新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第十部 Aパート


 特務機関ネルフ

 この組識には、世界でも最新鋭の器材、設備が揃っており、世界中の優秀な人材が
 次々と集まってきていた。そして、豊富な研究資金を背景に、様々な研究、開発が
 行われていた。

 そんなネルフの中でも、特に最新の技術を誇るのが、リツコ専用の研究室だった。
 リツコはそこで、誰にも邪魔される事なく、日夜怪しい実験を繰り返していた。

 そのため、ネルフスタッフの間では、

 魔女の館とその主

 として恐れられていた。もちろん、そんな噂がリツコ本人の耳に入れば、どんな目に
 あうか分かったものではないので、リツコはもとより、マヤの前でさえそんな事を
 話す者はいなかった。

 そんな魔女の館の主、つまりリツコに呼ばれたため、ミサトは仕事を終えた後、
 リツコの元へ来ていた。

 「リツコ~、私に用事って何?」

 「あら、やっと来たわねミサト。特に用って事はないんだけど、プレゼント
 渡そうと思ってね」

 「プレゼント? ……私に? …………リツコ、気持ちは嬉しいんだけど、私、
 そっちの趣味は無いから。犠牲者はマヤだけで十分でしょ?

 「何の話よ!? まったく……私だってそんな趣味持ってないわよ。だいいち、
 犠牲者って何よ?」

 「な、なんだ、違うの。あ~びっくりしちゃった。でも、それじゃあ何で私に
 プレゼントくれるわけ?」

 「だって、今日はミサトの三十歳の誕生日じゃないの」

 「う。そ、そう言えば今日は私の誕生日だったわね……」

 「あら、本当に忘れてたの? それとも、意識的に忘れてたのかしら?」

 「とほほ~~~私もとうとう三十歳かぁ~~~」

 「おめでとうミサト。どう? みそじに突入した感想は?」

 「あんまりめでたいもんじゃないわね。それにしてもリツコ嬉しそうね。そんなに
 三十歳の独身女の仲間ができたのが嬉しいの?」

 「あら、私は友達として、純粋にミサトの誕生日を祝ってあげてるだけよ。
 はい、プレゼント」

 リツコはそう言って、ミサトにプレゼントを渡した。

 「あ、ありがと……。でもリツコ、やたらと機嫌がいいわね。私が同類になった事
 以外にも何かいい事があったの?」

 「あ、分かる~~~?」

 「そりゃあね。で、何があったの?」

 「んふふふふふ~~~。実は、長年研究していた若返りの薬がようやく
 完成したのよぉ~~~! ……って、何よミサト、その思いっきり疑わし
 そうな顔は?

 「あ、私そんなに疑わしそうな顔してる? やっぱり?」

 「大丈夫よ。今度のは今までみたいに思い付きで作ったわけじゃないのよ。長年の
 研究の結果、ようやく完成したのよ」

 『思い付きで色んなもん作られるのも十分迷惑なんだけど……』

 「それが、このメノレモB10よ!!」

 そう言って、リツコは青い液体を取り出した。

 「メ、メノレモB10!? 何だか機械獣みたいな名前ね」

 「あら機械獣、懐かしいわね。ま、それはともかく、この薬は凄いわよ~~~。
 何しろ、飲んだだけで十歳は若返る、素晴らしい効果があるのよ!
 ……何よミサト、その疑いが確信に変わったような顔は?」

 「あ、私そんな顔してる? やっぱり?」

 「大丈夫よミサト、今回の薬は完璧なんだから何の心配も無いわ。だから
 安心していいのよ

 「ちょ、ちょっとリツコ、あんたまさか私で人体実験するつもり!?

 「あら、私はミサトのために言ってるのよ。加持君だって若い子の方がいいだろうし」

 「余計なお世話よ。私は大人の色気があるからいいの。だいたいリツコ、自分の
 ために作ったんでしょ。だったら自分で使えばいいんじゃないの、私より年上なん
 だから」

 「同い年でしょ、ミサト」

 「う……。あ、あはは……そ、そうだったわね。そう言えば私も三十になったん
 だった……。う、うん分かった、私が私が悪かったわ。だから……この銃
 どけてくれない……?

 ミサトは冷や汗を流しながら、額に突きつけられている銃を指差した。

 「分かってくれればいいのよ、ミサト」

 リツコはにっこりと笑って、銃を降ろした。

 「……しかしリツコ、あんた今の動き、やたら早かったわね……。この私に反応
 する隙すら与えないなんて……殆どプロの動きね……。だいたい、何よその銃、
 私見た事ないわよ?」

 「そりゃあそうよ。だってこれは私が作った銃だもの」

 「作ったぁ~~~っ!?」

 そ、実験の合間にちょこちょこっとね。だから世界に一つしかないのよ。ほら、
 ここにシリアルナンバーも入ってるわ」

 「……ねぇリツコ、前から聞こうと思ってたんだけど……あんた一体、何が専門
 なの?」

 「ん~~~そうね。自分でも時々分からなくなるんだけど……。あえて言えば、
 天才』の専門かしら」

 「天才って言うんだったら、さっさと男見つければいいのに……」 ぼそっ

 「何か言ったかしら!?」

 「だから、いちいち銃を向けるんじゃないわよ! じゃあ、何でその
 天才様が自分のために作った薬を私で実験しようとするのよ?」

 「いくら天才と言えども、ミスを0%にはできないのよ。私に何かあったら
 困るでしょ?

 「じゃあ何? 私に何かあってもいいって言うわけ!?

 「あ……ち、違うのよミサト。言い方が悪かったわね。ちゃんと説明するから
 銃向けるの止めてくれないかしら……」

 「まったくもー!」

 引きつった笑いを浮べるリツコを睨みながら、ミサトは銃を降ろした。

 (……しかしこの二人、本当に仲がいいんだろうか……謎だ)

 「じゃあ、どういう事か、きっちりと説明してもらいましょうか」

 「つまり、もし私が自分の身体で実験して、何かあったら私を元に戻せる人がいなく
 なるでしょ。でも、私さえ無事ならどうにでもなるじゃないの。だからミサト、安心
 して。何かあっても私が責任持って元の身体に戻してあげるから。……ちょっと
 ミサト、どこ行くのよ。話はまだ終わってないわよ」

 「付き合ってらんないわね。私、帰らさせてもらうわ。それとリツコ、一言警告して
 おくけど、こんな事ばかり繰り返してると、ますます悪い噂が立つわよ。ただでさえ
 ネルフでの危険人物No.2なんだから」

 ちなみに、危険人物No.1はもちろんゲンドウである。

 「じゃあ、これはありがたく貰っていくわね」

 ミサトは、リツコから貰った誕生日プレゼントを手にし、研究室を後にした。

 だが、その後ろ姿を見たリツコが、ニヤリと不気味に微笑んだ事を知る者は
 一人もいなかった……。


 そして、次の日の朝。


 日曜日という事もあり、シンジ、レイ、アスカ達は遅めの朝食を取った後、それぞれ
 の部屋の掃除をしたり、洗濯をしたりしていた。アスカも、シンジとレイの二人に
 説得され、渋々自分の部屋の掃除をしていた。

 そして、それも一段落したので、三人でお茶を飲んでいた。

 「あ~あ、まったく、どうして掃除ってこう面倒臭いのかしら。やっぱりシンジに
 任せるのが一番ね」

 「何言ってんだよ。アスカは洗濯しないし、食事の支度もしないんだから、自分の
 部屋の掃除くらい自分でやってよ」

 「そうよアスカ、それに部屋の中が綺麗な方が気持ちいいでしょ」

 「そりゃそうだけど……。でもシンジ、良くこんな面倒臭いもの毎日できるわね。
 感心するわ」

 「ふふふ。アスカも明日から私たちと毎日掃除する?」

 「そうだね、そうしてくれると僕も助かるんだけどな」

 「う。それはちょっと……。そ、そうだ、私の事よりミサトの方が問題じゃないの」

 アスカは、このままでは毎日掃除させられてしまうと思い、何とか話題を変えよう
 とした。

 「え? ミサトさん?」

 「そ。こんな時間まで起きてこないなんてどうかしてるわよ。嫁入り前の女とは
 とても思えないわね。加持さんもかわいそうね~、とんだ貧乏くじを引いたものね」

 「ああ、その事。ミサトさんなら、最近仕事で夜遅かったから、今日は起こさないで
 欲しいってテーブルの上に手紙が置いてあったよ」

 「疲れがすぐ取れないなんて、ミサトももう年かしらね~。ん? シンジ、あれ何?」

 アスカは、戸棚の隅に見慣れない箱があるのに気が付き、シンジに聞いてみた。

 「え? あれ? 何だろう……昨日までこんな物無かったのに……」

 シンジにも心当たりが無いので、何だろうと思っていると、レイが気を利かせて
 その箱をテーブルまで持ってきた。

 「何か書いてるわね。なになに……

 『ミサトへ。三十歳おめでとう。   リツコより』

 か。ふ~ん……ミサトってとうとう三十歳になったんだ~~~」

 「じゃあ、これってリツコさんからミサトさんへの誕生日プレゼントなんだ。でも、
 どうして僕たちに内緒にしてたんだろ?」

 「そうね。言ってくれれば私たちも何かプレゼントを用意したのに……どうして
 かしら?」

 「私たちに知られたくなかったんでしょ。三十歳といえば、もう若いとは言えない
 年だものね。後で思いっきりからかってやろ~~~っと」

 「あんまりミサトさんをからかわない方がいいよ。怒らすとまた無茶な訓練させ
 られるかも知れないし……」

 「分かってるわよ。怒り出しそうならすぐ止めるって」

 「でも、こんなプレゼントを用意するなんて、赤木博士って本当にミサトさんと仲が
 いいのね」

 「う~ん……これはちょっと、一概に仲がいいとは言えないような気が……」

 「そうね。どう見ても嫌味嫌がらせよね」

 「え?どういう事なの?」

 「ほらレイ、ここ見て。やたら三十歳の所を大きく書いて強調してるでしょ。
 つまり、リツコはミサトが自分と同じ三十歳になったのが嬉しいだけ
 なのよ」

 「?  ?  ?」

 「……まぁ、レイにはまだちょっと分からないかもね。ところでシンジ、この
 プレゼントってお菓子かな?」

 「そうだね、多分お菓子だと思うけど……それがどうかしたの?」

 「んふふふふふ……。せっかくお茶飲んでるんだし、ちょっとだけ食べて
 みない?

 「駄目だよアスカ」

 しかし、アスカは勝手に箱を開け、一つ口に入れた。

 ひょいぱく。

 「……変わった味だけど美味しいわよ」

 そう言って、更にお菓子に手を伸ばそうとした時……。


 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!


 <つづく>


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