「おはよぉぉおおぉぅっ!?

 シンジは挨拶の途中で、教室の中に引きずり込まれてしまった!

 「あ、碇くんっ!!」

 「シンジっ!!」


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第九部 Bパート


 シンジの後を追って、レイとアスカは教室に飛び込んだ。


 「シンジ、久し振りだな。元気だったか?」

 「おまえ、あんなのと戦ってたのか? すげぇじゃないか」

 「まさに、世界を救った英雄だな

 「クラスメイトとして、俺たちも鼻が高いぞ」

 「しかも、パイロット名は極秘なんだってな? 口止めされたぞ。かっこいいじゃ
 ないか」

 「あんな美人のお姉さんと暮らしやがって

 「おまけに綾波とまで一緒に暮らしてるだと?」

 「てめー、そんな事が許されると思ってんのか!?」

 「殴れ、殴れ!!」

 わーちょっと!! 痛い、痛いよ!! やめてよ!!」

 シンジは、クラスメイトから手荒い再会の挨拶を受けていた。

 「碇くん!?」

 レイは慌てて止めに入ろうとするが、アスカが止めた。

 「レイ、ちょっと待ちなさい。手出しはだめよ

 「え? だって碇くんが……」

 「大丈夫よ。これが男子のコミニュケーションの取り方なんだから。それに、
 ほら、本気で殴ってるわけじゃないでしょ」

 「でも……どう見ても本気でやってる人もいるんだけど……」

 「……確かに……。ま、私たちと暮らしてる幸せに比べたら安いもんよ。それに
 ね、嫉妬なんてもんは、ためるとロクな事がないのよ。だから、この程度で済んで
 いるうちに済ませておく方がお互いのためなのよ」

 「そうなの?」

 「そうなの。だいいち、今私たちがシンジを助けようとしたら、ますますシンジの
 立場が悪くなるわよ。だから、今は放っときゃいいのよ。ほら、行くわよレイ」

 「う、うん……」

 アスカは、なおも心配そうにシンジを見ているレイの手を引き、ヒカリのもとへ
 やってくる」

 「ヒカリ、おはよー」

 「おはよう、洞木さん」

 「あ、アスカ、綾波さん、おはよー」

 そう言って、三人は笑顔を交わす。しかし、『レイの笑顔』という、見慣れない
 ものを見た者たちは、ざわめいていた。

 「ん? どうしたのヒカリ? なんだか浮かない顔してるわね?」

 「うん。あれ……」

 そう言って、ヒカリはクラスの一角を指差した。そこには、ケンスケとトウジを中心
 にして、シンジへの挨拶に加わらなかった男子生徒が集まっていた。

 「ああ、あれね。相田のヤツがカメラ持ってた時点で分かってた事じゃないの。後で
 儲け以上に徹底的におごらせればいいじゃないの

 「で、でも……」

 「ま、確かに自分の写真を勝手に売られるのは気持ちのいいもんじゃないわね。
 だいたい、こっそりとやるならともかく、堂々と売ってるってのが許せない
 わね。よし、この私がとっちめてやるわ!

 「お願い、アスカ」

 「任せといて!」

 そう言うと、アスカは人混みを分け、ケンスケの所までやってきた。

 「ちょっと相田! あんた何勝手に人の写真売ってんのよ!」

 「まぁまぁいいじゃないか。世の男性に美しい物を提供し、僕は利益を得る。
 すばらしい事じゃないか」

 「私が美しいのは当たり前なの。そもそも、勝手に人の写真を売って儲けようって
 根性が気に食わないのよ。今すぐ止めなさい、いいわね!

 「そんな事言ったって、もうこんなに注文が来てるんだ。今さら止められないよ」

 そう言って、ケンスケは注文表をアスカに見せる。アスカはそれを手に取り、写真と
 見比べてみる。

 「ふーん、なかなか良く撮れてるわね」

 「そりゃあね、なんと言っても、僕が撮影したんだからね」

 「モデルがいいからに決まってるじゃないの。それにしても、カメラ目線がいやらしい
 わね」

 そう言って、アスカは軽蔑の目でケンスケを見るが、全く気にしていないようだった。

 アスカは、再び写真と注文表を見比べる。ちなみに、今すぐ写真を没収し、注文表を
 破らないのには理由があった。

 そんな事をしても、ケンスケがこっそりと売りさばくだろう事は容易に想像できる
 ので、それならケンスケが幾ら利益を上げたかを正確に掴み、後でそれ以上おごら
 せてやる、と思っているからであった。

 『ふふん……やっぱり私の写真が一番売れてるわね。ま、当然か……。でも、ヒカリ
 やレイも随分売れてるわね……。う~~~ん、侮れないわね』

 そんな事を思いながら、さらに写真をめくっているうちに、アスカは大声を上げた。

 「何よこれぇ~~~!?」

 ちょうどそこに、クラスメイト達からの手荒い挨拶から開放されたシンジが、心配
 そうなレイと一緒にやって来る。

 「いててて……酷い目に遭ったよ」

 「大丈夫碇くん? 怪我してない? 保健室行く?」

 「ありがとう綾波、大丈夫だよ」

 「本当? 良かった」

 そう言って、安心してシンジに微笑む。それを見て、またクラスがざわめく。

 「ところでアスカ、どうしたの? 大きな声出して?」

 「これよ、これ」

 そう言って、アスカはシンジに写真を見せる。

 「へー、良く撮れてるね?」

 「何のんきな事言ってんのよ? この写真見なさいよ」

 そう言って、一枚の写真を指差す。そこには、ミサトとリツコが写っていた。

 「ミサトさんとリツコさんの写真がどうかしたの?」

 「どうかしたの? じゃないわよ! なんでこんな年増の写真が、
 この私の写真より売れてるのよ!? このクラスの男ども、どうか
 してるんじゃないの!?」

 アスカにそう言われ、シンジは注文表を見る。確かに、アスカの写真より多くの注文
 が来ている。

 自分の写真が売られるのは嫌だが、売り上げが一番じゃないと嫌
 という、複雑な乙女心のようだった。

 「僕に言うなよ。買ってくれるのはお客さんなんだからさ。僕は写真を提供してる
 だけなんだから」

 「そーそー、やっぱり大人の魅力には勝てん言うこっちゃな」

 「ぬわんですってぇ~~~!?」

 アスカ、ついに堪忍袋の緒が切れる


 <つづく>


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