新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十七部 Aパート


 何の変わりもない、ある日曜の午前中。

 シンジとレイはいつものように食事の準備に取り掛かっていた。

 「ねぇ碇くん、今日は何にしようか?」

 「う~ん、そうだね、今日は少し軽めにそうめんにしようか」

 「うん。じゃあ私、玉子焼き作るね。あと、おにぎりもあった方がいいかな?」

 「うん、お願いするよ」

 レイにとって普段と何の変わりもない日常。これからもずっと続くと信じて疑わない
 幸せな日常生活。

 だが、それは突然やってきた。

 「ん?」

 「……地震?」

 「うわ、大きい

 「きゃ!」

 突然の地震、それもかなり大きい地震なので、シンジ達は立っているのがやっと
 という状態だった。そんな時、レイの頭上の棚から鍋が落ちそうになっているのに
 気付いたシンジは、慌ててそれを取ろうとする。

 しかし、かなりの揺れのため、うまく動かす事ができなかった。

 「綾波! 危ない!!

 「え?」

 とうとう落下した鍋からレイを守ろうとして、シンジはとっさにレイの元に走った。

 ゴン!

 「ぐっ」

 何とかレイへの直撃を避けたものの、鍋はシンジの頭に当たってしまった。打ち所が
 悪かったのか、シンジはそのまま気を失ってしまい、レイにもたれかかる。

 「い、碇くん、しっかりして!」

 慌ててシンジを支えようとするが、まだ揺れは治まっておらず、バランスを崩して
 その場に倒れ込んでしまう。

 結果として、シンジが初めてレイの部屋に行った時と同じような状態になって
 しまった。あの時と違う事といえば……

 一、二人とも服を着ている事

 二、シンジが気を失っているため身体を支えきれず、完全にレイに覆い被さって
   いる事

 三、レイが動揺しまくっている事

 の三点である。

 「い、い、碇くん……あの……あの……私……」 ドキドキドキドキドキ

 『こ、こ、こういう時、わ、私はどうすればいいのかしら……。そ、そうだ。確か
 こういう時は……』

 「ちょっと、今凄い音したけど大丈夫?」

 「二人とも無事?」

 リビングでくつろいでいたアスカとミサトは、地震が治まった事もあり、慌てて
 キッチンに走ってきていた。

 「んなっ!?」

 「あら~~~」

 そこで二人が見たものは、食器の散乱する中で抱き合うシンジとレイの姿であった。

 「な な な 何やってんのよあんた達っ!!!

 「そうよ二人とも、こんな昼間から」

 「あ……ち、違うんです。こ、これは碇くんが私をかばってくれて……」

 「じゃあ何であんた嬉しそうに目つむってんのよ!! おまけにシンジ
 の背中に手回してるし、一体どういう事よ!!」

 「だって、碇くんが覆い被さってきた時はこうするもんだってミサトさんが……」

 「ミ~~サ~~ト~~ またレイに変な事吹き込んだわね!!」

 「ま、まぁまぁ、そんなに怒んなくても大丈夫よアスカ」

 「何が大丈夫なのよ!!」

 「だからほら、レイにはシンちゃん以外の奴が抱きついてきたら逃げるように
 言ってるし、ちゃんと護身術も教えてあるし、だいいち、レイが受け入れるのは
 世界中でシンちゃんただ一人だし、誰でもいいってわけじゃないんだから何の問題も
 ないでしょ」

 「問題あるわよ!! シンジもいつまでもレイに抱き付いてないで
 さっさと離れなさい!!」

 「…………」 ぐた~

 「おおっ! シンちゃんもおっとこの子ね。離れたくないってか」

 「シ~~~ン~~ジ~~~!!」 メラメラメラ

 「あ、違うの。碇くん、私をかばって頭にお鍋が当たって、それで気を失ってるの。
 早く看病しなきゃ」

 レイは慌てて起き上がり、シンジをそっと寝かせる。

 「それを早く言いなさいよ。ちょっとシンジ、大丈夫?」

 アスカもレイを手伝い、シンジをそっと寝かせる。

 「う~ん、いつもシンちゃんの事を最優先で考えるレイがその事を忘れるなんて……
 よっぽど動揺してたのね。ま、確かにシンちゃんの方から押し倒す事って今まで
 無かったものね。無理もないか」

 「バカな事言ってないで、早くシンジを病院へ連れていくわよ」

 「ミサトさん、早く車を……」 おろおろ

 「だーいじょうぶよ、ちょっと頭を打ってるだけよ、しばらく寝かせてればすぐに
 目を覚ますわよ」

 「でも、でも碇くんが……」

 「そうよ! シンジにもしもの事でもあったらどうすんのよ!!」

 「大丈夫だって。使徒との戦いをくぐり抜けてきたシンジ君がこの程度の事で
 どうにかなったりしないって。少し寝かせとけばすぐ目が覚めるわよ。それに、
 私、今ちょっち飲んでるし、車出せないのよね~」

 「呆れた。結局それが理由?」

 「それならタクシーを」

 「だから大丈夫よレイ、そんなに心配しないで。ほら二人とも、シンジ君をベッドに
 運ぶわよ」

 「ん……」

 「あ、碇くん、気が付いたの!?」

 「シンジ、大丈夫なの!?」

 「ほーら、私の言った通り無事でしょ。それとシンちゃん、女の子を守るのはいい
 けど、自分の身も大事にしなさいよ。シンちゃんに何かあったら悲しむ子が二人も
 いるんだから」

 「碇くんごめんなさい、私のために……ほんとにありがとう」

 「…………」

 「碇くん? どうしたの?」

 「あの…………」

 「何?」

 「どなたですか?」

 「え? ど、どうしたの碇くん?」

 「それに、ここ……どこですか?

 「碇くん? どうしたの? ねぇ、碇くん?」

 「ぷっ ぷはははは! やるわねシンちゃん」

 「ほんと、いつの間にそんなボケかませられるようになったのよ。見直したわよ、
 シンジ」

 「え? え? 冗談なの碇くん?」

 「……あの、どうして僕の名前を?

 「碇くん、ほんとに私の事分からないの?」 おろおろ

 「シンジ、あんたマジなの?」

 「え? あの……あの……」

 「ミサト……これって……

 「ええ……」


 <つづく>


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