新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十八部 Eパート


 「……しょうがないわね。その人はね、私達エヴァンゲリオンのパイロットの中で
 最も高いシンクロ率を記録し、最も多くの使徒を倒したエースパイロット。
 エヴァンゲリオン初号機の専属パイロット。サードチルドレン、碇シンジよ」

 「え?」

 「シンジが?」

 「お前……初号機のパイロット……なのか?」

 「アスカさんを救った人……」

 皆の視線がシンジに集まっていく。そして、

 「うぉぉぉぉぉ!! すげぇ! シンジがパイロットだったなんて!!」

 「サードチルドレン、初号機のパイロット!」

 「アスカ様を救った英雄!!」

 「それが俺達のクラスメートだったなんて!!」

 「碇君凄い! どうして黙ってたの?」

 「やっぱり奥ゆかしいんだ。ますます素敵」

 と、口々にシンジを讃え、大騒ぎとなる。

 「はぁ~~~ やっぱりこうなるのか……」

 「三年振りね、碇くん」

 「ああ、そうだね。学校変わる度に同じ事の繰り返しだね……慣れたけど」

 「ねーねー綾波さん、驚いてないけど、碇君があのロボットのパイロットって事
 知ってたの?」

 「ええ」

 「いいなー碇君、やっぱり綾波さんには全て話すんだ……いいなー」

 「そう?」

 「恋人が世界的な英雄だなんて……羨ましい」

 「ほんとよね、どこに行っても自慢できるし」

 「おまけにハンサムで優しいし……いいなー綾波さん」

 「でも、私が碇くんの事を好きなのは初号機のパイロットだからじゃないわ。碇くん
 だから好きなの」

 「う……」

 「……そんな風に思える人だから碇君は綾波さんを選んだんだ……」

 「うう……自己嫌悪に陥るわ」

 「はぁ~~~。やっぱり私じゃ入り込めないのかな……」

 口々に溜め息をつき、シンジとレイを見てはまた溜め息をつく。

 「アスカ、何で話しちゃうんだよ」

 「前にも言ったでしょ、私達は命懸けで戦ったのよ。それは正当に評価されるべき
 なのよ」

 「だからってわざわざ僕の事まで話さなくったっていいだろ。こんな風に騒がれる
 のが嫌いだから黙ってたのに」

 「いいじゃない別に。そのうちバレるんなら早い方がいいでしょ」

 「はぁ~……だいたい、何でここにいるんだよ。ハワイに撮影に行ったんじゃ
 なかったの?」

 「ああ、その事。言い寄ってくる男どもが鬱陶しいから帰って来ちゃった」

 「……相変わらずだね。で、わざわざ騒ぎを起こすためにここに来たって事?」

 「それは単に目的の一つね。本当は久し振りにシンジの手料理が食べたくなった
 のよ」

 「何言ってんだよ、毎日食べてるじゃないか」

 「ハワイじゃ食べれなかった」

 「それは仕方無いよ。仕事なんだから少しは我慢しなきゃ」

 「私もそう思ったんだけど、やっぱりダメだった。私にとってシンジと離れてる時間
 は永遠のように長いのよ。シンジがいないとどうも調子が出ないのよね。やっぱり
 シンジの側を離れちゃダメだって事が良く分かったわ。だから、今後は海外撮影は
 一切無し。日帰りできる場所まで、ね」

 そう言って、アスカはにっこりと笑った。

 『相変わらず綺麗な笑顔だな……』

 シンジは思わず見とれてしまう。もちろん、周りにいる人々全てが魅了されている
 のだが、シンジは付き合いが長い分、アスカの笑顔の中に何かいつもと違うものを
 見つけていた。
 そう、例えるならば、何かの計画がうまくいった時の、してやったりという
 表情であった。

 「あっ!」

 シンジはようやくアスカの誘導尋問に乗った事に気が付く。そして、恐る恐る
 振り向くと、予想通り全員が自分を見ていた。

 『しまった』

 「……シンジ、お前何でアスカ様の撮影場所知ってんだ?」

 「確か幹部にも極秘のはずじゃなかったのか?」

 「同じエヴァンゲリオンのパイロットなんだから知り合いなのは分かるけど……」

 「何でそこまで詳しいんだ?」

 「何でそんなに親しそうに話すんだ?」

 「そもそも、手料理ってどういう事だよ?」

 「お前……アスカさんとどういう関係なんだ?」

 「いや……その……何と言っていいか……え……と……」

 「!!! ま、まさか……アスカ様の言ってた結婚したいやつって……」

 「あ、あれ今日放送だったんだ。そ、シンジの事よ。私達、今一緒に住んでる
 の」

 「「「ぬわぁにぃぃぃぃぃぃ!?」」」

 アスカの一言で周りは大騒ぎとなる。シンジはひたすら頭を抱えていた。

 「シ、シ、シンジ……お前……お前……そんな事が許されていいと
 思っているのか!!

 「い、いくらアスカ様を救った英雄だからといって、やっていい事と
 悪い事がある!!」

 「どういう事か説明しろ、碇!!」

 「だいたいお前、綾波さんと付き合ってんじゃなかったのかよ!!」

 「そ、そうだ! 綾波さん、こんな不埒なヤツさっさと忘れて、僕と二人
 愛の国に旅立ちましょう!」

 「パカヤロー! それは俺のセリフだ!」

 「い、いや僕と一緒に……」

 「綾波さん、どうして何も言わないの? 碇君と付き合ってるんでしょ?」

 「ええ」

 「じゃあ何でそんなに落ち着いてるの? 私には分からない」

 「きっと呆然としてるんだね」

 「分かる! 分かるよその気持ち、信じてたやつが他の女と暮らしていたなんて
 ショックだよね」

 「さぁ、僕の胸でお泣き

 「お前は引っ込んでろ! それは僕が」

 「いや俺が」

 「さぁ、遠慮なんていらないよ。思いっきり泣けばいい。そしてシンジの事
 なんか綺麗に忘れてしまおう!

 「泣く? どうして?」

 「え? だって碇のヤツが綾波さんを裏切ったんだろ。悲しくて悔しいんだろ?」

 「そんな事無い。碇くんは私を裏切ったりしないし、私が悲しむような事はしない
 もの」

 「え? だって現に……。碇の事、そんなに好きじゃなかったの?」

 「ううん、そんな事ない。私は碇くんが大好き。私は碇くんのお嫁さんになる
 の」 ぽっ

 「なぜ? どうして? 他の女と暮らしてるような人なのに、なぜそこまで言える
 の?」

 「どうしてもシンジじゃなきゃ駄目なの?」

 「ええ、碇くんじゃなきゃ駄目」

 「他の女と暮らしてるのに? な 何故だぁ~~~!!

 「別にいいわよね、レイ」

 「ええ、構わないわ」

 「だからどうして?」

 「だって、私も碇くんと一緒に暮らしてるもの。だからアスカが一緒に暮らしてても
 平気なの」

 「んなっ!?」

 「そ。私とシンジとレイはもう随分前からず~~~っと三人一緒に暮らしてるの」

 「なぜ……あ、ひょっとしてテレビで言ってたふたまたの相手の女って……」

 「ええ、そうよ。レイの事」

 「親友でライバルで一緒に暮らしてる??? どうして?」

 「私もエヴァンゲリオン零号機のパイロットなの。だからこれからもずーっと一緒
 なの」

 「あ、綾波さんもパイロット??」

 あまりに驚く事の連続で、全ての人の頭にマークが突き刺さり、完全に思考が停止
 していた。

 「さてとシンジ、レイ、騒ぎが大きくなる前にこの場から離れた方が良さそうね。
 乗って」

 「騒ぎを起こしたのはアスカだろ」

 「私もそう思う」

 「まーまーいいからいいから。早く乗る乗る」

 シンジとレイを乗せると、アスカはタイヤの音を響かせ急発進し、あっという間に
 校門を越えて行った。

 しばらくして、残された人々の頭がようやく動き出した。

 「…………飲むぞ」

 どうしていいか分からず、とりあえず飲み会に突入する事になった。頭の中で様々な
 情報、感情がぐちゃぐちゃになり、とても正気を保てない。飲まずにはいられない。
 というやつである。なお、先程アスカからもたらされた情報はあっという間に大学中
 に広がった。今回に限り、情報は極めて正確に伝わったのだが、内容が内容だけに
 尾ひれが付こうが正確に伝わろうが、殆ど差がないほどの大ニュースであった。

 結果として、鬱積した感情を持て余した数百名の生徒は大挙して飲み屋街に突撃
 する事となった。その飲み方は凄まじく、同時多発的に破壊活動に移行、警察では
 全く手に負えず、機動隊、果ては自衛隊まで出動する大騒ぎとなり、一晩中救急車と
 パトカーのサイレンが鳴り止む事はなかった。

 最終的に、大破三軒、中破七軒、急性アルコール中毒百四十七名など、多くの被害を
 出し、約一カ月に渡って飲み屋街の機能はマヒしてしまっていた。

 この事件は後に「第一次第三大生飲み屋襲撃事件」として記録に永遠に残るほどの
 騒ぎとなっていたが、なぜか一人の逮捕者も出る事なく、事態は急速に沈静化して
 いった。

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 「……あぁそうだ。すまんな、よろしく頼む」 ガチャ

 「どうだ?」

 「ああ、何とか上の騒ぎは治まったようだ」


 <つづく>


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