新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十三部 Fパート


 ピピピピピピ……

 「ん……」

 シンジはいつものように布団から手を出し、目覚まし時計のアラームを止める。

 シンジの朝は早い。葛城家の家事を引き受ける者として、朝寝を楽しむ時間は殆ど
 無かった。

 以前とは違い、毎朝レイが手伝ってくれるので時間的にゆとりができたため、もう
 少し寝ていてもいいのだが、今までの習慣のためか、つい同じ時間に起きてしまう。

 しかし今日は雰囲気が違う。

 いつもならここで目覚ましを止めると同時に布団から出るのだが、最近、部活の
 練習量を増やしたため、かなり疲れていて、なかなか起きられなかった。

 『ん~布団の中って温かくて気持ちいいな。でももう起きないと……。綾波に
 ばかり朝ごはん作ってもらうわけにはいかないし……』

 そんな事を考えている時、シンジは何か違和感を感じた。

 『ん? ……何だろう……この感じ……確か以前、どこかで……』

 普通に考えれば、ここで目を開ければ済む事なのだが、今のシンジは半分寝ぼけて
 いるため、何とかこの感じを思い出そうと必死になっていた。

 『う~~~確かにどこかで…………』 ふにっ

 『あ、そうだ。確か初めて綾波の部屋に行った時…… ふにっ
 そう、こんな感じだった……  えっ!?

 シンジの記憶の中にある感触と良く似た事態の記憶。それが鮮明に頭の中に蘇って
 くる。

 ダラ ダラ ダラ ダラ ……

 シンジの身体の全身に脂汗が流れてくる。

 『ま、ま、ま、まさか……で、で、でも、こ、この感覚って……』

 全身が硬直し、指一本動かせなくなっていたが、手のひらから伝わってくる柔らか
 な感触と、鼻をくすぐるいい匂いは、決して夢ではなかった。

 『と、と、とりあえず目を開けて、か、確認しないとどうしようもないし……。
 せ、せーので目を開けよう……。い、いくぞ、せーの!

 ぱっ

 シンジは一大決意のもと、目を開けた。そこに見たものは、穏やかな寝顔のレイ
 だった。そして、シンジの記憶は正しく、手のひらはレイの胸を触っていた。

 (ちゃんとレイは寝間着を着ています。変な想像はしないように)


 「う…… う……

  うわーーーーーーっっっ!!!


 シンジの叫び声が朝の葛城家に響き渡った。

 何事かと思い、アスカとミサトがシンジの部屋に駆けつける。

 「シンジ、どうしたの!?」

 「シンジ君、一体何があったの!?」

 シンジの部屋に駆け込んだ二人が見たものは、ベットから転げ落ちているシンジ
 と、いきなりのシンジの叫び声で起こされて、目を白黒させているレイだった。

 普通、この状態なら、男のシンジをとがめるのだが、シンジに女性を部屋に連れ
 込むような甲斐性が無い事は二人とも知っている。少しずつ自分に自信が付いて
 きているとはいえ、シンジは女性に対しては徹底的に受け身なのだ。となると、
 この状況は、レイの方からシンジの部屋に来たという結論が出る。

 「ちょっとレイ! あんたこんな時間にシンジの部屋で、しかも
 ベッドの上で何やってんのよ!!」

 「いやーしっかし、まさかレイがシンちゃんに夜這いをかけるなんてねー。
 意外と言えば意外だけど、レイらしいって言えばレイらしいわねー」

 「レイ!! あんたほんとにシンジに夜這いかけたの!?
 答えなさい!!」

 「よばいって何?」 きょとん

 「はぁ? ……な、何って…………」 

 「どうしたのアスカ? 顔が赤い」 (レイ)

 「う、うるさいわね! じゃあ何でシンジの部屋にいるのよ?」

 「そうそう、私もそれが知りたいわ」

 『うん、僕も知りたい』

 「……分からないの」

 「は? 何で分からないのよ?」

 「レイ、自分でシンちゃんの部屋に来たんでしょ?」

 「それが分からないんです。私、自分の部屋で寝たはずなのに……どうして碇くん
 の部屋で寝てたんだろう……不思議」

 「……どう思う、アスカ?」

 「どう思うったって……嘘ついてるようには見えないわね」

 「そうねぇ、レイは上にバカが付くくらい正直者だし……。とすると、
 アレかしら」

 「何、ミサト、何か心当たりがあるの?」

 「ほら、前にみんなで海に行ったでしょ。あの時もレイは寝てるうちに転がって
 シンちゃんの布団にもぐり込んでたでしょ。きっとそれがレベルアップして、
 寝てるうちに歩いてここまで来たんじゃないのかしら。それなら説明が付くじゃ
 ない。う~ん、格段の進歩ね」

 「そういうのはレベルアップとは言わないのよ! もし言うとしたら
 迷惑度がレベルアップしたって事よ。ところでシンジ、念のために聞くけど、レイ
 に何もしてないでしょうね?」 ジロリ

 「し、してないよ。目が覚めたら綾波がいたからびっくりしてベッドから落ちた
 だけだよ」 (少し嘘)

 「ま、さっきの悲鳴を考えればそうみたいね。ところでアスカ、レイには聞かない
 の?」

 「何を?」

 「シンちゃんに何もしていないかどうかよ」

 「だーいじょうぶよ。レイにそういう知識無いから……ミサトが余計な事を吹き
 込まない限りね」

 「う、釘刺されちゃったわね。ま、確かにレイは箱入り娘っていうか、世間知らず
 っていうか、純粋で、ほんっとにそういう方面の知識ないものね~。
 (純粋培養っていうとシャレになんないけど……)
 ま、だからこそからかいがいがあるってもんね」

 「こっちはいい迷惑よ。それに、今の言い方だとまるで私が汚れてるみたいな言い方
 ね。何か腹立つわね」

 「へ? あー違う違う。今回は別に何の嫌味もないわよ。アスカの考えすぎよ」

 「そうよね、私はミサトほど汚れてないものね」

 「考えすぎだって言ってんでしょ! だいたい、私だってリツコほど
 汚れてないわよ!!」

 その頃、赤木家では……

 『何かしら、突然ミサトで人体実験したくなったわ……』

 てな事をリツコが思っていたが、それはまた別のお話。


 「碇くん、ごめんね、驚かせてしまって……」 しゅん

 「あ、いいんだ綾波、僕、別に気にしてないから」

 「ほんと? ありがとう、碇くん」

 「うん」

 「……ちなみにレイ、今シンジが言った『いいんだ、気にしてない』ってセリフは
 驚かせた事に対して言ってるのよ。間違っても、これからも気にせず布団に入って
 きていい、なんて意味じゃないから間違えないようにね」

 「ア、アスカ、何言ってんだよ」

 「…………ええ、分かってるわ」

 「アスカ、随分と慎重ね」

 「そりゃそうよ。レイって時々とんでもない勘違いをしてる事があるから、こっち
 だって慎重になるわよ。さっきだって返事に妙ながあったでしょ」

 「ま、確かに」

 「さーて、この話はここでおしまい。レイ、部屋帰って寝るわよ」

 「う、うん。でもアスカ、もう起きてもいい時間よ」

 「それはレイやシンジが起きる時間でしょ。私にとってはまだ寝てる時間なの」

 「そーねー、私ももう少し寝るわ。シンちゃん、ご飯できたら起こしてね。
 ふぁ~~~」


 「あ、はい」

 「じゃあ碇くん、朝ごはん作ろう」

 「うん、そうだね」

 「ちょっとレイ、その前にパジャマくらい着替えなさい」

 そう言ってアスカはレイをシンジの部屋から連れ出した。ミサトもその後に続く。

 一人部屋に残ったシンジは、じっと手を見る。が、すぐに煩悩を振り切るように
 頭をブルブル振って、着替えを始め、キッチンへと向かう。

 少し遅れて、レイがやって来たので、いつものように二人で朝食の準備を始める。
 シンジは、無意識のうちにとはいえレイの胸を触ってしまったため、どこか後ろ
 めたい気持ちがあったが、妙にレイの機嫌がいいので、何となく救われた思いが
 していた。

 このまま、いつもの日常が再開される。シンジはそう思っていた。


 だが、しかーし!!


 <つづく>


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