新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第九部 Dパート


 「お、何だ何だ? う! こ、これはっ!?

 「どうした? な、何ぃ!?

 「し、信じられん!!

 クラス中にざわめきが広がっていた。そして、

 まるでゾンビのようにゆっくりと、シンジの元へと集まってくる。

 「あ……はは……あはははは……」

 シンジは引きつった笑いを浮かべるしかなく、すでに逃げる事を諦め、

 『綾波の包帯が必要になるかな~……』

 と考えていた。

 「ちょ、ちょっとあんた達やめなさい。これは単に事故なんだから。別に何も
 なかったんだから。レイの寝相が悪かっただけなんだから」

 「私が悪いの。朝起きたら碇くんの布団で寝ていただけ。碇くんは何も悪くないの。
 だから碇くんにひどい事しないで」

 だがしかし、クラスの男子達は止まらなかった。ゆっくりとシンジに近づいてくる。

 そして、その手がシンジに触れそうになった時……

 「あ~皆さん、おはよう」

 と、間延びした声で初老の担任教師が入ってきた。

 「き、きりーつ!

 ヒカリは慌てて号令をかける。教師が来たので、男子生徒達は仕方なく自分の席に
 戻っていった。

 少なくとも、教師がいる間はシンジの命は保証されたようだった。

 『た、助かった……』

 教師は教壇に立ち、教室を見回しながら口を開いた。

 「あ~皆さん、第三新東京市消滅という大惨事にもかかわらず、こうして誰一人
 欠ける事なく、再び皆さんと出会えた事を大変うれしく思います。これというのも、
 日頃の避難訓練の賜物ですね。

 また、かつてないほど区画整備された美しい街並みがこれほど短期間で完成し、
 私たちがこの街に戻って来れたのは、全世界の人々の暖かい心があってこそなの
 です。まさに、我々人類の優秀さの現れといった所ですね。

 何しろ、我々はセカンドインパクトという地獄から立ち直ったのです。その事に
 比べれば、今日の第三新東京市消滅など、些細な事でしかありません。何しろ、
 誰一人亡くなってはいないのですから、大惨事とも言えませんね。

 ……まぁ、何時におきても『大さんじ』と申しますか……」


 ピ  シ  ッ  !  !


 その教師のギャグ(?)を受け、レイを除くクラス中の生徒がと化してしまった。

 ちなみに、レイはギャグ(?)が分からなかったのではなく、シンジの事だけを見て
 いたため、聞いていなかったのである。

 この教師、以前は会話によって生徒を眠らせる能力があったが、いつの間にか
 石化能力まで身に付けてしまっていた。

 「おや? 受けませんでしたか……。やはり世代のギャップというやつですかね~。
 私の若い頃は今のギャグ(?)で三十分は笑い続けたものですが……。
 私の若い頃といえば、根府川に住んでましてね~、今はもう海の底ですが……」

 教師は、いつものように自分だけの世界にトリップしてしまった。

 しばらくすると、ようやく石化が解けたのか、生徒達が友人達と話し始めていた。
 ヒカリは、本来なら止めなければならない立場なのだが、自分自身久しぶりに会った
 友人達と話したいし、今のギャグ(?)でダメージを受けていたため、注意する
 気にもならなかった。おまけに、教師は自分の世界に入っているので、あえて何も
 言おうとはしなかった。

 そのせいもあり、クラス中は好き勝手な事を話し合っていた。

 「なーなー、シンジの奴、惣流だけじゃ飽き足らず、綾波とも一緒に暮らしてるって
 本当なのか?」

 「ああ、どうやら本当らしいぞ」

 「おまけに、あんな綺麗なお姉さんと一緒に暮らしてるだなんて……もはや犯罪
 だよな」

 「まったくだ。くそー、あいつ一人いい思いしやがって。さっきもっと殴っとくん
 だった」

 「ところでさー、あれ本当に綾波か?

 「た、確かに、いくら何でも変わり過ぎだ。さっきなんか、委員長と笑顔で挨拶
 交わしてたぞ。俺、綾波が笑ってる所なんて初めて見た」

 「オレもだ」

 「僕も。ひょっとして、双子の姉妹の明るい方とか……」

 「しかし、それなら無口は方はどこ行ったんだよ?

 「う~~~ん……やっぱりあれ、本人なのか?」

 「なんであんなに激変したんだ?」

 「女性があれだけ変わる原因と言えば……」

 「言えば?」

 「……やっぱり……こう……なんというか……」

 「ま、まさか、ひと夏の経験があったとでも?」

 「年中夏だが、その可能性が高いのでは……」

 「じゃ、じゃあ、まさか相手は……シンジ?

 「さっきの写真が、その時の証拠写真?

 「そして、責任を取るために一緒に暮らしてる?

 「うわぁぁぁ! スジが通る~! やっぱりそうなんだぁぁぁ!!」

 「なんてこったーっ! 先超されたぁーっ!」

 「シンジのやつー! ひとりだけ大人になりやがってーーー!」

 「ゆ、許せん!!

 「まぁ待て、お前たち!

 「!?」

 「いくら何でもそれはないんじゃないのか?

 「しかし、すべてのスジが通っているじゃないか」

 「良く考えてみろ、そもそもこれは-if-だ。尾崎氏の作品じゃない。
 もし何かあったとしても、キスまでだろう」

 「おお、なんかやたらと説得力がある。確かに言われてみればそうだな」

 「だろ」

 「じゃあ、なんであんなに変わったんだ?」

 「俺が知るわけないじゃないか」

 「お前達、綾波がどうしてあんなに変わったかは、この際そんなに重要な事じゃ
 ないんじゃないのか?」

 「? どういう事だ?」

 「つまり、今、最も重要な事は、今までノーマークだった女子が、いきなり
 笑顔のかわいい子に化けたって事じゃないのか?」

 「た、確かに!」

 「オレ早速休み時間に声掛けてみよっと

 「バカヤロ! 俺が先に決まってるだろ!」

 「甘い!! 恋愛と朝のトイレは早い者勝ちと昔から決まっている」

 「…………あのなー、お前ら、いくら一線は超えてないだろうとはいえ、偶然でも
 同じ布団で寝てたんだぞ。それなりに二人は親しいって事なんじゃない
 のか?」

 「う。確かに……」

 「シンジに嬉しそうにメシ食わしてるよなー」

 「日焼け止めクリームを塗り合ってるし……」

 「ウェディングドレスを嬉しそうに着てるし……」

 「同じ布団で寝てるし……」

 「シンジの写真買ってたしなぁ……」

 「自分の水着写真渡してたし……」

 「くそー! あの笑顔はシンジ専用か? 俺は嫌だぁぁぁ!
 認めんぞぉぉぉ!!

 「オレも認めん!! あのウエディングドレス姿……あれをシンジに
 渡すわけにはいかん!!」

 「あの写真、いいよなー。俺、拡大で焼き増し頼んだんだ……」

 「実は僕も……」

 「オレも……」

 「一緒に写ってるシンジが邪魔だよなー」

 「切り取るか、塗りつぶすべきだな」

 (ひどい事を……)

 「相田の奴、別料金でシンジの顔を消して、俺たちの顔をはめ込む用意があるって
 言ってたぞ」

 「ケンスケのやつ、商売うまいよなぁ……」


 「とにかく、シンジに渡すわけにはいかん! 俺は絶対にアタック
 するぞ!!

 クラスの男どもの魔の手がレイちゃんに迫る……のか?


 <つづく>


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