新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十四部 Cパート


 「あらシンジ君、レイ、滑らないの?」

 「ちょ、ちょっとリツコ! あんた何で下から上に滑り上がって
 くるのよ!?」

 「そうよ、いくら非常識だからって、重力にくらい従いなさいよ」

 「ふふふ、びっくりしたようね。これは私が開発した、超小型ジェットエンジン
 付きスキーよ。このくらいの斜面なら何の問題もなく滑り上がる事ができるわ。
 まさにリフト知らずの、夢のようなスキーよ」

 「……相変わらずヒマな事やってるわね。年中夏の日本でいつ使うつもりだった
 のよ?」

 「室内スキー場だってあるじゃない。あ、分かった。ミサト、羨ましいんでしょ、
 私のこの板が」

 「はぁ? 何でそうなるのよ?」

 「大丈夫よミサト、ちゃんとミサトの板にも付けておいてあげたから」

 「え?」


 ぽちっとな


 きゃあああああああああああああ……」


 ミサトは猛スピードで滑り上がっていった。

 「あら、ミサトったらよっぽど嬉しかったのね。あんなにきゃあきゃあ言って喜ん
 でる。ああ、いい事した後って気持ちいいわね」

 「……あれ、喜んでるんだろうか?」

 「どう見ても嫌がってるわね」

 「私もそう思う」

 「あら、あなた達、何か言ったかしら? ひょっとして、あなた達も付けて欲しい
 のかしら?」

 「い、いえ、僕はスキーなんてした事ないですから……。そういう高度なのは
 ちょっと……」

 「私も滑った事ないので、難しそうなのは無理です」

 「……確かに、初心者にはちょっと難しいかも知れないわね。じゃあアスカはどう
 する? 普通に滑るのは問題ないんでしょ?」

 「スキーは上から下に滑るもんなの! そんな物使う気は無いわ」

 「そう、残念ね。楽しいのに……。あ、でもシンジ君、レイ、普通のスキーくらい
 は滑れるようにしておいてね」

 「え? どうしてですか?」

 「エヴァの装備の一つとして、寒冷地仕様でスキーさせてみようと思ってる
 から。パイロットが滑れないと困るのよ」

 「リツコ、あんたいい加減ネルフの予算を自分の趣味のために
 使うのやめなさいよ! もっと他に使うべき所がいくらでも
 あるのよ!」

 「あらミサト、もう帰ってきたの、早いわね。ところで、板はどうしたの?」

 「脱いだわよあんなもん! 今頃、無人のままどこかを走ってるわよ。
 ……とりあえずリツコ、くだらない物ばかり作らないで、ちゃんとネルフの役に
 立つ物を作りなさい。いつまでもこんな事やってたら、そのうちネルフから追い
 出されるわよ。だいたい、エヴァでスキーなんて非常識よ」

 「あら、そんな事は無いわよ。某ロボットなんて、ハンドル操作のくせに
 サーフィンをやってのけたのよ。エヴァならスキーくらい軽いもんよ」

 「と、に、か、く! やめなさい! いいわね!!

 「分かったわよ、そんなに怒らないでよ。……じゃあ、おとなしくシンジ君とレイ
 にスキーを教える事にするわ」

 「そうしなさい」

 「え? あの……やっぱり……スキー……滑れなきゃ駄目なんですか?」

 「駄目って事はないけど、せっかくだから滑れるようになった方がいいでしょ」

 「そうよ二人とも、エヴァでスキーってのは問題外としても、滑れるようになって
 損する事はないわ。それに、デートの場所が広がるわよ」

 「さ、シンジ。そうと決まったら特訓よ。レイもビシビシいくわよ」

 「う、うん……。でも、私にできるかな……」

 「ああ、その事なら大丈夫よ。誰とは言わないけど、二十ウン歳にして初めて
 スキーをやった男も、とりあえず滑れるようになったんだから。若い私たちなら
 すぐに上達するわよ。ほら二人とも、さっさと準備する!

 「分かったよアスカ。じゃあ綾波、一緒に練習しよう」

 「ええ」

 結局二人は練習する事にしたので、スキー板を履く。しかし、方向転換はおろか、
 止まり方すら知らない二人は、すぐに転んでしまう。

 「きゃあ!」

 「うわっ!」 すってんころりん

 「あ、ごめんなさい碇くん! 大丈夫?」

 「う、うん、僕は平気だけど。あ、綾波は大丈夫なの?」

 「うん、碇くんが受け止めてくれたから……」

 「レイ!! いつまでも抱きついてないで、さっさと起きなさい!
 シンジもシンジよ! 早く抜け出しなさいよ!!」

 「で、でも、板が邪魔して足がうまく動かないんだ……」

 「私も……立てない……」

 二人はスキー板が絡まって、うまく起き上がれなかった。

 「まぁ確かに、スキー板が邪魔して、一度転んだらうまく立てないのは事実
 だけど……。ねぇリツコ、なんだか、プラグスーツ姿で抱き合ってるのって、
 結構イヤらしいわね」

 「べ、別に抱き合ってるわけじゃ……」

 「そうね、材質的に体にフィットしているから、とそう変わらないかもね」

 「リ、リツコさんまでそんな事を……」

 「はだか……」 ぽっ

 「二人ともバカな事言ってないで、二人を離すの手伝いなさい!!」

 「はいはい、そう怒らなくてもちゃんと手伝うわよ」

 「シンジ君も大変ね。アスカの特訓、きっときついわよ~。でもま、いい思いした
 んだから、それくらいは仕方ないわね」


 三人がかりでようやくシンジとレイは起き上がる事ができたが、その場で転ばない
 ようにしているのが精一杯といったところだった。

 「……さぁシンジ、覚悟はいいわね?

 「ア、アスカ……なんか、怖いんだけど……」

 問答無用!! スキーなんてもんは習うより慣れろよ! その場
 で体得しなさい!」

 そう言って、アスカはシンジの背中を突き飛ばす。

 「え? ちょっ……う、うわああああぁぁぁ……!!」

 「あ、転んだ」

 「う~ん、マンガ的表現ね。雪玉になって転がっていくわ」

 「碇くん!! 今助けに……」

 つるっ

 「きゃああああぁぁぁ……!!」

 「あ、レイも雪玉になった。となると……この展開は……あ、ストライク
 やっぱり止まってるシンちゃんにぶつかったか。お約束ね」

 「ふっ! 少しは頭が冷えたでしょうよ」

 「でも、また二人とも重なり合って倒れてるわよ。アスカの行動、裏目に
 出たわね。まぁ、動かない所みると、目ぇ回してるみたいだけど」

 「まったく何やってんのよあの二人は!!」

 「シンちゃんも残念ね。意識があればいい思いできたのに……ねぇリツコ」

 「ええ、分かってるわミサト。……アスカ、私達に感謝してね

 「そうそう」

 「え? な、何の事よ?」

 「あなたも仲間になりなっさい!」×2

 そう言って、ミサトとリツコは完璧なコンビネーションでアスカを転ばせた。

 「ちょ、ちょっとなに……きゃああああぁぁぁ……!!」

 「よーし、計画通り二人の所に転がっていったわね」

 「じゃあ見に行くとしますか。でもミサト、あなた歩いて行くつもり?」

 「え? あ、そうか、私、今は板履いてないんだっけ」

 「ふっ、大丈夫よミサト、あなたに渡した板を今から呼んであげるわ」

 「ほえ?」

 「万が一に備えて、呼び戻す機能を付けておいたのよ」

 そう言ってリモコンを取り出し、スイッチを押す。

 「…………」

 「何よ、その目は?」

 「いや、リツコって、いつもどこまで先の事を考えてるんだろう? と思ってね。
 その予知能力を利用すれば、科学者より競馬かなんかの予想屋やった方が
 いいんじゃないの? 向いてるわよきっと」

 「何バカな事言ってんのよ! 自分の能力で色々やれるから科学者に
 なったのよ。何でそんなもんにならなきゃなんないのよ。私は一生 科学者よ」

 「その分、周りに与える迷惑度が増すのよね……」

 「ほらミサト、スキーが戻って来たわよ。バカな事言ってないで、さっさと履き
 なさい」
 
 「へいへい。じゃあリツコ、私は普通のスキー板として使うから、ジェットエンジン
 切りなさい」

 「……分かったわよ」 ぷち

 「それと、他に変な機能付けてないでしょうね? 自爆装置とか?」

 「………………そんな物付けてないわよ、ミサトの考えすぎよ」

 「じゃあ何で目を逸らすのよ? そのリモコン貸しなさい。私が預かっておくわ」

 ミサトは身の安全のためリモコンを奪うと、シンジ達のもとに滑っていった。

 『……ミサトって最近、勘がいいわね』

 やや残念そうに、リツコもミサトの後を追った。


 「あらあら、三人ともしっかり気絶してるわね。目が渦巻きになってるわ」

 「あぅ~~~」 ぐるぐる×3

 「でも、アスカもレイ同様、シンジ君の上に重なってるから文句は無いわねきっと。
 意識が無いのは残念だろうけど」

 「起こしてあげた方が喜ぶんじゃないの? それに、このままだとカゼひいちゃう
 かも知れないし……」

 「いいんじゃないの。三人ともアツアツだし、雪だって溶けるわよ」

 「溶けるといえば、そろそろこの雪、溶かし始めた方がいいんじゃないの?
 碇司令と副司令、昼過ぎには帰ってくる予定でしょ。こんな状態見られたらおおごと
 よ」

 「確かにそうね、私達だけが滑ってると他の職員に睨まれそうだし……。じゃあ、
 ジオフロント内の温度を少し上げてみるわ。地上の集光ミラーの角度を変えれば、
 すぐにこの程度の雪は溶けるはずよ。ミサト、さっきのリモコン返して」

 「え? これって、スキー板のリモコンじゃなかったの?」

 「ふっ……色々操作できるように作ってあるのよ」

 リツコはそう言って、得意そうにリモコンを操作する。すると、強力な太陽の光と
 熱が降り注いできた。

 「うわ~暑ぅ~! 確かにこれならすぐに溶けるわね」

 「でしょ」


 数分後


 「……でも、思ったほど溶けないわね」

 「気のせいよ」


 さらに数分後


 「気のせいなんかじゃないわよ! 全く溶けてないじゃないの!
 どういう事よ、リツコ?」

 「す、すぐに原因を調べるわよ」

 「とりあえずジオフロントの温度をもっと上げるべきね。貸しなさい!

 そう言ってミサトはリツコから、無理やりリモコンを取り上げる。

 「あ、ミサト! ダメよ変な所押したら……」


 ちゅど~~~ん!!!


 ああ、お約束……。


 <つづく>


 Dパートを読む

 [もどる]