新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十二部 Cパート


 シンジがネルフで練習するようになってしばらくすると、

 シンジが学校で練習しなくなったのは、アスカが一人占めしている
 せいだ。

 という噂が学校中に広まった。そのため、シンジが学校にいる間になんとかシンジに
 アプローチしようと、今まで以上に積極的に迫って来る生徒が増えたので、アスカと
 レイは共同でこれらのガードに必死になっていた。


 そして、ある朝。

 シンジ、レイ、アスカの三人が、いつものように嫉妬と羨望の眼差しの中、
 仲良く登校してきた。

 そしてアスカが靴箱を開けると、いつもの事ながら大量のラブレターが入って
 いた。

 「相変わらずもてるね、アスカ」

 「ほんと、いつも一杯ね」

 「まったく……懲りない連中ね。直接私に告白に来れないような軟弱な男を、この
 私が相手にするとでも思ってんのかしら」

 そう言いながらも、アスカはラブレターの束をカバンの中に詰めていく。不愉快そう
 に踏みつけていた頃に比べると、かなり人間が丸くなってきているようだ。
 ……もっとも、カバンに入れるだけで読むわけではないのだが……。

 「あ」

 「ん? どうしたの、レイ? ……あら、レイも結構やるわね。ふ~ん、私と同じ
 くらいか~」

 『さすがこの私が唯一ライバルと認めるだけの事はあるわね』

 レイの靴箱の中にも、アスカに負けないほどのラブレターが入っていた。

 「碇くん、これ、どうしよう?」

 「ど、どうしようって言われても……綾波に来たものだし……僕がどうこう言う
 わけにはいかないし……」

 『……相変わらずシンジらしい返事ね。もっとも、そんなの捨てろなんてレイに
 言われても困るけどね。レイなら喜んで捨てるだろうし……ま、私もそう言われ
 たら捨てるだろうけど……』

 「レイ、放っときゃいいのよ、そんなもん」

 「でも……私、こんなものもらったの初めてだし……。アスカは慣れてるんでしょ?
 どうすればいいの? 教えて」

 「慣れてるったって……こういうのはケースバイケースだし……。ねぇレイ、ほんと
 に今までラブレターもらった事無いわけ?」

 「うん」

 「という事は、その手紙出した連中は、レイが笑うようになってから手紙を書いた
 って事でしょ。つまり、レイの外見しか見てないって事よ。そんな連中
 放っときゃいいのよ。どうせ付き合う気は無いんでしょ?」

 「うん」

 アスカのセリフには『シンジ以外の男と』という意味がこもっている。もちろん、
 レイもその事は分かっている。

 「まぁ、レイは結構律義だし、無視するのも気がひけるんなら、とりあえず
 付き合えないって返事書いておけばいいわ」

 『良く考えたら、レイってこの辺でも随分変わったわね。昔なんか平気で人の事
 無視してたのに……』

 「うん、ならそうする。でも、アスカもそうした方がいいと思う」

 「う……分かったわよ」

 「ははは」

 「何よシンジ、何がおかしいわけ?」

 「あ、ごめん。やっぱりこういうのはアスカに任せるのが一番かな、と思ってさ」

 「別に、この道のプロってわけじゃないわよ……」

 そう言って、アスカは少し拗ねたようなフリをする。

 「ほらシンジ、さっさと靴履き替えて! 教室行くわよ!」

 そう言って、アスカはシンジの靴箱を開ける。すると、もはやお約束だが、シンジ
 の靴箱の中にも大量のラブレターが入っていて、ばさばさと床に落ちた。

 『……僕以外の人も手紙入れようとして靴箱開けた時、こんな風に崩れたんだろう
 な……。全部の手紙を入れ直してくれる時ってどんな心境なんだろう……』

 シンジはラブレターなど今までもらった事が無かったので、どこか他人事のように
 考えていた。

 (……発想がずれているような気もする)

 「……さすがは無敵のシンジ様。おモテになる事」

 「……碇くん……」

 「え? あ、あの……その……ど、どうしようか、これ?」

 「さっきシンジがレイに言ったじゃない。シンジに来たものを私たちがどうこう
 言うわけにはいかないわよ」

 「で、でも……僕、こんな物もらった事無いし……どうしていいか……」

 「ふ~ん……シンジも初めてもらったわけ?」

 「当たり前だろ!」

 はっきりそう答えるシンジ……少し情けない。

 『ふ~ん……という事は、あいつら(碇シンジファンクラプ)の仕業ね……。
 まったく……ここんとこ おとなしくしてると思ったのに……』

 「仕方ないわね。シンジ、特別にこの私がアドバイスしてあげるわ」

 「ほんと!? ありがとう、アスカ!」

 「心して聞くのよ」

 「うん」

 シンジは期待してアスカを見ている。アスカはすーっと息を吸い込む。

 そして、

 「こーんな美人と一緒に暮らしておきながら、
 ヨソの女に手を出すようなヤツはロクな死に方
 しないわよ! よーく覚えておくのね!!」

 「は、はい……

 シンジはアスカの迫力にたじたじになっていた。そのアスカの後ろでは、レイが
 うんうんとうなずいている。

 「それとシンジ、さっきから妙に嬉しそうにしてるのは、私の気のせいじゃない
 わよね? ラブレターが嬉しいわけ?

 「……碇くん……」

 「い、いや……あの……その……僕、こんな物もらった事無かったから……その……
 どういう反応していいか分からなくて……悪い気はしないし……」

 「ほぉ~~~!」

 「い、いや……その……だ、だから……」

 「碇くん」

 「は、はい」

 「明日から私が毎日碇くんに手紙を書いてあげる。だから碇くんも
 私に手紙を書いて欲しいの」

 「え?」

 「ちょっとレイ、あんた何わけのわかんない事言ってんのよ?」

 「だって、碇くん手紙もらって嬉しそうだったから……。それに……私も碇くん
 から手紙もらうと嬉しいから……。碇くん、私の手紙じゃ……だめ?」

 「はぁ~~~っ。最近そういう事言わなくなってきてたから少しは成長したのか
 と思ったけど、全然変わってないわね~。いいこと レイ、いつも読んでる少女
 マンガにも出てるように、ラブレターなんてのは恋愛の最も初期の段階よ。
 それから色々とイベントをこなして、段々と親しくなっていくものなの。シンジと
 一緒に暮らしてるのに、何で今さら手紙なんて手を使わないといけないのよ?
 直接話せばそれでいいじゃないの」

 「あ、そうか……。でもやっぱり私、碇くんからの手紙が欲しいし……」

 「綾……波……」

 「はいはい、分かったからそのくらいにしておきなさい。とにかく、私たちに来た
 ラブレターの事は昼休みにでも検討するとして、さっさと教室行くわよ。
 あ、それとシンジ、相田にだけは絶対に知られちゃだめよ」

 「うん、分かってるよ。ケンスケに知られたらまた何される事か……」

 「でも、お昼ご飯いつもみんなで食べてるでしょ? どうやって三人だけになる
 の?」

 「う~ん……そうね~~~。ま、ネルフからの指令とかなんとか言ってごまかせば
 いいわ。じゃ、教室行くわよ」

 「うん」

 「ええ、そうね」

 こうしてシンジ達は教室に入っていった。シンジはその後 昼休みまで、初めて
 もらったラブレターが気になり、授業は全く頭に入らなかった。

 『誰が手紙くれたんだろ……何を書いてるのかな……何で僕に……?』

 そんな事を考えているシンジの心を見抜いてか、アスカは 昼休みにどうするかの
 計画を立てていた。一方、こういう事に疎いレイはというと、自分に来たラブレター
 の事などすっかり忘れ、シンジの様子がいつもと違うのを、不思議そうに見つめて
 いた。


 で、あっという間に昼休み。

 シンジ達はトウジやケンスケ、ヒカリを何とかごまかし、屋上に集まっていた。

 「ま、ここなら誰も来ないわね。シンジも随分と気になってるみたい
 だし(言葉にトゲあり)、レイも含めてこの私が特別にアドバイスして
 あげるから、うんと感謝してよね」

 「うん、分かってるよ、アスカ」

 「お願いね、アスカ」

 「ええ、任せなさい。でも、時間が無いからこの続きは来週ね」


 <つづく>


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