テーブルの上には、まさにそんな擬音がぴったりの料理が並んでいた。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十一部 Eパート (最終回)


 「……えーと……なに……これ?」

 『ぷっ!』 レイは思わず吹き出してしまう。

 「料理よ、失礼ね」

 「ア、アスカが作ったの?

 「そーよ、ありがたく思いなさいよね。何たって、この私の手料理が食べ
 られる幸せな男はシンジだけなんだから」

 「で、でもどうして……。味付けは綾波に任せるって……」

 「あぁ、その事? だってこれはだもの」

 「罰?」

 「そー、私に隠れてレイとキスした罰よ」

 「え!? な、なんでア、アスカがその事を……」

 「ごめんなさい碇くん、私が話したの」

 「な、何で……」

 「ふふン……シンジ、いい事? 私とレイはお互いに隠し事はしないと決めたの。
 だから、私たちに嘘ついてそれぞれといい思いしようなんて考えは
 捨てる事ね」

 「僕は元からそんなつもりはないよ。二人が仲良くしてくれるのが一番嬉しいから
 ね。でもアスカ、自分の料理を食べさせるのが罰だなんて、なんか虚しくない?」

 「私もそう思う」

 「う、うるさいわね……。私だってそう思ってるんだからいちいち気にするんじゃ
 ないわよ。さぁ、早く食べなさいよ」

 「で、でもほらアスカ、僕、今口の中切ってるし……刺激物はちょっと……」

 「失礼ね、食べもしないで決め付けないでよ」

 「あ、ご、ごめん」

 『う~ん……でもこれはどう見ても美味しそうには見えないんだけど……』

 「ちなみにアスカ、試食してみたの?」

 「してないわよ」

 「な、何で?」

 「そりゃ、シンジに最初に食べて欲しいからよ」

 アスカは少し赤くなりながらそう告げる。いくら罰とはいえ、手料理を食べてもらう
 のは嬉しいらしい。

 そんな事を言われたら断れるはずもなく、シンジは勇気を出して一口食べてみる。

 「……う」 くらくら~

 口の中を切っているので、すさまじくしみて痛かった。そして、文章にすらでき
 ないすさまじい味が口の中に広がる。おまけに幻覚まで見えていた。

 「なによバカシンジ! 大袈裟なんだから。こら、レイ! あんたも
 なにご飯ばっかり食べてんのよ! おかず食べなさいよ!」

 「で、でも……」

 「駄目よ、罰なんだから

 「う、うん…………」 ぱく


 しくしくしくしくしく……


 「何よ、泣く事ないでしょ!?

 「だって……この味……。アスカも食べてみたら……」 くすん

 「そうだよ、僕たちが決して大袈裟じゃないって分かるから」

 「分かったわよ」  ぱく


 …… ぱたっ


 「ああっ! アスカが倒れた!」

 「アスカ、アスカ! しっかりして!」


 「う、う~ん……私はいったい……

 「綾波、水持ってきて」

 「はい」

 アスカはレイから水を受け取り、一気に飲み干す。

 「……はぁ はぁ はぁ…… 何よこれ?」

 「アスカが作った料理だろ」

 「う。そりゃそうだけど……。どうやったらこんな味になるのかしら……」

 「こっちが聞きたいよ」

 「ほんとよね。そうだアスカ、私と碇くんで教えるからお料理の勉強しない?」

 「え? 料理の勉強?」

 「うん、それがいいよ。何かある度にこれ食べさせられたら命に関わるからね」

 「何よ? 私がまた料理作らなきゃならないような事するつもりなの?」

 「そうじゃないよ。ただ、このままだとアスカの将来は絶対ミサトさんだよ」

 「私もそう思う」

 「う。それは確かに……嫌ね……

 ……結構失礼な三人だった。

 「しょうがないわね、習ってあげるわよ。すぐにシンジやレイより美味しいもん
 作ってやるんだから。ところでシンジ、これどうしようか? 味直せる?」

 「う~ん……直したいのはやまやまだけど、どうやったらこんな味になるのか
 分からないから直しようがないね。卵で何か作るよ、早速練習だね、アスカ」

 「目玉焼きくらいから始めればきっと大丈夫よ」

 「よ、よーし、やってやろうじゃないの、目玉焼きくらい」

 アスカがやる気になった頃、ミサトが戻って来た。

 「ふ~ただいま~~~! あ~おなかペコペコ。ど、どうしたのよ
 シンジ君!? そのケガ!?」

 ミサトは、シンジが額に包帯を巻き、あちこちにバンソウコウを貼っているのを見て
 慌ててしまう。

 「あ、ちょっとケンカしちゃって」

 「ケンカ?」

 シンジ達は、何があったかをミサトに話す。

 「……そうだったの、そんな事が……。シンジ君、女の子を守ってあげるのは
 いい事なんだけど、シンジ君自身も身体に気を付けてね。勝てないと思ったら
 逃げればいいんだから。もちろん、一人で逃げちゃ駄目だけどね。それと、すぐに
 保安部を呼んでね。携帯に非常事態のボタンがあるの知ってるでしょ」

 「はい、でもちゃんと押したんですけど、来ませんでした」

 「ほんとに?」

 「はい、私も気付かれないように押したんですが、来ませんでした」

 「二人とも押したのに来ないなんて……何やってんのかしらまったく……。後で
 きつく言っとかないといけないわね」

 彼らに罪は無いのだが、そんな事はミサトには関係無かった。

 「それでシンジ君、頭痛くないの? 本当に大丈夫なの?」

 「はい、綾波とアスカが治療してくれましたから、もう大丈夫です」

 「そうなの、良かった。でも明日、念のため検査だけは受けてね。頭だし、もしもの
 事があったらいけないし」

 「はい、分かりました」

 「ふ~……一安心したらお腹すいちゃった」

 そう言って、ミサトはひょいと一口食べてみる。

 「あ、ミサトさんそれは……」

 「ん~~~! シンちゃんまた味変えたの? なかなかイケるじゃない

 「…………タフですね、ミサトさん」

 「ほんと……すごい」

 「ん?」

 「ミサト、自分で作っておいて何だけど、どうしてこれが食べられるのよ?」

 「へ~、アスカが作ったんだ、なかなかやるじゃない。美味しいわよ

 「…………シンジ、早速料理の勉強がしたいんだけど」

 「そうだね」

 「私も手伝う」

 「ミサト、私の分あげるわ。好きなだけ食べていいわ」

 「あ、ミサトさん、僕のもどうぞ」

 「私のもあげます」

 そう言って、シンジ、レイ、アスカの三人は仲良く料理作りを始める。

 「? どうしちゃったの三人とも? 今日はまた一段と仲がいいわね。……ま、
 まさか……私のいない事をいい事に、三人で何か……

 「「「ありません!!」」」

 三人見事にハモり、そう答える。それが余程面白かったのか、シンジ達三人は笑い
 始める。

 「う~~~何よ何よ、私一人除け者にして~。絶対何かあったわね

 実際にシンジ達三人、特にレイとアスカの間のしこりは無くなり、三人の絆は更に
 強いものになっていたのだが、ミサトの想像はどこかズレていた。そして、こういう
 時の犠牲者といえば……

 あ~~ん! ペンペ~ン! シンジ君たちが私の事除け者にする
 の~。飲まなきゃやってらんないわよね~! 付き合うわよね、ペン
 ペン!」

 「…………」 嫌そうなペンペン

 「何よペンペン? 嫌だってーの?」 ギロッ

 ぶるぶるぶるぶる

 ミサトに睨みつけられ。ペンペンは慌てて首を振る。

 「そうよね、それでこそペンペンよね。さ~飲んで飲んで、食べて食べて

 そう言ってビールを飲ませ、アスカの料理を食べさせる。

 ?」

 ペンペンは目を白黒させ、部屋中を走り回り、謎の言葉を発しながら口から煙を吐き
 出し、倒れてしまった。

 「何よペンペン、付き合い悪いわね。いいわよ、一人で飲んでやる。徹底的に
 飲んでやるんだから!」

 目を回したペンペンの横で、ミサトはひたすら飲み続けた。その量は、ミサトが
 一度に飲んだアルコールの量の最高記録を更新したほどだった。

 そして、そんなミサトをよそに、シンジ、レイ、アスカの三人は、楽しそうに料理を
 続けていた。


 三人の絆は、これまで以上に強くなっていった。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十一部 守るべきもの、守られるべきもの 


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