新世紀エヴァンゲリオン-if-

 夜の海編 Dパート


 「それじゃあレイ、私が選んであげましょうか」

 「ミサト! またレイに無茶な服を着せる気なんでしょ!?」

 「だーいじょうぶよ。このカタログの中にはそんなに無茶な服装はないから。
 これなんかどうかな? 良く似合うと思うわよ」

 そう言ってミサトが指差した服は、純白のウェディングドレスだった。

 「え? この服って……」

 「ちょ、ちょっとミサト、何考えてんのよ!?」

 「いーじゃない別に。ウェディングドレスなんて、普通一生に一度しか着ないでしょ。
 いい機会じゃないの。それに、将来の予行練習と思えばいいのよ」

 「だ、だけど……」

 「大丈夫よアスカ、ウェディングドレスは人気商品だから、結構種類があるのよ。
 ほら、この真紅のウェディングドレスなんて、アスカに似合うんじゃない
 かしら?」

 「まぁ、確かに、綺麗ね」

 「じゃあアスカはこれでいいわね?」

 「べ、別にいいわよ」

 「レイもこれでいいかしら?」

 「はい、構いません」

 「となると、残るはシンジ君一人ね。どれがいいかしらね~」

 「ミサト、レイとアスカがウェディングドレスを着るんだから、シンジ君が何を着
 るかなんて決まってるじゃない」

 「あ、やっぱりリツコもそう思う?」

 「当然じゃない。ミサトだって最初からそのつもりなんでしょ」

 「そ~よね~、やっぱりそうなるわよね~」

 「……あの、ミサトさん……やっぱり着なきゃいけませんか?」

 「んーそうね。別に無理にとは言わないわよ。シンジ君にだって選択権はあるんだ
 から。この白いタキシードウェディングドレス各種の中から、
 好きな服を選んでちょうだい」

 「……それって、ほとんど強制してるようなもんだと思うんですけど……」

 「あらシンジ君、ウェディングドレスを着たがる男の人って結構多いらしいわよ。
 普通じゃまず着れないから、こういう機会にチャンスとばかりに着てみるらしいわ」

 「確かに、シンちゃんならウェディングドレス姿が似合うかも知れないわね~。
 どうする、着てみる?」

 「……タキシードでいいです」

 「じゃあ決まりね。隣の部屋へ行って係の人にさっき渡した紙を見せるといいわ。
 着替えたらまたここに集まってね。撮影してもらうから」

 ミサトに促され、シンジ達は隣の部屋へ入っていった。

 「さーて、どんな風になるのか楽しみね」

 「確かに見物ね」

 ミサト達は、おもちゃで遊ぶ子供のように、無邪気に微笑んでいた。

 ちなみに、作者は会社の旅行や忘年会の度に、なぜか女装させられるので、
 ウェディングドレスも二~三回着た事がある。男が着るもんじゃありません。


 数分後、シンジ達はそれぞれの服装に着替えていた。

 『ああ、今日は何て素晴らしい一日なんだ! まさかプラグスーツを着れる日が来る
 なんて! おまけに、水着や浴衣の他に、ウェディングドレス姿の綾波と惣流、お姫
 様の格好の委員長……これはマニアにはたまらない写真になるぞ! 利益
 を大幅に上方修正しなくちゃ』

 ケンスケは一人、舞い上がっていた。

 「何か、こないな格好、照れるなー」

 「そ、そうね。普段じゃこんな格好できないし……」

 『鈴原と時代を合わせたから、まるで二人でこの格好を選んだみたい……。恋人
 同士に見えるかな……。ありがと、アスカ』

 トウジとヒカリの時代劇ペアは、照れていたが、結構いい雰囲気になっていた。
 そして、純白のウェディングドレスを着たレイと、真紅のウェディングドレスを着た
 アスカは、嬉しそうな、恥ずかしそうな、緊張しているような、複雑な表情をして、
 しきりにシンジの方を気にしていた。

 「ふふ、二人ともシンジ君の視線を随分と意識しているみたいね」

 「そうね。でも、レイはともかく、アスカまであんなにしおらしくなっちゃうなんて
 やっぱりウェディングドレスの力は偉大ね」

 「そりゃあね、やっぱり女の子だもの。今すぐ本当に結婚するってわけじゃない
 けど、ウェディングドレスを着たら、やっぱりしおらしくなるんでしょうね。二人
 とも、シンジ君に感想を求めに行かないのは、相当意識してるからでしょうね」

 「シンジ君も、かなり意識してるみたいね」

 「ほんとね。すっかり緊張しちゃって」

 シンジは初めてタキシードを着て、照れていた。しかも、白いタキシードがどんな
 時に着る服かも知っている。おまけに、レイとアスカがウェディングドレス姿で
 自分の方を気にしているので、シンジも二人の方が気になり、チラチラと見ている。

 しばらくしてカメラマンがやって来て、一人一人撮影していく。もちろん、その間
 にも、ケンスケは写真を撮りまくっていた。

 個人の撮影が終わると、全員でまとめて撮影する。そしてその後は、特定の組合せで
 撮影が行われた。

 シンジとレイ。

 シンジとアスカ。

 シンジとレイとアスカ。

 トウジとヒカリ。

 シンジとトウジとケンスケ。

 レイとアスカとヒカリ。

 そして、一人なのを不憫に思い、ミサトとリツコとペンペンが、ケンスケと一緒に
 撮影していた。

 その後、お互いの服装について色々話していると、あっと言う間に三十分が過ぎ、
 宴会の準備が整ったと連絡が入った。

 「あなた達、食事の用意ができたみたいだから、着替えてらっしゃい」

 「えーもうー? もうちょっと色々着てみたいなー」

 「アスカ、さっきと言ってる事が全然違うわね。ま、お色直しは自分の結婚式の
 時に取っておきなさい。今、色んな格好を見せちゃうと、後の楽しみが減るわよ。
 さ、料理が冷めちゃうから早く着替えてらっしゃい」

 ミサトの説得で納得したのか、アスカはそれ以後、文句も言わず、再び隣の部屋に
 入っていった。そして、シンジ達も同じく部屋に入っていった。

 そのシンジ達と入れ替わるように、先ほどの写真がミサトのもとに届けられた。

 「あら、早いわね。もう現像できたの?」

 「うーん。なかなか良く写ってるわね」

 「見て見てリツコ。レイもアスカもほんと嬉しそうな顔しちゃって。絶対に将来の
 事を意識したでしょうね」

 「そりゃあね。シンジ君が白いタキシード着て、自分がウェディングドレス着てるん
 だから、意識して当然よ」

 「この写真なんか、結婚写真そのままよね」

 「ね、ミサト。この写真、碇司令に見せたら、どんな顔するかしらね?」

 「ん、どう言う事?」

 「前にも言ったけど、碇司令ってあれで結構、親バカなのよ」

 「マジ?」

 「きっと、この写真見せたら、顔が土砂崩れ起こすでしょうね」

 「うーん……想像出来ないわね。ところでリツコ、この写真とこの写真、将来、
 どっちが現実のものになると思う? MAGIはどう言ってるの?」

 「それがね、最近また、この写真の確率が上がったのよ」

 そう言ってリツコは、シンジの左右にレイとアスカが写っている写真を手に取った。

 「また? ……まずいわね、このままだと碇司令の一人勝ちになってしまうわね。
 でも、法改正でもしなきゃ、それはないんじゃないの?」

 「あら、籍を入れず、他人としてずーっと三人で暮らすっていう可能性もあるわよ」

 「夫婦より近い、他人ってやつ?」

 「そ。今のミサトと加持君の関係みたいなもんね」

 「な!? 何でそこであいつの名前が出てくるのよ!?」

 「何? 加持さん来てるの?」

 でーっ!! ア、アスカいつの間に!?」

 「何よ、早くしろって言ったのミサトじゃないの」

 「ところでミサトさん、何ですか、それ?」

 「え? あ、ああこれ。さっきの写真よ」

 「えー! 見せて見せて!!」

 「はいはい。慌てなくてもちゃんと全員分あるわよ」

 ミサトから写真を受け取り、それぞれ眺めてみる。

 『クーッ!! 僕のブラグスーツ姿、決まってるなぁー! しかも、リツコさんと
 ミサトさんと一緒に写ってるなんて、まるでネルフの一員だな。家に帰ったら、
 パネルに入れて飾らないといけないな』

 ケンスケは、憧れのプラグスーツを着て、ミサトやリツコと共に写真が撮れたので、
 涙を流して喜んでいた。

 「おー! なかなか良う撮れとる。やっぱり日本人はこうでないとな」

 『イインチョもなかなか似合とるな』

 (……声を出して言ってやれよ、トウジ)

 「お姉ちゃんやノゾミに見せたら、羨ましがるだろな」

 『鈴原と二人で写った写真なんて今まで無かったし……来て良かった』

 それぞれ口には出さないが、やはり時代を揃え二人で写した写真は、恋人同士の
 ように見えると思っていた。

 また、それより一歩進んだ写真になっているレイとアスカも、嬉しそうに写真を見て
 いる。後日、この写真はそれぞれの部屋に大切に飾られたという。シンジは、性格的
 に飾る事は無かったが、いつでも見れる場所に大切にしまっていた。

 「ほらほら、写真は逃げたりしないから、後でゆっくりと見なさい。今は食事に行
 きましょう。それは汚れるといけないから、フロントに預かってもらうわね」

 そう言って、ミサトは写真を集め、係の人に預けていた。

 ちなみに、立派なレストランもあるのになぜ宴会場なのかというと、浴衣を着た
 以上、日本人なら畳の上で食事するのが筋、それに、貸切りなら他の客の事を気に
 せず、思いっきりシンジ達をからかう事ができる。というミサトの企みがあった
 からである。

 どうやら、徹底的にからかうつもりのようだ。


 そして、シンジ達はミサトに連れられて、宴会場へと入る。その部屋は、八人と一匹
 が使うにしてはかなり広く、立派な部屋だった。

 それぞれの膳の上には、カニ、伊勢エビ、サザエ、アワビ、ウニなど、一目で豪華
 と分かる料理が並んでおり、それとは別に、舟盛りまで用意されていた。また、
 ミサトが用意したのか、大量のビールやジュースも置かれていた。

 「す、凄い料理やなー。ワシ、こないなもん見た事もないわ」

 「確かに凄いね。一体、幾らくらいするんだろう」

 「あの……ミサトさん、いいんですか? こんな高価そうな料理注文して……」

 「子供がそんな事気にするんじゃないの。あなた達は、お腹一杯食べればいいのよ。
 もちろん、おかわりも自由よ。さ、中に入りましょ」

 そしてシンジ達は、それぞれ、思い思いの席に着いた。もちろん、シンジの左右は
 レイとアスカが押さえている。

 「それじゃあ、今回の旅行がみんなにとって楽しい旅行である事を
 願って、かんぱ~~~い!!

 かんぱーーい!!


 <つづく>


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