1999年8月 同人誌掲載作品


 新世紀エヴァンゲリオン-if- 他所投稿作品集 弐

 レイ、告白大作戦!

 - 前 編 -


 ここはネルフ内、リツコの研究室。
 先日のシンクロテストのデータをもとに、ミサトとリツコが話し合って
 いる。

 「ねぇ、ミサト」

 「ん、何、リツコ?」

 「シンジ君とレイの間に何かあったの?」

 「何々、どういう事? あ、ひょっとしてこの前の精密検査の時、レイの身体に一目
 で分かる変化が見つかったとか? ねーねーリツコ、そうなんでしょ。勿体ぶらずに
 教えてよ」

 「……なに目を輝かせてんのよ。そうじゃないわよ。全く何考えてんだか……」

 「じゃあどういう事よ?」

 「昨日、シンジ君とレイのユニゾンテストやったでしょ」

 「レイとアスカの相性が悪い事が科学的にもはっきりしたあの実験ね。それがどうし
 たの?」

 「シンジ君とレイのシンクロ率が異常に高かったのよ」

 「でも、あの二人は機体交換テストができるくらいだし、仲が悪い訳でもないから、
 いい結果が出るだろうと分かってたんでしょ?」

 「それを考慮しても、私の予測を遥かに上回る数値が出たのよ」

 「レイは真面目だから、シンジ君とユニゾンするように言われて素直に命令に従った
 だけなんじゃないの?」

 「アスカとのユニゾンテストの時も同じようにそう命令したわよ」

 「う~ん……でもあれは、アスカの方が全く合わせる気が無かったからじゃない
 の?」

 「勿論、それも考慮してるわ。でも、それだけじゃ説明がつかないのよ。だから、
 これはひょっとすると、ある種の感情が働いてるんじゃないかと思うのよ」

 「ある種の感情?」

 「これを見て」

 そう言って、リツコはモニターに複数のレイの映像を映し出す。

 「これがシンジ君がネルフに来る前。で、こっちがごく最近。どう思う?」

 「う~ん……そうねぇ……どこ見てんだか分からなかった視線が安定してきてる
 ような気がするわね」

 「でしょ。で、その安定した視線の先に……」

 「シンジ君がいるって事?」

 「そ。最近のレイの映像をチェックしてみたんだけど、全てシンジ君の方を見てる
 わ。レイったらシンジ君の事、好きなんじゃないの?」

 「まぁ、嫌いな相手を見つめ続けたりしないわね。シンジ君の事を意識してるのは
 確かね」

 「ミサトもそう思うでしょ」

 「……なるほどね。最近どうもアスカがレイに突っかかると思ったら、女の勘で
 危機感を感じてるからなのね」

 「どういう事? シンジ君とアスカ、付き合ってるの?」

 「今の所、二人の間に恋愛感情は無いわ。でも、アスカってプライド高いでしょ。
 それを刺激されてるんじゃないの?」

 「プライド? ……そうね、一緒に暮らしてる男の子が別の女の子とくっついちゃ
 確かに女のプライドが許さないわね」

 「だから、レイの変化を敏感に感じ取ってるんでしょ。シンジ君は鈍いから気付いて
 ないみたいだから、今のうちに何とかしようと思ってるんでしょ」

 「ありえるわね……。でも、恋愛感情がA10神経にもたらす影響は未知の部分が多い
 し、データ採取の為にもアスカには邪魔して欲しくないわね。現に、こんなにシン
 クロ率が上がってるんだし」

 「何でもかんでも数字で現わそうとするのは良くない癖よ」

 「いいじゃない。別に二人の間の邪魔しようって訳じゃないんだから。とりあえず
 レイに会って話を聞いてみる事にするわ。もう着替えも済んだ頃だろうし。ちょっと
 行ってくるわ」

 「面白そうだから私もついて行くわ」

 「野次馬ね」

 「お互いね」


 通路を少し進むと、リツコの言ったように、着替えを済ませたレイを発見した。

 「あ、レ  んぐ!

 リツコはレイを呼ぼうとしたが、ミサトに口を塞がれる。

 「リツコ、ちょっと静かにしてて」

 「何よミサト、こんな物陰に連れ込むなんて。まさか私を襲うつもりなの?」

 「何バカな事言ってるのよ! あれ見なさいよ」

 「あれ?」

 ミサトの指差す先を見ると、レイとアスカが向かい合って立っていた。

 「うわ……修羅場ね」

 「でしょ。ここは事の成り行きを見守る事にしましょう」

 「そうね。私達があれこれ言う事じゃないわね。本人達に任せましょう」

 二人はもっともな理由を付け、レイとアスカを見守る(覗く)事にした。


 「私に何か用?」

 「最近、あんたの目が気に入らないのよ」

 「目?」

 「そうよ。自分の意志を持たない人形のような目をしてたくせに、シンジを見る時
 だけ人間の目をしてる。気に入らないわ。あんた碇司令が好きなんでしょ。そういう
 目は碇司令を見てる時だけにしてればいいのよ。シンジをそういう目で見るんじゃ
 ないわよ」

 「…………」

 「何とか言いなさいよ」

 「……私もそう思ってた」

 「はぁ?」

 「私は、碇司令の事が好きなんだと思ってた……でも……碇君に会って、違うと
 分かったの」

 「違わないわ。あんたは碇司令が好き。それでいいの」

 「……私は……生きている理由が欲しかった……。だから、エヴァを動かす為の
 道具、計画を進める為の道具としてしか見てもらえなくても、必要としてくれる人
 が欲しかった。それがこの世界との繋がり、絆だと思ったから……。私にとって、
 それは碇司令一人しかいなかった。だから、私は命令に従った。役に立つうちは必要
 とされるから……。私は、その気持ちを、碇司令が好きだからだと思い込んでた。
 でも……碇君に出会った……。
 碇君にとって私は何の利用価値も無いはずなのに、私に優しくしてくれる。カードや
 プリントを届けてくれて、部屋の掃除もしてくれた。碇君は私を人間として……
 一人の女の子として見てくれる。とても嬉しい……。初めは碇君を守るように命令
 されてたけど、今は違う。私の意志として碇君を守りたい。失いたくないから」

 「フン! そんなの、ただ依存の対象が変わっただけじゃないの」

 「違うわ」

 「何が違うのよ?」

 「碇司令といる時はとても落ち着ける。私はここにいてもいいんだと思える。でも、
 碇君と一緒にいると……うまく言えないけど、とてもいい気持ちになれる。視線を
 感じると身体が熱くなる。話ができると心臓の音が速くなる。優しくされるととても
 嬉しい。私がこういう反応をするのは碇君一人だけ。この気持ちはきっと……。
 ねぇ、私、どうすればいいの?」

 「何であたしに聞くのよ?」

 「だって、あなたが言ったのよ。私、好きな人を見る目で碇君を見てるんでしょ。
 私の気持ちに気付かせてくれたのはあなたよ」

 『くっ! 余計な事言ったか』

 「だから、アドバイスして欲しいの」

 「何でこのあたしがそんな事してやんなきゃなんないのよ!」

 「あなたは碇君と一緒に暮らしてる。碇君の好きな事、嫌いな事、どうすれば喜んで
 くれるかを知ってるんでしょ。教えて」

 「そんな事あたしが知る訳ないでしょ!!」

 「知らないの?」

 「当たり前じゃないの!!」

 「そう……良かった」

 「何がいいのよ何が! あたしに聞きたかったんじゃなかったの!」

 「聞きたかったけど、あなたが知らないのならそれはそれでいい事だもの。いいわ、
 碇君に聞いてくる

 「な!?」

 『まずい! いくらシンジが鈍感バカで情けないとはいえ一応男。”どうすれば
 喜んでくれるか”なんて聞いたら何言うか分かったもんじゃないわ。この女は言われ
 た事は何でもやりそうだし……。そんな事は、この話の風紀委員(?)のあたしが
 絶対に許さないわよ!

 「ちょっとレイ!待ちな……

 プス

 っ……」 ぱた


 <つづく>


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