新世紀エヴァンゲリオン-if-

 夜の海編 Hパート


 「さー飲んで飲んで」

 二人とも、さっきのアスカの様子からして苦いものだろうと思い、味わう前に飲み
 干してしまおうと、一気に飲んだ。そして、二人仲良く目を回して、
 寝てしまった。


 お酒は二十歳になってから。一気飲みは止めましょう


 「なーによ、二人とももう寝ちゃったのー!? ヒック」

 ヒカリはつまらなさそうにシンジとレイを見ていた。

 そして、その頃アスカはと言うと……。

 『は! シンジが酔いつぶれて倒れた! ……チャーンス!
 ここで私がシンジを介抱すれば、シンジの好感度が上がるってもんよね。
 ついでだからレイも介抱してやるか。……あ、でも、もしシンジが寒さで震えて
 たら、さっきミサトが言ってた究極奥義使っちゃおうかな……』

 アスカもかなり酔ってるようで、かなり無茶な事を考えている。しかし、シンジの
 元に向かおうとしたアスカの前に、ヒカリが立ち塞がった。

 「ねぇアスカ、碇君も綾波さんも寝ちゃってつまらないの。アスカは私と一緒
 に飲んでくれるわよね?

 「え? で、でも、シンジの介抱しないと……」

 アスカがそう言うと、ヒカリはいきなり涙を浮かべた。

 「あ、あの、ヒカリ? どうしたの?」

 「そう……アスカ……私と一緒に飲むの嫌なのね……」

 「え?」

 「私なんかと飲むより碇君の方がいいのね。……いいわよ、碇君の所に行けばいい
 じゃないの。所詮、女の友情なんてもろいものなのね……。ああ、悲しいわ。飲ま
 なきゃいられない」

 「ちょ、ちょっとヒカリ! そんな事言ってないでしょ。うん、一緒に
 飲も。だから、そんな事言わないで、ね、ね!」

 「うん、やっぱりアスカは友達よね。さ、飲んで」

 ヒカリはにっこりと微笑む。

 「あ、あは、あははははは……」

 『うーん……ヒカリってこんなに酒癖悪かったのかー、意外だわ。でも、このまま
 じゃ、シンジの介抱できないし、私も酔っぱらってきてるし……。ヒカリには悪い
 けど、酔い潰れてもらうわよ』

 「ね、ヒカリ。いつもお世話になってるから、私につがせて、ね」

 「え? アスカが私についでくれるの? ありがとうアスカ、頂くわ」

 アスカは、ヒカリのコップにギリギリまでビールをついだ。

 『お願い、ヒカリ。早く酔い潰れて!』

 しかし、アスカの願いも虚しく、ヒカリは潰れなかった。
 そして、アスカは知らなかった。酔っぱらいとは、ビールをつがれると必ず
 つぎ返すものだという事を……。

 「さ、次はアスカの番ね」

 「う……」

 そう言って、ヒカリもギリギリまでビールをついだ。

 そんな二人を見ていたトウジとケンスケは……。

 「なぁトウジ、委員長って泣き上戸なのか?」

 「何でワシがイインチョの酒癖知っとるんや!? しかし、あれは
 絡み上戸も入っとるなー。あまりええ酒とちゃうな」

 「だね」

 「そこ二人! 何か言ったかしら?」

 「い、いや別に何も。なぁ、ケンスケ?」

 「も、もちろんだよ」

 「じゃあこっち来なさいよ鈴原。私がついであげるから」

 「お、おう! ほらケンスケ、行くぞ」

 「呼ばれたのはトウジだろ。邪魔しちゃ悪いから僕はここでいいよ」

 「まぁそう言わんと。な、な」

 「引っ張るなよトウジ。……分かったよ、行けばいいんだろ、行けば」

 そう言って、二人ともやって来る。

 「鈴原、あんたがちゃんとヒカリを抑えとかないからこんな事になるんじゃないのよ。
 しっかりしなさいよ」 ヒソヒソ

 「しゃーないやろ。イインチョがこない酒癖悪いとは思わんかったんやから」

 「惣流、委員長と仲いいんだろ? もう飲まないように言ってやれよ」

 「…………もう手遅れよ」

 「ほら~! 三人とも、飲んで飲んで!」

 「はぁ~~~」×3

 その後、ペンペンも巻き込み、ヒカリが暴走した結果、四人と一匹は酔い潰れて
 寝てしまった。


 「うーん……なかなか面白かったわねー」

 「洞木さんがあんなに酒癖悪いとは意外だったわね」

 「ところでリツコ、今更言うのも何なんだけど、この子達は大丈夫よね?」

 「あれだけ食べた後だし、実際、それ程飲んでるわけでもないし、急性アルコール
 中毒の心配は無いと思うわよ。念の為に薬は飲ませておくけどね」

 「薬?」

 「そ。どうせミサトの事だから、この子達にビールを飲ませるだろうと思ってね。
 アルコールを分解する薬を作っておいたのよ」

 「さっすがリツコ! 用意がいいわね」

 「科学者たる者、あらゆる状況に対応できるように、常に準備はしてるものなのよ」

 「ふーん……でも、寝てる相手に薬飲ますのって難しいんじゃないの?」

 「心配いらないわ。口の中ですぐ溶けるように作ってあるから」

 そう言って、リツコは子供達の口の中に、薬を入れて回っていた。

 「ミサト、私達も早めに寝た方がいいんじゃないの?」

 「んーそうねー……じゃあ、ここにあるだけ飲んだら、私達も寝るとしますか」

 「そうね」

 しかし、『ここにあるだけ』のビールは、まだ二十本以上あった。結局、ミサトも
 リツコも、酔い潰れるまで飲み続けたのであった。


 それから、どれ位の時間が経ったのか……。

 窓から差し込む月の光で、シンジは目を覚ました。

 「ん…………月?」

 シンジは、寝ぼけた目でぼんやりと月を見ていた。そして、上半身を起こし、周りを
 見回してみる。部屋の中は、月の光や照り返しで十分明るく、誰がどこでいるかが
 すぐ分かった。

 アスカやトウジ達が寝転っている。そして、部屋の電気のスイッチの所でミサトが
 寝ている。どうやら、最後まで飲んでいて、電気を消したのはミサトのようだった。

 みんな部屋には戻らず、ここで寝るつもりのようなので、シンジも部屋に戻らず、
 その場で寝る事にし、横になり、目を閉じた。しかし、月の光が明る過ぎるので、
 寝返りを打つ。

 その時、ふと誰かの寝息を感じ、目を開ける。すると、息が掛かるほど目の
 前に、レイの寝顔があった。ユニゾン訓練の時に、アスカが寝ぼけて隣に
 来た時のように、シンジは目が飛び出るほど驚いた。

 な!? な、何で綾波が……』

 シンジはあっさりと酔い潰れたため、レイも自分と同じように酔い潰れ、その側で
 眠っていた事など知りはしなかった。あまりに驚いたため、すっかり目が冴えて
 しまった。

 シンジは、しばらく寝れずにいたが、あまりに月が綺麗だったので、寝るのを諦め、
 少し風に当たる事にした。

 『ここまで目が冷めちゃしょうがないな。ちょっと散歩でもしてくるかな』

 そう思い、他の人を起こさないように、さっと部屋から出ていった。

 しかし、シンジが閉めたふすまの音で、目を覚ました人物がいた。そして、周りを
 見て、シンジがいない事に気付く。

 『……碇くん? ……どこかに行くのかな?』

 レイは、シンジがこんな時間にどこに行ったのかと思い、シンジの後を追った。
 部屋から出て左右を見てみると、シンジはどこにもおらず、近くのエレベーターが
 下に向かって動いているだけだった。

 『下? ……碇くん、外に行くのかな?』

 そう思い、もう一台のエレベーターを呼び寄せる。

 ロビーまで降り、見回してみると、シンジが外を歩いているのが見えたので、そっと
 ついて行く事にした。


 シンジはホテルから出ると、空を見上げた。そこには見事な星座が広がっており、
 まさに降るような星空だった。そして、夜空の星全てを集めたより明るく、圧倒的な
 存在感を持って浮かんでいる真円の月。その穏やかで優しい月の光は、それでも
 シンジの影をはっきりと付け、世界を青白く染め、昼間とさほど変わらなく、周りが
 見えるほどに強力だった。

 昼間とまるで同じ景色のはずなのに、まるで違う場所に来てしまったような錯覚を
 覚え、シンジは何だか嬉しくなった。

 しばらく歩き、砂浜まで下りてみる。そして、波打ち際までやって来ると、何かが
 光っているのを見つけた。最初は、月の光が反射してるんだな、と思っていたが、
 どうやらそうではなかった。海水の中での反射ではなく、何かが光を放っていた。

 「あ、これって理科の時間に習った『夜光虫』ってやつなのかな? 綺麗だなー」

 シンジは、初めて見る夜光虫の光のダンスを見ながら、波打ち際を歩いていた。
 そして、腰掛けるのにちょうどいい大きさの石に腰掛け、飽きる事なく、波打ち際の
 青白い光のダンスを見ていた。

 すると、誰かが歩いてくる足音に気付き、そちらを見る。月明かりは、それが誰かが
 すぐ分かるほど明るかった。

 綾波!? どうしたの、こんな時間に?」


 <つづく>


 Iパートを読む

 [もどる]