『寝ちゃお』

 そう決めると、アスカは再びシンジの隣で横になった。

 『ふふふ、シンジのにおいがする……。なんだか落ち着くな……おやすみ、シンジ』

 アスカは再び眠りに落ちていった。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 海の完結編 Dパート


 そして、それからどれくらい経ったのか、シンジがようやく目を覚ました。

 『…………僕の部屋? …………いつ帰って来たんだろ?』

 ぼんやりと天井を見ながら、まだ寝ぼけている頭でそんな事を考えながら、いつもの
 習慣で目覚し時計を手に取る。

 6:58 目覚し時計はそう告げていた。

 『……え? もうこんな時間? 大変だ、早く晩御飯の用意しなくちゃ。またアスカ
 に怒られる』

 慌てて起きようとしたが、時間の横に気になる単語が目に入った。

 それは、AM と書かれていた。

 『AM? …………』

 !! あ、朝ぁーーー!?」

 シンジは自分の目が信じられなかった。夕方だと思っていたのだが、次の日、つまり
 月曜の朝になっていたのである。海からいつ帰って来たのかわからないが、これほど
 長く寝ていたのは初めてだった。

 パニックに陥りかけたシンジに、さらに驚くべき事態が起きた。

 「何よーーー? うるさいわねーーー」

 「え? う、うわぁぁぁぁぁぁ!! ア、アスカ~~~!?

 シンジは、いきなりすぐ隣からアスカの声が聞こえたので、すっかり頭の中が真っ白
 になってしまった。アスカは、少し寝ぼけたような目でシンジを見ている。

 「え、シンジ? ……ちょ、ちょっと! 何でシンジが私の部屋にいるの
 よ!?

 「え、え、だって、ここ僕の部屋……」

 「え?」

 『あ、そうか。何でだか知らないけど、私シンジの部屋で寝てたんだ……。シンジの
 この慌てぶりからして、今初めて私に気が付いたみたいね。……何もなかった
 って事よね……』

 目を覚ましたら隣でアスカが寝ていてパニックに陥っているシンジと、なぜだか知ら
 ないけど、シンジの横で寝ている事を前もって知っていたアスカとでは、心構えが
 違う。アスカは、うろたえているシンジが面白くて、少しからかってみる
 事にした。

 「シンジ! 何で私がシンジの部屋で寝てんのよ!? シンジが
 私を連れ込んだの?

 「な、何言ってんだよアスカ! ぼ、僕はそんな事しないよ!」

 「じゃあ、どうして私がここに寝てるのか説明してよ!」

 「せ、説明しろって言われても、僕にも何がなんだかさっぱり分からないんだ。
 何も覚えてないし……」

 「ふ~ん、何も覚えてないんだ~。何も知らないから責任はないって言い張るん
 だ~。ふ~ん……」 クスクスクス

 「せ、せ、責任て……ぼ、僕、な、何かしたの!? ……アスカ、
 何か知ってるの!?」

 シンジはすっかり青くなってオロオロしていた。そのため、アスカがなぜこんなに
 落ち着いているのか、面白そうにしているのかに全く気が付かなかった。

 「それが、私も何も覚えてないのよねー」 クスクス

 「そ、そうなんだ……よ、良かった……」

 シンシは、ホーーーっと溜め息をついた。

 「何がいいわけ? 私が何も覚えてないだけで、何かあったかも知れない
 じゃないの。ま、その時はしっかりと責任を取ってもらうけどね」

 「え、え、え……」

 シンジの頭の上に、責任の二文字が重くのしかかっていた。

 顔はますます青くなり、縦線まで入っている。アスカは、そんなシンジを面白そうに
 見ていた。

 「ところで何騒いでたわけ? あんな大声出して」

 「あ、そ、そうだ。アスカ、これ見て」

 そう言って、シンジは時計を見せる。

 「え、もうこんな時間なの。シンジ、早く夕食の準備してよ」

 「違うんだアスカ、良く見てよ」

 「え、ええ? 朝!? どういう事よ、シンジ!?

 「それがさっぱり分からないんだ。とりあえず起きなきゃ。今日から学校なんだか
 ら。それに、朝ご飯も作らないと……」

 「そ、そうね」

 二人は慌てて部屋を出て、キッチンへ向かった。キッチンでは、レイが朝食の準備
 を始めようとしていた。

 「綾波!」

 「レイ、あんた起きてたの?」

 「あ、碇くん、アスカ、おはよう」

 「起こしてくれればいいのに」

 「そうよ。だいたい、昨日いつ帰って来たのよ?」

 「碇くんが起きないんだから、よっぽど疲れてるんだろうと思って、もう少し寝かせ
 てあげようと思ったの。それに、私も今起きたところでびっくりしてるの」

 「あ、ありがとう綾波。……え? 綾波も今まで寝てたの?」

 「レイも今起きた所? 私たち三人ってそんなに疲れてたのかしら? こんなに寝た
 たのは初めてだわ」

 「そうね、昨日、何時に帰って来たのかしらね? ところでアスカ、どうして碇くん
 と一緒にここに来たの? アスカの部屋あっちでしょ」

 「あ、いや、その、つまり、これは……」

 「……アスカ、碇くんの部屋で寝てたの?

 「え、えーと、えーと」

 シンジとアスカはただオロオロしている。

 「そう、碇くんの部屋で寝てたのね……」

 レイはじーーーっとアスカを見つめている。

 「べ、別にいいじゃないのよ。レイだってシンジと一緒に寝てたじゃないの。私だけ
 責められるいわれはないわよ。これでおあいこじゃないの。文句ないでしょ」

 「そうね」

 「え?」

 レイがあっさりアスカの意見を認めたので、かえってアスカの方が驚いていた。

 「でも、私は寝てる間に転がっていっただけよ。アスカは自分で碇くんの部屋に
 行ったの?

 「そ、そんな事するはずないじゃないのよ」

 「じゃあ、どうして碇くんの部屋で寝てたの?

 「そ、それが何も覚えてないのよ……」

 「僕も何も覚えてないんだ。朝起きたらアスカが隣にいて、びっくりしたんだ。本当
 だよ、綾波」

 「きっとアレよ。寝ぼけてシンジの部屋に行ったのよ

 「寝ぼけて?」

 「そ、そう。だってパジャマに着替えずに寝てたって事は、家に帰ってきて、着替え
 る元気もなくそのまま寝たって事でしょ。で、シンジの部屋はちょっと前まで私が
 使ってたから、その時のクセでシンジの部屋に入って寝ちゃったんだと思うの。これ
 が一番合理的な説明でしょ? つまり、私も寝ぼけて、というか覚えてないんだか
 ら、殆ど寝てた状態だったのよ。だから私もレイと同じよ。ね、問題ないでしょ」

 「そういう事なら……同じね」

 「でしょ。そ、それと今回の事はかなり特殊なケースだから、もうしちゃだめよ。
 シンジと一緒に寝ちゃだめよ、いいわね。これは非常識な事なんだから」

 「アスカもしないの?」

 「しない。だからレイもしちゃだめよ」

 「うん、分かった」

 「あ、そ、それと、この事は誰にも言っちゃだめよ。特にミサトには話しちゃだめ
 よ。いいわね?」

 「私がどうかしたー?」

 「あ、ミサトさん、おはようございます」

 「おはようございます」

 「ちょ、ちょっとミサト。昨日いつ帰って来たのよ? 何があったか説明しなさい
 よ」

 アスカは今の話を聞かれたのではないかと思い、必死に話を変えようとしていた。

 「聞かれなくても話してあげるわよ。昨日大変だったんだから。あなた達三人は、
 駅に着いても全く目を覚まさないから、リツコや鈴原君達に協力してもらって、
 タクシーで家まで運んだのよ。ちゃんとお礼言っときなさいよ」

 「そうだったんですか……。すいません、迷惑かけたみたいで……」

 「すいません、ミサトさん」

 「ちょっとミサト、まさか、あいつら私の部屋に入ってないでしょうね?」

 「大丈夫よ。送ってもらったのは玄関までだから」

 「そう。ならいいけど……」

 『シンジ以外の男に私の部屋に入って欲しくないものね』

 「じゃあ、アスカはそこから寝ぼけて碇くんの……むぐむぐ

 「だから、しゃべるんじゃないって言ってんでしょ!

 「ふぁ、ふぉーふぁ」 (あ、そうか)

 「わざとやってんじゃないでしょうね?」

 「そんな事ない」

 「全くもー、油断もスキもないんだから……」

 『ま、今の単語だけじゃ何も確信に触れる部分には触れてないから、ミサトには
 気付かれてないはずよね』

 そう思い、ミサトを見る。すると、ミサトはニヤニヤとかなりいやらしい笑い
 浮べていた。

 「な、何よミサト、そのいやらしい笑い方は?」

 「別にぃぃぃ。ただ、シンちゃんと寝た感想はどうかな~~~
 って思ってね~~~」

 「な、な、な、何よそれ!?


 <つまずく……もとい……つづく>


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