新世紀エヴァンゲリオン-if-

 夜の海編 Fパート


 「じゃ、行ってくる」

 そう言うと、ミサトは、SSF”(三人だけの世界フィールド)
 を軽々と浸食し、シンジ達の元にやって来た。

 「んふふふふー。あなた達、ほんっ…………とに仲がいいわね~」

 「な、何よミサト、悪いって言うの?」

 「あら、悪いなんて一言も言ってないでしょ。仲良き事は美しきかな、よ。
 どんどんやりなさい。で~~~も、おにぎりと違って、自分のお箸で食べさせて
 あげるって事は、間接キス前提って事よね~~~」

 ミサトはニヤニヤしながらシンジ達を見る。

 

 

 シンジとレイは、ミサトに言われ初めて気が付いたようで、真っ赤になっていく。
 アスカも、知ってはいたがやはり指摘されると恥ずかしいのか、真っ赤になる。

 予想通りの反応に、ミサトはすっかり気を良くしていた。

 『ふふふ。シンジ君とレイはともかく、アスカは絶対に分かってやってたはずよ
 ね~。まぁ、レイに負けたくないという気持ちと、今さら間接キスくらい
 いいかなという気持ち、半々でしょうね』

 結構鋭いミサトだった。

 『う~、やっぱりミサトは気付いてたか~。分かってて冷やかすなんて、ほんと人が
 悪いんだから』

 「それにしても、好きな人に自分のお箸で料理を食べさせてあげる。これはまさに、
 古来より伝わる女の子の必殺技の一つよね。これをされたら、男の子はもう
 メロメロね、シンちゃん」

 「あ、あのー、『ね』と言われても……どう答えていいのやら……」

 「嬉しくないの?」

 「そ、そんな事ないですよ。僕は嬉しいですよ」

 「碇くん、もっと食べたら、もっと嬉しくなる? たくさん食べてね」

 「うん、ありがとう、綾波」

 「そりゃあ、シンジが嬉しいのは当然よね。この私から料理を食べさせてもらえる
 男なんて、世界中でシンジだけなんだから、光栄に思いなさいよ」

 「ははは。そうだね、ありがと、アスカ」

 「あの、ミサトさん。古来より伝わる女の子の必殺技って他にどんな物があるんです
 か? 良かったら教えて下さい」

 「んー、そうね。やっぱり、まず大事なのは二人の出会いね」

 「二人の出会い?」

 「そう。どれだけ衝撃的な出会いをするかによって、その後の展開がまるで変わって
 くるものなのよ。ま、一番オーソドックスなのは、街角でいきなりぶつかる
 ってやつね。でも、あなた達はもうとっくに出会ってるから、今さらこれは意味ない
 わね。それに、あなた達の出会い、あれも結構衝撃的な出会いよね。シンジ君が
 初めてレイに会ったのは、使徒が攻めてくる中、数年振りにお父さんに呼ばれて、
 第三新東京市、ネルフにやって来て、いきなり初号機に乗って戦えって言われてる
 時に、移動ベッドに乗った、包帯グルグル巻きのレイに会ったんだもの。あれは
 かなりインパクトがあったでしょう?」

 「はい、あの時の事は今でもはっきりと覚えてますよ」

 「あの時、碇くん、一度も訓練受けてなかったのに、私のために戦ってくれたのよ
 ね。ありがとう、碇くん」 ぽっ

 「だ、だって、あんなにケガしてる綾波に戦わせるわけにはいかないよ。さすがに、
 あの時、逃げるわけにはいかなかった」

 「うんうん、偉い偉い。それでこそ男の子ね。そういやー、アスカとの出会い、
 あれも結構衝撃的よね。なんたって、初めて会って、いきなり下着を見せる
 サービスだものねー。で、その後、強力な張り手」

 「あ、あれは風が悪いのよ」

 「そして、初めてパイロット二人による同時操縦、及び、初の水中戦。シンジ君
 なんかアスカのプラグスーツ着てたものねー。あれも思い出として、ずっと残るわ
 よね」

 「そうですね。ずっと覚えてるでしょうね」

 「だから、レイもアスカも、出会いは問題なし。と、なると、やっぱりアレが最強
 かな?」

 「アレ?」

 「例えば、雪山で遭難するとか、南の海で遭難して無人島に流れ着く
 とかして、シンジ君と二人っきりになったとするでしょ。で、そういう時は、
 服はビショビショに濡れてるものなのよ。そして、シンジ君が意識を
 失ってて、ガタガタ震えるとする。濡れた服は体力を奪っちゃうから、まず
 シンジ君の着てる服を全て脱がすの。いい、全てよ!
 そして、自分も全ての服を脱ぎ、シンジ君を抱きしめ、自分の体温
 で温めてあげるの。これが究極奥義よねー。まさに一撃必殺
 ここまでされて、落ちない男は絶対にいないわ!!

 「……はだかで……抱き合う……」 ボッ! プシュ~~~

 レイは、その状態を想像しようとしたが、顔が沸騰し、頭からは湯気が出て、
 思考が止まってしまった。かつて、裸で押し倒され、胸を触られても動じなかった
 頃と比べると、ほとんど別人である。ごく普通の、十四歳の女の子の反応と言っても
 問題は無いだろう。

 レイがこういう反応ができるようになるまでには、アスカの涙ぐましい教育があっ
 た。ミサトは、酔っぱらうとすぐにレイをからかい、無茶苦茶な事を言い始める。
 そして、レイはすぐにそれを実行しようとするので、慌ててアスカがレイを止め、
 正しい知識を教え込んでいた。ミサトが酔っぱらうのは毎日の事なので、アスカの
 教育も毎日の事だった。

 『恥ずかしい』という感情をほとんど持っていなかったレイに、それを教え込むのは
 並大抵の苦労ではなかったが、ミサトの言った事を実行に移されても困るし、裸や
 下着姿でシンジの前に出られても困るので、アスカも必死だった。

 その甲斐あってか、レイはほとんどの常識を覚え、とんでもない勘違いは、日に日に
 減っていった。今のレイがあるのはアスカのお蔭と言っても過言ではなかった。

 だが、いくら恥ずかしいという感情を覚えても、レイがシンジに対し、一切無防備
 で、一切の警戒心を持っていないというのは、全く変わっていなかった。
 もし仮に、シンジがレイにキスを迫っても、レイは拒まないだろう。むしろ、喜んで
 受ける可能性が高い。アスカは、自分がシンジとキスした所をレイに見られている
 ので、”キスしてはいけない”と教育する事ができずにいた。

 アスカにとって、最も頭の痛い問題は、レイのこの無防備さだった。もっとも、
 シンジに自分からキスを迫る度胸など無いので、これはアスカの取り越し苦労なの
 だが。ちなみに、アスカも、恐らくシンジに迫られたら、拒まないであろうという
 事を書き加えておく。


 ミサトの例え話を聞き、レイとシンジはすっかり赤くなっている。

 「ちょっと、ミサト。どうしていつもいつも、そうやってレイに無茶な事
 を教えるのよ。いい加減にしなさいよ、まったくもー!」

 「そんなに怒る事ないじゃない。別に、今しろって言ってるわけじゃないし、ただの
 例え話なんだから。ほんと、アスカってレイの母親よね

 「保護者が全く役に立たないから仕方ないでしょ! ほんとロクな事
 言わないんだから」

 「ふーんだ! それに、今の日本には雪山なんて存在しないし、海で遭難する事も
 まずないでしょ。だから、今言った事が起こる確率なんて、ほとんどないわよ。
 あるとしたら、溺れたシンジ君を人工呼吸で助けるっていうシチュエーションくらい
 ね。でも、ま、シンジ君もだいぶ泳げるようになったみたいだし、これももうない
 わね」

 『ううー、やっぱりさっきのが最後のチャンスだったのね。失敗したなー』

 『あと、どんなシチュエーションがあったかしら……バレンタインとかホワイトデー
 とか、夏だというのにクリスマスに手編みのマフラーやセーターを贈るっていうのも
 あるけど、これは別の所でやったし……』

 「まぁ、古来より伝わる必殺技を使うのもいいけど、特定の相手だけに効果がある
 自分だけのオリジナル必殺技を開発するのも一つの手ね。レイが読んでる
 少女マンガにも、結構ヒントが載ってると思うから、研究してみなさい」

 「はい、頑張ります」

 レイは本気で研究するつもりで、そう答えた。

 『オリジナル必殺技か……。やっぱり、レイはさっきのバックに花を咲かせる
 笑顔が必殺技よね。あれは凶悪なほどの破壊力があったわね。
 あんなの真正面から見せられたら、ほとんどの男は一撃で沈むわね。しかも、
 シンジ君にだけ向けられてるってのもポイント高いわね。……そう言えば、
 アスカがシンジ君に見せる笑顔……あれもかなりの破壊力ね。やっぱり女の子に
 とって、笑顔は最強の武器ね。裏技としてのもあるけど……』

 「でも良かったわね。二人ともシンジ君に食べてもらって。これはもう、シンジ君の
 中の好感度パラメータピロピロピロリン♪って音を立てて上がったのは
 確実ね」

 「……あのね、ミサト。私は別にゲームをしてるわけじゃないのよ」

 「そーよねー。人生はセーブもリセットもコンティニューも効かない一発勝負
 ま、だからこそ、面白いんだけどね。そーだ! シンジ君、私にも食べさせて
 くれないかしら?

 「え!? ミ、ミサトさんもですか?」

 「だめ!」

 「そーよ。ミサトには加持さんがいるんだから、シンジにまでちょっかい出さないで
 もらいたいわね」

 「ここにいないやつの事言ったってしょうがないじゃないのよ」

 「とにかく、昼間も言ったでしょ。自分の年齢の半分以下の男に手を出す
 のは犯罪なの!」

 「食べさせてもらうくらいで犯罪になるわけないじゃないの。だいいち、ばれなきゃ
 罪じゃないのよ」

 「だめなものはだめ!」

 「……何よ、アスカったら独占欲丸出しにして……。別に、シンジ君は
 アスカのものってわけじゃないでしょ

 「私のよ!!」


 「…………え?」


 <つまずく……もとい……つづく>


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