新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第九部 Eパート


 「とにかく、シンジに渡すわけにはいかん! 俺は絶対にアタック
 するぞ!!

 「……しかしなー、玉砕は目に見えてるぞ」

 「男には、負けると分かっていても戦わなければならない時が
 あるものさ!」

 「そうだ! 当たって砕けろだ!」

 「砕けるのが分かってて当たるのは嫌だ」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「……くそ~、諦めるしかないのか……」

 「ううう……」

 「いや、ここはもっと前向きに考えるべきだ」

 「前向き?」

 「ああ。シンジの奴が綾波を選んだのなら、我々は惣流を目指せばいい」

 「おお! それは確かに前向きな意見だ!」

 「そうだな。人の女に手を出すのはみっともないからな」

 「いくら仲が悪そうでも、一緒に暮らしてるんだから何かあるだろうと思って遠慮
 していたが、シンジが綾波を選んだのなら、何一つ問題は無いからな」

 「しかし……」

 「何だよ? まだ何かあるのか?」

 「あの二人、本当に仲が悪いのか?

 「だってしょっちゅうケンカしてたじゃないか。口きくどころか、顔さえ合わせない
 ようにしてたし……」

 「だって、さっきシンジをかばおうとしてたぞ。あの惣流がシンジをかばうなんて、
 前までは絶対無かったぞ」

 「言われてみれば……惣流もなんか雰囲気変わったよな。相変わらずきつい性格の
 ようだが……」

 「シンジに自分の水着写真渡してたよな。俺達に買われるのは嫌でも、シンジになら
 持っててもらいたいって事だよな……。嫌いな男にそんな事はしないよな……普通」

 「メシ食わしてたよな……嬉しそうに……」

 「抱きついてたし……」

 「ウエディングドレス……」

 「写真買ってたし……」

 「綾波より前からシンジと暮らしてるし……」

 「まさかシンジの奴、惣流とも何か……

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………シンジには消えてもらおう

 「そうだな。それが我々の平和のためだ

 「女子の間でシンジの人気が高まってるらしいしな」

 「やっぱり、世界を救った英雄ってのはポイント高いよな」

 「いいかお前達、シンジがエヴァのパイロットだって事を知らない女子には絶対に
 教えるんじゃないぞ」

 「ああ、もちろんだ。これ以上シンジ一人にいい思いさせてたまるか。口止めされ
 てるし、ちょうどいい」

 「では、さっそく計画を練ろう」

 「どうやって事故に見せ掛けるか、だな」

 「ケンスケも仲間に入れよう。あいつの知識は役に立つ」

 「ああ、相当シンジに対して不満を持ってるようだし、喜んで参加するだろう」

 「楽しくなりそうだな」

 「ふっ ふっ ふっ……」

 こうして、クラスのあちこちで『打倒シンジ』の怪しいグループが成立して
 いった。


 同じ頃、女子も似たような話で盛り上がっていた。

 「ねーねー、なんか碇君って雰囲気変わったと思わない?」

 「あ、私もそう思う。前から結構、顔は良かったけどどこか頼りないって言うか、
 おどおどしてたとこあったでしょ。それが無くなってるって感じよね」

 「うん、自分に自信が付いたって感じ。なんかいーよね

 「そーそー。何だか守ってくれそうって感じ。でも、それでいて守ってあげたいって
 母性本能に訴えかけるものがあるのよねー」

 「何と言っても、あのロボットのパイロットで世界を守ったっていうのが素敵よ
 ねー」

 「うん、クラスメイトとして誇りよねー」

 「それなのに、ちっとも自慢しないのもいいわねー」

 「世間に知られていないヒーローよねー」

 「口止めされてるしね。でも私達は知ってるのよね、碇君がパイロットだって事」

 「秘密を共有してるって感じで嬉しいよね」

 「そうね。そーだ! 前から言ってた碇君のファンクラプを正式に発足
 させましょうか?」

 「ヒーローだもんね。何の問題も無いわ」

 「さっきの写真に直筆のサイン入れてもらおうかな……」

 「クラブのメンバーの証明になるしね、いいんじゃないかな」

 「他のクラスの子にも声掛けとこ。結構、碇君のファンって多いのよね」

 「でもどうする? 碇君がパイロットだって事教える?」

 「うーん……教えたらみんなファンクラブに入るだろうけど口止めされてるし……。
 それに、私達だけが知ってるっていう方が何かいいじゃない。だから、知らない人
 には教えない事にしましょ」

 「そうね。碇君に本気で寄ってくる人数は少ない方が私達にとっても都合いいしね」

 こうして、男子のねたみや女子の利害関係、ネルフの力などにより、シンジ達が
 パイロットである事はうまく隠され、シンジ達は平穏な生活を送る事ができた。

 「ねー、でも勝手にファンクラブなんか作ると惣流さんが文句言って来ないかな?」

 「別に碇君はアスカの物ってわけじゃないんだから問題無いわよ」

 「でも、さっきの態度見てると、なんか碇君の事、随分好きなみたいだし……」

 「それを言うなら綾波さんよ。どう見たって碇君にラブラブじゃない」

 「そうね、今まで無口で無表情だった反動か、やたらとストレートに表現してる
 し……見てるこっちが恥ずかしくなるくらい」

 「今、碇君と一緒に暮らしてるのよね……」

 「ひょっとして、押し掛け女房ってやつ?」

 「あの写真、本当に偶然なのかな……」

 「さっきヒカリに聞いたんだけど、どうやら本当に偶然みたいよ」

 「そうなんだ……良かった」

 「じゃあ、惣流さんは性格的に綾波さんに張り合って碇君を?」

 「でも写真見てるとそうは思えないし……」

 「本心からって感じよね……」

 「…………」

 「…………」

 「これはファンクラブの成立を急ぐべきね

 「ええ、あの二人がこれ以上親しくならないうちに手を打つべきね」

 「抜け駆けは無しよ」

 「そっちこそ」

 男子同様、女子も急速に一つのグループを結成していった。


 一方、その話を聞いていたアスカは頭を抱えていた

 『なんでよ? なんであんな優柔不断でふたまた掛けてるようなやつがこんなに
 もてるのよ? 世の中どうかしてるわ。そりゃ確かに優しいし、見かけより結構頼り
 になるし、料理は美味しいし……。と、とにかく、シンジにちょっかい出すやつは
 この私が許さないんだから!

 と燃えていた。一方、レイはというと、

 『良く分からないけど、みんなが碇くんの事誉めてる……嬉しい』

 と思い、ニコニコしていた。

 で、その話題の中心人物、シンジはというと、ぼんやりとこれまでの事を考えていた。

 『ここに来て色々あったな……最初は嫌な事ばかりだった……。でも、初めて親友
 と呼べるような人もできたし、友達も結構できた。恋人……と言っていいのか
 どうか分からないけど、綾波やアスカのように好きな人もできた……。僕の事を
 好きだと言ってくれる人ができるなんて……嬉しいな。こんなに嬉しい事だった
 なんて知らなかった。僕も随分と変わったのかな? ……前の学校の人が今の僕を
 見たらきっと驚くんだろうな。何しろ、僕自身が一番驚いてるんだから……』

 シンジはそんな事を思いながら、これからの事を考えていた。

 ネルフに来て、エヴァに乗るようになった時に諦めていた生活。

 退屈で何の変化も無いが、死ぬ事もまず無い、平穏な日常生活。
 それが再び始まるんだ、と考えていた。

 だが、その時ふと、クラス中の男子が交わしている、自分の暗殺(?)計画が耳に
 入ってきた。

 『は、はは……これは退屈してる暇は無いかも知れないな……。気持ちは分かる
 けど……。と、とにかく今日は逃げよう

 そう心に誓うシンジであった。


 <つづく>


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