新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十二部 Hパート


 『……よし……行ける

 シンジがようやくプレッシャーを乗り越え、自分の走りに自信が付いた頃、グラ
 ウンドの片隅に怪しい二人組がいた。

 「……碇」

 「何だ冬月?」

 「自分の一人息子が選手に選ばれたんだ。応援したいのは分かる。それは分かる。
 だが、なぜこのようにこそこそせねばならん? おまけに変装まで……。一体、
 どういうつもりだ?」

 「シンジは私の前では萎縮するからな。だから私はシンジの前に出ん方がいい。
 出ん方がいいんだ……

 「……まぁ、自業自得と言えん事もないが……まともな親子関係にはまだ時間が
 掛かりそうだな……。しかしな碇、なぜ俺までこんな変装をせねばならんのだ?」

 「お前がいれば私もいるかも知れんとシンジに気付かれる恐れがあるからな。念の
 ためだ」

 「まったくお前というやつは……。しかし……俺達も今ここにいるのだから人の事
 は言えんが、葛城君と赤木君が二人ともここにいるとは……。ネルフも随分とたるん
 だな……」

 「問題ない」

 「……そうか」

 二人がそんな事を話していると、ゲンドウと冬月の元にサングラス姿の人物が
 やって来た。

 変装しているゲンドウと冬月、おまけにサングラス黒尽くめの男……。
 思いっきり周囲から浮いているが、この際放っておこう。

 「なんだ?」

 「は。狙撃班、各部隊既に配置済みです。いつでも行けます

 「こ、声が大きい」

 「は?」

 ゲンドウはしきりに冬月の方を気にしながら、サングラス男の口を塞ぐ。

 いーかーりーーー 狙撃班とは何の事だ?」

 「な、何の事だ冬月?」

 いーかーりーーー ジロリ

 「。な、なに、大した事ではない」

 「では説明してもらおうか?

 「実弾を使うわけではない。命には何の心配もない。ただ……」

 「ただ、何だ?」

 「神経毒を使って一瞬体を硬直させ、転んでもらう。なに、心配はいらん。
 氷でできた極めて小さな針のような物だ。すぐに溶けて証拠も残らん。それに、
 無差別に撃つわけではない。シンジの前を走っている者だけだ」

 ガツン!

 「……痛いぞ冬月」

 「いいか碇、不正をして勝ったところで、本人のためにはならん。
 力が足りずに負けたのなら、また次のために努力すればいい。それだけの事だ。
 とにかく勝てばいいという物ではない。そもそもお前というやつは……」

 「ま、待て冬月、分かった。だがもうすぐシンジが走る。続きは後だ」

 「……まぁいいだろう。しかし後でたっぷりと説教を覚悟しておけ。それと、
 攻撃命令は取消だ。今後碇がおかしな事を言ってきたら、まず俺に相談しろ。
 いいな?」

 「はっ」

 そう返事をすると、諜報部や保安部の狙撃部隊は撤退していった。


 そして場面は変わって、再びシンジ。

 スタートラインに立ち、大きく深呼吸するシンジ。そして、レイ、アスカ、ミサト、
 リツコのいる方向を見る。
 (シンジはリツコがトイレに駆け込んでいる事を知らない)

 『楽しく走ればそれでいい……そして結果を出せるのは、前向きに努力している者
 だけ……うん、二人の言う通りだ。今まで練習してきたのがどれだけ通用するか
 ……頑張ろう』

 そう決意を新たにした時に声がする。

 ON YOUR MARK


 『……よし』



 Ready……



 GO!!



 スタートの合図と共に、シンジを含めた選手達は一斉に走り出す。シンジは、変に
 意識せず、練習の時のようにリラックスして走り出す事に成功していた。

 『軽い……体が思い通りに動いてる。これなら……』

 シンジは手応えを感じていた。実際に、現在三位の位置で走っている。

 『くそー! 何でこのオレがシンジの背中を見て走らなきゃならんのだ……。
 納得いかん

 サブローはそう思ったが、気ばかりが焦り体が付いて来ず、シンジとの差は開いて
 いった。

 そうしている間にもシンジは順位を上げていく。そして第四コーナーを曲がった頃、
 自分を応援するレイとアスカの声が聞こえてくる。

 「碇くん、頑張って! あと少しよ!」

 「シンジ! さっさと抜いちゃいなさい!」

 二人の姿が目に入ると、体の奥から力が湧いてくるような気がする。その力の成せる
 技か、とうとうシンジの前には誰もいなくなる。

 そして、初めての大会で一着になるというマンガのような展開で、シンジの初レース
 は幕を閉じた。しかも、大会記録に後僅かというほどの記録を残しての優勝だった。


 レース後、シンジの元にレイとアスカが駆け寄ってくる。その後ろにはすっかり
 やつれてしまったリツコと、やれやれという感じでリツコに肩を貸すミサトが続く。

 「シンジ、やったじゃないの! しかも今までで一番いい記録じゃない!
 案外シンジって本番に強いタイプなのかもね」

 「二人が応援してくれたからだよ。僕一人じゃきっとここまで来れなかったよ。
 ……あれ? 綾波……ど、どうしたの?」

 「嬉しくて……碇くんが一番取れた事が嬉しくて……」

 「あらあら、だめねーシンちゃん。女の子泣かせるなんて

 「え、と、その……ごめん……じゃなくて……その……」

 「でも、レイって今までの反動か随分と感情豊かになったわね。ま、いい事ね。
 それに、嬉し涙なんて一生のうちにそんなに何度も流せるもんじゃないしね。
 良かったわね、二人とも。シンジ君が一番になれて」

 「はい」×2

 「それとシンちゃん、応援してたのは二人だけじゃないわよ。私やリツコだって
 応援してたんだけどなー」

 「あ。す、すいませんミサトさん、そんなつもりで言ったわけじゃなくて……
 その……」

 「ふふ、冗談よ、ちゃんと分かってるわ」

 「すいません。……あの……ところで、リツコさんどうしたんですか?」

 「んー……あぁ、これ? 気にしなくてもいいわよ。自業自得だから」

 「ふ……シンジ君が優勝するように、コーチとして色々してきたためよ」

 「? ? ? はぁ……」

 「あ、あの……碇くん?

 「え? 何、綾波?」

 「だから……祝福のキス……いる?」 ぽっ

 レイは少しうつむきながら、恥ずかしそうにシンジを見る。

 「え?」 赤

 『可愛い……』

 「ちょっとレイ、待ちなさいよ! こんな人前で何考えてんのよ!?」

 「え? だってさっきはアスカだって碇くんにキスしたじゃない」

 「あ、あれはシンジが緊張しまくってたから……あくまで緊急事態だったから
 に決まってんじゃないの」

 「ふーん。じゃあアスカ、人目が無い所ならいいわけね

 「そ、そういうわけじゃ……」

 「私は別に、誰に見られてもいいんだけど……」

 「ええい、話がややこしくなるからちょっと黙ってなさい。とにかく、
 こんな所でキスなんかしちゃだめよ。いいわね!?」

 「………………

 「ヤじゃない!!」

 「もてるわね~シンジ君」

 「まぁシンちゃんはちゃんと一番になって約束守ったんだから、これくらいは別に
 いいんじゃないの?」

 「はい、碇くんはちゃんと約束通り一番になってくれた。だから私も約束通り碇くん
 に……」

 「ちょっと待った! 勝手にそんな約束したのはミサトで、私たちじゃない
 でしょ」

 「アスカが嫌なら私だけでも……

 「くぉらレイ! 私の目の黒い……青いうちはこんなとこでそんな事させない
 わよ」

 「ふ~ん……じゃあアスカ、マンションに帰ってからしてあげれば~?
 私とリツコは席外してあげるわよ~~~ん(嘘)」

 「私はどこででも構いませんけど。アスカはどうするの?」

 「う……ま、まぁレイ一人にそんな事させるわけにはいかないし、約束だから
 しようがないわね」

 「あれ? 確か約束したのは私で、アスカじゃなかったんじゃないのかな~?」

 「う、うるさいわね! ほらシンジ、帰るわよ!」

 アスカはそう言って、シンジの手を引き、歩き出す。

 「え? ……で、でもまだ他の人の競技や閉会式とかまだ色々とイベント
 あるんじゃ……」

 「そんなの面倒くさいからパス!

 (決して書くのが面倒くさいわけじゃなく、話のテンポを考えての事です。
 本当なんです。信じてね)

 「ふふ、アスカったらそんなに早く帰りたいだなんて、よっぽど早く人目につかない
 場所で、シンジ君に祝福のキスしてあげたいのね」

 「ち、違うわよ! 私はただ作者のヤツがこういう大会の事何も
 知らなくて、細かい描写ができないって言うから話を進めて
 やってるだけよ!」

 「ブザマね。ゆさくに大運動会でも見せてもらって勉強すべきね」

 「あれ? 作者って大運動会見てないの? なんかスタートの時……」

 「あれはゆさくが勝手に改ざんしたのよ。作者の原稿じゃないわ」

 「そうなんだ。じゃあ、ゆさくって人は大運動会見てるのね」

 「そうらしいわね。今必死に作者にも薦めてるみたいだけど、なかなか見て
 くれないらしいわよ」

 「ふ~ん……」

 「あんた達、一体いつまで内輪ネタ続けてるのよ!? いい加減に
 しなさい!」


 <つづく>


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