新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十八部 Gパート (最終回)


 「そろそろ考えてもいいんじゃない?」 赤

 「な、な、何言ってんだよ。僕はまだ学生だよ。それに、そんな先の事より、僕は
 明日の事の方が心配だよ」

 『先の事……か。ま、今はいいか』 (アスカ)

 「明日の事って何?」

 「だって、綾波やアスカと一緒に暮らしてるって事を皆に知られただろ。きっと今頃
 派手に飲んでるだろうし……。ああ、明日何される事やら……とほほ……」

 「ああ、その事ならきっと大丈夫よ」

 「何で?」

 「さっきの連中の中にも私のファンがかなりいたみたいだし、私が一声掛ければ半分
 はおとなしくなるわよ。残り半分は私とレイで防いであげるわよ。むしろ、問題
 なのは女どもの方ね」

 「え?」

 「え? じゃないわよ。シンジを狙ってる女、結構いるはずよ」

 「まさか。だって綾波やアスカと一緒に暮らしてるって知られてるんだよ。そんな
 やつ相手にしないさ」

 「甘い!! 甘すぎるわよシンジ! エヴァのパイロットであるという事実は
 私達が思っている以上に影響力があるの。私はその事を身に染みて知ってるのよ。
 シンジがエヴァのパイロットだって知った以上、恋人がいようが同棲してようが
 結婚してようがそんな事は関係なくアタックしてくるに決まってんだから。ここは
 レイと二人で完璧な防御体制を敷かないと、シンジの貞操の危機なんだから」

 「それは考え過ぎなんじゃ……」

 「いいえ、用心に越した事はないわ。いいわね、レイ…… レイ? 聞いてるの?」

 「碇くんと二人でレストラン経営……それからそれから……」

 「あのね~! いつまで妄想に浸ってんのよ!! だいいち私が抜け
 てるじゃないの。三人でやるの、三人で!」

 「え、何? アスカ?」

 「何? じゃないわよ! 私の話全く聞いてないでしょ!!」

 「あ、ごめんなさい」

 「全くしょうがないわね。つまり、シンジは大学内で結構もてるんでしょ?」

 「うん、碇くん人気あるからいつも沢山の人が話掛けてくる」

 「聞くまでもないけど、レイは常にシンジと一緒にいるんでしょ」

 「うん。いつも碇くんとず~~~っと一緒にいるの」

 「にもかかわらず、スキあらばと狙ってるヤツが沢山いるって事よ。しかもただで
 さえ人気があるのに、エヴァのパイロットという付加価値まで付いたのよ。これまで
 以上に危険な状態というわけよ。シンジを拉致して無理やり既成事実を作ろうと
 するヤツさえいるかも知れないのよ。だから私たちでしっかりとシンジをガード
 しようって話よ。今がどれだけ危険な状態か分かるでしょ」

 「分かってる。碇くんは私が守るもの。絶対に守るもの」

 「よーし、その意気よ」

 『考え過ぎだと思うけどなぁ……。そもそもバラしたのアスカだし……』

 ちなみに、シンジの心配は杞憂に終わり、アスカの心配は現実のものとなった。

 男達は飲んで騒いで暴れたため、思った以上にストレス解消ができた。さらにシンジ
 は男の目から見てもいい男だったし、何だかんだ言っても世界を救った英雄である。
 あれだけの美女二人から同時に好かれていて、しかも一緒に暮らしているという
 全ての男達にとっての理想の暮らしをしていても認めざるを得ない。ならば、ここは
 (認めたくはないが)友人として祝福してやろう、という表向きの意見と、
 絶対に認めん! どちらか一人だけにしろ! と思ってはいるが、あれだけ絆が
 固いとそれも不可能。どうせ三人の間に入れないのならば、シンジと敵対してレイ
 とアスカから嫌われ、攻撃されるより、シンジの友人としてレイやアスカの側に
 いる方が得策だという下心丸出しの意見により、男達は表面上、これまでと何ら
 変わる事はなかった。

 一方、女性達はというと、アスカの心配通りというか、その更に上を行く程過激な
 手段でシンジを自分の物にしようとしてきたので、レイとアスカは一日中気の休まる
 暇もない程で、毎日シンジを守る為のバトルに明け暮れていた。


 「ふぅ、何とか振り切れたみたいだね。でも、アスカの言う通りになっちゃったね」

 「私の予想以上の状況よ。全くしつこいんだから」

 「碇くん、大丈夫?」

 「うん、平気だよ。中学の頃からこうやって逃げるのには慣れてるから」

 「そうね。でも、あの頃は追いかけてくるの相田君や鈴原君たちだったけど、今は
 女の人ばかりね」

 「そうだね、何か違和感あるよね」

 『……シンジって、自分がもててるって事まだ自覚してないの? ま、自覚されても
 困るけど……。ああ、私やレイの美貌を毎日見てるから、その他大勢の女ども
 なんか眼中に無いって事よね、いい事だわ』

 「そんな事よりシンジ、あんたこの前の大会でまた四百メートルの日本記録出したん
 でしょ。どうしてこの状況の中、そうやって目立つ事するのよ。ますますシンジに
 ハクが付いちゃうじゃないのよ」

 「そ、そんな事言ったって、あの日は調子良かったし……。手を抜くわけには
 いかないし……」

 「アスカ、碇くんが自己ベスト更新したの嬉しくないの? あの日喜んでたじゃ
 ない」
 
 「そりゃあもちろん、嬉しいわよ。でもねレイ、シンジが何か新しい記録作れば、
 それだけ追いかけて来る女が増えるのよ。ああ、これでもしオリンピック代表なんか
 になったりしたら……うう、頭痛くなってきた」

 「一生懸命やる事はいい事よ。全力を出し切ったから記録ができるの。それに、
 きちんと評価されるべきだって言ってたのアスカよ。碇くんは毎日練習してる。
 そして記録を出し、評価される。いい事なんでしょ?」

 「そりゃあ、そうなんだけどね……」

 『でも、やっぱり私たちだけのシンジでいて欲しいし……』

 「しかし、エヴァのパイロットだって分かった途端これだもんな……。本当に
 影響力あるんだな。びっくりしちゃった」

 「ほんとね」

 「そりゃあね、何てったって世界を救った英雄様だものね……。はぁ、人気者は
 辛いわね」

 「そうだね、でも……」

 「ん、何? シンジ」

 「え……と……その……だから……」

 「 碇くん、どうしたの?」

 「僕は……エヴァのパイロットという名前じゃないからね。ちゃんと僕自身を見て
 くれる綾波やアスカがいてくれて本当に良かった。ありがとう、二人とも大好き
 だよ」

 「ま、まぁ、シンジがちゃんと分かってんならそれでいいわ。それでこそ守り甲斐
 があるってもんよ」

 『急にびっくりするじゃないの。もうちょっとムードのある言い方できないかしら
 ね。シンジらしいけど』

 「碇くん……嬉しい。私も碇くんが好き。碇くんの事が大好きだから」

 「当然私もよ、シンジ。ま、言うまでもない事だけどね」

 「アスカも言えばいいのに」

 「い、いいでしょ別に」

 「ははは、ありがとう、二人とも

 「うん!」 だきっ

 「あう……」

 「こ、こらレイ! 何抱き付いてんのよ!!」

 「だって嬉しいんだもの!!」 ぎゅ~

 「あう~~~」

 「今はそれどころじゃないでしょ!! シンジを無事に家まで連れて
 帰る事が優先でしょうが!!」

 「あ、そうか。じゃあ続きは帰ってから……」

 「続きもなし!!」

 「え~~~」

 「え~~~じゃない!! だいたい何よ続きって!? いいから早く
 離れなさい!!」

 そう言って強引にレイを引き離す。

 「全く……もっと女の恥じらいってもんを持ちなさいよ。

 『私だって滅多に抱き付かないのに……』

 そもそも、レイは……」

 「アスカ、そんなに大きな声出しちゃ……」

 「あ、碇君見つけた!! ねぇ、今晩どこかに食事に行こ、ね」 は~と

 「げ、しまった見つかった」

 「碇くん、こっち」

 「う、うん」

 「あ! 碇君逃げないで!」

 「何? 碇君見つけたの!?」

 「抜け駆けはだめよ!」 ぞろぞろ

 「チッ! まったく次から次からゾロゾロと……まるでゴキブリね。シンジ、
 さっきの事あいつらに言いなさいよ」

 「さっきの事って?」

 「だから、私たち以外は女として見てないって事よ」

 「そ、そんな事言ってないだろ」

 「そうだったかしら? とにかく、私やレイの事が好きだからもう付きまとうなって
 はっきり言いなさいよ」

 「は、恥ずかしいよ」

 「いいじゃないアスカ、碇くんはちゃんと私たちの事を好きだと言ってくれる。
 愛してくれている。私たちも碇くんが好き。それ以上、何を望むの? 私は今のまま
 で十分幸せよ」

 「う~ん、でもやっぱり……。少なくとも、シンジは私たちの事が好きだという事
 をあの女どもにシンジの口から伝えて欲しいじゃない」

 「みんな知ってるでしょ」

 「そうなのよね……さっさと諦めりゃいいのに……。あーもう! 毎日毎日
 ゆっくりと考える事もできない! 校内にジオフロント直行のエレ
 ベーターくらい造ればいいのに!!

 「でも、私は毎日賑やかで結構気に入ってる」

 「退屈だけはしないね」

 「はぁ~~~。二人とも呑気なんだから……」

 「使徒と戦って碇くんの命が危険に晒されてた頃に比べたらよっぽどいいわ」

 「最近平和だよね」

 「何言ってんのよ。別の意味でシンジの身が危険なのよ」

 「だから考えすぎだって」

 「 ……良く分からない」



 「……うう、やっぱり碇君、足速い。追いつけない」

 「さすが日本記録保持者ね」

 「でも、あの二人も同じスピードで走ってるわね」

 「さすがエヴァのパイロットってところね」

 「しかし……全力で走りながら何であんなににこやかに会話できるのよ?」

 「特異体質ね」

 「慣れてるだけでしょ」

 「一体何を話してるのかしら?」

 「相変わらず仲いいわね……羨ましい」

 「とにかく、追うわよ」

 「何としてでも碇君をものにするんだから」

 女性達の必死の追い上げに逢い、シンジ達はあと一歩の所まで追い詰められたの
 だが、男性達の協力(シンジ一人これ以上いい目に逢わせてたまるか&レイとアスカ
 に感謝されたいという下心)により、何とか無事に帰宅する事に成功していた。

 ほぼ毎日このような事が繰り返されていたので、シンジ、レイ、アスカの三人は、
 騒々しくも賑やかで、幸せな学生生活を送る事ができていた。



 そして数年後、三人はどうなったかというと……



 それは、表札を見れば分かる。分かれていた表札は、再び一つになった。
 今度は「碇」の名の元で。



 碇シンジ
 碇レイ
 碇アスカ・ラングレー

 三人の未来に幸せがあり続ける事を祈りながら、この話もそろそろ
 幕を閉じたいと思います。長い間付き合って頂き、本当にありがとう
 ございました!


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 - 完 -


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