新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十五部 Eパート


 「甘い!! シンジは甘すぎるのよ!! あんな目に遭って、何で
 平気でいられるのよ!!」

 「だ、だって、実際ケガしてないし……こんなに謝ってるし……あまりケンカとか
 好きじゃないし……もうしないって言ってくれてるし……」

 「私は碇くんが許すのなら何も言わない。でも、二度としないで

 そう言ってレイは久し振りに見せる氷の眼差しで部員達を睨む。かなり怒って
 いるようだった。

 その眼差しを受け、背筋が凍る者が続出し、改めてレイだけは怒らせないようにと
 心に誓ったという……。

 「……まったく二人とも甘いんだから」

 『シンジもシンジよ。”自分のだから手を出すな”とくらい言ってくれればいい
 のに……』

 「そうか、許してくれるか。ありがとう碇君。ところで、写真の事抜きで二人に
 入部の事を頼んでくれないか? さっきの運動能力、マネージャーにしておくのは
 あまりに惜しい。決して隠し撮りなどさせないから」

 い、や! (アスカ)

 「私は碇くんを守るの。ずっと側にいるの。だから今のままでいいの」

 「さっきみたいな事がないように見張らないといけないし、入部する気はないわ。
 それに、何だかんだ言ったって写真撮る気だろうし」

 「い、いや、ほんとに写真は……」

 「とにかく、いや!!

 「……そ、そうか……まぁ確かに我々がやりすぎたからな……。仕方ない、諦める
 事にしよう……。あ、そうだ、忘れる所だった。碇君、今回のお詫びとして、第三
 新東京市に新しくできた総合レジャーランド ”ネリマワールド”一日フリー
 パスポートを三枚受け取ってくれ。もちろん食事の費用も全て我々が持つ。
 遠慮なく使ってくれ」

 (ちなみに、”ルフにゾートはかせろ”の略でネリマです)

 「え? で、でも、そこまでしてくれなくても……」

 「いや、気にしないでくれ。せめてもの罪滅ぼしだ。ただ、領収書だけは貰う
 けどな」

 「へー、結構気が利くじゃない。シンジ、いいじゃない。くれるって言ってんだから
 もらっときゃいいのよ」

 「そんなもんなのかな?」

 「そんなもんよ。この際だから普段食べれないような高級料理を楽しむ事にしま
 しょう。なんたって、全部奢りなんだから。レイだって肉以外は大丈夫だし、三人で
 ぱぁーっとやればいいのよ」

 「お、お手柔らかに。おい、お前達、割り勘だぞ、いいな」

 「は、はい」

 「仕方ないですね」

 「…………はぁ」

 『くぅ~~~何でシンジのデートに我々が金出してやらなゃならんのだ……。
 とほほほほ……』

 部員達は心の中で血の涙を流していた。そして、

 「いいかシンジ、アトラクションや食事は全部我々が払おう。だが、一つだけ
 言っておく事がある。耳の穴かっぽじって良~く聞け!
 間違っても宿泊設備使うんじゃねーぞ! いいな!?

 「な、な、何だよそれ?

 「あ、あんたらバカ!? 何考えてんのよ!?」

 「 この街にある遊園地に行くんでしょ。なぜ泊まるの? 遅くなっても
 家に帰れるのに……どうして?」

 「う。レ、レイは知らなくていいの。ちなみに、シンジに聞いても無駄よ」

 「そうなの……。じゃあ後でミサトさんに聞いてみる」

 「だ、駄目よ! 100%間違った事教えるに決まってるじゃないの!
 いい加減に気が付きなさいよ。今までミサトがまともな事言った事ないでしょ。
 そのうち分かる時も来るから、今は気にする事ないの。いい? とにかく、ミサトに
 余計な事聞いちゃだめよ。分かった?」

 「? ? う、うん。良く分からないけど分かった」

 「そう、ならいいのよ」 ふ~

 『もっとも、ミサトが100%正解を教えてもそれはそれで困るんだけど……。特に
 今回はそっちの方がまずい事になるしね』


 「さてとシンジ、話もまとまった事だし、帰るわよ」

 「え? でも部活まだ終わってないし……」

 「何言ってんのよ。さっきのショックでまだ筋肉が固まったままでしょ。こんな時に
 練習なんかしたらかえって身体に良くないに決まってるじゃないの。こういう判断は
 マネージャーである私たちに任せればいいのよ。いいですよね、部長」

 「ま、確かに一理ある。碇君、今日はゆっくり休んでくれ。ほんとに済まなかった
 な」

 「はい、それじゃお先に失礼します」

 「さ、帰るわよ、二人とも」

 『このどさくさに紛れてさっさと帰った方が得ね。他の女子も離れているし。今が
 チャンスね』

 「碇くん、帰ろ。私も早く碇くんの膝枕してあげたいから、ね

 え、えーと……その……

 そう言ってレイは少し赤くなりながらシンジの手を取る。もちろんシンジはもっと
 赤い。

 「ちょっとレイ、どうしてわざわざこのタイミングでそういう事言うわけ?」

 「え? だって次、私の番でしょ」

 「そ、そりゃそうだけど、もうちょっと周りの状況考えなさいよ

 「 ……そうだ碇くん、耳そうじもしてあげるね

 「ええっ!? あ、あの……い、いいの、綾波?」

 「うん」 にっこり

 「こらこらこら! レイ、何勝手に話進めてんのよ。そこまで許可してない
 でしょ」

 「でもアスカ、碇くんを介抱するために膝枕したんでしょ?」

 「そ、そうよ。それがどうしたのよ。何でレイがシンジの耳そうじするって事に
 繋がるのよ?」

 「だって、アスカの介抱で碇くんは動けるようになったから、もう介抱する必要は
 ないでしょ。だから私は碇くんの耳そうじをしてあげる事にしたの。何も問題は
 ないわ」

 「も、問題ないって言ったって……。あ、こら! 何先に帰ってんのよ! ちょっと
 待ちなさいよ!」

 アスカは慌てて二人に追いつく。

 『ね、レイ。どっちかの耳譲って』 ひそひそ

 『ダメ。アスカはさっき膝枕したでしょ。一回は一回よ』 ひそひそ

 『そんな事言わないでさ、ね』

 『次の時にするといいわ。今日は私が耳そうじしてあげるの。そう決めたの。とても
 楽しみ』

 「ほ~ そういう事言うわけ……。シンジ、帰るわよ!

 「え?」

 アスカはそう言うと、シンジの手を取り、走り出した。

 「ちょ、ちょっとアスカ! な、何?」

 「ふっ、知れた事。先に帰った方が権利を獲得するのよ

 「あー! アスカずるい!」

 レイもシンジの手を離さず同じように走り出した。

 「む。やるわね、レイ」

 「私だって毎日ネルフ本部で走ったり泳いだりしてるんだから」

 二人は競うようにスピードを上げる。当然、両手を掴まれているシンジも走らざるを
 得なくなったため、三人手を繋いで全力疾走という妙な状況ができあがってしまった
 のだが、シンジにとっても、殺意のこもった視線から逃げるのはちょうどいいので、
 そのまま校庭から逃げ出す事にしたようだった。

 『そりゃあ、膝枕してくれたり、耳そうじしてくれるのは嬉しいけど……とても
 嬉しいけど、明日からまた一杯敵ができるんだろうな……とほほほほ……』

 (諦めるんだシンジ、校内、いや世界一の幸せ者にはそれ位の試練があるのは当然
 だ。嫉妬は男の勲章だ)


 一方その頃、ネルフ本部では、ミサトとリツコがゲンドウに呼び出されていた。

 ゲンドウはいつものようにポーズを取り、冬月もいつものようにその横に立って
 いる。

 「二人に来てもらったのは他でもない。先日のシミュレーションの結果に付いて
 なのだが……報告書によると随分といい成果を残しているようだな。これまでで
 最もいい結果だ

 「はい、ありがとうございます」

 「だが、一つ分からん事がある

 「何でしょうか、碇司令?」

 「うむ、シンクロ率はいつものように高い数値で維持している。それはいい。だが、
 普段とさほどシンクロ率に差がなかったにもかかわらず、シミュレーションの結果は
 これまでで最高を記録した。なぜかね?」

 「はい、恐らく三人の信頼関係の現われではないかと思われます」

 「信頼関係?」

 「はい、これまでの戦いにおいて……私の指導不足でもあるのですが……命令無視、
 独断先行と言いますか、手柄を焦り、とどめは自分で刺そうとしているような事が
 多々ありました。そのため、エヴァ三体の力は1+1+1=3……ひょっとすると、
 お互いに足を引っ張り、3出ていなかったかも知れません。ですが、信頼関係が
 でき始めてからは、攻撃、防御、陽動といった役割を臨機応変に演じ分けられる
 ようになりました。そして、防御を信頼できる仲間に任せる事により、攻撃に専念
 ため、エヴァ三体の力の合計が4にも5にもなり、これまで以上の戦力を記録する
 ようになったと思われます」

 「ふむ……確かにデータを見る限り、シンクロ率、シミュレーションの結果などの
 上昇は、三人とも葛城君の家で暮らすようになってからだが……。しかし、今回の
 結果は特異すぎる。何か特別な指示でも出したのかね?」

 「いえ……特には……あ、リツコ、ひょっとして……

 「私も今それを考えてた所なのよ。確かあのシミュレーションの前日って……」

 「何か心当たりがあるのかね?」

 「はい、あくまで推測の域を出ませんが……」

 「構わん、話したまえ」

 「はい……」


 <つづく>


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