新世紀エヴァンゲリオン-if- 劇場版補完特別編

 世界の中心であいを呼んだ真……

 - Bパート -


 「ちょっと待ったーっ!! ミサト! そんな大事な事、私抜きで
 勝手に決めんじゃないわよ!!」

 「あ、アスカ!! 無事だったんだ! 良かった、ほんとに良かった」

 「アスカも私みたいにいきなり現れたわね。空中元素固定装置でも使ってるの
 かしらね」

 「……そう、やっぱりアスカもいるのね……」

 「何よファースト、その嫌そうな顔は?」

 「別に……」

 「それよりミサト、ファーストも一緒に暮らすってどういう事よ!? どこ
 にそんな部屋があるってーのよ!?

 「アスカ、周り見てみなさい。私たちのマンションなんて跡形も残ってないわよ。
 だから、四人で暮らせる所を探せばいいのよ」

 そう言った時、ミサトの足に何かが抱きついた。

 「ん? あ、ペンペン! 良かった、あなたも無事だったのね。そうね、ごめん
 なさい。四人と一匹で暮らせる所を探さなくっちゃね」

 「ク~~~」

 「アスカ、そのケガどうしたの?大丈夫?」

 シンジは、アスカが左目や右腕に包帯を巻いているのを心配そうに見つめている。

 「え、ケガ? な、何よこれ!? 私、いつの間にこんなケガしたの
 よ!?

 「え? アスカも知らないの?」

 「知らないわよ。シンジが包帯巻いたんじゃないの?」

 「いや、僕じゃない」

 「じゃあ、一体誰が……」

 「そうだ! 綾波、アスカのケガ、治せないかな?」

 「碇君、私はもうリリスの力は何も持ってないの。碇君が人間としての再生を
 願ってくれたから、私は碇君と同じ、普通の人間なの」

 「あ……。ご、ごめんよ綾波、つい……」

 「ううん、いいの。でも安心して。アスカは本当にケガをしてるわけじゃないと
 思うから」

 「え?」

 「どういう事よ、ファースト?」

 「身体を再構築し、再びこの世界に生まれる時に、身体の傷やケガ、障害などは
 無くなってるはず。だから、葛城三佐のケガも無くなってるし、鈴原君の足も元に
 戻ってる。目や耳の悪かった人たちも良くなってると思う」

 「あ、本当だ。撃たれたはずの傷が何も無い」

 「アスカは弐号機とシンクロしてる時に大きなダメージを受け、自分の身体が傷
 付いたと思ってしまい、その思いが強すぎたため、包帯が実体化したんだと思う。
 だから、包帯の下は何も傷ついてないと思う」

 「そうだったんだ……。アスカ、ケガしてるわけじゃないんだ。良かった……。
 でも、それなら、なぜ綾波はその姿のままなの?

 「え?」

 「だって、無くした足を治せるくらいなら目の色や髪の色を普通にする事もできたん
 じゃないの? あ、別に今の姿が悪いなんて言ってるわけじゃないんだ。ただ、普通
 の人間になったのなら、どうして目や髪の色をそのままにしたのか気になって……」

 「私も碇君と同じ色にしようかと思ったの。でも、やっぱりこのままでいる事にした
 の」

 「どうして?」

 「だって……」

 「ん?」

 「だって、私が碇君と初めて会った時の姿だから……。
 碇君がこの目の色や髪の色を気に入ってくれてると思ったから……」 ぽっ

 「あ、そ、そうだね。うん、綾波は今のままが一番いいよ」 ぽっ

 碇君!」 (はぁと

 『むぅ~~~~~~!! 何よこの雰囲気は~!!』

 シンジ!! ぼさっとしてないで、ほんとに
 私がケガしてないか早く調べなさいよ!!」

 「え?あ、ああ、うん。じゃあ包帯ほどくよ、いい?」

 「優しくしなさいよ。少しでも痛くしたら怒るわよ!

 「うん、分かってるよ」

 「だからケガはしてないはずって言ってるでしょ」

 「自分の目で確認しなきゃ落ち着かないのよ! だいたい、何で
 あんたにそんな事が分かるのよ!? やっぱりひいきされてて、
 自分だけ色んな事を知ってるんでしょ!」

 アスカは、レイがリリスと同化していた事は知らなかった。

 「アスカ、やめなよ」

 ふんだ! ほら、早くほどきなさいよ!」

 「う、うん」

 シュル シュル シュル ……

 「どうシンジ、ほんとにケガしてない?

 「うん。どこにもケガしてないよ」

 「じゃあ、顔の傷も確かめて」

 いくら気が強くてもやっぱり女の子。顔への傷は一生問題なので、腕が無事だと
 分かっても、不安は消えなかった。

 「……どう? ほんとにどこもケガしてない? いつもの私のまま?」

 「うん。傷一つ無いよ。いつものアスカだよ

 「良かったーーー」

 アスカは余程嬉しかったのか、安堵の溜め息をもらし、微笑んでいた。

 「あ、いや、いつものアスカとちょっと違う……

 「え? ……やっぱり何か傷があるの……?」

 アスカは一気に不安になる。

 「いや、そういうわけじゃないよ、ただ、最近のアスカいつも怒ってたり、辛そうに
 してたから。そんな風に笑ってる顔なんて久しぶりに見たから……」

 真顔でそう言われたため、アスカは思わず頬が染まっていく。当然レイは不機嫌そう
 になる。

 「な、何似合わない事言ってんのよ! ほんとにバカなんだから!
 だいいち、私の機嫌が悪かったのは、シンジがしゃきっとしないからなのよ」

 「え、僕が?」

 「そうよ。シンジは私より高いシンクロ率を出し、私より多くの使徒を倒してるの
 よ。つまり、私より優れた人間なのよ。なのにシンジったら、いつも人の顔色ばかり
 気にしてビクビクして……。だから私はイライラしたのよ。私はこんな情けない
 男より劣るのかって。

 シンジは私に勝ったんだから、もっと男らしく堂々としてればいいのよ。もっと私
 を引っ張り回すくらいに強気になれば良かったのよ。そうすれば私は納得する事が
 できたのに……。そうなってもらわないと負けた私の立場がないのよ。

 だから、シンジにはもっと男らしく生きてもらおうと思ってきつく当たってたのよ。
 女の私にあそこまで言われたら、やる気を出してくれるかと思って……。

 でも、シンジはいつまでたっても情けないままだから、ますます私はイライラして
 いったの」

 「そ、そうだったの……ごめん」

 「ほら! またそうやってすぐに謝る!」

 「ご、ごめ……あ」

 「もう! ほんとに情けないんだから……。でもね、そんな情けないシンジを嫌って
 るはずだったのに、いつしか私は、シンジに惹かれていったの

 「え!?」

 『ムッ!!』 (レイ)

 「だって、私を初めて負かした男だもの。興味があったの。でも、そんな気持ちを
 絶対に認めない私もいた。だから、私の心はバラバラになっていったの。そのうち、
 エヴァを動かす事すらできなくなった……」

 『……どうして私こんな事言ってるんだろ? シンジにだけは絶対に知られたく
 なかったはずだったのに、どうして?』

 再びATフィールドをまとい、心と身体を形成したのだが、まだ心のATフィールド
 が薄く、自分の気持ちを素直に口にする事ができた。

 「そうだったの……ごめんなさいねアスカ。私、そんなあなたを分かってあげられ
 なくて……。ほんと、保護者失格ね」

 「仕方ないわよ。私が誰も信用しないで、何も話さなかったんだから。誰にも頼らず
 生きて来たから……。ねぇシンジ、私の子供の頃の話、した事なかったわよね」

 「うん。アスカ、何も話してくれなかった」

 「私ね、子供の頃色々あって、誰も信用できなくなってたの」

 「え?」

 「私がまだ子供だった頃、ママは精神に異常をきたし、人形を私だと思い込んで
 可愛がったの。そして、私の事を見てくれなくなったの。どんなに私が泣いても、
 ママは私を見てくれなかった」

 「だから人形を嫌うのね。お母さんを取られたと思ったのね」

 「ええ、そうよ。そしてママは、私だと思ってた人形を道連れに自殺したの」

 「……そんな事が……」

 「そしてパパは、あっさりママを忘れて再婚したの。そして私の事を、まるで邪魔者
 扱いした……。だから私は決めたの。もう泣かない、誰にも頼らない、早く大人に
 なって、一人で生きるんだって。……そして私は、うんと努力した。大学も卒業し、
 エヴァのパイロットにもなれた。私は、誰にも頼らずに、一人で生きていけるよう
 になったの」

 「でも、生活の全てを碇君に頼ってるのね

 「う、うるさいわね!」

 「まぁまぁアスカ落ち着いて。話を続けてちょうだい」

 「……でも、ある時気付いたの。誰一人頼れる人がいないという事は、とても寂しい
 事なんじゃないのかな、って。誰にも頼らないように生きてきたはずなのに、その
 事に気付いてしまって、私は悩んだの。私は間違っていたのかも知れないって思っ
 た。

 でも、私はそれを認めたくなかった。寂しく思うのは私の心が弱いからだと思い、
 ますます努力した。だけど、自分の能力が上がれば上がるほど、ますます私は孤独
 になっていった……。周りの人々が自分より劣っているように見え、私が頼りに
 できるほどの人間なんていないと思ったの。……でも、一人は嫌という思いも消え
 なかった。

 だから私は思ったの。もし、私よりあらゆる面で優れた男が現れたら、その人に
 なら頼ってもいいかなって。その人になら、心も身体を許してもいいかなって。
 その人がいるなら、私はもう一人で寂しい思いもする事もないのかなって、そう
 思ったの。

 私より優れてるって言う事は、最低限、私と同じ能力を持っているという事よ。
 そして、私と同じと言う事は、エヴァのパイロットである事が最低条件よ。エヴァ
 のパイロットの男で、かろうじてマシと言えるのはシンジだけなのよ。それに、
 シンジには、マグマの中で助けてもらったし、シンクロ率でも負けた。だから、
 シンジがそうなのかなと思ったの。シンジになら、心も身体も許して、頼りにしても
 いいのかなって思ったの。……でも、シンジは全く頼り甲斐がないし、私より劣っ
 てる所ばかりだった」

 「ははは……ごめん」

 「だから私は失望して、ますますイライラしたのよ。いい事シンジ! 今、世界中で
 この私が男とて認める事ができる可能性を、殆どゼロとは言え持っているのは、
 シンジだけなのよ。だから、今から思いっきり努力してもらうわよ。精神的にも、
 肉体的にも、学力においても、あらゆる面で私を超えなさい。うんといい男になり
 なさい。そうすれば、シンジとそういう関係になる事自体は別に……嫌じゃない
 から…………

 アスカは余程恥ずかしいのか、プイッと横を向いて赤くなる。

 「ア、アスカ……」

 「で、でも、それはさっきも言ったように、あらゆる面で私を超えた時
 の話よ! この私が、この人なら構わないと納得できた時の話よ!
 だから、うんと努力しなさいよ。それまで待っててあげるから。
 早くいい男になりなさい! 一日でも早く! 一秒でも早く!
 いいわね! 返事は!!

 「は、はい」

 「分かりゃいいのよ、分かりゃ」

 『ふ~ん。随分と遠回しでひねくれた言い方だけど、ま、要するに、お婿さんに
 してやるから早くいい男になれっていう事よね。アスカっていつの間に
 こんな風に言えるようになったのかしら? これも補完計画の影響かしらね』

 「アスカ、残念だけど、碇君は私と一つになるの


 レイの爆弾発言が飛び出した所で……


 <つづく>


 [Cパート]を読む

 [もどる]