新世紀エヴァンゲリオン-if- 特別編

 ボンバーボーイ・ボンバーガール

 - その六 -


 三人は路地から出て、上海亭に向かった。しかし、あと少しといった時、
 サングラスをかけた、十数人の男達が現れた!

 「甘いな、シンジ!」

 「俺たちをなめてもらっては困るな」

 「お前達の命もここまでだ!」

 「こんな所まで……」

 「ちょっとあんた達! しつこいわよ。いい加減にしなさい!

 「あなた達、クラスの男子でしょ? どうしてこんな事するの?

 「人違いだ。我々はVW団の者だ

 「何が人違いよ。そんなサングラスでごまかせてると思ってるの? バカ
 じゃないの!?

 「ふっ……我々の正体を見抜くとは……まずはさすがと褒めておこう」

 「ケンスケ、何でこんな事するんだよ?」

 「何で? ……決まっている。悪しき風習の撲滅のためだ」

 「悪しき風習の撲滅?」

 「そうだ。今、日本は滅びの道を進んでいる」

 「このままでは、大和民族は滅び去ってしまうだろう」

 「お菓子業界の陰謀に踊らされている愚民どもの目を覚ましてやらねば
 ならん」

 「そのために、我々VW団が結成されたのだ」

 「だいたい、チョコレートの数で全ての人間性を計ろうなどという考え自体
 がおかしいのだ」

 「そうだ! きっとこれは全世界的な陰謀に違いない!」

 「チョコレートを受け取る奴は、悪の手先に違いない!」

 「すなわちシンジ、お前はだ!

 「悪を倒す我々VW団こそが正義なのだ!」

 「ああ、VW団に栄光あれ!!」

 「……んな事言ってるからもてないのよ……」

 「う、うるさい!」

 「チョコがなんだ! あんな物欲しくなんてないやい!」

 「チョコレートなんか……チョコレートなんか……うう」

 「泣くな!」

 「とにかくシンジ、我々VW団最高幹部の決定で、お前は罰せられる事に決まったの
 だ。さぁ、分かったならこれ以上我々の手を煩わせず、おとなしく罰を受けろ」

 「何だよそれは? 全然分かんないよ」

 「ん? そうか、分からないか。確かに、自分がどんな武器で倒されるのか分から
 ないというのも未練が残るな。よーし、そこまで言うなら教えてやろう」

 「え? いや別にそんな事言ってるわけじゃないんだけど……」

 「遠慮するな。それでは皆さんお待ちかね!

 「今週のビックリドッキリメカ!

 エッグボンバー!!

 そう言って、ケンスケはエッグボンバーを取り出した。

 「う、生卵……」

 「それを私たちにぶつける気?」

 「ふっ……これはただの卵じゃない。これを食らうと三十分以上もがき苦しむ
 という、楽しいものだ。もちろん、楽しいのは我々だがな……」

 いつの間にか、VW団の全員がエッグボンバーを手にしていた。

 「シンジ、避けるなよ。せっかく僕が精根込めて作ったんだ。おとなしくその身に
 受けるのが礼儀ってもんだぞ」

 もはや言ってる事は無茶苦茶である。

 「さぁ二人とも、巻き込まれたくなければシンジから離れるんだ」

 「そうだ。我々の目標は、あくまでシンジただ一人」

 「さぁ二人とも、早くこっちに来るんだ」

 「今ならまだ更生できる」

 「バカな事言ってんじゃないわよ。いい加減にやめないと怒るわよ!

 「碇くんは私が守る!」

 二人は逃げるどころか、シンジをかばおうとする。

 「ぬっ!」

 「くっ!」

 「こ、これは……」

 「くはははは! そうか、シンジとともに死を選ぶか。愚かな選択だ
 ならば、我々の怒り悲しみ正義の鉄槌を受けるがいい。
 総員、投てき体勢!!

 ケンスケがそう言うと、全員がいつでもエッグボンバーを投げれる体勢に入った。
 もはやケンスケに理性は残っていなかった。あまりの怒りのため、メガネには更に
 ヒビが入っている。

 「ケンスケ、やめろよ! 目標は僕なんだろ。二人を巻き込むなよ!

 シンジは二人の前にかばうように出る。

 「碇くん!」

 「シンジ!」

 「ふふふふふ……お互いかばい合うとは美しいねぇ~。安心しろシンジ、我々も
 オニではない」

 「え? それじゃあ……」

 「ああ。あの世で寂しくないよう、三人まとめて葬ってやる

 「うう……」

 シンジは、何とかこの絶望的状況を打開しようと、色々と考えてみる。

 一、話し合いによる平和的解決

    無理 ケンスケに理性が残っていない。

 二、全て受け取る。又は避ける

    無理 数十個のエッグボンバーは避けきれない。

 三、ATフィールドを張る

    無理 エヴァに乗ってない。

 四、逃げる

    無理 背中を見せた途端、ぶつけられる。

 五、相手に向かってダッシュ!

    今のケンスケなら、自爆覚悟で使ってくる。

 結論。絶体絶命。


 「くっ!」

 「覚悟を決めたようだな、シンジ……」

 絶対絶命のシンジ!

 このままケンスケの手に掛かってしまうのか!?

 ケンスケの邪悪な計画は成功してしまうのか!?

 風雲急を告げる次回にご期待ください!


 <つづく>


 ・ ・ ・

 では早速、続きをどうぞ。

 ・ ・ ・


 ケンスケは、猫がネズミをいたぶるように圧倒的優位に立ち、優越感に浸り、シンジ
 を精神的に追い込むため、ゆっくりと時間を掛けていた。

 「それではシンジ、お別れだ」


 5!


 4!


 3!


 2!


 1!



 しかし、ケンスケのカウントダウンが0を告げるより前に、後ろから声が掛かった。

 「君たち、そこで何をしているのかね?」

 「え?」

 ケンスケ達が振り向くと、そこには二人の警官がいぶかしそうに睨んでいた。無理も
 ない事である。大勢の学生が、女性(シンジもいるが)に生卵をぶつけようとして
 いるのだ。怪しまれて当然である。

 「い、いやこれは、その……」

 「わ、我々は正義のために……」

 「ちょっと署まで来てもらおうか」

 「で、ですから、決して怪しい者では……」

 その時、うろたえた一人が、誤ってエッグボンバーを落としてしまった!!

 「バ、バカ!!」

 スパーーーン!

 結構派手な音がして、エッグボンバーは砕け散った。それに驚き、他のメンバーも
 次々とエッグボンバーを落とす。

 スパーン! スパーン! スパーン!

 辺り一面、灰色、赤色黄色緑色などの粉末が飛び散った。

 「ぐぁぁぁ! 目が痛いぃぃぃ何も見えん!!」

 ハークション! ハークション!! い、息が……
 ハークション!! できない……」

 「喉が焼けるぅぅぅ! 水をくれぇぇぇ!!」

 「き、貴様ら、これは一体……。う、目が、鼻が、口がぁぁぁ!

 シンジ達の目の前には、阿鼻叫喚の地獄絵図が拡がっていた。

 シンジ達は風上にいたので、全く被害は無かった。普段のケンスケなら、こんな
 初歩的なミスは決して犯さないだろうが、やはり理性を無くしていたため、冷静な
 判断ができなかったようだった。

 とにかく、シンジ達が何もする事なく、VW団最高幹部会は壊滅した。

 「え、えーと。こういう時、僕はどうすれば……」

 「みんな、大丈夫かしら?」

 「ほら二人とも、今のうちに逃げるわよ!」

 「え? でも、お店向こうだよ」

 「こんな状況で、ゆっくり食事なんてできるわけないでしょ! 他にも
 仲間がいるだろうし……。今は逃げるのよ!

 「うん、分かった」

 「そうね。今は逃げましょ」

 三人はその場から走り去った。


 「はぁはぁ……。ここまで来ればもう大丈夫よね」

 「ケンスケのやつ、いつの間にあんな物作ってたんだろう?」

 「まったくロクでもないもんばっかり作るんだから」

 「でも、あんなのぶつけられてたら、ほんとデートどころじゃなくなってたわね」

 「そうだね。危ない所だったよ」

 「何言ってんのよ。結局、映画も食事もダメになったじゃないの。相田のヤツ、
 後できっちりと仕返ししてやるんだから。

 「でも、何だか楽しかったわね」

 「うん。なんか子供の頃によくやった、鬼ごっこみたいで結構面白かったね」

 「まあ、そう言われてみれば、結構スリルがあって面白かったわね」

 「碇くん、ありがと。守ってくれて」

 「本当ね。結構感動したわよ」

 「二人だって、僕の事守ろうとしてくれたじゃないか。
 嬉しかったよ」

 しばらくの間、三人とも見つめ合っていた。

 「あ、そうだ! はいこれ」

 そう言って、シンジは小さな箱を二人に渡した。

 「何これ?」

 「何、碇くん?」

 「プレゼントだよ。ほんとは食事でもしながら渡そうと思ったんだけどね。
 ゴタゴタしてて忘れてたんだ」

 「へー。気が利くじゃない」

 「碇くん、開けてもいい?」

 「うん、いいよ」


 「あ、これ口紅!?」

 やだシンジ! なに期待してんのよ!

 二人とも赤くなっている。シンジも赤くなりながら説明する。

 「ち、違うよ! 別にそんな意味で買ったんじゃないんだ!
 何かプレゼントしようとは思ってたんだけど、何買っていいか分からなくてさ。
 アスカ、口紅欲しがってたろ? だからだよ。別に深い意味はないよ。本当だよ」

 「ま、まぁ、そういう事ならありがたく頂いておくわ。ありがと、シンジ」

 「ありがとう碇くん、大事に使うね」

 「うん。それで、今日どうする? もう帰る? 簡単な物ならすぐ作れるけど……」

 「そうね。何だか碇くんの作ったご飯が食べたい気分ね」

 「映画や食事は、またこの次ね」

 「じゃあ、帰ろうか?」

 「うん」

 「そうね」

 こうして、三人は自分達のマンションに向かって歩き始めた。ケンスケの計画通り、
 映画も観られず、食事もできず、走り回ってクタクタになっていたので、ケンスケの
 計画はうまくいったように見えた。しかし、アスカの言うように、結構スリルがあり
 楽しかったので、思い出深い一日となった。また、お互いかばい合った事、そして
 何より、シンジの意味深なプレゼントのため、レイやアスカは最大限、機嫌が良か
 った。そして、そんな二人を見たシンジも気分が良かった。

 ケンスケの邪悪な計画は、シンジ達のラブラブパワーの前に、完全に破れ去った。
 しかも皮肉な事に、かえって三人の絆を深めてしまう結果となっていた。

 そして、そのケンスケだが、今だにむせていた。付近住民の苦情で出動した警官に
 より、警察署まで連れて行かれ、巻き添えを食った二人の警官を中心にして、ひどく
 叱られていた。

 さらに、本隊が壊滅した事を知らない各小隊は、夜遅くまでシンジを探していて、
 数人が補導されたという。


 ケンスケ達が連れて行かれた数分後、一人の少女がやって来ていた。

 「はぁはぁはぁ……。うっ! 何よこの臭い!? ……失敗したなぁー、絶対に
 食事するなら、この上海亭だと思ったんだけど……。ちょっと気付くのが遅かった
 わね。さすがにこの時間じゃ、もう帰ってるだろうなー。それとも、まだ追いかけ
 られてるのかな……」

 「あぁ~碇センパイ、ごめんなさい! 私の力が足りないばかりに、碇センパイを
 助けてあげられませんでした。でも、次こそ必ず助けてあげますからね!
 ……でも、なんか碇センパイ、楽しそうだったような……。それに、あの二人も
 そんなに嫌がってなかったような……」

 「え~い! なんかムシャクシャするわね!!!」

 その時、暗くて良く見えないが、足元に何か白いボールのような物が落ちて
 いる事に気が付いた。そして、彼女はウサ晴らしに、それを蹴飛ばした。

 しかし、不幸な事に、それはエッグボンバーの不発弾だった!

 スパーーーーーーン!!!

 「んきゃーーーーーー!!!」

 シンジ達の全く知らない所で、少女の悲鳴が響き渡った……。

 こうして、シンジを狙う女性が一人減った。

 「ケホッ! ケホッ! 何よこれー、何で私がこんな目に……。
 ……ふっ、ふっふっふっ。こんな事でくじけるもんですか。ハークション!
 恋は障害が多いほどクシュン! 燃えるってもんよ!

 「待っててくださいね碇センパイ! いつかきっと、ゴホゴホ、私の愛の力で
 助け出してあげますから」

 「ああ、私って、け・な・げ。ハックション!!

 ……彼女はしつこかった。


 なお、VW団は全兵力をシンジに向けていたため、トウジとヒカリは誰にも邪魔され
 る事なく、ぎごちなくも平和な食事ができた……らしい。


 追伸。

 この時、シンジがプレゼントした口紅が、どれくらいシンジに戻ってきたのかは、
 現在調査中である。


 新世紀エヴァンゲリオン-if- ホワイトデースペシャル!

 ボンバーボーイ・ボンバーガール

 ホワイトデーを襲う恐怖の白爆弾

 


 ・ ・ ・


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き


 疲れた。寝る。


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