新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十部 Eパート (最終回)


 「で、リツコ、原因分かるんでしょうね?」

 「ええ、ちょっと待ってて。今、マギを使って、どうして成長してしまったのかを
 シミュレートしてみるから」

 「あんた、マギをそんな事に使うわけ?」

 「使える物は何でも使う主義なのよ」

 「私たちの身体データも、それに入ってるわけね……」

 「だから銃を向けるのはやめてよ。一生懸命やるから」

 「まったく……」

 ミサトが呆れて見ていると、リツコはキーボードを高速で叩き、様々なデータを
 マギに入れ、隣の部屋から伝わってくるデータも次々と入力していった。

 「これでしばらくすれば結果が出るはずよ」

 「なるべく早くした方がいいわよ。こんな事が碇司令の耳に入ったら、どんな処罰を
 受けるか分かったもんじゃないわよ」

 「分かってるわよ。だからマギまで使って急いでるんじゃない」

 そう言いながら、リツコはモニター画面に映し出されているシンジ達を見ていた。
 それこそ、ありとあらゆる検査が行われていた。

 リツコは、そんな三人の中で、特にシンジを見つめていた。

 『ふ~ん……シンジ君ってああいう大人になるんだ……結構いい男ね……。
 前から可愛い所があるとは思っていたけど、さすがに年の差があるし、年下は
 ちょっと……と思ってたけど、良く考えたらシンジ君の方が碇司令より年齢的には
 近いのよね。それに、今の外見ならそんなに問題ないし……。レイとアスカだけ
 元に戻してシンジ君は元に戻さないでおこうかしら……一人だけ男だし……。
 女とじゃ薬の成分が違うとでも説明すればごまかせるし……』

 「……リツコ、リツコってば!

 「え!? な、なに、ミサト?」

 「あんた、今危ない事考えてるでしょ?」

 「な、な、何の事かしら?」

 「とぼけるんじゃないわよ。付き合い長いんだから、リツコが危ない事考え
 てる時くらい分かるわよ。まったく……子供に手を出そうなんて、何考えてるのよ」

 「わ、分かってるわよ。本気でそんな事考えたりしないわよ」

 「ほんとに? それにしても、あんた母子揃って碇家の男に弱いわね。
 遺伝的に服従遺伝子でも受け継いでんじゃないの?」

 「う……否定できない……

 「とにかく、シンジ君には手を出さない方がいいわよ。そんな事したら、レイと
 アスカに殺されるわよ」

 「う……確かにアスカならやりかねないわね。さっき首絞められたし……」

 「甘いわね、リツコ」

 「え?」

 「シンジ君が絡んだ場合、アスカよりレイの方が恐いのよ。

 『……死んで』

 の一言で殺されかねないわね」

 「う~ん……確かに……」

 「そもそも、リツコがさっさといい男見つけないから子供に手を出そうなんて危ない
 発想が出てくるのよ。私が加持君の友達を何人も紹介してあげたじゃない。あれは
 駄目なの?」

 「ああ、あれ? ダメね。この私に釣り合うような男は一人もいなかったわ」

 「その事なんだけどねリツコ、あんたとのデートどうだったか聞いたんだけど、全員
 その時の記憶を無くしてるのよ。あんた一体何したのよ?」

 「言ったでしょ、私に相応しくなかったから、私と例え一日でも付き合った記憶を
 持ってもらいたくなかったの。だからちょっと薬を使ってね、記憶を消したのよ」

 「……あんたねー、そんな事ばかりやってるから変な噂が立つのよ!
 記憶を消された人達、何か悪戯されたんじゃないかって脅えてたわよ」

 「失礼ね、私はそんな非常識な事しないわよ」

 「薬を使って記憶を消す事自体非常識なのよ!! ともかく、私は
 ちゃんと男を紹介してあげてるんだから、私が紹介しないから男ができないなんて
 文句言ってこないでよね」

 「分かってるわよ」

 「ねぇリツコ、リツコは私ほどじゃないとは言え、結構外見的にはまともなんだから
 男くらい私に頼らずに、自分で作ったらどうなの?」

 「ミサト、私に再び科学という名の悪魔に魂を売れって言うの?」

 「は?」

 「科学技術を駆使して自分好みの男を作り出せだなんて、私はもう二度と
 そんな事はしないと決めたのよ」

 「どぅわぁれがそんな事言ってんのよ!? 私は街に出て若い犠牲者
 を捕まえて来いって言ってんのよ!!」

 「あ、そ、そうなの……私はてっきり……」

 「まったく……どうやったらそんな発想がでてくるのよ? そもそも、勝手に他人で
 人体実験するなんて、十分科学に魂を売ってるわよ

 「も、もうしないわよ」

 「ほんとでしょうね? 今度やったらただじゃ済まないわよ」

 「分かってるわよ。あ、マギのシミュレート終わったみたいね」

 「で、原因は分かったの?」

 「えーと……あ、これが原因だったのね」

 「どういう事?」

 「つまり、メノレモB10は青かったでしょ。だから、Bという名前を付けたのよ。
 でも、どうやら青くなる成分が成長を促進させたみたいね。だから、その部分を
 別の物質……つまり若返る作用を持つ物質にすればいいのよ。マギによると、赤い
 物質になるみたいね。仮に、メノレモR10とでも名付けておきましょうか。
 これさえあれば三人とも元に戻れるはずよ。早速作らないとね」

 「でもリツコ、そんなに簡単にいくの? 骨や筋肉、皮膚なんかどうなるのよ?」

 「大丈夫よミサト、そんな事気にしてたらSFなんて成り立たないわよ。気にしなけ
 ればいいのよ」

 「き、気にしなければいいって……そんないい加減でいいわけ?」

 ミサトが呆れ顔でリツコを見ていると、モニターの中のシンジ達が苦しみ始めた。
 リツコは慌てて隣の部屋と連絡を取る。

 「ちょ、ちょっと! 何が起きたのよ!? あなた達、どういう事
 なの!?」

 「そ、それが全く……」

 「リツコ、どういう事よ!?」

 ミサトとリツコがモニターを見ながら、どうしていいか分からずにいると、シンジ達
 三人は見る見る小さくなっていき、元の十四歳に戻ってしまった。
 御都合主義丸出しで、髪まで元に戻っていた。

 「あ、元に戻ってる」

 「……どうして?」

 「良かった、元通りね」

 「データだ! データを取るんだ!」

 「これは貴重なデータになるぞ!」

 リツコのスタッフ達は、目を輝かせて再びデータを取り始めた。そんな様子を
 モニターで見ていたリツコは、肩を落としていた。

 「そ、そんな……こんなにすぐ効き目が切れるなんて……そんな……」

 「まぁ、結果的には良かったじゃないの。これに懲りたら、もうバカな事は止める事
 ね」

 と、そこにゲンドウと冬月が飛び込んで来た。

 「赤木君!?」

 「!? 碇司令!? ど、どうしたんですか、そんなに慌てて?」

 「シンジ達が大人になったと聞いたのでな。また君が何かしたんだろうと思って
 こうしてやって来たんだ。それで三人は今どこにいる?」

 「申し訳ありません。しかし、既に三人とも元通りになってますのでご安心下さい」

 そう言ってモニターの中の三人を指差す。

 『ぬぅ! もう元に戻ってしまったのか……大人になったシンジを見てみたかった
 のだが……』

 『成長したレイは恐らくユイ君とうりふたつのはず……。うーん、見てみたかった』

 「赤木君、この部屋は君のプロテクトが掛かっているために何もモニターできん。
 ネルフ内で隠し事はいかんぞ」

 「は、はぁ……」

 『やっぱり覗こうとしてたのね……こんなのに利用されてたなんて……』

 「さて、今回の君の行動に関する処罰だが……」

 「あ、そうだ碇司令、三人を映したテープがここに……」

 「ん? そ、そうか。ではすぐに提出したまえ」

 「は、はい、どうぞ」

 「うむ。今回の事は特に大目に見よう。今後このような事が無いようにな」

 「はい、分かりました」

 「碇、早く司令室で見るぞ」

 「ああ、冬月、分かっている」

 そう言うと、二人は大急ぎで部屋を出て行った。そんな二人を、ミサトとリツコは
 ドアから顔を出し、呆れつつ見送っていた。

 「何……あれ……凄いスピードね」

 「男っていつになってもああなんだから……。ネルフのNo.1とNo.2があれじゃあ
 先が思いやられるわね」

 「ほんとね、おまけにリツコはこんなだし……私がしっかりしないとね」

 「私がこんなってどういう事よ、ミサト?」

 「見たまんまじゃないの」

 「何よ、そこまで言わなくてもいいじゃないの。メノレモR10が完成しても使わせて
 あげないわよ」

 「あんたまだ懲りてないわけ!? とにかく、私はもう二度とリツコの手を
 介した物は口にしないと決めたんだからね。やるんだったら自分の身体を使う事ね。
 じゃあ、私はシンジ君たちを連れて帰るから。あんまり危ない事繰り返すんじゃ
 ないわよ。いいわねリツコ……ってあんた、なに注射器なんか持ってんのよ?」

 「あら、いつの間に? 私これで何しようとしてたのかしらね? 不思議だわ」

 「その中身、色からしてメノレモB10でしょ。あんたまさか、私に色々言われた
 からって、腹いせにそれを私に打とうとしてたんじゃないでしょうね?」

 「やーねー。ミサトの考え過ぎよ。気が付くと持ってただけよ。ミサトこそ、その
 手に持ったをどうするつもりなわけ?」

 「あら不思議、いつの間に? 私も無意識のうちに持ったみたいね」

 「うふふふふふふふふ……」

 「フフフフフフフフフ……」

 二人はお互いに隙を見せないように間合いを取り、不気味に微笑み合っていた。

 いつまでも、いつまでも……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十部 ミサトの参拾のお祝いに 


 ・ ・ ・


 -if-原稿担当、加藤喜一(仮名)氏による、後書き


 う~ん……なんかリツコの性格をマッドにしすぎたような気が……。

 しかしネルフの指導的な立場の人間ってこんなんばかりだな。いいのかネルフ?
 こんな事で……。しかもオヤジどもは……。

 ちなみに、レイがダイコンとネギを持ったのは、レーザーディスク11巻の内表紙
 イラストのユイさんがモデルです。うぉぉぉ、ユイすわぁ~ん!

 っとと。それじゃ、スーパーロボット大戦F完結編が待ってるのでこの辺で!


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