新世紀エヴァンゲリオン-if- 劇場版補完特別編

 世界の中心であいを呼んだ真……

 - Cパート -


 「アスカ、碇君は私と一つになるの。だからアスカは別の人を探して。
 鈴原君もパイロットよ

 「何でこの私があんなの相手にしなきゃなんないのよ! だい
 いち何よ! 一つになるっていやらしいわね!!

 「そう? でも、今私がここにいるのは、碇君が望んでくれたからなの。そして、
 私の望みは碇君と一つになる事

 「え!? えーと……えーと……」

 シンジはどうしていいか分からず慌てていた。

 「何わけの分かんない事言ってんのよ!? だいたい、その理屈
 なら、私が今ここにいるのもシンジが望んだからなんでしょ!
 自分だけが特別だと思わないでよね!」

 「いいえ、私と碇君は特別なの」

 「な、何でよ!?」

 「あの時……全ての人々が心と身体の形を無くした時、碇君と私だけは自我を
 保っていた。そして、心も身体も一つになっていた。それは、とても気持ちの
 いい事だった。あの時、碇君が望めば、私たちは永遠に一つになれたの」

 「じゃあ、シンジがそれを望まなかったから、今二人でいるんでしょ? つまり、
 あんたはフラれたってわけよね」

 「いいえ、違うわ。碇君は私と一つになると、私が消えてしまうと思ったの。だから
 ATフィールドで心と身体を他人と分け、自分の意思を持ったまま、改めて私と一つに
 なる事を望んだの。だから、私は今ここにいるの。再び碇君と一つになるため
 に」

 シンジ! どういう事よ!? あんた本当にファーストと一つに
 なったの!? 答えなさい!!」

 「く、苦しい……首を締めないでよ……」

 「シンジ君たら、いつの間にレイとそんな関係になったの? やるわね~

 「ち、違いますよ。一つになったと言っても、そういう意味じゃなく、文字通り
 一つと言うか……」

 「碇君」

 「は、はい!?」

 「私はもう、リリスとしての力は何も持ってない。だから、碇君と融合する事が
 できないの。どうすれば碇君と一つになれるの?

 「え!?」

 「はぁ?」

 ちょっとファースト! あんたそれ、本気で言ってるわけ!?」

 「え? どういう事? アスカは碇君と一つになる方法を知ってるの?」

 「ああ~~~ん! どうしてこう、私の張り合う相手はレベルが低いのよ~。
 また自分が嫌になるわ

 「?」

 「レイったらほんとに知らないみたいね。そうね~、アスカだけ知っててレイが
 知らないというのも不公平よね~。アスカ、レイが何も知らないのをいい事に抜け
 駆けする可能性があるものね。レイ、私がシンジ君と一つになる方法を教えてあげ
 ましょうか?」

 「はい! お願いします」

 「ちょっとミサト、いったい何考えてるのよ!? どうやって教える
 気よ!?」

 「やはり、ここは実技指導を……」

 「却下!!!」

 「……ま、確かに十四歳に教える事じゃないわね。レイ、あなた達にはまだ早いわ。
 そのうち分かる時が来るから、そんなに慌てる事はないわよ。それとアスカ、あなた
 も無責任な行動をするんじゃないわよ。いいわね?」

 「わ、分かってるわよ」

 「碇君、碇君は私と一つになる方法を知ってるの?」

 「え? あ、あの、その……」

 「知ってるのね! 教えて碇君!」

 そう言って、レイはシンジに迫る。だが、アスカがシンジの腕を掴み、連れていく。

 「ほらシンジ! そんな危ない女なんか放っといてこっち来なさいよ。私が帝王学
 を手取り足取り教えてあげるから」

 「アスカ、碇君を連れてっちゃだめ」

 そう言ってシンジの手を取り引っ張る。シンジはオロオロするばかりだった。

 「ふふふ。この世界のアダムにはイブが二人も付いてるのね。賑やかになりそうね」

 「え、アダム? 僕が?」

 「イブ……私が、イブ?」

 「私たちがイブなら、ミサトはイブに禁断の知識をそそのかすヘビ、つまり悪魔
 よね~」

 「何でこの私が悪魔なのよ!?」

 「見たまんまじゃないのー。だいいち、シンジを弟にするとか言ってたけど、
 加持さんを無くした寂しさから、シンジに手を出すつもりじゃないんでしょうね?
 今から自分好みの男に育てようとする、逆光源氏計画じゃないの?」

 「な、何で私がそんな事しなくちゃいけないのよ! だいたい、あの時の
 キスだって別にそんなつもりでしたんじゃないわよ。シンジ君に生きて欲しかった
 からキスしただけよ、ほんとよ!

 どう言う事よミサト! シンジとキスしたの!? 信じらんないわ
 ね、まったく……」

 「碇君、本当なの? ほんとに葛城三佐とキスしたの? 私が初めてじゃ
 なかったの?

 「え、と、その……」

 シンジ!! あんたファーストともキスしたの!?」

 「う」

 「それとファースト! シンジの初めての相手は私なんですからね!
 自分だけが特別だなんて思わない事ね!」

 「ア、アスカ……そういう言い方は誤解が……」

 「何よ? あれがファーストキスじゃなかったとでも言うの?」

 「い、いや、そりゃ確かに初めてだったけど……」

 「碇君……」

 わー! ご、ごめんなさい綾波! お願いだから泣かないで!」

 「しかし、シンジ君たらレイやアスカともキスしてたのね~。これから一緒に暮らす
 女性三人とそれぞれキスしてるなんて、何だかただれた展開が待ってる予感
 がするわね。ドキドキ


 「何バカな事言ってんのよ。ミサト、シンジに手ぇ出すんじゃないわよ。
 いいわね!

 「葛城三佐、私、妹やめます。碇君と二人で暮らします

 「え?」

 「なーに考えてんのよあんたはー!!」

 「こらこら、いきなり同棲は認めないわよ。シンジ君と暮らしたかったら、私たち
 と一緒に暮らしなさい。いいわね」

 「……はい」

 「いいシンジ、ファーストにうつつを抜かしてるんじゃないわよ。早くいい男に
 なるのよ」

 「碇君、私は今の碇君がいいの。無理しなくてもいいから」

 「ファースト! シンジを甘やかすんじゃない!」

 「アスカは今の碇君じゃダメなんでしょ? だけど、私は今の碇君がいいの」

 「う……。わ、私だって少しくらい妥協してもいいわよ」

 「しなくてもいい。碇君は私の

 「だめよ! だいたい、出世払いという方法だってあるのよ。将来性に
 期待ってやつね!

 二人はそう言いながら、シンジを取り合っていた。

 すると……。

 「な? ど、どういうこっちゃ? 綾波と惣流がシンジを取り合うとる」

 「そ、そんなバカな? これはきっと天変地異の前振りに違いな……
 おわー! 何だこの景色!? もう天変地異が起きたのか!?

 「いったい私はどうなったの……。あ、鈴原! その足どうしたの?」

 「ん? おお、何か知らんが足が生えとる。どう言うこっちゃ?」

 「メガネが……。あれ? 目が良くなってる。何で?」

 いつの間にか、シンジ達の周りにトウジ、ケンスケ、ヒカリらが現れていた。

 「トウジ! ケンスケ! 無事だったんだ」

 「ヒカリ! 良かった、無事だったのね!」

 「だから、みんな無事だと言ったでしょ」

 「シンジ、一体何があったんや?」

 「何だよあれ、エヴァか十字架みたいだけど……」

 「い、いや、僕も良く分からないんだ……」

 「ね、ねぇアスカ、あの白いの何? 何だか顔が半分に割れてるように見えるん
 だけど……」

 「え、どれ……な、何あれ!?

 「な、何だか綾波さんに似てるような……あ、ごめんなさい綾波さん」

 「別にいい」

 「ちょっとファースト、どういう事? 何でアレあんたに似てんのよ!?

 気のせいよ」

 「気のせいって……そんな一言で済ませていい問題なの?」

 偶然よ」

 「…………」

 「ア、アスカ、きっと偶然だよ」

 「碇君!」

 「くっつくんじゃない! 離れなさい!」

 「なんや、えらい綾波が積極的やないか。何があったんや?」

 「本当だね。惣流はともかく、こんな綾波は初めて見たよ」

 そんな事を言っているうちに、シンジ達の周りには、どこからともなく人々が現れ
 始めた。何が起こったのかまるで分からず、ザワザワしている。

 「ん? ここは……この姿でいるという事は、補完計画は失敗か。しかし、これは
 すさまじい光景だな。量産機は十字架のように突き刺さっているし、あの白いのは
 リリスか。あのまま山脈となるのか……。まさに大地母神だな……」

 冬月がそんな事を思っていると、ミサトがやって来た。

 「副司令」

 「ん? おお、葛城君か、無事だったようだな。ところで、碇を知らんか? 姿が
 見えんようだが……」

 「それが……碇指令は亡くなられたようです……」

 「碇が?」

 「はい、レイがそう言ってました」

 ミサトは、レイから聞いた話を冬月に説明した。


 「……そうか、あいつは弱い男だったからな。ユイ君を失った時に、世界との繋がり
 の全てを無くしてしまったのだな……。ユイ君さえ生きていれば、まだ世界の中で
 生きていけたものを……。

 碇を受け入れたのはユイ君だけだったからな。それを取り戻すためだけに生きて
 来たというのに、結局は心を開ききれなかったのか。可哀相な男だ……」

 「私たちはこれからどうなるんでしょうか?」

 「そうだな……。日本はまた首都を失った。だが、世界規模で見れば、セカンド
 インパクトに比べて遙かに被害は少ないと言えるな。

 不完全とは言え、一度は全ての人々が一つになったのだ。お互いに理解しやすく
 なっているだろうから、愚かな内戦や民族紛争、宗教戦争などは起きんだろう。
 復興にもそれほど時間は掛からないだろうしな。しかし、今回の事を世界の人々
 にどう伝えるべきか……。セカンドインパクト、そしてサードインパクトの真相を
 知る人間として、記録を残す義務があるからな。頭の痛いところだよ」

 「いつか、今日の日の出来事が、神話として語られる時が来るのかも知れ
 ませんね」

 「ああ、後世の人々がどう解釈するかだな。シンジ君やレイ、アスカ、彼らがその
 神話の中で、どういう役割を演ずるのか楽しみだ」


 そしてその時、朝日が昇り、シンジ達を照らしだす。


 「全てはこれからですね」

 「ああ、新しい人類の夜明けだよ。彼ら若い世代が歴史を作って
 ゆく。それを見届けよう」

 冬月とミサトは、シンジ達を優しく見守っていた。



 世界中が、再び生まれた生命力で溢れていた。



 停滞していた、種としての進化が再び始まった。



 そして、地球から去りつつある初号機が、それを優しく見つめて
 いた……。




 <終劇>



 この作品を、林原めぐみさん、宮村優子さん、緒方恵美さん他、

 エヴァを支えてきた全ての方に贈ります。


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