新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十部 Dパート


 「もっと誉めなさい」

 「は?」

 「イヤなの?」

 スチャッ、と銃を構える。

 『うわ~、ミサト目が据わってる……。とほほほ、お世辞なんてこの私が
 最も嫌うものなのに……。でも死にたくないし……とほほほほほほ……』

 その後、アスカは必死で、心にもないお世辞を並び立てた。

 「そーでしょ、なんたって加持君は、アスカじゃなく、この私を選んだんだもん
 ね~~~」

 『うう、今さらそんな事まで持ち出すなんて……後であのお菓子、ミサトにも食べ
 させてやる~』

 アスカは、リツコを成敗した後はミサトを抹殺してやる、と心に誓っていた。


 そんな二人を、少し離れた所で見ていたシンジとレイはというと……

 「ねぇ碇くん、ああいうのを『仲がいいほどケンカする』って言うの?」

 「う~ん……ま、仲がいいのは本当だろうけど、今の場合、ミサトさん本気だった
 ような……。それに、今のアスカは大人になってるし……。ほんと、ケンカ友達
 って感じだね」

 「ケンカ友達……。でも、ミサトさんは楽しそうだけど、アスカは嫌そうね」

 「そりゃあね、銃を突き付けられてたら対等のケンカじゃないからね。さて、そろ
 そろ止めようかな」

 「そうね、ミサトさんも随分と機嫌が良くなってるみたいだし。もう平気よね」

 「うん、今なら止めても大丈夫だと思うよ。さっきは下手に刺激したら、ほんとに
 撃ちそうだったからね。……でも、さすがにミサトさん、リツコさんの友達だけの
 事はあるな……いきなり銃を突き付けるなんて……。類が友を呼ぶってやつ
 かな……」

 そんな事を話していた二人に、この時代にもしぶとく生き残っていた八百屋の主人が
 声を掛けてきた。

 「お、そこの奥さん! 大根買ってかない? いいのが入ってるよ!」

 「え?」

 レイは、声を掛けられたのが自分なのかな? と思い、周りをキョロキョロと見てみる。

 「あの……私?

 そう言って、レイは自分を指差した。

 「そ、奥さん、買ってってよ。安くしとくからさ」

 じぃ~~~~~~ん!!

 レイは目を閉じ、体全体で感動していた。

 「お、奥さん、どうしたんですか?」

 「あの、綾波、どうしたの? 頭の上に大きな文字が浮かんでるけど……」

 「あのね! あのね碇くん! 私ね、奥さんって言われたの! 嬉しい
 な! 奥さんに見えたのかな……碇くんの……きゃ!

 そう言って、両手で顔を覆ってしまった。

 「え、えと、ぼ、僕はどう言っていいのか……」

 「おじさん、大根買います」

 「へい、毎度! 見ない顔だけど、新婚さんかい? 夫婦揃って買い物とは、
 仲が良くてうらやましいね!

 じぃ~~~~~~ん!!

 「ねぇねぇ碇くん! 明日からこのお店で買い物しましょ!」

 「う、うん、そりゃ構わないけど……」

 「奥さんいい事言うね~。よし、ネギをサービスしてあげよう!

 「あ、ありがとうございます! おじさん」

 「すいません。あ、あれ?」

 「ん、どうしたの、碇くん?」

 「いや……その……ネギと大根持ってる姿って……何だかどこかで見た事あるよう
 な気がして……。なんか、いいなって思って……」

 「似合ってるかな?」

 「うん、前にエレベーターの中で主婦が似合うかも知れないって言ったけど、良く
 似合ってるよ」

 「ほんとに!? 嬉しいな」

 『碇くん一人のための主婦になりたい……』

 「今晩は何作ろうかな。大根とネギか……」

 「鍋物がいいかな?」

 「鍋か……それじゃあもっと色々と買わないといけないね」

 くぉら! バカシンジ!!

 「う、うわっ!?」

 「きゃっ!」

 「さっさと助けに来なさいよ!! だいたい何のんきに買い物なんかしてん
 のよ。私たちが今どういう状況に置かれてるのか分かってんの? ほら、行くわよ
 二人とも!

 「あ、そ、そうだね」

 「ええ、今行くわ。あ、おじさん、はい、お金」

 レイはシンジから預かったカードで支払いを済ませると、待っている三人の元へと
 向かった。

 「それにしても失礼なおやじね。何でレイばっかり主婦に見えて、私には声掛けない
 のよ?」

 「私に言われても……」

 「そりゃあねアスカ、そんな服着てサングラスかけて買い物に来る主婦はまずいない
 からよ」

 「う~! これもみ~~~んなリツコが悪いのよ! 全部リツコのせい
 よ!!」

 アスカはレイとは対照的に、不機嫌の固まりになっていて、全ての悪い出来事は、
 みんなリツコのせいと考えていた。


 そして、四人はネルフ本部内にあるリツコの研究所に怒鳴り込んだ。

 「ちょっとリツコ!いったいどういうつもりよ!?」

 「あらミサト、遅かったわね。…………失敗か

 「どういう事よ!? やっぱり私で人体実験しようとしてたわね!?
 まったく、何考えてるのよ!?」

 「え、でもミサト、何の変化もないじゃないの。どうして私がお菓子の中にメノレモ
 B10を入れたのが分かったの?」

 「見なさいよ、コレ」

 そう言って、ミサトはアスカをミサトの前に押し出した。

 「…………どなた?」

 「私よ!アスカよ! 一体どうしてくれんのよ!?」

 「え? ア、アスカ!? ど、どうして? 若返るはずなのに、どうして成長
 したの?」

 「こっちが聞きたいわよ!!」

 「じゃあ……後ろの二人はまさか……」

 「シンジ君とレイよ! さっさと元に戻しなさいよ! できるんでしょうね?」

 「もちろんよ。なんたって私は天才なんだから」

 「失敗して正反対の結果を出したのはどこの誰よ?」

 「だから、それはつまりデータが少なかったからよ。でも、これは貴重なサンプル
 データが取れるわね。何たって三人もいるんだから……ぐえ、く、苦しい……
 い、息が……」

 アスカはリツコの首を思いきり絞めていた。

 「何のんきな事言ってんのよ!? バカな事言ってないでさっさと
 元に戻しなさい!!」

 「アスカ、止めなさい。気持ちは分かるけど今殺しちゃだめよ。やるんだったら元に
 戻ってからにしなさい。今リツコを殺しちゃったら元に戻れないかも知れないで
 しょ」

 「確かに、それもそうね。分かったわ、もうしばらく生かしておくわ」

 「はぁ はぁ はぁ…… ああ、酷い目にあったわ」

 「私たちの方がよっぽど酷い目にあってるわよ!」

 「それにしてもミサト、もうちょっと他に言い方ないわけ? 私が殺されてもいい
 って言うの?」

 「自業自得でしょ」

 「そんなに怒らなくてもいいじゃないの。それにしても……やっぱり私自身で
 人体実験しなくて良かったわ。いきなり四十歳はいやだものね……ぐ、
 ぐぇぇぇ

 「じゃあ何? 私が四十歳になってもいいって言うわけ~~~!?

 今度はミサトがリツコの首を絞めていた。

 「ミサト、今殺しちゃだめだってば! 落ち着きなさい」

 「あ、そ、そうだったわね。リツコ、死にたくなかったら早く三人を元に戻しな
 さい。いいわね」

 「分かってるわよ。けほ けほ。とりあえず、三人とも精密検査が必要ね。体の中で
 どういう変化が起きたのかを正確に知らなければ、対処のしようがないものね」

 「データ取るためなんでしょ?」

 「ま、まあ、それもあるけど、必要な事なんだからいいじゃない。でも、その前
 に……」

 そう言って、リツコはハンディカメラでシンジ達を撮影し始めた。

 「あの……リツコさん、何ですか?」

 「赤木博士?」

 「何やってんのよ、一体?」

 「これも検査の一環よ。それに、せっかく大人になったんだし、記念撮影も兼ねて
 ね」

 その言葉を聞き、アスカとミサトは再び殺気を膨らませ、シンジとレイは溜め息を
 ついていた。その気配を察したのか、リツコは慌てて隣の部屋へシンジ達を連れて
 いく。

 リツコの研究室のすぐ横には、最新鋭の設備が整った部屋があり、ここで様々な
 怪しい実験や、薬の調合が行われているのである。いわば、魔女の館の本館
 である。リツコは、その部屋に、ネルフスタッフの中でも特にリツコが目を掛け、
 弟子として使用している人たちを呼び集めた。

 「おおーさすが赤木博士」

 「素晴らしい」

 「我々ももっと精進しなくては」

 と、口々にリツコを褒め称え、シンジ達を観察していた。全員、リツコ並みの
 マッドサイエンティストで、科学万能主義者だった。

 (……いいのかネルフ、こんな連中ばっかりで……。ちなみに、マヤはこのメンバー
 の中には入っていないと付け加えておく)

 「な、なんか怖いな」 (シンジ)

 「そ、そうね」 (レイ)

 「……ミサト、ネルフってこんな連中を大量生産してるわけ? 日本の未来は暗い
 わね」

 「確かに、これはちょっと不気味ね……」

 「あらミサト、みんなとっても優秀な人材よ。私を含めて日本の未来を背負って立つ
 人達よ。じゃああなた達、シンジ君達の徹底的な調査をお願いね。私は隣の部屋で
 原因の究明してるから。ミサト、あなたはどうするの?」

 「リツコが危ない事しないように見張ってるわ」

 「信用ないわね~」

 「当ったり前じゃないの!」

 そう言いながら、二人はシンジ達の検査をスタッフに任せ、リツコの研究室まで
 やって来る。

 「で、リツコ、原因分かるんでしょうね?

 「そうねぇ……あと一週間くらい調査しないと何とも言えないわね」

 「そ、それって……もしかして……

 「そう。この続きは来週のお楽しみって事ね」


 という事で


 <つづく>


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