新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十三部 Cパート


 「いかり……くぅん……」

 レイはシンジの胸にしがみ付き、激しく泣き始めた。

 「綾波、たくさん泣くといいよ。それで少しでも心が楽になれるのなら、たくさん
 泣けばいい。僕はずっとこうしているから。でも、その後で、またいつもの
 笑顔を見せて欲しい。涙はきっと、そのためにあるんだと思う
 から

 「碇くん……私、私、ここにいてもいいよね? ここにいてもいい
 よね?」

 「うん、もちろんだよ。ここにいてもいい。ここにいて欲しい」

 そう言ってシンジは優しく抱きしめる。レイはただ泣き続けていた。

 『いいな……レイのやつ……でも、よっぽどの事情があるみたいだし……。レイに
 限って演技って事はないし……今回だけは見逃すか……今回だけよ』

 やがて、シンジのパジャマがレイの涙でしっとりとしてきた頃、泣き疲れたのか、
 シンジの温もりで安心したのか、シンジの言葉に素直に従ったのか、レイは眠って
 しまった。シンジは慌ててレイを支え、ベッドに寝かせる。

 「ようやく落ち着いたみたいね」

 「うん、恐い夢を見たんだね。落ち着いてくれて良かったよ」

 「……ねぇシンジ、みんなって誰の事? 彼女たちってどういう事なの? シンジ、
 レイが何を悩んでるのか知ってるの?」

 「う、うん……ごめんアスカ、隠し事はしないって決めてるけど……。これは……
 その……簡単に話せる事じゃないんだ……ごめん……」

 「……しようがないわね、誰だって知られたくない事の一つや二つあるし……
 私だってシンジやレイに話してない事たくさんあるし……。いいわ、明日レイに
 聞いてみる。答えてくれなくてもいいけどね」

 「うん、綾波が自分でアスカに話すのならそれが一番いいと思う。でも、綾波も
 悩んでるんだって事を分かってあげて」

 「分かってるわよ。今の様子からしてただ事じゃないって事くらい分かるもの……
 でもねシンジ、私だって人並みには不幸な過去持ってんのよ。不幸な過去くらべじゃ
 そうそう負けないわよ」

 「ははは、そう言えば僕もだな……」

 「ふふ、でも、自分の過去をこんな風に話せる日が来るなんて思いもしなかった
 わね」

 「うん、そうだね」

 「きっと私たち、今、幸せなのね」

 「うん、綾波もそう思ってくれる日が来るといいね」

 「大丈夫よ。だって、私たちがいるもの。いつも三人でいればいいのよ。それが
 一番よ。……じゃあ、レイも落ち着いたみたいだし、私たちも部屋に帰って寝ま
 しょうか。こんなとこミサトに見られたら何を言われるか分かったもんじゃない
 しね」

 「別に何も言わないわよ」

 そう言っていきなりふすまが開き、ミサトが入ってくる。

 「ミ、ミサトさん!? どうして?」

 「ミサト!? いつからそこにいたのよ?」

 「夜中にこれだけ大騒ぎすればいくら私だって気付くわよ」

 「で、また覗いてたわけ? ほんっとに性格悪いんだから」

 「ミサトさん、酷いじゃないですか。綾波があんなに苦しんでるのに」

 「ごめんなさい、でも、決して興味本位で覗いてたんじゃないわよ。ここはあなた
 達に任せるのが一番だと思ったからよ」

 「僕たちに?」

 「ええ。だって、レイが一番信頼してるのはあなた達だもの。特にシンジ君が自分の
 言葉でレイに言って聞かせるのが一番いいと思ったの。レイも分かってくれたみたい
 だし」

 「でも、今回はたまたま綾波が納得してくれただけですよ。こういう事はやっぱり
 大人のミサトさんが言ってくれた方がいいと思います」

 「そうよ、そのための保護者でしょ。もっとしっかりして欲しいわね、まったく」

 「シンジ君、アスカ、こういう事は大人とか子供とかは関係無いのよ。どれだけ
 その人との絆が深いか、どれだけ真剣に考えてあげられるかなの。あなた達が
 言ってた事は正しい事よ。だからレイも分かってくれたのよ。もっと自分に自信を
 持ちなさい。あなた達は立派だったわよ

 「は、はい」

 「ま、確かにミサトよりは私たちの方がしっかりしてるものね」

 「一言多いわね。でもま、一件落着なわけだし、私達も寝ましょうか。寝不足は
 美容の大敵よ」

 「そうね、まだこんな時間だもの。早く寝なきゃ」

 「そうだね…………

 「ん? どうしたの、シンジ?」

 「いや……これ……」

 「ん?」

 シンジが指差す所をアスカとミサトが覗き込む。そこには、シンジのパジャマを
 しっかりと握り締めているレイの手があった。無理に解こうとすると
 起こしてしまいかねないので、シンジは困ってしまった。

 「あらあら、レイったら子供みたいね」

 「よっぽど不安だったのね……」

 「どうしよう……」

 「しょーがないわね。シンちゃん、朝まで付いててあげなさい

 「え? で、でも……」

 「ちょ、ちょっとミサト! 何わけのわかんない事を……」

 「だーいじょーぶよアスカ、私達も一緒よ

 「へ?」

 「だから、前にユニゾン訓練の時、私達三人で寝たでしょ。あの時と同じよ。
 今度は四人で寝るだけ。それならいいでしょ?」

 「ま、まぁ、そういう事なら……」

 「よし、決まりね。アスカ、自分の布団持って来なさい。シンちゃんの布団は私が
 持ってきてあげるわ」

 「すいません、ミサトさん」

 「ふふ、で~~~も~~~私達が布団を取りに行ってる間にレイに
 いたずらしちゃだめよ~~~

 「し、しませんよ、そんな事!

 「ふふふ。ムキになっちゃって、カワイイ~

 「ほらミサト、バカな事言ってないで布団取りに行くわよ!」

 「はいはい、分かったからそんなに押さないでよ」

 アスカはミサトを追い出すように部屋から出ていった。一人残されたシンジは
 レイの寝顔を見つめる。そして、そっと涙を拭き取る。

 「……綾波……やっぱり気にしてたんだ……無理もないな……あんな状態だった
 から……。でも、さっきも言ったように、大丈夫だから。絶対に守るから、心配
 しないで。大丈夫だから……」

 シンジは、眠るレイに、そして自分自身にそう言い聞かせ、優しい目でレイを
 見続けた。


 そんなシンジに気付かれないように、そっとふすまが閉められた。

 「シンジ君ってほんとに優しいわね」

 「当ったり前じゃないの、シンジなんだから。それにしても、レイって……妙に
 大人びてるって言うか……どこか人生悟ってるみたいなところがあるかと思えば、
 やたらと子供っぽい所もあるわね。あんなに感情的になんて……よっぽど怖い夢を
 見たのね……。でも……」

 「ん? でも、何、アスカ?」

 「なんか、さっきのレイってシンジに甘えてるように見えた……気のせい
 かな……」

 「ふふ、いいじゃないアスカ、それくらい見逃してあげなさい。誰かに甘えた事
 なんてきっと無いんだろうし。シンジ君はレイにとって唯一甘えられる存在なのよ。
 よっぽど信頼してるのね」

 「…………」

 「んふふ~ん。アスカもシンちゃんに甘えたいのかなぁ~~~?

 「な、何言ってんのよ! 私はそんな子供じゃないわよ!!」

 「あ~~~ら、無理しちゃって」

 「無理なんてしてないって言ってるでしょ!!」

 「そうやってすぐむきになるのが子供の証拠よ。ところでアスカ、一つ聞いて
 いい?

 「何よ、急に?」

 「さっきから気になってるんだけど……」


 <つづく>


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