新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十五部 Dパート


 「お、おいお前達やりすぎだ。当たったらどうするんだ?」

 「大丈夫ですよ部長、この話では絶対に死人は出ませんから」 (きっぱり)

 「しかしな、こんなとこあの二人に見られてみろ。どうなるか分からんぞ」

 「その点も大丈夫ですよ。ちゃんと女子の部長と話が付いてますから、今頃部室の
 中で話してるはず。こっちで何が起きてるかなんて分かりませんよ」

 とその時、部員達の横を何かが通り過ぎた。

 そしてその後……。

 碇くん!!

 シンジ!!

 という声とともに、ソニックブームがやってきた。

 どわぁ~~~~~~っ!!

 部員達は全員吹き飛ばされてしまった

 「碇くん!! しっかりして碇くん!! 早く病院に行かなきゃ!」

 「シンジ!! 生きてる!? どこもケガしてない!? 何とか
 言いなさいよ!」

 「あ……ああ……大丈夫……。ど……どこも……ケガして……ない……と思う……」

 シンジは引きつりながらも何とかそう答える。シンジの無事を確認し、ようやく安心
 したのか、二人ともその場に座り込んだ。そして……

 「許さない……碇くんにこんな酷い事をするなんて……
 絶対に許さない!

 レイはそう言って立ち上がると、周りに刺さっている槍を引き抜き、飛んで来た
 方向に向かって次々と投げ返し始めた。


 「……痛てててて……何だったんだ、今の?」

 「突風か?」

 「ん? あの二人、いつの間にシンジのところに行ったんだ?」

 「……ひょっとして今の……ソニックブームってやつ?」

 「生身で音速を超えたのか?」

 「ま、まさか……ね……。ん? お、おい! 槍投げ返してきてるぞ!
 逃げなきゃ!

 「大丈夫だろ、俺の新記録なんだぜ。他のやつに抜かれるわけないじゃないか」

 ひゅるるるるるるるる……  ぐさっ

 どわっ!? こ、ここまで届いてる!! 何で!?」

 「こ、これが愛の力というやつか……」

 「俺の新記録が~~~!」

 「なんてこったー!」

 「う~~~ん……生身で音速を超え、ここまで槍を飛ばすとは……。ぜひとも入部
 してもらいたいものだ」

 「部長、そんな事言ってないで、逃げなきゃ死にますよ」

 ひゅるるるるる…… ぐさっ ぐさっ ぐさっ

 「うわーーーっ!!」

 部長を始め、他の部員達も、クモの子を散らすように命からがら逃げていった。

 一方、槍を投げ終え、肩で息をしているレイをシンジは唖然として見ていた。また、
 あえてレイを止めようとしなかったアスカは、レイはシンジの事で怒ると、とても
 怖いという事を再認識していた。なお、この光景を見ていた他の女子もアスカと
 同じ認識をもったようだった。

 「と、ところでシンジ、立てる?」

 「う、うん。あれ? た、立てない、何で?」

 「碇くん、大丈夫? やっぱりどこかケガしてるんじゃないの?」

 「いや、どこも痛くはないんだけど……」

 「ま、あれだけの目に遭えば腰も抜けるわよ。しばらくゆっくり横になってれば
 そのうち治るわよ」

 「う、うん。そうするよ」

 シンジは一息つくと、その場に横になった。

 (芝生の上だと思って下さい)

 「……そうだ。シンジ、ちょっと目を閉じて

 「え? 何で?」

 「いいから閉じるの!」

 「う、うん」 ぱち

 ひょい

 「え?」

 アスカは横になり、目を閉じたシンジの頭を自分の膝の上に乗せた。いわゆる
 膝枕というやつである。

 「ちょ、ア、アスカ?

 慌てて起きようとするとシンジの顔をアスカは手で押さえつける。

 いいからおとなしくしてなさい

 シンジの顔を手で押さえたのは、赤くなっている自分の顔を見られたくないのと、
 シンジに逃げられたくないという思いからの行動のようだった。

 「あーアスカずるい! 私がしようと思ってたのに!」

 『やっぱりそう思ってたか……先手を取って良かった。……結構恥ずかしい
 けど……』

 「何言ってんのよ。レイは陸上部のバカどもを追っ払うという大切な仕事がある
 じゃないの。まだ武器(砲丸、円盤)だってたくさんあるし」

 「私は槍以外はうまく投げられないと思うから、後はアスカがやって。碇くんは
 私が介抱するから。ね、アスカ、代わって

 「だーめ」

 「え~~~」

 「え~じゃないの。いいじゃない別に」

 『たまには私だってこれくらい……』

 「…………アスカ、碇くんを独り占めしちゃ駄目って、そう言ってた」

 「うっ」

 「そう言ってた」

 「うう……」

 「…………」 じい~~~~~~

 「わ、分かったわよ! 後で代わってあげるから、そう睨まないでよ」

 「うん!」 にこっ

 『……僕の意志って……いつも……まぁ、嬉しいけど……。でも照れるんだけど
 な……』

 「じゃあ私、その次」

 「あ、ずるい。次私よ」

 「抜け駆けはだめよ。順番よ」

 「ちょっとあんた達! 何バカな事言ってんのよ! その権利がある
 のは私とレイだけなんだから並んでんじゃないわよ!! とっとと
 散りなさい!!」

 そう言って、シンジを取られないように再び顔を押さえつける。

 「何よ! 横暴よ!」

 「そうよそうよ! 一緒に住んでるからって、そんな権利認めない
 わよ!」

 「駄目だって言うんなら、今の姿を写真に撮るわよ!」

 「な、何よそれ?」

 「”嫌がる碇君を無理やり手込めにしようとする横暴女アスカ”
 という題を付けて学校中にバラまくわよ。それでもいいわけ?」

 「な、な、な!?」

 「さぁどうするのアスカ、代わるの? 代わらないの?」

 「ぐ……。ちょっとレイ、あんたも黙ってないで何とか言いなさいよ」

 「アスカ、早く代わって

 「んな……。あのねレイ、あんたどっちの味方なわけ?」

 「私は碇くんの味方よ」

 「はぁ?」

 「それよりアスカ、碇くんが痛がってる。早く手をどけて」

 「え? あ、ご、ごめん。大丈夫、シンジ?」

 「ちょっと痛い……」

 アスカの手形でシンジの顔は赤くなっていた。もっとも、照れて赤くなっているのも
 入っているだろうが……。

 と、そこに陸上部のメンバーが集まってくる。シンジは慌てて飛び起き、レイと
 アスカは臨戦態勢をとる。レイが怒ると怖いのを知った女子達は、巻き込まれない
 ように一定の距離をとる。

 「何よあんた達、まだやる気?」

 「碇くんは私が守る。傷一つ付けさせない」

 「あ、あの……部長、もう止めて下さい。お願いします」

 「碇君、済まなかった。どうか許してくれ

 「え?」

 「俺としては、綾波君と惣流君の二人に入部してくれるよう頼むだけのつもり
 だったんだが、どうも他の者達がキレてしまったようで……。本当に済まない。
 ほら、お前達もちゃんと謝るんだ」

 部長にそう言われ、全員、不本意だがシンジに謝った。もっとも、レイとアスカに
 嫌われたくないという思いもかなりあるようだが。

 「若さ故の過ちというやつだ。何とか許してもらえないだろうか?」

 「何ふざけた事言ってんのよ! シンジは死にかけたのよ!
 分かってんの!?」

 「分かってる。実際どれほど怖い思いをするのか、さっきの(レイが投げたやつ)
 で身に染みた。二度とあんな事はさせないから。頼む、許してくれ、この通りだ」

 「は、はぁ……そこまで言うのなら……」

 「甘い!! シンジは甘すぎるのよ!! あんな目に遭って、何で
 平気でいられるのよ!!」

 アスカの怒りはまだまだ……


 <つづく>


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