新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十一部 Dパート


 「不安なの! どうしようもなく不安なのよ! 一人は嫌…… もう一人
 は嫌!!」

 アスカはそう言い、泣きそうな顔をする。そんなアスカを見て、レイは気が付いた。

 『この人も私と同じなんだ』 と。

 シンジを愛し、求めている。自分を見て欲しい、ずっとそばにいたい、一人は嫌。
 想いは同じ、同じなんだ……。

 そう思うと、これまで以上にアスカに親しみが湧いてくる。

 「……大丈夫よ、アスカ。私も碇くんもどこにも行かない。アスカを一人にしたり
 しない。ずっと三人一緒よ

 「…………ほんと?」

 「うん、ほんとよ。前に碇くんが言ってくれた。私もアスカも同じように好きなん
 だって。とても大切な人だって。どちらかを選ぶ事なんてできないって、そう言って
 くれた。だから、私も碇くんもアスカを置いていったりしない。私たちはずっと
 三人でいられるの」

 「ほんと……ほんとにシンジがそんな事言ってくれたの?」

 「うん。だからアスカ、心配する事なんて無いよ」

 「ね、ねぇ、レイ……」

 「なに?」

 「もし……もしもよ……。今日、シンジと買い物に行ったのがレイじゃなくて私だっ
 たとしたら……シンジ……私の事……レイと同じように……守ってくれたかな……」

 「当たり前じゃない」

 どうしてそんな事聞くの? というような顔で、レイはあっさりそう答えた。

 アスカは嬉しかった。レイの気持ちが、シンジの気持ちが……。圧倒的に有利な
 立場を捨ててまで自分の事を元気づけてくれるレイの心が嬉しかった。ただただ、
 嬉しかった。

 しかし、そんな時、ふとある事を思う。

 『もし今、自分とレイの立場が逆なら、自分はレイと同じような行動を取れるのか?
 圧倒的に有利な立場を崩してまで、自分はレイを元気づける事ができるのか? 自分
 は心の貧しい人間ではないのか?レ イにここまで気遣ってもらうに値するのか?』

 そう思い、不安になってくる。そして、その思いをレイに伝えてみる。すると、

 「うん、アスカだってきっと同じようにしてくれたはずよ」

 と、レイは迷う事なく明るく答えた。

 「ど、どうしてそう思えるの?」

 「だって、本当に心の貧しい人なら、そんな事私に聞いたりしないもの。私に正直に
 言ってくれたのは、アスカが優しいから。同じようにしてくれるからよ。私も碇くん
 も、そんなアスカが好きなの」

 そう言い、レイはとても嬉しそうな、綺麗な笑顔を見せる。

 「……レイ……ありがとう……」

 「うん」

 アスカはレイの前で始めて涙を見せた。しかし、決して、悔しいとか不快な気分では
 なかった。むしろ、幸せな涙だった。

 「……ねぇ、レイ」

 「なに? アスカ」

 「そんな事、いつの間にシンジに聞いたの?」

 「前に海に行った時に聞いてみたの。そしたら、そう言ってくれたの」

 「海? でもあの時、私だってずっと一緒だったじゃないの」

 「アスカ、ビール飲んで酔っ払っちゃってたでしょ。あの時、夜中に碇くんが目を
 覚まして散歩に出掛けたの。私もその時目が覚めたから、碇くんを後から追い掛けた
 の」

 「そうだったの……。そんな事があったんだ……。失敗したなぁ……やっぱりビール
 なんて飲むもんじゃないわね」

 「ふふふ、そうね」

 「……でもレイ、雰囲気からして、話だけじゃないんでしょ?

 え? あ、あの、その……」 (真っ赤

 「お願いレイ、隠さないで本当の事教えて」

 アスカの真剣な目に、レイもごまかす事はしなかった。

 「碇くんにお願いして、一度だけキスしてもらったの……」

 「そ……そう……やっぱりそんな事があったんだ……」

 「だ、だって、アスカが羨ましくて……」

 「私が羨ましい? どうして?」

 「だって、アスカ、碇くんに二回キスしてもらってるんでしょ。なのに私は一回しか
 してもらってない。それも私から……。だから、どうしても碇くんからキスして
 もらいたかったの。だから……。

 「呆れた。あんたそんな理由でキスしたわけ~?」

 「だ、だって……碇くんの気持ちも聞きたかったし、アスカの方が好きなのかと
 思って不安だったし……。そしたら、私の事も好きって言ってくれたの。だから
 嬉しくて……」

 『そっか。レイも私と同じなんだ……私の事羨ましかったんだ……』

 「じゃあレイ、私もシンジに裸で押し倒されて、胸を触られてもいい
 わけね?

 「え? そ、そんなぁ!」

 「だってそうでしょ? 私、シンジに胸なんか触ってもらってないわよ。レイは一回
 あるんでしょ。なら私もいいって事よね」

 「、ううう……」

 「ふふふ、冗談よ、レイ。いくら私でもそんな度胸ないわよ。それに、ほんとに事故
 だったんでしょ?」

 「うん、本当に事故だから……。それに、あの頃の私、男の人の前に裸で出たり
 胸を触られる事の意味も知らなかったから……」

 「ふ~~~ん、じゃあ今は知ってるんだ、胸を触らせる意味」

 」 真っ赤っ赤~

 「ふふ、冗談よレイ、ごめんね。それにしても、シンジと同じでからかいがい
 があるわね」

 「もーアスカったら……」

 「ふふ、じゃあ一緒に寝てたのも偶然なんだ……。そうよね、シンジにそんな度胸
 あるわけないか……」

 「アスカだって一緒に寝てたんでしょ、碇くんと。それも自分の意志で」

 「う。そ、それはその……。ま、まあいいじゃない、もう済んだ事よ。それより
 レイ、どうやってシンジに迫ったの?

 「え? ど、どうって?」

 「だから、どんな作戦を……って、レイがそんな事するわけないか。どうせ、素直に
 『キスして欲しい』 とか言ったんでしょ?」

 「う、うん」

 「失敗したなぁ。そうよね、シンジにはその方がいいのよね……」

 「?」

 「ほら、海で私とシンジがいなくなった時あるでしょ」

 「うん」

 「あの時ね、私、シンジにキスしてもらおうと思ったの。でも、色々余計な事しちゃ
 って、結局してもらえなかったの。素直にキスして欲しいって、そう言えば良かった
 のかな……」

 「そうだったの……」

 「ねぇレイ、一つお願いがあるんだけど、いいかな?」

 「なに?」

 「うん、あのね……シンジとの間に何かあったら、隠さないでちゃんと話して欲しい
 の……。もちろん、私もシンジと何かあれば全部レイに話すから。隠し事はしないで
 欲しいの……。お願い……」

 「うん、いいよ。私もアスカに隠し事なんてしたくないから」

 「その割にはシンジとキスした事隠してたじゃない」

 「だ、だってこういう事は人には話しちゃダメってアスカが言ってたじゃない」

 「私にはいいのよ。他の人には駄目だけどね」

 「そ、そうなの。じゃあそうする」

 「ありがとうレイ……。そうよね、シンジは私やレイの事を同じように好きだと
 言ってくれたんでしょ。私もレイもシンジの事好きだし……。それなら、いつも
 三人でいればいいのよ。買い物する時も、デートの時も。そうすれば、残った一人が
 気がねする事もないし、嘘つく必要もないし。そうしよ、レイ」

 「ええ、いいわよアスカ、私たちずっと三人でいよう。私もその方が嬉しいし。
 きっと碇くんも喜ぶと思うから」

 「ありがとう……レイ……ほんとにありがとう」

 「うん」

 「そうだレイ、晩御飯、私が作る

 え!? ど、どうして?」

 「んふふふ……バツよ」

 「え? 罰?」

 「そー。私に黙ってシンジとキスした罰。今日は私の料理を食べてもらうわよ。いい
 わね、レイ」

 「う…………はい……

 「よーし。さ、作るわよ~~~!」

 アスカはようやく吹っ切れたようで、目を輝かせていた。レイは、『アスカが元気に
 なるのなら仕方ないか……』 と思いながらも、何とか人間の食べられる物を作って
 もらおうと、精一杯フォローしようと心に決めた。


 しかし、キッチンは戦場になった。


 「とぅりゃああああぁぁぁ!!」

 「ああっアスカっ! それ砂糖!!」

 「うりゃあああぁぁぁ!!」

 「ああっそんな事したら火事に!!」

 「てりゃああああぁぁぁ!!」 『うけけけけけ~~~』

 「ああっ料理から変な声が!? って何、今の!?」

 「とどめぇぇぇぇ!!」

 「とどめって何ぃぃぃ!?」


 ……こうして、アスカの手料理(?)は完成した。

 「よーしできたわ、完璧ね。さ、レイ、シンジ呼んでこよ。ってレイ、なに目を
 回してんの?

 「あぅ~~~」 (ぐるぐるぐる……)

 「レイ! レイってば!」 (かっくん かっくん)

 「な、なに、アスカ?」

 「だから、シンジ呼びに行くわよ。レイ一人残したら味付け変えちゃうかも
 知れないし。二人で行くわよ」

 「わ、私、そんな事しないわよ」

 『と言うより、多分味を直すなんてできない……今日はご飯だけ食べよう』

 レイは心からそう思っていた。

 「シンジーご飯できたわよー!」

 「碇くん、大丈夫? 食べられる?」

 「あ、うん、分かった。すぐ行くよ」

 そう言って、シンジはふすまを開けて出てくる。すると、キッチンから香ばしい
 ……とは言えない不気味な匂いが漂ってくる。

 「?」

 「さーシンジ、食べよ食べよ」

 アスカはそう言って、シンジの手を引き連れていく。

 

 テーブルの上には、まさにそんな擬音がぴったりの料理が並んでいた。


 シンジの運命やいかに!?


 <つづく>


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