新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十二部 Fパート


 「何ワケの分からん事を言ってんだ! とにかく、オレの名は語呂
 合わせで付けられたんじゃないって事を説明してやる!
 ……そう、あれはオレが生まれる三ヶ月前……」

 「ちょっと待ちなさいよ!!」

 「な、何だよ!? せっかくオレの名前の由来を説明してやろうと
 してるのに……」

 「それよそれ! それが問題なのよ!! いい? 回想シーンに
 入っていいのは主役とヒロインだけなのよ。あんたみたいな
 ゲストキャラがやっていい事じゃないの! 分かった!?」

 「……き、きつい事を……」

 「アスカ、そこまで言わなくても……」

 「ま、シンジの知り合いらしいから、今回はこの位で見逃してあげるわ」

 「……シンジ、この二人何だ? ヤケに親しいようだが、知り合いか?」

 「うん」

 「私たち、碇くんのマネージャーなの」

 「マネージャー? 何の?」

 「あんたバカぁ!? 今日この場所にこの格好でいるんだから、
 普通分かるでしょ!?」

 「シンジ、お前ひょっとして、陸上部に入ったのか?」

 「うん、そうなんだ。それで四百メートルの選手になったんだ」

 「選手? お前が? オレと同じ四百の? ……しっかし、シンジが陸上部に入る
 事自体信じられんのに、選手に選ばれるとは……。お前んとこ、よっぽど人材が
 いないんだな。マネージャーだけはいいの揃えてるみたいだけど」

 サブローがバカにしたようにそう言うと同時にレイの右手が上がる。

 しかし、シンジとアスカが慌てて止める。

 「あ、綾波! 僕、全然気にしてないから、落ち着いて」

 「そうよレイ、こんなやつ殴る価値もないんだから放っときなさいよ」

 「でも、碇くんの事悪く言った」

 「綾波、僕は本当に気にしてないから。綾波がそんな風に思ってくれてるだけで
 十分だから」

 「ほんと? ……碇くんがそう言うのなら……」

 シンジの言葉を聞き、レイは手を下ろした。

 「……シンジ、お前んとこの部員って恵まれてるな。こんなマネージャーがいる
 なんて……」

 「私たちは別に陸上部のマネージャーじゃないわよ」

 「え? だってさっき自分で……」

 「私たちは碇くんのためだけのマネージャーなの」

 「……何で……確かシンジには兄弟いなかったはずだし……いとこか何かか?
 ……もしかして、何か弱みを握って脅してるんじゃないのか?」

 「何でそうなるんだよ!?」

 「でなきゃ、シンジごときに専属マネージャーなんて付くわけないじゃないか」

 「レイ、落ち着きなさいよ、いいわね」

 「ええ、分かってる」

 「ならいいけど。ちょっとあんた! さっきから一つの可能性を無視
 して話してるでしょ!

 「? どういう事、アスカ?」

 「つまり、こいつは私とレイがシンジの彼女かも知れないって事を
 全く無視してんのよ!

 「その確率はゼロだからな、可能性ですらない。考えるだけ無駄だ」

 『ふ~ん……こいつの反応からして、シンジが前の学校で付き合ってたやつはいな
 かったようね。これで、後から”前に付き合ってました~”なんてやつが出てくる
 可能性は無いわね』

 『……ふっ』 (天の声)

 『何よ今の? まさか、出すつもりじゃないでしょうね?』

 『未定です』

 『出すと殴るわよ。何より、レイに恨まれるわよ』

 『出さない』

 『そうしなさい。じゃあ、本編に戻るわよ』


 「ねぇ碇くん……私……碇くんの彼女……よね?」 じぃ~~~

 「え、と、その……そう言って……いいのかな……」

 「いいに決まってるじゃないの。毎日一緒に暮らしてるんだから」

 「い、一緒に暮らしてる!? シンジ! どういう事だ!?
 そ、そうか、合宿に一緒に行ったって事だな? そうだろシンジ!?」

 「いや……その……そうじゃなくって……」

 「文字通りの意味よ。私とシンジとレイは一緒に暮らしてるのよ」

 アスカは勝ち誇ったようにそう言った。

 「う、嘘だ……そんな事が……あっていいはずがない……。シンジごときが……
 オレでさえ……」

 と、精神崩壊寸前になった時……

 「シンジ君、調子はどう?」

 「ウォーミングアップは終わったかしら? シンジ君」

 「あ、ミサトさん、リツコさん、来てくれたんですか」

 「当ったり前じゃないの。シンちゃんの晴れ舞台だものね。……ん? そっちの子は
 お友達?」

 「はい、前の学校のクラスメートです」

 「シンジ、この人達は?」

 「あ、こっちの人はミサトさん。僕の保護者やってくれてて、一緒に住んでるんだ。
 それでこっちがリツコさん、僕のコーチってとこかな」

 「う、う、う、嘘だぁぁぁ!! オレは信じないぞぉぉぉ!! くそぉ!
 赤い夕日なんて大っ嫌いだぁぁぁぁぁぁ!!

 サブローはそう叫ぶと、地平線に沈み行く夕日に向かって、泣きながら
 走っていった。

 「え……と……。この街に地平線なんかあったかしら?」

 「碇くん、まだお昼よね?」

 「変わった特技だね」

 「新手の使徒かしら……」

 「はは……何か信じられないようなショックがあると、良くこうやって走り去って
 ましたから」
 
 「妙な特技があるのは分かったけど、ほんと失礼なやつだったわね」

 「ええ、碇くんの事悪く言う人は嫌い」

 「まぁ、それもあるけど、何より許せないのは、三下の一話限りのキャラ
 のくせに回想シーンに入ろうとした事ね

 「回想シーン?」 (ミサト、リツコ)

 「そうなのよ、回想シーンに入れるのは主役とヒロインだけだって事、分かって
 ないようね、まったく……」


 「そう、あれは私がセカンドインパクトを生き延びてまだ失語症だった頃……」

 「私が初めてネコを飼いだしたのは確か……」



 「そこ二人! 何勝手に回想シーンに入ろうとしてんのよ!?
 言ったでしょ、ヒロインだけだって!」

 「私はまだ十分ヒロインよ!!」

 「三十路過ぎたような女はヒロインとは言えないの!!」

 「ぬわんですってぇ!?」×2

 「ま、まぁまぁ三人とも落ち着いて。ケンカはやめましょうよ、ね、ね」

 シンジは何とか三人をなだめる。レイもシンジに協力して、アスカの口を押さえて
 いる。

 「んー んー んー!」 (アスカ)

 シンジの取りなしで、ようやく険悪な雰囲気は収まった。

 シンジはまたこの話を持ち出されては大変なので、とりあえず話題を変える。

 「でもミサトさん、今日仕事だったんじゃないですか?」

 「ああその事、えへへ、日向君に頼んで抜けてきたの。今日はそれほど大事な用事は
 無いしね」

 「私もそれほど仕事が詰まってるわけでもないしね。それに、この総合グラウンド
 にもエヴァの射出口があるから、点検を兼ねてね」

 「え? ここにもあるんですか?全然知らなかった。どこにあるんですか?」

 「んふふふふふ……あのプールの下よ」

 「え? プールの下……でも水が……」

 「ふ。そこが一番のポイントよ! エヴァが出撃する時に、プールの水がこう、
 左右に分かれて……。あぁ、想像しただけでも体が打ち震えるわね」

 「…………さ、シンジ君、自分の世界に入ってるリツコは放っておいて、出番まで
 体を休めておきましょ」

 「あ、それなら私の作ったこのスポーツドリンクを飲むといいわ」

 「あらリツコ、いつの間に現実に戻って来たの? それより、そのジュース、
 おかしなもん入ってないでしょうね?」

 「あら、当然じゃない。私が何かした事あったかしら?

 「ええ、あったわ」 (ミサト)

 「そうですね」 (シンジ)

 「ありました」 (レイ)

 「忘れたとは言わさないわよ」 (アスカ)

 「ふ……信用無いわね。じゃあ、私が最初に飲めばいいんでしょ。それなら
 信用してくれるかしら?」

 「まっ、そういう事ならね。じゃあ、どこか涼しい所で休みましょ」

 「そうね、精神的なものもレースには影響を及ぼすから、今のうちから集中しておく
 のもいいわね」

 二人の意見により、シンジ達は木陰で休む事にしたが、シンジは自分の出番が
 近づいてきたので、段々と緊張してきた。

 「どうしたの碇くん? 体が震えてる

 「え? あ、あれ……どうしたんだろ……体が……」

 「プレッシャーね」

 「プレッシャー?」

 「そ。シンジ君は今までこういう大会に出た事無いんでしょ?」

 「は、はい」

 「だから、会場の雰囲気とか、失敗したらどうしようとかの色んな不安から、
 体が硬くなってしまってるのよ」

 「困ったわね……このままじゃいい記録は望めないし……。ねぇリツコ、何とか
 ならない?」

 「仕方ないわね……シンジ君、ちょっと腕出してくれる?

 「え? な、何ですかリツコさん、その注射器は!?


 <つづく>


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