新世紀エヴァンゲリオン-if- 特別編

 ボンバーボーイ・ボンバーガール

 - その伍 -


 シンジ達三人は、楽しそうに街を歩いている。

 「碇くん、どんな映画なの?」

 「うん。『第三新東京市にほえろ!』っていう映画なんだ。本当は明日封切りなん
 だけど、第三新東京市は地元だから特別に今日から先行上映されてるんだよ」

 「ふ~ん」

 「前人気も高くて、テレカ付き前売券は即日完売だったし、予告ビデオ付き前売券
 も予約が殺到したんだって」

 「そうなんだ~。でも、ゆっくり映画観るなんて久し振りね~。毎日毎日、学校が
 終わったらテストテスト、嫌んなっちゃうわまったく」

 「今日、テストが無いのは、ミサトさんが気を利かせてくれたのかな?」

 「そうかもね」

 「実は、自分が加持さんとデートしたいために、今日のテストやめたとか」

 「ははは。ひょっとしたらそうかも」

 シンジを中心に、左手にレイ、右手にアスカがいる。今のシンジの状態を一言で
 言うなら、まさに両手にである。それも、とびきりの花。すれ違う人や町の
 人々も、うらやましそうにシンジを見る。もっとも、偶然見かけた女生徒はレイや
 アスカの方をうらやましいと思っているのだが。

 シンジ達を尾行しているガーフィッシュ隊のメンバーが、作戦を無視して飛び蹴りを
 食らわせたくなるほど、三人は楽しそうにしていた。

 「この角を曲がれば、すぐそこが映画館だよ」

 シンジは、そう言って角を曲がる。その直後、慌ててレイとアスカを近くの看板の
 陰に引っ張り込んだ。

 「ど、どうしたの碇くん!?」

 「いきなりどうしたのよ、シンジ?」

 「あれ!」

 そう言って、シンジは映画館の方を指差す。

 「? あれって確か、うちのクラスの男子じゃない。何やってんのかしらこんな所
 で? それも制服のまま……」

 「他のクラスの男子もいるわね。誰か探してるみたい……」

 「僕たちを探してるんじゃないかな……」

 「あ、それよ! 今日、相田のヤツがおとなしかったのは、このためだったのよ」

 「まさか」

 「いや、ケンスケならやりかねない。僕たちの事を邪魔するつもりなん
 だ!

 「制服のままって事は、家にも帰らずに見張ってるって事ね。気合が入ってんじゃ
 ない」

 「どうするの碇くん? 入口で見張られてるから回り込む事もできないし」

 「別々に入ってもついてくるだろうしね」

 「シンジ、予定を変えましょ。見つかったら絶対に邪魔されるわよ」

 「うん、そうだね。それじゃあ、この先の別の映画館に行こう」

 「そこでは何をやってるの?」

 「僕も知らないんだ。まさかこんな事になるとは思ってなかったから……」

 「とにかく行きましょ。ここにいちゃ、見つかるかも知れないわ」

 シンジ達は見つからないように道を変え、別の映画館に向かった。


 「ガーフィッシュ隊より連絡。目標は我々の存在に気が付いた模様。現在、西に
 向かって移動中」

 「西か」

 そう言って、シンジ達のコマを動かす。

 「ムダだシンジ。お前達の行きそうな所は全て兵を配置してある。るくしおん隊と
 エルトリウム隊も集結させろ。目標を所定ポイントまで追い込む」

 「了解。ところで、我々本隊はまだ動かないのか?」

 「ああ、あくまで本隊はとどめ用に温存する。それまでは各小隊の指揮に専念する
 さ。クックック……シンジ、僕の手の上で踊るがいい


 「あ、ここにもいる」

 「一体、何人くらいいるのかしら?」

 「相田のヤツ、何考えてんだか」

 「これじゃあ、映画は無理だね」

 「どうするシンジ?」

 「う~ん……とりあえず、このビル登ってみる?」

 「このビル? 何かあるの碇くん?」

 「うん。このビルの最上階に展望室があるんだって。今の時間なら、夕焼けが綺麗に
 見えるんじゃないかと思って」

 「へー詳しいわね。調べてたの?」

 「こんな事もあろうかと思ってね……と言いたい所だけど、偶然知ってたんだ」

 「ま、何事も前向きに考えた方がいいわね」

 「じゃあ登りましょ」

 そしてエレベータに乗り込む。他にも数人の客がいた。このエレベータは第三新
 東京市で最も速いので有名だった。他の客はキャーキャー言っているが、エヴァの
 発進に比べるとどうという事はないので、シンジ達は平然としていた。

 やがて最上階に着き、扉が開く。シンジ達は最後に降りようとしたが、視界の隅に
 学生服の生徒が映った。

 「うわ! こんな所にもいる」

 「どうして私たちの行く所が分かるのかしら?」

 「シンジ、ドア閉めて! 降りるわよ」

 「うん」

 「気付かれてはないみたいね」

 「相田のヤツ、本気ね」

 「ケンスケのやつ、今頃、市街戦の指揮を執ってる気分で喜んでるんだろうな」

 「私たちの行きそうな所には誰かいると思った方がいいみたいね」

 「仕方ない。表通りを避けて、小さなお店巡りでもしましょうか。結構、掘り出し物
 があるかも知れないし……」

 こうして、表通りを避け、小さなお店に入った。その店では、アスカの言うように、
 確かに表通りには無いような、少しマニアックな小物などを扱っていた。

 「うわーこれかわいい!」

 「これもいいわね」

 『これは何か買わされるな……』

 と思いつつも、嬉しそうな二人を見てシンジも嬉しくなる。

 しかしその時、店の外でが鳴った。

 「いたぞ! みんなを集めろ!!」

 「うわ! 見つかった」

 「笛で仲間を呼ぶなんて、まるで時代劇ね」

 「ほら、逃げるわよ二人とも!」

 シンジ達は反対側のドアから逃げる事に成功した。お店の人は、何が起きたのか
 分からず、目を白黒させていた。

 こうして、駅前を舞台にした、壮大な追いかけっこが始まった。


 「あ~あ……碇センパイ、どこにいるのかなー。やっぱり見つけるの無理なのか
 なー」

 天城さんは、紅茶を飲みながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。すると、目の前
 をシンジ、レイ、アスカが走り抜けた。

 「え!? 今の……碇センパイ?

 そして、すぐ後を数人の男達が追いかけていく。

 「今のがVW団ね。こうしちゃいられない! 私も追いかけなくっちゃ!

 そして支払いを済ませ慌てて外に出たが、もはや誰もいなかった。

 「どっちに行ったのかしら……」

 そう思っていると、かなり遠くで笛の音がした。

 「いたぞー! こっちだー!!」

 「逃がすなー!!」

 という声が聞こえてくる。

 「あっちね!!」

 そう言って走り出すが、またもや誰もいない。

 ピー!!

 「こっちだ!」

 「そっちに行ったぞー!!」

 「いたぞー!!」

 街のあちこちで声がして、その度に走り回った天城さんは くたくたになっていた。

 「はぁ……はぁ……はぁ……。なんでVW団はこんなに簡単に碇センパイを見つけ
 られるのよ~!」

 そうぼやいていると、目の前の男子の携帯が鳴った。

 「何、目標はあの店の中か。よし分かった、今から向かう。行くぞ、お前たち!」

 「おおー!」

 『なるほど。携帯電話でやりとりしてたのか。じゃVW団を尾行してれば碇センパイ
 の元に行けるわけね』

 そう思い、VW団の尾行を開始した。


 「はぁはぁはぁ……なんだってこう簡単に見つかるんだろう?」

 「はぁはぁはぁ……本当ね。まるで誰かに見張られてるみたい」

 「はぁはぁはぁ……それよ

 「え?」

 「私たちを追いかけてる連中の他にも、私たちを見張る専門のやつらがいるのよ。
 そいつらをまかない限り逃げきれないわね」

 「でも、どこから見てるか分からない連中から逃げるのは難しいよ」

 「う~ん……確かに」

 「ねえ二人とも、私にいい考えがあるんだけど」

 「え? 何、綾波?」

 「逃げきれる方法があるの。私についてきて」

 「?」

 レイはキョロキョロしながら少し歩き、二人をある路地裏に連れてきていた。

 『ふふふ……我々ガーフィッシュ隊から逃げられるものか。我々は常に十名以上
 で監視してるんだ。そんな路地に逃げても、出口には仲間がいるんだからな』

 そう思い路地に入る。しかし、そこはすぐに行き止まりになっていて、誰もいなか
 った。隠れられるような物は何一つない。

 「バ……バカな!? 一体どこに……。クッ! とりあえず本隊に連絡だ!」


 「ガーフィッシュ隊より連絡。目標をロストした模様」

 「何? ロストだと。どこでだ?」

 「このポイントだ」

 そう言って、地図に印を付ける。

 「ええ~い! 各小隊をこのポイントに集めろ! 草の根分けても
 捜し出せ!」

 「クックック……我々の包囲網から逃げ延びるとは、やるじゃないかシンジ

 「どうするケンスケ? 目標をロストした以上、予定のポイントへ追い込むのは
 難しいぞ。今日はもうやめるか? デートの妨害は成功したし」

 「いや、まだだ。このエッグボンバーをシンジにぶつけるまで、作戦は続行だ」

 「しかし、どうやって?」

 「そろそろ食事の時間だろ。シンジの性格、財力、行動力、綾波や惣流の性格を
 考えると……」

 そう言って、パソコンに何やら打ち込んでいる。どんなデータなんだ?

 「『上海亭』が最も怪しいな」

 「なるほど、上海亭か。あそこは今、カップルに人気の店だからな。マニュアル
 思考のシンジが行きそうだな」

 「だろ」

 「しかし、各小隊からかなり離れているな。呼び集めるのには時間が掛かるぞ」

 「ああ。いよいよ我々本隊の出番だ

 「そうか、いよいよ我々が動くか」

 「シンジに正義の鉄槌を食らわせてやる」

 「よし、行くぞ!」

 「おおーーーっ!!!」

 こうして、VW団はいよいよ自ら行動を開始した。


 ちなみに、シンジ達はどこにいるかというと……。

 「……こんな所にジオフロントまでの直通エレベーターがあるなんて
 知らなかったな」

 「本当ね。全然分からなかったわ」

 「この街には、こんな風に偽装されているエレベーターがたくさんあるの。これも
 その一つよ」

 「さすがのケンスケも、これは知らないだろうね」

 「や~っと開放されたわけね。ホッとしたわ」

 「そうだ綾波、こんなエレベーターがたくさんあるって言ったね。それじゃあ、
 下から回り込んで地上の行きたい所に行けるの?」

 「ええ。下には上の街の地図があるから、それを見れば行きたい所の近くまで出ら
 れると思うわ」

 「シンジ、どこに行きたいの?」

 「うん、そろそろお腹がすいたから、食事にしようかと思って」

 「そう言えば、走り回ってお腹がすいたわね」

 「で、どこに行くの?」

 「うん、『上海亭』に行こうかと思ってるんだ」

 「ああ、最近話題のお店ね。なかなかいい選択ね」

 「あそこのお店はメニューが多いみたいだから、きっと二人の食べたいものがある
 よ」

 「じゃあ、早く行きましょ」

 シンジ達はジオフロントの中を歩き、最も上海亭に近い場所にあるエレベーターに
 乗った。地上に着いてもすぐにはドアは開かない。一応偽装されているので、あまり
 人の出入りを見られたくないのである。そのため、エレベーターの中からは外が
 見えるようになっていた。もっとも、路地裏などの目立たない場所に作られている
 ので、出口に人がいる事は滅多にないが。

 外に出て振り返ってみても、そこはただの壁にしか見えなかった。

 「すごいや。全然分かんないや」

 「今出てきた私たちが分からないんだから、知らない人は絶対に気付かないわね」

 さすがはネルフ、といった所である。

 シンジ達は路地から外を見る。少し離れた所に『上海亭』が見える。

 「ここにはいないみたいだね」

 「駅からは随分離れてるものね」

 「じゃあ、邪魔が入らないうちに早く行きましょ」

 三人は路地から出て、上海亭に向かった。しかし、あと少しといった時、
 サングラスをかけた、十数人の男達が現れた!

 「甘いな、シンジ!」

 お前達の命もここまでだ!


 <ころがる>


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