新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十二部 Dパート


 「シンジも随分と気になってるみたいだし、レイも含めてこの私が
 特別にアドバイスしてあげるから、うんと感謝してよね」

 「うん、分かってるよ、アスカ」

 「お願いね、アスカ」

 「ええ、任せなさい。とりあえず、レイにも言ったように『返事下さい』ってやつ
 には、手紙で『付き合えない』って断ればいいわ」

 そう言ってアスカはシンジを見る。つまり、どんな手紙でも断れ、とプレッシャー
 をかけているのである。

 「う、うん……。でもさアスカ、こういうのって、どこかで待ってるから、直接
 返事が欲しいってのもあるんじゃないのかな?」

 「ま、確かにそう言うたわけた事を書いているやつもいるわね。だいたい、なんで
 見ず知らずのやつに場所と時間を指定までされて、こっちから出向いて行かなきゃ
 なんないのよ? そういうのは無視よ!

 「で、でも……」

 「はいはい、分かったわよ。そういう場合のアドバイスもしてあげるわ。とにかく、
 そういう手紙があるかどうか調べてみなさい。私たちも自分宛の手紙を調べてみる
 から」

 「うん、そうするよ」

 こうして、シンジ、レイ、アスカの三人は自分に来たラブレターの仕分け作業に
 入った。

 ……傍から見ると凄い光景である。

 「どうシンジ? 呼び出し型のラブレターある?」

 「うん、何通かあるみたい。アスカは?」

 「私んとこにも何通かあるわね。レイはどう?」

 「私の所にも何通かあるわ」

 「う~~~ん……面倒くさい事になったわね……。ん? ちょっとレイ!
 それ見せて!!

 「え? え? え?」

 アスカはキョトンとしているレイの手から手紙を奪い取る。

 「どうしたのアスカ?」

 「これ見てよ! こいつ私とレイに同時に手紙書いてるのよ!
 何考えてんのよまったく。しかも文章までまるで同じじゃないの。
 呼び出し日が違うだけだなんて、人をバカにするにも程があるわ!
 レイ、こいつは徹底的に無視よ! いいわね!!

 「え、え~と……う、うん」

 「あ、レイ。手紙の中身まで見ちゃってごめんね。差出人の確認をするだけのつもり
 だったんだけど……つい……。ほんとにごめん」

 「いいよアスカ、別に隠すつもりもないし、気にしてないから」

 「ほんと? 良かった。……でもそうよね、私たち、お互いに隠し事はしないって
 約束してるもんね。私のも後で見せてあげるから。……となると、やっぱりシンジ
 の手紙も見せてもらわないとね」

 「え……と、やっぱり?」

 「当然でしょ。大丈夫よシンジ、心配しなくても私たちのもちゃんと見せてあげる
 から」

 「で、でも……こういうのはあんまり人に見せるもんじゃないんじゃ……」

 「ふ~~~ん、私たちに見せたくないって言うの……。まさか私たちに隠れて、
 付き合うつもりなんじゃないでしょうね?」 ジロリ

 「そうなの碇くん?」

 不安そうな目でシンジを見るレイ。

 「そ、そんな事ないよ。うん、ちゃんと見せるから。でも……」

 「でも、なんなのよ?」

 「だから……その……僕が最初に見るのはいいんだろ? その後でいいのなら
 ちゃんと見せるよ」

 「ま、しようがないわね。シンジに来た手紙なんだからシンジより先に私たちが
 見るわけにはいかないものね。じゃあ、さっさと読んじゃいなさいよ」

 「うん」

 こうして、三人は呼び出しタイプの手紙を選んでいった。

 そしてしばらく過ぎ……。


 「あっ」

 「どうしたの碇くん?」

 「まさか、過激な事書いてるんじゃないでしょうね?」

 「いや……そうじゃなくて……」

 「じゃあどうしたのよ?」

 「うん、呼び出される時間が重なってる人がいるんだ。どうしようか?」

 「ふ~ん、どれどれ?」

 そう言ってアスカはシンジの手紙を受け取る。

 「なになに……

 ○月×日△時に伝説の木の下で待ってます

 ○月×日△時に公園で待ってます

 ふ~ん……思いっきりかち合ってるわね……。ね~シンジ、これってまるで、
 恋愛シミュレーションゲーム生身で体験してるみたいね」

 「うん、そうだね……って、何でアスカがそんなゲーム知ってるの?」

 「ん、ちょっとね。こないだヒカリん家に遊びに行った時にあったから、ちょっと
 やってみたのよ」

 「ふ~ん、委員長ってそういうゲームするんだ」

 「お姉さんが友達から借りてきたってヒカリは言ってたけどね。それより、シンジ
 こそどうしてそんなゲーム知ってんのよ? まさか持ってるわけじゃないでしょう
 ね?」

 「持ってないよ。だいたい、僕が持ってるゲームは僕よりアスカの方が良くやってる
 し、何持ってるか知ってるだろ」

 「ま、そりゃ確かに……じゃあ何で知ってんのよ?」

 「この前ケンスケの家に遊びに行った時、ちょっとやらせてもらったんだよ」

 「まったく相田のヤツ、ロクな事しないんだから。シンジの教育に悪影響が出る
 じゃないのよ……」

 『シンジが変に自信付けて、ヨソの女に手ぇ出したらどうするのよ
 まったく……』

 「レイ、後で相田のヤツ絞めるわよ」

 「絞める?」

 「そ、二度とこんな事しないように、良ーく言い聞かせるの。それがシンジのため
 なんだから」

 「良く分からないけど、碇くんのためになるのならいいわよ」

 「よーし、そう来なくっちゃ」

 「あの……二人とも、まさかケンスケとケンカなんかしないよね?」

 「それは相田の出方次第よ。ま、私は相田の弱み握ってるから、素直に従うと思う
 けどね」

 「弱み?」

 「そ、あいつこないだ、また女子更衣室隠し撮りしようとしてたのよ。それを私が
 パイロット特有の鋭いカンで気が付いたから、視線で追っ払ったのよ。こんな事も
 あろうかと思って、あえて騒ぎにしないで見逃してやってたのよ」

 『……でも、ケンスケが隠し撮りしてるって事、みんな知ってるんじゃないのか
 なぁ……』 (シンジ)

 「そんな事があったの? ちっとも気が付かなかった」

 「そうねぇ……レイっていまだに羞恥心低いものね。もうちょっと、男の邪悪な
 視線に敏感にならなくちゃだめよ」

 『もっとも、レイにとって もっと効果的で効き目抜群の言葉があるんだけど、
 まさか”シンジ以外の男に見せるのは嫌でしょ?”なんて言えない
 ものね……』

 「ねぇアスカ、私の事より碇くんが困ってるから相談に乗ってあげて。私、こういう
 事良く分からないから、碇くんの役に立てないから……」

 レイは少し悲しそうにそうつぶやく。

 「綾波、僕は別に役に立つとかそんな事を言ってるんじゃないんだから、そんな風に
 言わないでよ」

 「ほんと、碇くん?」

 「もちろんほんとだよ」

 「良かった」 ほっ

 「ふっ……しようがないわね。ここは私が二人まとめて、恋愛講座として面倒
 見てあげるわ。まずはシンジの問題ね。そうねぇ……普通、自分で指定した時間
 ちょうどに来る女なんてまずいないわ。たいてい何分も前から来てるものよ」

 「そうなの?」

 「そうなの。だからシンジも、呼び出された時間より早めにその場所に行って、
 さっさと話しつけて、次のやつの所に向かえばいいのよ。分かった?」

 「う、うん…………

 「…………シンジ」

 「え?」

 「シンジの性格からして、断るのが辛いのは良く分かるわ。でもね、中途半端な
 優しさは、かえって相手を傷付けるものなのよ。辛いだろうけど、早めに
 はっきりさせといた方がお互いのためなのよ」

 「……うん……分かってる……分かってるよアスカ……」

 「そう、分かってるのならいいけど……で、どういう風に断るつもりなの?」

 「え? そ、そうだな……やっぱり、『もう好きな人がいるから』 ってのが
 一般的なんじゃないのかな?」

 「ほほう……。でもねシンジ、そう言えば 確実に『誰が好きなの?』 って
 聞き返されるわよ」

 「そ、そうなの?

 「そりゃあそうよ。自分が誰のせいで振られるのか、絶対に確かめるもんよ」

 「……そうなんだ……」

 「……で、シンジ、どう答えるつもり?」

 「え?」

 「どう答えるの、碇くん? 私も知りたい」

 「え、あ……あの…………


 じぃ~~~~~~


 レイとアスカ、二人はじ~~~っと、期待と不安の入り交じった複雑な目で
 シンジを見つめる。

 「う……。いや……だから……」

 「答えて、碇くん」

 「答えてよシンジ」


 「…………」


 <つづく>


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