新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十六部 Aパート


 「はぁ~~~~~~」

 「……何よミサト、大きなため息なんかついて」

 「ため息の一つもつきたくなるわよ。最近、仕事が忙しかったでしょ。肌が荒れて
 荒れて、もーやんなっちゃうわ」

 「確かにここ数日は忙しかったけど、ミサトの場合、ビールの飲み過ぎとか不規則な
 生活に原因があるんじゃないの? シンジ君がちゃんと食事作ってくれてるからまだ
 いいものの、独り暮らしだったら今頃肌荒れどころの騒ぎじゃないんじゃないの?
 もう若くないって事を自覚すべきね」

 「うっさいわね。そういうリツコだってタバコやコーヒーをガバガバ飲んでるし、
 徹夜だってしょっちゅうでしょ。どうせ私と同じで肌なんてボロボロなんでしょ」

 「ふふん、そう思うんなら触ってみたら?

 「よーし、そこまで言うんだったら徹底的に確かめてやる」

 「襲わないでよ」

 「あのね、私にそういう趣味はないの。腕とかを触れば十分よ」

 ぷにゅ ぷにゅ

 「え!?」

 「ふふふ、どうかしらミサト。まるで十代の肌でしょ」

 「どういう事、これ……。三十の肌じゃないわよ。何かいい化粧品でも発見した
 の?」

 「発見? 発明と言って欲しいわね」

 「え? じゃあリツコ、また何か作ったの?」

 「そ。LCLから身体に有効な成分のみを抽出して、色々手を加えてるうちに、
 完璧な美肌効果の薬を作る事に成功したのよ。見ての通り、お肌がすべすべ
 になるし、疲れも飛ぶし、もし販売したら、世の化粧品メーカーはことごとく倒産
 ね」

 「でもリツコ、仕事中にそんなもん作ったりして……。それって職権乱用って
 言わない?」

 「言わない。研究の成果の一環よ」

 「研究って?」

 「もちろん、美肌効果の研究よ」

 「ネルフに何の関係も無いじゃないのよ。やっぱり職権乱用じゃないの」

 「まぁまぁミサト、話は最後まで聞きなさい。さっきミサトが言ってたように、
 ネルフの仕事は結構忙しいでしょ。だから女性職員の中にも肌荒れで悩んでる人って
 結構いるのよ。それに、疲れたままの仕事じゃ集中力が落ちて能率も悪いでしょ。
 だからこの薬を作ったのよ。どう、ミサト? ちゃんとネルフのためになってる
 でしょ」

 「う~ん……ま、一応筋は通ってるわね」

 「どう、ミサトも一本? 美味しいわよ」

 「……私を実験台にしたいわけ?」

 「まさか。現に私はもう飲んでるわよ」

 「ほ、ん、と、う、に?」

 「疑い深いわね」

 「今まで色々あったでしょ。疑いたくもなるわよ」

 「じゃあ私が目の前で飲んであげるわよ」

 「私が選んだやつを飲んでくれる?」

 「ほんとに疑い深いわね。いいわよ。どれも中身は同じなんだから」

 「じゃあこれ」

 「これね」

 きゅぽ  ごく ごく ごく ごく……

 「ふ~美味しい。どう、ミサト? これで信じた?」

 「副作用は?」

 「無いわ」 きっぱり

 「…………」

 『まぁ、リツコが自分の作った薬を自分で飲んでるくらいなんだから大丈夫そうね。
 実際、私も肌荒れだし……飲んじゃおうかな……』

 「じゃあ、私も頂くわ」

 「そうしなさい。たくさんあるから持って帰ってもいいわよ。ミサト、優しい私に
 感謝してよね」

 「はいはい、今回は感謝するわ。じゃあ何本か貰っていくわね」

 「ええ、構わないわ。いくらでも作れるから。マヤも調子いいって言ってたし、
 他の女性職員にも配ってあげたら喜ぶわね、きっと」

 『ふっ……これで魔女なんて陰口は叩けなくなるわね。きっと天使とか、女神とか
 言われるようになるわね。ふふふ……楽しみね』



 で、次の日。ミサトのマンション。

 「あれ? どうしたんですかミサトさん。やけに機嫌がいいですね」

 「ふふふ、分かる~~~? 実はね、昨日、リツコに貰った栄養ドリンク飲んだの
 よ。そしたら今朝起きたらもうお肌がスベスベ、目覚めもスッキリ。身体の調子が
 すっごくいいのよね~~~ん」

 「……ミサト、怖いもの知らずね。よくあのリツコから貰った物、平気で口にできる
 わね。学習能力無いわけ~?

 「ふっ……私も実際に飲む前まではそう思ってたわ。でもねアスカ、あのリツコが
 自分で作った薬を、私達で実験する前に自分で飲んでるのよ。これはもう、最大限の
 安全性の証明といっても過言じゃないわ」

 「う~ん、確かにやたらと説得力あるわね」

 「普段が普段だからね」

 「今度のは大丈夫なのかしら?」

 「そりゃあ、自分で飲んでるくらいなんだから、よっぽど自信があるんでしょ。
 実際、凄い効果だし」

 「そう言えばミサト、今日はやけに肌に張りがあるわね」

 「でしょ? でしょ!? もうこれ一本あれば他の基礎化粧品なんて全くいらない
 くらいね」

 「へー、これがそうなんだ」

 「アスカも飲んでみる?」

 「え、私?」

 「そ。シンジ君だって肌の綺麗な娘の方が好きだろうし、若いからって油断してると
 すぐに肌荒れ起こすわよ」

 「ミ、ミサトさん、何言ってんですか……」

 「私飲みます」 きっぱり (レイ)

 「相変わらず反応が早いわね。で、アスカはどうするの?」

 「レイが飲むんなら当然私だって飲むに決まってるじゃないのよ。でも、ほんとに
 大丈夫なんでしょうね?」

 「平気よ。だって、実際に私やリツコは何の副作用も無かったし、見ての通り、
 効果てきめんだし。心配する事無いわよ」

 「そ、そう? そこまで言うんだったら飲んでみるわ」

 「碇くん、待っててね。すぐに碇くん好みになるから」

 「い、いや、その……無理しなくても……」

 「ううん、無理じゃないの。それが私の望みだから。碇くんのために……。碇くんの
 ためだけに綺麗になるの」

 「あ、綾波……」

 「持てるわね~シンちゃん、コノコノ!」

 「か、からかわないで下さいよ!」 赤

 『むーレイにポイント取られたか。でも負けないわよ』

 「シンジ、これ以上綺麗になったら言い寄ってくるやつがまた増えるから、ちゃんと
 守りなさいよ」

 「う、うん」

 「よろしい。シンジだって私がますます綺麗になれば嬉しいわよね、ね! 

 「は、はい」 『な、何か怖い……』

 「うん、よろしい」 にっこり

 ドキッ

 『う~ん、今の顔とさっきの顔……ギャップが……でも、アスカの笑った顔も綺麗
 だな……』 赤

 『ふふふ、シンジったら意識してる。名付けて”アスカ微笑み返し”作戦成功
 ね』

 『う~ん、率直なレイと策士のアスカ。面白い展開ね』

 そして二人は薬を飲んでみる。

 ごくごく……

 「甘い。けど美味しい」

 「うん、結構いけるわね。それに、何か元気が出てきたって気がするわ」

 「でしょ。今回は大当たりね」

 「ねえ、碇くん。私の肌綺麗になった? 触ってみて

 「ええっ!? ちょ、ちょっと綾波」

 脱ぐなっ!! 腕だけで十分でしょうが!」

 「あ、そうか」

 「まったくもう、わざとやってるんなら承知しないとこよ。この天然娘が」

 「レイは相変わらずねぇ。そうだ、シンジ君も飲んでみない? 美味しいわよ」

 「え、でも僕男だし、そんなに肌にこだわったりしてませんよ」

 「ちっ ちっ ちっ。今どき男の子だってエステに通ってるもんよ。まぁ確かに
 シンジ君には縁の無い事かも知れないけどね。だったら、お肌うんぬんより栄養
 ドリンクとして飲んでみたら?」

 「シンジ、結構美味しいわよ。飲んでみたら?」

 「そ、そう?」

 「うん、結構甘くて飲みやすかった。きっと碇くんも気に入ると思う」

 「じゃあ、僕も一本下さい」

 「はいこれ。良く冷やしてるから美味しいわよ」

 ごく、ごく……

 「う、苦い

 「え? 苦い?」

 「まさか?」

 と、その時、突然シンジが苦しみ出す。

 ううっ!? う……ぐ……ぅ……」

 「ど、どうしたの碇くん!?


 <つづく>


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