新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十五部 Cパート


 翌日からの学校内は大騒ぎとなった。

 後に炎の七日間と呼ばれるようになるほど生徒のテンションは上がり、校内
 至る所で撮影会が行なわれていた。

 あまりの過熱ぶりに中止も検討されたのだが、『生徒の自主性に任せましょう』と
 言う校長の一言で、大会の続行が決定された。なお、この校長の決定に対し、
 本部が地下にある某組織のトップが圧力をかけた事は殆ど知られて
 いない事実であったが、そんな事は生徒には全く関係の無い事だった。

 ともかく、全校生徒総ケンスケ状態はますます加熱していった。


 「ねぇシンジ、こ~んなポーズなんてどうかな?」

 そう言って、アスカはセクシーポーズをとる。

 おおおおおおっ!!!×無数

 カシャカシャカシャカシャッ! (カメラの音)

 「ほらレイ、あんたもつっ立ってないで、ポーズくらいとりなさいよ」

 「え……こ、こう?

 そう言って、レイもアスカの真似をする。

 おおおおおおっ!!!×無数

 カシャカシャカシャカシャッ!

 「碇くん、私良く分からないけど、こうでいいのかな?」

 「え~と……学校紹介のパンフレットに使うんだから、そういうのはまずいんじゃ
 ないかと思うんだけど……」

 「シンジ! 余計な事を言うな!!」

 「せっかくポーズとってくれてるんだぞ!」

 「撮りたくないのなら引っ込んでろ!」

 「学校に出すわけないだろうが!」

 「個人の宝物に決まってるじゃないか!!」

 「……お前ら、本音建前くらい使い分けた方がいいぞ」 (ケンスケ)

 「……あんた達、撮影禁止

 「えええっっっ!?」

 「ええっじゃないわよ! いい、私たちはシンジのモデルやってんのよ。
 あんた達はついでに撮らせてやってるの。そこんとこ忘れるんじゃないわよ」

 「は、はい。すいません」

 「私たちが悪うございました」

 「何とぞお許しを」

 「アスカ、そんなにきつく言わなくても……みんな謝ってるし……」

 「まったくシンジは甘いんだから……しようがないわね、おとなしくしてるんなら
 特別に撮影を許可してあげるわ。シンジに感謝しなさいよ」

 『……もうちょっと独占欲持ってくれると嬉しいんだけどな……。誰のために
 ポーズとってると思ってんのよ……。ま、シンジらしいといえばシンジらしい
 けど……』

 他の男子がいるのが気に入らないようだったが、シンジに撮影してもらっているのが
 余程嬉しいのか、アスカは結構機嫌が良かった。もちろんレイもだが。

 「碇くん、私、どうすればいいの?」

 「普通にしてくれればそれでいいんだけど」

 「そう、分かったわ。普通ね」

 「だけどシンジ、普通と言ってもそれなりのポーズも必要だぞ。ただつっ立ってる
 だけじゃいい写真にならないからな。ま、ここは僕に任せてくれ。悪いようには
 しないから」

 「ほんと~に?」

 アスカは思いっきり疑いの目を向ける。

 「もちろん、嫌なら断ってくれて構わないさ。ただ、僕はいい写真を撮りたいだけ
 で、別にやましい事を考えてるわけじゃないって事は分かって欲しいな」

 「どうせ後で売る気なんでしょ」

 「これだけみんなが撮ってるんだ。売れないよ」

 「それもそうか……。ま、いいわ。その代わりちゃんとシンジに指導するのよ」

 「ああ、分かってるって」

 こうして、ケンスケの指示のもと、撮影は順調に進んでいった。

 ただ、シンジがモデルになる時にアスカと他の女子生徒の間でトラブルがあったの
 だが、さすがに数が多いし、大会中という状況下では何を言っても無駄だと悟った
 のか、余程の事が無い限り無視する事に決めたようである。

 『フン、シンジのカメラ目線は私のカメラのみを見てんだから、他のヤツの写真は
 目線のずれた二流作品にしかならないわ。そんなもん、いくら撮られたってどうって
 事ないわ。……それにしても、レイってやっぱり手繋いだわね……。う~ん、
 嬉しそうにしちゃって……。ま、仕方ない、レイがした以上、私もするか。それが
 公平ってもんよね。あくまで対等の写真にするために手を繋ぐだけだし……。
 ただそれだけなんだから問題無いわよね。他の女どもがうるさいだろうけど、ま、
 いいか』

 『碇くんが私を見てくれてる。微笑みかけてくれてる。嬉しい……。いい写真になる
 といいな。アスカも嬉しそうにしてる。そうだ、カメラのタイマー使って、後で三人
 で写真に写ろう。うん、そうしよう』

 レイとアスカは交互に写真を撮りながら、結構嬉しそうにしていた。ちなみに、
 それ以外の女子が撮るシンジの写真の殆どがフレームの端に写っているのは
 言うまでもなかった。つまり、シンジの横にいるレイやアスカを写していないという
 事である。


 そんな慌ただしい日が二日ほど過ぎた頃、シンジは久しぶりに部活に出席していた。
 ここ最近、新しい実験があったため、なかなか部活に出席できなかったのだが、
 シンジは根が真面目なため、時間が取れそうな時は少しでも部活に出席する事に
 していた。

 ただ、アスカとしては、あまり学校では走ってもらいたくないようだった。
 なぜなら、さすがにシンジと一緒に走るわけにもいかないので、シンジ一人が
 フレームの真ん中に写っている写真を他の女子に撮影されてしまうからだった。
 それ故、シンジが走り終わるといつもより早くシンジの元に行き、他の女子のカメラ
 の牽制をしていた。もっとも、レイはそんな事を気にもせず、いつも通りシンジの
 そばにいるのだが。

 「おーいシンジ、話があるからちょっと来てくれ」

 「あ、はい。分かりました」

 部長に呼ばれ、シンジは他の陸上部員が集まっている場所までやってくる。レイと
 アスカもついていこうとしたのだが、女子の部長に呼ばれたので仕方なくそっちに
 行く事になった。

 『ま、他の男子もいっぱい集まってるし、シンジ一人の写真を撮られる事はないか。
 それにしても、私たちに話って一体何かしら?』

 「何ですか部長? みんな集まってるみたいですけど?」

 「ああ、実は、碇君に頼みたい事があるんだ」

 「僕に? 何ですか?」

 「女子の部長とも話し合ったんだが、綾波君と惣流君の二人をマネージャーとして
 ではなく、正式に女子の部員として入部してもらえないかという事になったんだ」

 「二人にですか?」

 「ああ、二人ともかなり運動神経が良さそうだし、体育の授業でも相当いい記録を
 出してると聞いている。だから、女子の部長からぜひ欲しいと言ってきたんだよ」

 「はぁ、それで僕に頼みというのは何でしょうか?」

 「二人に、入部するように頼んでもらいたいんだ」

 「え? でも、何で女子の部長がそう言わないんですか?」

 「何言ってるんだシンジ、あの二人はわざわざお前の専属マネージャーとして入部
 してきてるんだぞ」

 「それが、選手として入部しろって言って、素直に聞くと思うか?」

 「だから、お前から頼んでくれって言ってるんじゃないか」

 「お前の頼みならあの二人だって聞くだろうし」

 「あの二人が入部すれば女子部の戦力が上がる。という事は、我が中学の陸上部の
 戦力が上がるという事だ」

 「お前だって部の一員として喜ばしい事だろ」

 「だからあの二人を説得してくれ、いいな」

 部長を押し退け、他の部員達が真剣な表情でシンジに詰め寄った。

 「……何か……企んでませんか?

 「な、な、何を言ってるんだ。さっきも言った通り、俺達は陸上部全体の事を
 考えてだな……」

 「そうそう、別に、お前に独り占めさせたくないとか考えてるわけじゃ
 ないぞ」

 「決して、あの二人の運動着姿が見たいってわけじゃない」

 「フ、フトモモ、揺れるムネ、流れる汗、それが見たいってわけじゃない。
 本当だ」

 「授業中はさすがに撮れないから、部活中にそういう写真が撮りたい
 ってわけじゃない」

 「……本音の方しゃべってますよ……」

 「し、しまった! つい……」

 「い、いかん。建前の方を喋ってるつもりだったのに、つい本音が……」

 「シンジ、いいじゃないか。お前、家でずっと一緒なんだろ。写真くらい俺達にも
 撮らせてくれよ」

 「それに、女子の部長から頼まれてるのは本当なんだし」

 「しかも、撮影大会中に入部してくれたら、他の部の部長から部の予算の一部を
 我が陸上部に回してくれるという裏取引もできてるんだ」

 「な、な、シンジ、今日好きな物おごってやるから、あの二人に入部するように
 頼んでくれよ。な、いいだろ?」

 「……し、失礼しまーす!

 「あ、逃げやがった

 「やっぱり独り占めする気だな」

 「クッ! 短距離ではヤツに勝てん!」

 「ふっ、大丈夫だ。こんな事もあろうかと思って用意しておいたんだ。
 槍隊! 円盤隊! 砲丸隊! 撃てーーーっ!!」

 「はいっ!!」×多数

 撃ての命令のもと、槍、円盤、砲丸が一斉にシンジに向かって放たれた。

 ※ 絶対に真似しないで下さい

 ひゅるるるるるるるる……

 「ん? うわぁぁぁーーーっっっ!!

 ドス! ガク! ザク! ドム! グフ! ゲルググ……

 (注)地面に刺さったり落ちたりした音。決してシンジに刺さったわけじゃ
 ありません。

 「よーし、新記録だ」

 「俺もだ」

 「やっぱり目標物があると違うなー

 「まったくだ」

 「お、お前達やりすぎだ

 「大丈夫ですよ部長」

 「しかしな、こんなとこあの二人に見られてみろ、どうなるか分からんぞ」

 「大丈夫ですよ部長。ちゃんと女子の部長と話がついてますから。
 今頃、部室の中で……

 とその時だった。

 碇くん!!

 シンジ!!

 という声とともにソニックブームがやってきた。

 どわーーーっ!!

 部員達は全員吹き飛ばされてしまった……。


 <つづく>


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