新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十五部 Fパート


 「何か心当たりがあるのかね?」

 「はい、あくまで推測の域を出ませんが……」

 「構わん、話したまえ」

 「はい、そのシミュレーションの前日、シンジ君達三人を同じ部屋で
 寝かせたのが影響しているのではないかと思われます」

 「同じ部屋で寝かせた? それはまたどうしてかね?」 (冬月)

 「レイが悪夢を見たらしく、夜中に酷くうなされていたんです。そして目を覚ました
 後もかなり取り乱していて、シンジ君とアスカがレイを落ち着かせました。それで、
 レイを安心させるためにも、三人を同じ部屋で寝かせる事にしました」

 『まったく、誰のせいでレイがあんなに苦しんだと思ってるのよ、このオヤジ
 は……』

 『そうか、あの日の事か……』

 当然、盗聴していたゲンドウは全てを知っている。

 「もちろん、私が保護者として同じ部屋にいましたから、何も間違いは起きて
 いません」

 「そうか、別に保護しなくてもいいのだがな」

 「は? 何かおっしゃいましたか?」

 『まったく何考えてんだか、このオヤジ……』

 「いや、何でもない

 『冬月、そう睨むな』

 「しかし葛城君、それがどうして今回の結果に繋がったと思うのかね?」

 「はい。以前アスカがシンジ君との連携プレーがうまくいかないので、シンジ君との
 コンビネーションを確立するため、特訓した事がありました。その時も二人を同じ
 部屋で寝かせた事があったんです。もちろん私も同じ部屋にいましたが。
 (ミサトは知らないが、あの特訓中、シンジとアスカは二人だけで同じ部屋で寝た
 事もある)
 結果的に連携プレーにより使徒を倒す事に成功しました。ですから今回も三人同じ
 部屋に寝かせたのがいい影響を与えているのではないかと推測されます」

 「なるほど、確かに考えられなくもないな」

 「ですが…… 一つ、思いもよらなかった問題が発生してしまいました」

 「問題? やはり三人の間に何かあったのかね!?

 ぐいと身を乗り出すゲンドウ。

 「碇!!」

 「い、いえ。司令の希望に沿うような事は何もありませんが……」

 『そうとも言えないけど……』

 「……そうか……では問題とは何かね?」

 「はぁ……その……」

 「はっきり言いたまえ」

 「は、はい。実は……レイがシンジ君と一緒の部屋で寝たのが余程嬉しかったのか、
 シンジ君の部屋に夜這い……あ、いえ、寝ぼけてシンジ君のベッドに潜り込む、と
 いう事件がありまして……」

 『ふっ……レイ、良くやった』

 「とりあえず何の被害(どっちの?)もありませんでしたし、既に対策もたてて
 ますので、今後はこのような事は無いと思われます」

 『余計な事を……』

 「対策とはどういったものかね?」

 「はい、エントリープラグ内のテストとは別に、身体を鍛えるメニューを付け加え
 ました。これによって疲労度が増したレイは熟睡、寝ぼけてシンジ君の部屋に向かう
 事はなくなりました。また、身体を鍛える事により、シンクロ率の上昇も確認されて
 おります」

 『もっとも、二人が結構過激な水着をシンちゃんに見せつけているから、シンちゃん
 が眠れなくてシンクロ率を少し落としてるみたいだけど……』

 「……だが、レイに体力が付いてくれば再びシンジ君の部屋に向かうのではない
 かね?」

 「それが最大の問題点です。早急に次の手を考えなくてはなりません」

 「次の手か……」

 「その必要は無い」

 「は? と言いますと?」

 「レイの望みはシンジと同じ部屋で眠る事にある。ならば、その望みを叶えて
 やればいい。それだけの事だ」

 「碇、何を考えている!? 彼らはまだ中学生だぞ!」

 「もちろん、アスカや葛城君も同室で寝る事になる

 「は?」

 「シンクロ率、シミュレーションの結果が大幅に上昇するのだ。一回限りで止め
 なくても良かろう。毎日とは言わんが、定期的に行なえばいい。それがネルフの
 ためだからな。冬月、文句は無かろう?」

 『本当は毎日そうさせたいのだがな……』

 「……何か企んでなかろうな、碇?」

 「何を言う冬月、ネルフのためだと言っておる」

 「…………良かろう」

 『使徒はもう来ない事を一番良く知っているのはお前なのだがな……』

 「だが、いくら命令とはいえ、プライバシーに関わる事だ。彼らが拒否するようなら
 彼らの意志を尊重する。それでいいな、碇?」

 「問題ない」

 『ふっ……シンジも男、拒否はするまい。レイも問題ない。アスカも色々と理由を
 付けて従うだろう。シンジ、期待しているぞ』 ニヤリ

 「それと葛城君、君が迷惑と言うのなら三人だけにしても構わんぞ」

 「碇! そういう事を言うなとあれほど言っておいたのに! ……まったく
 お前という男は少しも成長せんな……。そういう事なら俺は認めんぞ」

 「ご安心を冬月副司令、保護者としてそんな無責任な事はできません。必ず私も
 同じ部屋におります

 『ちっ!』

 「そうかね、そうしてくれたまえ」

 「とりあえず週に一度くらい実施してみようと思いますが、よろしいですか?」

 「ああ、そうしたまえ。ご苦労だった、下がりたまえ」

 「はい、失礼します」

 ミサトとリツコは敬礼し、部屋を後にする。


 「……同じ部屋で寝かせろ、か……。どうするのミサト? この前、レイの夢遊病
 対策として私達が同じ提案した時、アスカは拒否したでしょ。今度も嫌がるんじゃ
 ないの?」

 「う~ん……多分大丈夫よ、アスカだって口ではあぁ言ってたけど本心から嫌って
 事はないんだろうし。今度は碇司令からの正式な命令という言い訳ができるし。
 何よりレイが賛成するだろうから、アスカだってOKするわよ」

 「そうね、副司令の言うように、レイに体力が付いてくればまたシンジ君のベッドに
 潜り込むかも知れないんだから、その対策と言えばアスカも納得するわねきっと。
 でも、シンジ君、ますます寝られなくなるわね」

 「ま、そのうち慣れるんじゃないの? ひょっとしたら将来ずっとそうなるかも
 知れないし、今のうちから慣れといた方がいいでしょ」 ニヤリ

 「将来ね……。ほんと、どうなるのかしらね。想像もつかないわね……。
 それはそうとミサト、今の笑い方、碇司令そっくりよ」

 「げ……。気を付けるわ」

 「……ところでリツコ、確か司令っていまだに『両方とも』に賭けてたわよね?」

 「ええ。ま、司令だけじゃなく他の人も続々賭け替えてるから、殆ど賭けの意味は
 無くなってきたけどね」

 「それじゃあ、賭けの事抜きでシンジ君をレイとアスカ両方とくっつけようとしてる
 ってわけ?」

 「そうなるわね。私達も賭け替えた方が賢明かしらね」

 「そうね、今の三人を見てるとそれが一番可能性高いわね」

 「碇司令も色々悪巧みするだろうしね」

 「でも、まだ中学生なんだし結論を出すのは早すぎるわよ。ま、冬月副司令が目を
 光らせてるからそんなに無茶な事はしてこないだろうけどね。何たって、碇司令の
 外付けの良心と呼ばれてるくらいだから」

 「無茶といえばミサト、同じ部屋で寝るからって、シンジ君に手出しちゃ駄目
 

 「何よそれ、私はそんな趣味持ってないって何度も言ってるでしょ!

 「あら、でも『超大穴』の配当って今ものすごく高いのよ。ミサトにその気があれば
 一財産作れるほどにね」

 「……ちなみにどれ位?」

 「一口千円以上で始まって、ネルフ職員のほぼ全員が参加してるでしょ。ギャンブル
 好きな人はかなりの額賭けてるし、それに、マギを使って運用してるから、元金の
 数十倍にはなってるわね。はっきり言ってシャレにならない程大きな金額になってる
 わよ。そこにきて、超大穴に賭けてる人ってほんの数人しかいないから、もし
 そうなると……一人あたま数百万、ひょっとしたら一千万に乗るかもね」

 「げ、そんなに高いの……。しっかし、超大穴に賭けてるやつがいるって事が
 腹立つわね。一体私をどういう目で見てるのよまったく……」

 「ふふ、ぼやかないぼやかない。単に賭け率の問題で賭けてると思えばいいじゃ
 ないの」

 「しっかし……一千万か……あの車も買える……惹かれるわね……
 う~ん……

 「ミサト、シンジ君に手を出す時は前もって言ってよ。私も賭け直しておくから」

 「冗談に決まってるでしょ。それより、リツコこそ怪しいクスリでシンジ君を
 たぶらかしたりしないでよ」

 「……あのね、私はシンジ君にはそんな事してないわよ」

 「シンジ君に って事はあんた、他の男に何かしてるわけ?

 「さーて、データの整理が残ってたわね。あ~忙しいわ」

 「あんた、そんな事ばっかりしてるからロクな噂が絶たないのよ。ちょっとリツコ、
 聞いてんの?」

 「さー仕事仕事」

 『……うっかり口を滑らせてしまったわね。まいいわ、後でミサトを眠らせて
 記憶を少しいじれば問題無いわね』

 相変わらずマッドなリツコだった。しかし、人の記憶なんてそんなに簡単に
 消せるのか? ひょっとすると、ネコ好きだから某ネコ型ロボットと知り合い
 なのかも……。


 ……という訳で、三人は定期的に同じ部屋で眠る事となった。


 <つづく>


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