新世紀エヴァンゲリオン-if-

 海の完結編 Cパート


 アスカはシンジを何とか人並みに泳げるようにしようと、心を鬼にして厳しい特訓を
 科していた。 (もちろん、八つ当たり込み)

 そして、その甲斐あってか、シンジは僅か二日でアスカより速く泳げるようになって
 いた。 (もちろん、死にたくないと思い、必死になったためだが……)

 シンジが泳げるようになったのはもちろん嬉しいのだが、こんなに早く抜かれてしま
 い、ちょっぴり寂しいと思うアスカだった。

 そんなアスカは、シンジを特訓する間、シンジと一緒に泳ぎ続けていたため、身体の
 限界を超え、クタクタになって泥のように眠っていた。

 その疲れがやっと取れたのか、アスカはゆっくりと目を覚ました。

 『……ここは……?』

 まだ目が覚めきってないのか、ぼんやりと天井を見上げていた。

 『……私の部屋? ……私、いつ帰ってきたんだろ……?』

 しかし、見慣れた天井のはずなのに、どこか違和感を感じた。

 『?』

 アスカは不思議に思い、身体を起こして周りを見てみると、自分の持ち物が一つも
 無かった。見慣れたかばんはあるのだが、どう見ても男物だった。

 『…………え? ここってまさかシンジの部屋!? な、何で私、
 シンジの部屋で寝てんのよ……?』

 アスカは何が何だかさっぱり分からなかった。と、その時、すぐ隣……つまり同じ
 ベッドの中に誰かが寝ている事に気が付いた。

 『ま、まさか……?』

 冷や汗がつーっと流れる。

 勇気を出し、寝ている人物の顔を見てみる。

 それは、予想通りシンジだった。

 『んなっ!!!』

 アスカは思わず叫びそうになるのを、口を押さえ、何とか思い止まった。この状態で
 叫べば、シンジが気付き、さらに大騒ぎになる事くらいは容易に想像できたので、
 叫ぶわけにもいかなかった。

 『ど、どうしてシンジが私の横で寝てるのよ!? ……そ、それよりここ、
 シンジの部屋よね? 何で私、シンジの部屋で寝てるんだろ……。レイもいるの?』

 そう思い、周りを見る。部屋の中にレイはいなかった。ただ、シンジが隣で寝て
 いるだけだった。

 『ま、まさか!?』

 アスカは慌てて自分の服装を確かめてみた。

 パジャマは着ていなかった。普段着のままである。パジャマに着替えていない
 ので、家に帰ってから着替える間もなく寝てしまったのだろう、という事が分かっ
 た。

 そして、少しシワになっているが、特に服装が乱れているという事はなかった。

 『よ、良かった。特に何もなかったみたいね……。ふ~~~

 とりあえず何もなかったらしいと分かり、やっと一息つく事ができた。

 『でも、なんでこうなったんだろ? ……確か、シンジの特訓が終わってから、お昼
 ご飯を食べて……それから…………嘘? 何も覚えてない…………

 アスカは必死に思い出そうとしたが、何一つ思い出せはしなかった。いくらシンジ
 との間に何もなかっただろうとはいえ、目が覚めたら同じベッドの中にシンジが寝
 ていて、しかも記憶が全くないときている。いくら何でも不安になり、一気に顔が
 青くなる。

 『お、落ち着くのよアスカ。こ、こういう時こそ落ち着くのよ。と、とりあえず、
 この状態を何とかしないとね。こんな所をレイやミサトに見られたら、絶対に誤解
 されるわ』

 (シンジに気付かれるのはいいのか、アスカ?)

 アスカは、シンジの部屋からとりあえず自分の部屋へと戻ろうとした。しかし、一つ
 問題があった。

 今、自分が寝ているのは、ベッドの壁側

 つまり、部屋から出ようと思えば、シンジを超えていかねばならなかった。

 とりあえず、シンジが目を覚ますと厄介な事になりそうだったので、そ~~~っと
 シンジを起こさないように動く。しかし、ついバランスを崩してしまい、シンジの
 頭のすぐ横に手を付いてしまう。

 ベッドが結構派手な音を立てる。

 その音のためか、シンジは少し寝返りを打つ。結果として、アスカと向き合うような
 形となる。もちろん、寝たままでだが……。

 いきなりシンジの寝顔を真正面から見て、アスカは固まってしまう

 もし今、誰かに見られたら、どんな言い訳も無意味

 といったような体勢のまま、動けなくなっていた。

 『シンジ、目を覚ますの? このまま目を覚ましちゃうの?』

 アスカは、シンジに目を覚まさないで欲しいのか、目を覚まして欲しいのかが分か
 らなくなってしまっていた。

 シンジが目を覚ませば、大騒ぎは間違いない。ミサトには徹底的に冷やかされる
 だろうだろうし、何よりレイの無言の圧力が毎日続く事になる。それは避け
 たかった。

 しかし、シンジに目を覚まして欲しいという気持ちも、確かにあった。

 シンジに今の状況を知って欲しい。自分もレイと同じように、シンジと一緒に寝て
 たんだ、という事を分かって欲しい。自分だけが知っていて、シンジはこの事を
 知らないというのは辛かった。

 しかし、幸いな事にというか、残念な事にというか、シンジは目を覚まさなかった。

 ホッとしたような、残念なような、複雑な思いがした。顔は、しっかりと残念そうに
 していたが……。

 『……私が起こしちゃおうかな……口を塞いで声を出せないようにしておけば、
 問題ないわよね……。でも、それじゃあ私がシンジを襲ってるみたい
 だし……』

 そんな事を思いながら、シンジの寝顔を眺めてみる。

 シンジの寝顔を見るのは、これで三回目である。

 一回目は、ビールを飲んでひっくり返った時。しかし、あの時はヒカリが暴走した
 ため、ゆっくりとシンジの寝顔を見る事はできなかった。

 二回目は、レイがシンジの隣で腕枕で寝ていたので、頭に血が上ってしまい、それ
 どころではなかった。

 従って、ゆっくりとシンジの寝顔を見るのは、これが初めてだった。

 見れば見るほど、線の細い、どこか中性的な雰囲気がある。これがほんとにエヴァの
 パイロットなのかと、今でも不思議なほどだった。

 『クラスの女の子よりかわいいんじゃないの……?』

 アスカはそんな事を考えながら、シンジを見つめていた。

 ドキ

 『え?』

 ドキドキドキ……鼓動が速くなってくる。

 『な、何で今さらシンジなんかに……』

 心ではそう思っていても、なぜかシンジから目が離せなくなっていた。

 そして、少しずつシンジに近付いていった。

 『ちょ、ちょっと私! 何やってんのよ? 止まりなさいよ!』

 しかし、少しずつシンジに近付き、やがてシンジの寝息が自分の唇にかかるほどに
 近付いていた。そして、アスカの動きが止まる。

 『…………私、何するつもりなの? ……やめた。意識のない相手に何かするなん
 てフェアじゃないものね。それに、シンジからしてくれないと意味がない
 もの……。

 そう思い、顔を元の位置に戻し、再びシンジを見つめる。

 『それにしても、悩みなんて何一つないような、幸せそうな寝顔ね。
 ……全く、私をこんな気持ちにさせておいて、のんきに寝てんじゃないわよ。
 人の気も知らないで……。知ってるくせに』

 アスカは少しすねたように、シンジの頬をぷにぷにつついてみる。

 「んんーーー……」

 シンジは少し顔を背ける。アスカはそれがおかしかった。そして、寝ているシンジに
 そっと語り掛けた。

 「シンジ、知ってるの? 私がほんとに好きになった人は、シンジが初めてなんだ
 から。……私の初恋なんだから……。もっと私を見てくれればいいのに……。私も
 レイみたいに、自分の気持ちをはっきりと伝えたら、もっと私を見てくれる?
 ……でも、急にそこまでは素直になんかなれないわね、きっと。今の私じゃあ、
 寝ているシンジに伝えるのが精一杯ね。いつか、起きてるシンジに伝える事ができ
 たらいいのにな……。シンジの事が好きだって。そう言える日が、早く来るといい
 な……」

 『でも、何でシンジなんだろ? 全然私の好みじゃないはずなのに。裸のレイを押
 し倒したり、キスしてるようなやつなのに……。どうしてこんなにシンジがいいん
 だろ? ……どうしてこんなにシンジのそばににいると落ち着けるんだろう?
 普通、いくら寝てるからとはいえ、同じベッドに男がいたら、もっと緊張したり、
 警戒するはずなのに……。シンジに何かするだけの度胸なんて無いと思ってるから
 かな? 何かあっても私の方が腕力で勝ってるから、勝てると思ってるからかな?
 実際に喧嘩すれば私が勝っただろうし……。でも、ちょっと違う気もするな……。
 ……もしかしたら私…………な、何考えてんのよ私は! もう!!

 何を思ったのか、アスカは一人赤くなっていた

 『でも、どうしようかなー……。別にいいか。レイだってシンジと一緒に寝てたん
 だから、私が同じ事したって、とやかく言われる筋合いはないわよね。……相手が
 シンジじゃ何も問題ないだろうし……。もし何かあったら、その時はその時だし。
 ………………寝ちゃお

 そう決めると、アスカは再びシンジの隣で横になった


 <つづく>


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