新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十二部 Gパート


 「仕方ないわね……シンジ君、ちょっと腕出してくれる?

 「え? な、何ですかリツコさん、その注射器は!?

 「ああこれ? 大丈夫よ。プレッシャーなんか全く感じなくなる薬だから。
 ただ、精神と肉体にちょっと後遺症が残るかも知れないけど、今だけは確実に
 ハイな気分になれるわ」

 「ちょっとリツコ、あんたそれ、私の想像通りの物なら犯罪よ」

 「じゃあミサトに何かいい方法でもあるって言うの? このままじゃシンジ君、
 まともに走れないわよ」

 「う~ん……それはそうだけど……そうだ! アスカ、レイ、ちょっと耳貸して」

 「え?」

 「ミサト、何かいいアイデアでもあるの?」

 「それを今から相談するのよ」

 ミサトはそう言って、二人に何やら話し掛けていた。

 「ちょ、ちょっとミサト……」

 「それで碇くんが実力を出せるのなら私は構いません」

 「レイはいいのね。で、アスカはどうする?」

 「レイがするんなら当然私だってするわよ。決まってるじゃないの」

 「じゃ決まりね。シンちゃん、ちょっと目閉じてくれる

 「え? な、何するんですか?」

 「プレッシャーを消すおまじないよ。シンちゃんだって今のままじゃ困るでしょ。
 だから目を閉じて」

 「は、はぁ……?」

 何だか良く分からないが、シンジは言われた通り目を閉じる。

 「ミサト、今のうちにこの注射を

 「あんたは黙ってなさい!!」


 シンジが目を閉じていると、なぜだか落ち着くようないい匂いがしてきた。
 そして、両頬に何か暖かいものが触れる。

 『え……これって……まさか……

 シンジが慌てて目を開けると、ニヤニヤしているミサトと、呆れているリツコが
 目の前にいた。そして、視界の両端にぼんやりと青いものと赤いものが見えた。
 レイとアスカが、左右からシンジの頬にキスをしている。

 「ほえええーーー!?」

 シンジは慌てて飛びのいた。

 「な  な !?」

 「んふふふ……どう、シンちゃん、プレッシャー消えたでしょ」

 「え? あ、あれ? そう言えば……」

 「でしょ、古来より乙女の口づけはあらゆる障害を打ち破る力があるのよ。それが
 ダブルなんだから効き目は抜群に決まってるわ」

 「碇くん……あの……元気出た?」 ぽっ

 「シンジ、この私がここまでやってるんだから、プレッシャー
 ごとき、さっさと打ち払いなさいよ!」 赤

 「どうリツコ、そんな薬なんか使わなくったって、乙女のパワーだけで十分で
 しょ」

 「まぁ、確かに硬くなった筋肉はほぐれたみたいだけど……ほぐれすぎてぐにゃ
 ぐにゃになっちゃってるわよ。これじゃ結局走れないんじゃないの?」

 「え……? あちゃー、効き目強すぎたか」

 リツコの言うように、シンジは照れてぐにゃぐにゃになっていた。

 「ふにぁ~~~」

 「碇くん、碇くん!」

 「ちょっとシンジ、しっかりしなさいよ!」

 と、その時、後ろから声がする。

 「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 様子を見に来ていたサブローは、そう言って走り去っていった。

 「あら、さっきの子」

 「また夕焼けになったわね。ネルフで捕獲しようかしら」

 そんな事を話しながらも、シンジを復活させるためにはどうするかを話していると、
 『四百メートルの競技が始まるので、選手は集合するように』との放送があった。
 その放送を聞き、シンジはようやく復活する事ができた。

 「シンジ君、頑張ってね。今までの特訓の成果を見せる時よ」

 「ネルフ内での訓練を思い出して、いつも通り走ればいいわ」

 「はい」

 「シンジ、私からも言っておく事があるわ」

 「何? 負けるな、って事?」

 「そんなのは負ける可能性のあるやつに言う言葉よ。

 『勝ちなさい!』

 特にあの、サブローとかいうふざけた奴にだけは絶対に勝ちなさい!!

 「う、うん……でもあいつ、足だけは速かったから、勝てるかどうか……」

 「シンジ、どんな簡単な事でも、できないと諦めてしまったら絶対できないのよ。
 結果を出せるのは、それを信じて努力してる者だけよ。それを忘れないでね」

 「う、うん」

 「ほらレイ、あんたも言う事あるんでしょ」

 「うん。碇くん、大丈夫だから。碇くん練習ではいつもあんなにいい記録出してる。
 だからいつものように楽しく走ればいい。そうすればちゃんといい結果が出るから。
 だから、自分の力を信じて、力いっぱい走って。私、碇くんの事信じてるから」

 「うん、分かった。ありがとう綾波、頑張るよ」

 「シンジ君。そこはそうじゃないでしょ。一言でちゃんと決めなさい」

 「あ、はい。勝つよ

 「うん」 (レイ)

 「その意気よ。頑張るのよ!」 (アスカ)

 「そうよね、勝利の女神が二人も付いてるんだから絶対勝たなくっちゃね。それに、
 うまくすれば祝福のキスもあるかもよ」

 「え?」

 「ちょっとミサト、せっかくシンジ君が復活したんだから、変な事言って動揺させ
 ない方がいいわよ」

 「でも、ご褒美があった方がやる気が出るってもんよ。それに、男の子は好きな
 女の子が信じてくれるのなら、空を飛ぶ事だって、湖の水を飲み干す事だってできる
 ものなのよ。ねぇシンちゃん」

 「え……と……じゃあ、行ってきます」

 シンジは照れながら、慌てて集合場所に向かった。



 「さてと、後はシンジ君次第ね。勝てるといいわね」

 「大丈夫よミサト、シンジ君は絶対に勝つから」

 「何でそんな事言い切れるの? まさかリツコあんた……」

 「んふふ。さっきシンジ君が飲んだジュースにちょっとね」

 「だって、あれはリツコや私達も飲んだはずじゃぁ……」

 「ええ、そうよ。でもシンジ君に渡したやつだけ、直前にちょっと薬を混ぜたの。
 大丈夫よ。このレベルの大会じゃ絶対検査には引っ掛からないから」

 「そういう問題じゃないのよ。こういう事は自分の力を試す事が大事なのよ。薬の
 力を使って勝っても何にもなんないのよ。むしろ、逆効果になるだけよ」

 「大丈夫よミサト。私たちがリツコの手から渡された物を直接口にするわけない
 じゃないの」

 「碇くんは私の用意したジュースを飲みましたから大丈夫です。ちゃんとすり替えて
 おきましたから」

 「あら、やるわね二人とも。じゃあ、怪しい薬の入ったジュースはちゃんと処分した
 のね」

 「はい、赤木博士が飲んだのがそうです

 「え? わ、私が飲んだやつ……」

 「そ。隙をついて取り替えておいたの。自分の作ったやつなんだから平気でしょ」

 「そ、そりゃ人体には影響が出ないように作ったから……………………
 ミ、ミト……

 「ん? 何、リツコ?」

 ト、……」

 「んーーーそーねーーー。確かあっちにあったかしらねーーー」

 「あ、

 リツコはそう言って、青い顔をして走って行った。

 「お~速い速い。足が速くなる成分はちゃんと効いてるみたいね。あなた達、良く
 やったわね、誉めてあげるわ」

 「碇くんのためですから」

 「絶っ対、あのマッドサイエンティストが何かしてくると思って目を光らせたのが
 正解だったわね」

 「あなた達は世界一のマネージャーね。シンジ君も幸せ者だわ。じゃ、後は私達に
 できる事はシンジ君の応援だけね」

 そう言って、ミサト達は応援しやすい場所に移動した。


 その頃シンジはというと、手足を伸ばしながら最終チェックをしていた。

 その時、ふと視線を感じたのでそちらを見ると、サブローが恨めしそうに睨んで
 いたので、シンジは慌てて顔を背ける。

 『ははは……無理もないか……。でも僕が自分の意志でこんな所にいるなんて……
 自分でも信じられないな。……でも、僕が選ばれたんだから、ちゃんと走らない
 と……僕のために出られなくなった人に申し訳ないから……。それに、僕を応援
 してくれる綾波やアスカのためにも……』

 そう思い、気を引き締める。そして、エヴァとシンクロするように、自分の手足の
 先まで神経を通すようにイメージしていく。周りの状況、プレッシャーなどが
 いい意味で緊張感を生み、これまで以上に集中できた。
 そして、何度も手を握り返し、自分の体と精神のシンクロ率を確かめる。

 『……よし……行ける

 シンジはようやくプレッシャーを乗り越え、自分に自信が付いたようだった。


 <つづく>


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