新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十二部 Eパート


 「答えて、碇くん」

 「答えてよシンジ」



 「……………………」



 「あ?」   『綾波よね、碇くん』

 「あ?」   『アスカよね、シンジ』

 「……ああっと、もうこんな時間、早く戻らなきゃ。五時間目が
 始まっちゃう。ぼ、僕、先に行ってるから」

 そう言うとシンジは手紙を慌ててカバンの中に詰め込み、階段を降りていった。

 「…………逃げられたか…………」

 「……碇くん……」

 「……ま、しようがないわね。シンジらしいわ」

 「そうね、じゃあ私たちも教室に戻りましょうか」

 「ええ。それと、放課後はシンジを影から見守る(監視する)ためにも、絶対に
 逃げられないようにしないとね」

 「ええ、私たちに来た手紙より碇くんの方が大事だものね。困ってたら助けてあげ
 ないといけないしね」

 『う~ん……ちょっとニュアンスが違うけどまぁいいか』 (アスカ)

 そして、二人はシンジの後を追い、階段を降りていった。


 そして放課後、シンジ達はラブレターの相手の元へと走り回っていた。
 特にレイとアスカはシンジの監視、及び再結成された反シンジ連合の男子達から
 シンジを守るために、シンジ以上に走り回っていた。

 一中の良くある平和な一日は、こうして暮れていった。

 また、このような光景は毎日のように繰り返された。



 そして数日が過ぎ、陸上部では次の大会に向けての選手選抜のために、正式な
 タイムを計る事になった。

 シンジは、これまでのネルフ内での科学的なトレーニングの成果が出たのか、四百
 メートルでとうとう、陸上部で一番のタイムを記録した。

 ・
 ・
 ・

 「……え、僕が四百メートルの選手に?

 「ああ、四百メートル走では碇君のタイムが一番だったからね。当然の結果だよ。
 前にも話したろ、タイムさえ良ければちゃんと大会にも出られるって」

 「で、でも僕は入部してそんなに経ってないし……練習にだって殆ど出てない
 し……。それに、元々四百メートルの選手だった人がいるだろうし……」

 「入部した時期は関係ないよ。うちは実力主義だって言ったろ。碇君は四百メートル
 で一番のタイムを出したんだ。それは部員の皆が知っている。それに、遊んでいて
 出せるタイムじゃないよ。部活動に出られなくてもちゃんと走っていたんだろ?」

 「ええ……まぁ……」

 「なら自分の力を大会に出て試してみるといい」

 「…………」

 「もし自分が辞退すれば別の人が選手になれる、なんて思ってるんだとしたら、それ
 は選ばれなかった部員への侮辱になる。皆、自分のタイムが君に負けているのは
 知っているし、プライドだってある。譲ってもらってまで選手になろうなんてやつ
 はいないよ。もし申し訳ないと思うのなら、自分が……皆が納得する成績を出せば
 いい。……引き受けてくれるかい?」

 「……はい、頑張ります」

 「うん、それじゃあ任せたぞ。では当日までにコンディションを整えておいてくれ」

 「はい、分かりました」

 シンジは、そう返事をして部屋を出る。

 外ではレイとアスカが待っていた。

 「どうだった、碇くん?」

 「選手に選ばれたんでしょ?」

 「うん、四百メートルの選手に選ばれたよ」

 「おめでとう! 碇くん」

 「良かったじゃないの、シンジ!」

 「……うん……」

 「 どうしたの碇くん、嬉しくないの?」

 「やりたくないの、シンジ?」

 「そんな事ないよ、嬉しいさ。でも、僕のせいで出られない人がいると思うと、素直
 に喜べなくて……」

 「シンジらしいわね。でも、これは勝負よ。強い者が勝つ、それだけの事。
 シンジも他の人も努力してきた。そしてシンジが勝った。だから胸を張ってれば
 いいのよ」

 「私もそう思う。それに、碇くん走るの好きなんでしょ」

 「え? う、うん」

 「なら、いつものように楽しく走ればいい。それが一番だと思う。今の碇くん、深刻
 に考えすぎてる。深刻と真剣は違うわ。碇くんはいつものように、真剣に楽しく
 走ればいい。それすればちゃんと結果も出せる。頑張って、碇くん」

 「うん、そうだね……ありがとう二人とも。選ばれたんだから一生懸命やらなくっ
 ちゃね」

 「うん」

 「よーし、それでこそシンジね。早速今日もジオフロントで練習ね」

 こうしてシンジは、大会の日まで無理をする事もなく、のびのびと科学的なトレー
 ニングを行い、力を付けていった。



 そしていよいよ大会当日。

 会場は第三新東京市立の総合グラウンドなので、シンジ達は直接グラウンドに向か
 った。

 「……しっかし、あいつらも友達がいがないわね。せっかくシンジの晴れ舞台なのに
 応援に来ないなんて」

 「しようがないよ。トウジの妹が退院する日と重なっちゃったからね。本当は僕も
 行きたかったんだけど、こっちをすっぽかすわけにもいかないし、トウジも分かって
 くれてるみたいだから、僕はこっちで頑張る事にしたよ」

 「ま、ヒカリも付いてるみたいだし、鈴原はまぁいいとして……問題は相田のヤツ
 ね。あいつってこういう時は必ずいないわね。どうせまた軍艦だとかを撮りに行って
 るんでしょ? まったく何を考えてるんだか……。もっとも、ここにいてシンジの
 写真を撮りまくって商売されても困るんだけどね」

 「そう言えば、今日はクラスの女の子達来てないわね。いつもは碇くんが学校で
 練習してる時は必ず見に来てたのに……」

 「あ、その事? シンジが体調悪くて出られなくなったって私がデマ流した
 からよ」

 「え? アスカ、そんな事を……」

 「いいの? 後でまた もめるんじゃないの?」

 「シンジが元気になったからやっぱり出た、って事にしとけば何の問題も無いわ。
 シンジとレイも、そういう事だから話合わせといてね」

 「はぁ……」

 「私……あんまりウソとかつきたくないんだけど……」

 「何言ってんのよ、あんな連中が騒いでたらシンジの邪魔になるだけだし、これは
 シンジのためなのよ」

 「碇くんのため?」

 「そ、シンジのため。いいわね、レイ」

 「そういう事なら構わない」

 「よーし、じゃあシンジ、邪魔者は排除したから頑張ってね」

 「応援してるから、頑張ってね」

 「うん、じゃあちょっと軽く走ってくるよ」

 シンジはそう言うと、着替えを済ませ、ウォーミングアップを始めた。グラウンド
 では様々な人が思い思いのやり方で体をほぐしたり、精神を集中させたりしていた。

 シンジもグラウンドを走ってみて、今日のコンディションはかなりいいようなので
 少し自信が付いた。

 そして、レイとアスカの元に帰ろうとした時、シンジを呼ぶ声がした。

 「お前、シンジじゃないか。何やってんだ、こんな所で?」

 「え?……あ、サブロー! 久しぶり! そっか、サブローは陸上部員だった
 ね」

 前の中学のクラスメートと再会するシンジ。そこにレイとアスカがやってくる。

 「碇くん、今日も調子いいみたいね」

 「これで今日のレースは頂きね。……ん? あ~~~っ!! あんたさっき
 の!

 「あ、あなたはさっきの……」

 「ああ、二人ともサブロー知ってるの?」

 「知ってるも何も、こいつさっき、事もあろうに この私をナンパしようとした
 のよ」

 「私も、良く分からないけど話し掛けられた」

 「レイも? シンジ! こいつ一体どういうやつよ!?

 「ははは、そういうやつだよ」

 「…………良~~~く分かったわ……」

 「いやいや、こうしてまた会えたのも何かの縁だし、もっとオレの事を知ってもらう
 ためにも自己紹介しておくよ。オレの名は『信濃(しなの)サブロー』って
 言うんだ。よろしくな」

 「しなの……ねぇ碇くん、確か『信濃』って空母の名前よね。この世界で空母の
 名を持つ人ってみんな女なんじゃないの?」

 「え……と、そう言えばアスカもミサトさんもリツコさんも、みんな空母だね」

 「でしょ。なのに何でこの人男なの?」

 「別にいいじゃないレイ。ほら、私が日本に来た時に護衛してきた太平洋艦隊の中
 にも、実際には完成しなかったはずのアイオワ級戦艦の五番艦イリノイ
 六番艦ケンタッキーがあったでしょ。だからこの世界では、信濃も本来の予定
 通り、大和級の三番艦として戦艦になったのよきっと。だいいち、某ゲームでシンジ
 にちょっかい出してたやつだって、女のくせに戦艦の名前持ってたじゃないの。
 だから、別に気にしなくてもいいのよ」

 「それもそうね、名前も三番艦らしくサブローだし」

 「と言うわけで、あんたが別に男でも問題なしって事になったわ。良かったわね」

 「う、うるさい! お前らは軍事マニアか!!」

 「マニアっていうより軍人かしら」

 「でもアスカ、ネルフは軍隊じゃないわよ」

 「じゃあ正義の味方って事ね。……あ、そうだ、あんたって三男?

 「…………。長男だ……」

 「あはは! じゃあやっぱり語呂合わせで名前付けられたんだ!」

 「う、うるさい!!」

 「あははははは! 怒った怒った」

 「前の中学でもみんなにからかわれてたからね……」

 「うるさい! そういうシンジだって長男のくせにシンジ(2)じゃないか」

 「僕は母さんがユイ(唯=1)だから2でいいんだよ」

 「はぁ?」

 「じゃあ私はレイだから0(ゼロ)かな?」

 「私は……ぬぅ、数字が無い。なんか悔しいわね……」

 「何ワケの分からん事を言ってんだ! とにかく、オレの名は語呂
 合わせで付けられたんじゃないって事を説明してやる!
 ……と思ったが時間が無いんで来週言うからそれまで待ってろ!」


 <つづく>


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