新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十八部 Dパート


 「それがね、そいつ、ふたまた掛けてんのよ

 「な、な、な……な゛っ!? (シンジ)

 ガシャッ!

 ちなみに今の音は、シンジが再び割り箸入れをひっくり返した音である。だが、この
 シンジの行動を不審に思った人物はいなかった。なぜなら……(以下前回と同じ)

 「ふたまた? 良く分からない」 (レイ)

 『アスカ~、何考えてんだよ~~~』 (シンジ)

 「な な な 何ぃーーーっ!!

 「アスカ様に好かれている事自体犯罪なのに、その上ふたまた
 だと!?」

 「許せん! 許せん! 許せん!!」

 「俺がこの手で殺す!!」

 アスカに好きな男がいる、しかも結婚したい程の。その事実で、呆然としていた男達
 の中に、確かな殺意が生まれ始めていた。

 「……なぜふたまたしていると分かっている男にそこまで……」

 「だって私は彼の事が好きだし、彼も私の事好きだって言ってくれるもの。
 ま、私一人に向けられる愛じゃないって所がちょっと引っかかるけど、これは
 しょうがない事だもの」

 「な、何でですか?」

 「だって、もう一人の方も付き合い長いもの。どちらかを選べって言っても彼には
 無理ね」

 「アスカさんはその人の事を知っているんですか?」

 「ええ、勿論よ。私の親友だもの。私達三人は幼なじみ……とは言えないけど、
 ま、似たような境遇なのよ」

 「しかし……いくら付き合いが長いとはいえ、アスカさん程の人と両天秤に掛ける
 程の女性なんですか?」

 「ん~~~そ~ね~。私とは全くタイプが違うけど、美人である事には間違いない
 わね。もしモデルの仕事を始めたら、恋だけじゃなく仕事の上でも最大のライバルに
 なるでしょうね」

 「……プライドの高いアスカさんがそこまで認めるなんて……。しかし、アスカ
 さんとアスカさんと同レベルの美人二人と付き合っている男って……一体どんな
 やつなんでしょうね。同じ男として私はそいつが許せないですね」

 「だからその人の名前は言えないの」

 「確かに、今公表すればアスカさんのファンに何されるか分かりませんね……」

 「そういう事。あ、それとこれを見てる人、分かったでしょ。私には好きな人がいる
 からもう言い寄って来ないでね」

 「……何だかそう言うとますます相手の男性の敵が増えるような気が……」

 その後もインタビューは続いたが、それを聞いている者は殆どいない。全員、この
 鬱積した思いをどうしていいか分からず、イライラしていた。

 「おいシンジ!!」

 「わぁっ! ごめんなさい!」

 「? 何謝ってんだお前?」

 「う。い、いやその……な、何?」 ドキドキ

 「飲みに行くぞ」

 「へ? ……な、何で?」

 「今のアスカ様のインタビュー見てたろ。これが飲まずにいられるか」

 「お前もアスカさんのファンなんだろ?」

 「割り箸入れ倒すほど動揺してたじゃないか」

 「そこで、ここはぱぁーーーっ! と飲んで、このどうしようもない気持ちを
 落ち着かせるしかない、という事になったんだ」

 「当然、シンジも来るよな?」

 「え……と、でも午後の講義は……」

 「そんなもんエスケープするに決まってる!」

 「こんな気持ちで講義なんぞ受けられるか!!」

 「で、でも、まだ昼だよ。お店開いてないよ」

 「ふっ、問題ない。この辺りの飲み屋は俺達で持っているようなもんだ」

 「ああ。その俺達の頼みは断われまい」

 「もし断わったら、その店は俺達の結束の強さを知る事になる」

 「という事で何の問題も無い」

 「碇君、一緒に行こ。綾波さんも来るんでしょ?」

 「え、私? 私は碇くんが行くのならどこにでも付いていく」

 「よっし、決まりだな。それじゃあ皆、徹底的に飲むぞーーー!!

 おおおおおーーーっ!!!

 『アスカのせいでとんでもない事になったな……』

 ストレスの溜まりまくった大多数の男達、お祭り好きの女性、シンジが行くのなら
 一緒に行くという女性達など、人それぞれの理由はあるが、食堂にいた殆どの人間が
 飲み会に参加する事になったようである。


 「こら、お前達どこに行く。まだ仕事中だぞ」

 「見逃して下さい料理長!」

 「こんな気持ちで料理なんてできません!」

 「この情報はすぐ校内に広がりますよ。そうすれば誰もここには来ませんよ」

 「皆飲み会に参加するはずです。だから見逃して下さい」

 「いかんいかん、お前達がここを離れたら俺が行けんではないか」

 「ず、ずるいですよ料理長! 自分だけなんて」

 「ここは皆で行きましょうよ」

 「全員気持ちは同じです」

 「飲まなきゃやってられません!」

 「……そうだな。よし、今日はもう食堂閉めるぞ。今日は全てのストレスを
 吐き出して来い!!

 「はい!!」

 こうして食堂は閉鎖された。もっとも、ここと同じような理由で大学内のあらゆる
 設備が閉鎖され、飲み会に参加する人間は時間と共に凄まじい勢いで増えていき、
 最終的には数百名を数えたという事である。




 数日後、シンジ達が校門へ向かっていると、一台の真っ赤なスポーツカーが
 突っ込んでくる。そしてシンジ達の目の前で派手なブレーキ音と共にスピンして
 ピタリと止まる。

 「う、うわ! 何だ?」

 「危ねぇな、一体誰だ?」

 「誰かの友達か?」

 シンジ、レイ共にこういう運転をする人物を二人知っている。二人共女性だが。
 一人は加持ミサト(旧姓葛城)、そしてもう一人は……。

 「シンジ、レイ、久し振り。元気してた?」

 「やっぱりアスカだ」

 「やっぱりアスカね」

 予想通りの人物が車から出てくる。

 「ア ア ア アスカ様!?

 「ま、まさか……これは夢か?」

 「な、なぜアスカ様がここに!?

 「なぜシンジと綾波さんの名を?」

 「ほ、ほ、ほ、本人が目の前に……」

 「俺もう死んでもいい」

 「やっぱり綺麗な人……」

 「う、羨ましい……」

 「いいなぁ、あのプロポーション……」

 冷静なシンジ達をよそに、周りの人間達は大騒ぎをしている。憧れ……ひょっと
 すると崇拝の対象であり、雲の上の存在と思っていた英雄が、今、目の前にいる。
 冷静でいろという方が無理である。

 「な、なぜ世界を救った英雄のアスカ様がこんな大学に?」

 「英雄か……昔の私が最も求めていたセリフね」

 『それが今じゃ一人の男から”愛してる”と言われるのが一番嬉しいなんて……  本っ当、変わったわね』

 「あの……アスカ様?」

 「英雄って呼んでくれるのは嬉しいけど、本当に英雄と呼ばれる人は他にいるのよ」

 「え?」

 「私ね、昔、死にかけた事があったの」

 「そりゃ、あんな化け物と戦ってらしたんですから無理もない事です。心から感謝
 してます」

 「う~ん、どう言っていいかな……。肉体的にというより、精神的な事なのよ。
 使徒の精神攻撃、私の過去の出来事、トラウマ、まぁ結局は私の心の弱さが原因
 なんだけどね。私は心を閉ざし、現実から逃げてしまったの。ただ生きてるだけの
 植物人間。あのままだと確実に死んでいたわね」

 「そ、そんな事が……」

 「でも、そんな私を救ってくれた人がいたの。その人は私のために初めて泣いて
 くれた人……。私を必要としてくれた。私に生きる力をくれた。私をこの世界に
 連れ戻してくれたの。最初は本っ当に情けないヤツだったし、よく喧嘩もしたわ。
 私が守ってやらないと何にもできないと思ってた。

 でも、いつの頃からか、守られてるのは私の方だった。戦いにおいても、日常の生活
 においても、心も身体も私は守られていた。今の私があるのは全てその人のおかげ。
 だから、本当に英雄と呼べるのは私じゃなく、その人の事ね」

 「だ、誰ですかその人は?」

 「教えて下さい」

 「きっと素敵な人なんでしょ。どんな人なんですか?}

 「お願い、教えて」

 男達は自分達の英雄を救った人物を知りたがり、女達はこういう話が好きなのか、
 アスカを救った人物を知りたがる。

 「ん~。そ~ね~どうしようかな~」 ちら

 そう言いながらシンジを見る。

 『ま、まさかアスカ、話す気じゃ……』

 「……しょうがないわね。その人はね、私達エヴァンゲリオンのパイロットの中で
 最も高いシンクロ率を記録し、最も多くの使徒を倒したエースパイロット。
 エヴァンゲリオン初号機の専属パイロット。サードチルドレン、碇シンジよ」


 <つづく>


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