新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十八部 Aパート


 時に、西暦2019年。

 シンジ、レイ、アスカの三人は少年少女から大人へと成長を遂げていた。

 ここ五年の間で三人にとって一番大きな出来事といえば、やはりミサトの結婚で
 あろう。そして、それに伴う住まいの問題。

 『また壁に穴開けて繋げばいいじゃない』

 というアスカらしい意見もあったのだが、さすがに新婚生活を邪魔するわけにも
 いかず、シンジ達が出て行こうと提案したのだが、

 『ここはあなた達の家でもあるんだから何にも気にせずここにいればいいのよ。
 私が新しい家に移るから』

 と、ミサトはシンジ達に気を遣わせないように明るくそう言った。確かに二人で住む
 にはここは広すぎるし、何よりシンジ達三人を離れて暮らさせるのには抵抗があった
 ため、三人をこのまま残す事となった。だが、さすがに保護者も無く、年頃の男女が
 一つ屋根の下に暮らすというのは世間体が悪いという事で、表札は
 『碇シンジ』
 『綾波レイ・惣流アスカラングレー』
 と二つに分けられ、壁の穴も塞がれる事となった。
 もっとも、塞がれるといってもボタン一つでいつでも開閉可能で、三人が一緒に
 暮らしている事を知らない友人が来る時以外は開けたままなので、実質これまでと
 何の変わりもなかった。ちなみに、その開閉式壁はというと

 「さすがネルフの技術、この壁が開閉式だと知ってる僕ですら全く継ぎ目が見え
 ない。これじゃあどんなに優秀な諜報部員も分からないよ」

 と、ケンスケが絶賛するほどのものであった。

 こうして三人だけで暮らすようになると、保護者がいないという事で少しの不安は
 あるが、それ以上に精神的な成長の方が大きかった。そして、自分達の将来について
 も考えるようになっていた。


 Case 1 惣流・アスカ・ラングレーの場合


 まずアスカが一番悩んでいた。シンジとレイは大学に進学する事を決めていた。
 自分もシンジやレイと同じく大学に行こうと思ったのだが、自分は一度大学を卒業
 しているし、何よりエヴァに頼らずに自分の力だけで何かをしてみたい、働いて
 みたいと強く思っていた。シンジとレイが大学院に進むまでの四年間働いてみたい。
 その後一緒に大学院に進めばいい。一緒に暮らしているんだから離れてしまうわけ
 ではない。自分の力を試してみたい。と真剣に思っていた。

 ちょうどそんな時、いつものように三人で買い物……というよりデートをしている
 と、スカウトマンに声を掛けられた。

 「う~んモデルか……面白そうではあるわね。どうレイ、一緒にやってみない?」

 「モデル? アスカの持ってる本に出てきてる人達の事?」

 「そ。結構面白そうだと思わない?」

 「はい、そちらの女性もどうですか?」

 「……私はいい」

 「何で?」

 「私は大勢の人に見てもらいたいわけじゃないの。碇くん一人が見てくれればそれで
 いいの」

 「え、え……と……。ど、どうも……」 赤

 「聞くまでもなかったわね。レイがそう答える事は太陽が東から登るのと同じくらい
 当たり前の事だったわね。あのねレイ、もちろん私だってそうよ。でも仕事として
 割り切っちゃえばいいじゃない。そんなに深く考える事じゃないわよ」

 「でも……水着や下着の写真もあった。ああいう格好にもなるんでしょ」

 「う、うーん、そりゃあ確かにそういう仕事も有り得るわね……」

 「私はやっぱりいい。私が水着や下着姿、裸になるのは碇くんの前でだけ。見て
 欲しいのは碇くん一人だけだもの」

 「あ、の、ね、だーれがヌード写真撮れって言ったのよ!!

 「水着や下着も嫌だもの。だから私はいい。それよりアスカ、どうして碇くんの耳を
 塞いでるの?」

 「付き合い長いもの。あんたが危険な事を言う前触れくらい分かるわよ」

 「危険な事? 良く分からない」

 「いいのよ気にしなくて。それよりあんた(スカウトマン)ん? ちょっと、私の話
 聞いてんの?」

 しかしスカウトマンはというと、

 『こんな美人を独り占めするとは許せん! 羨ましい……許せん! 羨ましい……』

 と、無限ループに入っていた。

 「ちょっと、人の話はちゃんと聞きなさいよ!!

 「え? あ、あぁすいません。何ですか?」

 「間違ってもヌード写真なんて無いんでしょうね」 ジロリ

 「は? あ、そういう事なら心配いりません。うちは業界でも良心的な事で有名です
 から。モデルの方の望まない写真は一切撮りませんから」

 「言っとくけど、水着や下着も拒否するわよ。普通の服装だけなら特別に撮らせて
 あげてもいいわ。それが絶対に譲れない条件よ」

 「え……と……分かりました。それでも十分やっていけると思います」

 「そ。じゃあ名刺ちょうだい」

 「は、名刺?」

 「少し考えてからこっちから連絡するわ」

 『ほんとに安全かどうかネルフで調べてからにしないとね。それに働くとなると
 ミサトの許可がいるし。色々と手続きが大変なのよね』

 あまりに強気なアスカにスカウトマンは完全に圧倒されていた。今までこんな反応を
 示す女性はいなかった。普通は大喜びするものだが……と思いながらも、スカウト
 マンとしての自分の能力に絶対の自信があるため、この女性なら必ず成功すると
 思い、アスカの申し出を受け入れた。

 「さーてと、話も終わったし、シンジどこ行こっか」

 「あ、ちょっと待って下さい」

 「何? まだ何かあるの? レイならやらないってきっぱり言ったでしょ。あんまり
 しつこいと私も止めるわよ」

 「いえ、こちらの方に話が」

 「え? あの、僕、男ですよ?」

 「ええ、もちろん分かってます。男性のモデルも探してるんですが、どうですか?」

 「面白そうじゃないシンジ、一緒にやりましょうよ。シンジなら結構いけるわよ」

 「ぼ、僕はいいよ。あんまり人前に出るの好きじゃないし」

 「そうですか、仕方ありませんね。それでは(アスカに)良い返事を期待して
 います」

 そう言ってスカウトマンは人ごみの中に消えていった。

 アスカは早速その日のうちにネルフにこの事を話した。諜報部が徹底的に調べた結果
 背後関係は全く無く、本人の言うように良心的な会社である事が分かった。また、
 仕事をする事についても、使徒はもう来ない事を上層部が知っているため比較的簡単
 に許可が下りた。もちろん保安上の問題も、アスカのマネージャーとしてネルフの
 女性諜報員が付き、その他にも数名が周辺を固める万全な体制をとった。

 こうしてアスカは、プロのモデルとしての生活が始まった。元々自他共に認める
 完璧なプロポーションを誇る上、絶世の美女という言葉を使っても誰も文句は
 言わないであろう外見から、モデルとしての成功は約束されたようなもので、
 まさしく天職と言えた。

 それに加え、世界情勢が落ち着き安全上も大丈夫という事もあり、自分がエヴァン
 ゲリオン弐号機の専属パイロットである事を世間に公表した。アスカいわく、

 「私達は命懸けで戦ったのだから、それは正当に評価されるべき」

 との事である。

 これまでネルフは、使徒との戦いの記録は公開していたが、保安上の理由から
 パイロットについては非公開だった。その為、世界中の人々にとってパイロットが
 誰なのかという事が最大の関心事だった。そのパイロットの一人が自ら名乗り出た。
 しかも想像とは全く違ったうら若き女性、それもとびきりの美人、世界中の人々は
 熱狂的に世界を救った英雄(ネルフの情報操作でそうなっている)を讃えた。
 そのため、アスカは一晩にしてスーパーモデルとなっていた。

 「おめでとうアスカ、でもアスカだったらエヴァのパイロットって事を公開しなく
 ても成功しただろうけどね」

 「あらシンジ、良く分かってるじゃないの。ま、シンジがその事をちゃんと分かって
 るのなら何の問題も無いわよね」

 そう言うアスカは非常に嬉しそうだったという。世界中の評価よりシンジ一人の評価
 の方が大事なようだった。

 ともかく、アスカは今や世界中で最も注目を集める人物になっているため、あらゆる
 情報メディアの取材攻勢で大忙しとなり、モデルの仕事すら満足にできなくなって
 いた。いっその事芸能界に入っては、という意見もあちこちから出たが、

 『面倒くさいから嫌、私はあくまでモデルなの』

 の一言で却下していた。実の所、こんなに忙しくなるとは思っていなかったため、
 これ以上仕事が増えるとシンジと一緒にいられる時間が無くなってしまう。それだけ
 は絶対に嫌だ、という理由であった。

 取材攻勢が一息ついた頃、ようやくモデルとしての仕事ができるようになった。
 それでも相変わらずアスカの人気は凄まじく、TVに出れば視聴率は跳ね上がり、
 雑誌の表紙を飾ればその本の売り上げは軽く一桁は上がるという有り様だった。

 また、アイドルというわけではないのになぜか写真集や関連グッズが山ほど発売され
 売り上げ記録を次々と塗り替えていった。さらにファンクラブまで結成され、アスカ
 は仕事で大忙しの毎日を過ごしていた。

 一方、シンジの方は大学生になっていた。

 次回、シンジの大学生活編に


 <つづく>


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