魔するのも悪いと思って静かに見守っていたところだ」

 「そ、そ、そうか……」

 「ところで碇、そのディスクは何だ?」

 「こ、これか? いや……別に何でもない。お前が見るほどの物ではない。気にする
 な」

 「そうか。ところで碇、最近諜報部の連中がおかしな動きをしていると思わんか?」

 「い、いや、そんな事はないと思うが……」

 「……おかしいと思って追求したら、このディスクを提出してきた。碇、お前も
 見るか?」

 「い、いや、私は忙しい。急用を思い出した、後は頼む」

 「まぁ座れ。そんなに時間は取らさん」

 冬月はそう言って、立ち上がろうとするゲンドウを座らせ、持ってきたディスクを
 再生する。すると、モニター画面には、大きく、

 『 シンジ、愛と成長の記録 』

 と映し出されていた。

 「逃げるな碇、座ってろ」

 冬月は、逃げ出そうとするゲンドウの肩を押さえ付け、パネルを操作する。


 『病室内でのレイとアスカのキス』 (第一部)

 『エヴァ三体による痴話ゲンカ』 (第三部)

 『夜の海でのデート&キス』 (第七部)

 『バレンタインデー&ホワイトデー』 (これは外伝)

 『怪しいクスリで大人になった三人』 (第十部)

 『陸上大会』 (第十二部)

 『葛城家、深夜のやりとり』 (第十三部)


 など、多数のファイルがあった。

 「…………」

 「…………」

 「……碇……なんだこれは?

 「……見ての通りだ……」

 「あぁ、確かに見ての通りだ。お前、覗くだけではなく、録画編集までしていた
 のか。まったく、何を考えている……」

 「なに、問題は無い。単なるアルバムだ。どこの家庭でもやっている事だ」

 「アルバムというものは、撮られている本人も知っているものだし、本人も見る
 ものだ。この映像、シンジ君達に見せてもいいんだな?」

 「そ、それは……」

 「それに、俺は言ったはずだな。室内の事に手を出せば全て知らせる、と」

 「し、しかし、お前だってこの前、葛城君の家に行ったではないか」

 「あれはお前の監視のためだ。それにお前、最近、政府に何やら訳の分からん
 要求をしているようだな。だいたい、お前はネルフという組織といういうものを
 だな……」

 「では、さらばだ」

 ゲンドウは、冬月の話が長くなりそうなので、イスのスイッチの一つを押す。
 すると床に穴が開き、ゲンドウ一人を飲み込むと すぐに穴が閉じた。

 「な!? い、碇!! どこへ行った!! まったく、下らん仕掛け
 ばかり作りおって。こうなったらマギを使ってでも探し出してやる!!

 そう言って、冬月は部屋を出て行った。


 冬月とゲンドウの追いかけっこは、ネルフ本部中で大騒ぎになったとさ。


 めでたし、めでたし。


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