新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十部 Cパート


 「私が着こなしてるんだから服装が似合うのは当たり前よ。それ以外の評価はどう
 なの?」

 「え、それ以外って?」

 「だから……その……」

 「ふふふ。シンジ君、外見は大人になっても中身は子供のままね。思い出してみな
 さい。さっき、レイとアスカはシンジ君の服装について評価したわけじゃないのよ。
 中身についての評価だったはずよ。だから、シンジ君も二人の服装についてじゃ
 なく、中身について評価してあげなさい」

 「中身……ですか?」

 「そ、中身。さっきアスカの服が破けた時、バッチリ見たんでしょ?

 「な、何言ってるんですかミサトさん!? 僕は何も
 見てませんよ!!」

 「そうよミサト! 私はちゃんと隠したわよ!!」

 「なんだ、そーなの?つまんないわね~。惜しかったわね、シンちゃん

 「ぼ、僕は別に……その……」

 「ミサト、いい加減にしてよね! まったく……どうしていつもそういう事を
 言い出すのよ。だいたい、ミサトがそんな事言うと決まってレイが張り合おうと
 するんだから……って、こら、レイ! あんた何脱ごうとしてんのよ!

 「だって……」

 「だってじゃないの! 私は別にシンジに見せたわけじゃないん
 だから、レイも脱がなくてもいいの! 分かった?」

 「……碇くん、ほんとに見てないの?

 「う、うん、ほんとだよ。僕は見てないから

 「そう、ならいいの」

 「ちっ!」

 ミ~~サ~~ト~~!! 今、私たちがどういう状況に
 あるか本当に分かってんの!? 私たちの事をからかってる暇は
 ないはずよ!!」

 「あ。そ、そうね、今は確かにアスカの事からかってる時ではないわね。今、私たち
 がしなければならない事は一つね」

 「碇くんが、大人になった私たちを見て、どう思ってくれてるのかを聞く事です
 ね」

 「そう、まずはシンジ君の気持ちを……って、私はリツコの所へ殴り込もうって
 言うつもりだったんだけど……」

 「はぁ~~~相変わらずレイってどこか論点がずれてるのよね……。でも、ま、
 それも確かに大事な事ね」

 「そうね、女の子にとってはとても大事な事だものね。ほらシンちゃん、答えてあげ
 なさい

 「だ、だから……その……」

 「あ~もうじれったいわね! 前回から引っ張ってんだから、早く言い
 なさいよ!!」

 「う、うん。綺麗だと思うよ

 シンジは真っ赤になりながら、何とかそう告げた。実際に、成長した二人はとても
 綺麗だった。

 シンジの言葉を受け、レイとアスカはぱぁ~っと明るくなる。しかし、ミサトは更に
 追求してきた。

 「シンちゃん、そんな一般的なお世辞にも取れるような答えじゃだめよ。自分に
 とって、好みかどうかを答えてあげなくちゃね。で、どうなの? シンジ君にとって
 二人は好みのタイプ? それとも違うの? どっち?」

 ミサトは少し意地悪く、興味深そうにシンジを見つめている。そして、レイやアスカ
 は、期待と不安の混ざった複雑な表情で、じ~~~っとシンジの答えを待っていた。

 『う……逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ……』

 「こ、好みの……タイプ……です……けど……」 真っ赤

 ほとんど消え入りそうな小さい声だが、シンジは確かにそう言った。

 「良かった! 私、碇くん好みの大人になれるんだ。ほんとに良かっ
 た!」

 レイは泣き出しそうなほど喜んでいた。

 「あ、改まってそう言われると、て、照れるわね。でも、さすが私ね。こんな美人に
 成長するなんて、シンジも幸せもんね」

 アスカは思いっきり照れて赤くなりながらも、結構意味深な事を口走っていたりする。

 ミサトは、

 『で、どっちが好みのタイプなの?』

 と聞こうかとも思ったが、さすがにそこまでは意地悪くはなかった。何より、真っ赤
 になっている三人がとても微笑ましく思えてきたので、今回はわざわざ揉め事を
 起こす事はないかと思って、あえてこれ以上口を出さなかった。

 (……十分揉め事を起こそうとしてたように思うのだが……)


 「さ、あなた達、場もなごんだ事だし、リツコの所へ殴り込みに行くわよ。今日は
 確かネルフにいるはずだし……。徹底的にこらしめてやるんだから!

 「当然よ! 自分が犯した罪の重さをあの世で後悔させてやるん
 だから!」

 「じゃ行くわよ!」

 おぉーーーっ!! ←主にアスカの掛け声

 ほとんど、ヤクザの親分が子分を連れて殴り込みをかけるのと同じである。

 「じゃあペンペン、留守番よろしく」

 そう言って、ミサトはシンジ、レイ、アスカを引き連れてマンションを後にした。

 後には、あまりの事に脳が停止し、目を白黒させているペンペン一匹が残されて
 いた。


 「ちょっとミサト、車で行くんじゃないの?」

 「それがね、この前ボーナス出たんで、全部レストアに出してんのよ。だから駅まで
 歩いて行きましょ」

 「タクシー使えばいいじゃないのよ」

 「だから、車に使ったからそんなお金ないのよ」

 「まさか、ボーナス全部車に使ったわけ?」

 「だ、大丈夫よ。お酒は前もって買ってあるし、食費はシンジ君に前もって別カード
 で渡してあるから心配ないわ」

 「呆れたわね。もうちょっと計画的にお金使いなさいよ。こんな時のためにも、
 少しは残しておくのが当たり前でしょ!」

 「じゃあ言わせてもらうけどね。一番食費掛かってんのはアスカよ。いつも人一倍
 パクパクパクパク食べて、少しは遠慮しなさいよ」

 「う、うるさいわね。ミサトの酒代に比べたら遥かにましよ。まったく……一日中
 飲んでるんだから。ほとんどと言うより、完璧にアル中

 「ぬわんですってぇぇぇ!?」

 「なによ!?」

 「あ、あの二人とも、今はそんな事を言ってる時じゃないと思うんだけど……」

 「私もそう思いますけど……早くネルフ本部に向かったほうがいいと思いますから」

 「そ、そうね、今は私たちが争ってる時ではないわね」

 「このエネルギーは全てリツコにぶつけるべきね」

 「じゃあ行きましょう」

 シンジが何とかその場を収め、四人は近くの駅まで歩き始めた。


 シンジ達四人は、結構周りから注目されているようで、みんながシンジ達の方を
 向いていた。

 「ねぇ碇くん、何だか周りの人が見てるみたいなんだけど……」

 「うん、そうだね。どうしてだろう?」

 「やーねーシンちゃん、こんな美少女美少年四人も揃って歩いてるのよ。
 目立って当然じゃないの」

 「美少女ぉ~~~!?」

 「……なによアスカ、何か言いたそうね

 「あのねミサト、自分の歳分かってて言ってるわけ? まぁ、加持さんが
 選んだんだから、”美”って部分は一万歩譲って認めてあげてもいいけど、”少女”
 って部分はどう考えても無理よ。ミサトもう三十なんでしょ。もう少し自覚して
 もらわないと」

 「アスカ、やめなよ」

 「そうよアスカ、ケンカは良くない事よ」

 「あら、私は別に嘘は言ってないじゃないの。はっきり教えてあげるのが
 ミサトのためってもんよ。そもそもミサトは……」

 ゴチッ!

 シンジ達の方を向いていたアスカの後頭部に、鋭い痛みが走った。

 「なによミサト!? 痛いじゃないの、いきなり殴るなんて何考えて……」

 しかし、振り向いて文句を言い掛けたアスカは、そこで硬直する。

 「ごめんなさいねアスカ、そんなに鉛の玉が欲しかったなんて。早く言って
 くれれば良かったのに……」

 ミサトは真顔でそう言いながら、アスカに向けて銃を構えていた。

 シンジやレイは、どうしていいか分からず、事の成り行きを見守っていた。

 「ミ、ミサト、じょ、冗談よね……。そ、それに、街中で銃なんか抜いたら、警察
 沙汰になるわよ」

 「大丈夫よアスカ、この街は事実上、ネルフが仕切ってるようなもんなんだから。
 一人や二人いなくなった所で、揉み消すのは簡単よ

 「なに笑顔で恐い事言ってんのよ。ほとんどマフィアね、ネルフって」

 「んふふふふ……権力持ってる分、マフィアよりタチが悪いわね」

 「自分で言わないでよ」

 「んふふふふ……アスカ、あなたには選択権があるわ。頭がいい? それとも、心臓
 がいい? 大丈夫、痛いなんて思う暇もないから安心して」

 「あ、あはははは……目がマジね、ミサト」

 「あ、アスカ、早くミサトさんに謝って! 何だか目つきが危ないし、
 本気で撃っちゃうかも……」

 シンジの隣でレイもうんうんとうなずいている。

 「ご、ごめんなさいミサト! 私が悪かったわ! うん、ミサトは若い!
 十分若いわ。もう立派に美少女ね」

 「そーでしょそーでしょ。やっぱりどっから見ても美少女よね~」 はぁと

 「さ、さぁ、リツコんとこ行くわよ!」

 アスカはそう言い、ミサトから離れようとする。

 「待ちなさいアスカ!」

 しかし、あっさりとミサトに捕まってしまった。

 「な、何、ミサト?」

 「もっと誉めなさい」

 「は?」

 「来週まで私を誉め続けること! いいわね!?」


 という事で


 <つづく>


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