「それじゃあレイ、始めるわよ」
「はい」
「まず目隠しして、その場で三回まわって」
「はい」 くるくるくる
「それじゃあ、今から私たちが誘導するから、指示に従って動いてね」
「はい、分かりました」
「じゃあ行くわよー。前! 前! もー、ずーっと前!」
「そこで右や!」
「ちがうわ、左よ!」
「そこでさらに三回転!」
「そこで素振り三回!」
「え? え? え?」
全員、口々に勝手な事を言うため、レイはすっかりこんがらがってしまった。
『えーと、私はこういう時、どうすれば……』
「綾波、そっちじゃないよ。ちょっと左向いて」
「碇くん? 左ね」
「そうそう。そこからまっすぐ前に歩いて」
「前に歩くのね」
「違うわレイ、そっちじゃないわよ。そこで右90度ターンよ」
「まっすぐ歩いて行くわね、ミサト」
「うーん……。レイったら作戦部長の私の指示より、シンちゃんの指示を優先
するとは……。これは作戦行動に重大な影響が出るわね。問題だわ!」
「ふふふ。妬かない妬かない」
「そう、そこでストップ。ちょっと右向いて……そう、そこで振り下ろして」
レイはシンジの指示通り、棒をまっすぐ振り下ろした。すると、手に鈍い感覚が
伝わってくる。
「やったー! 綾波、やったよ!」
「ま、初めてにしちゃ、上出来ね」
「綾波さんおめでとー!」
みんなが自分を誉めているので、レイは目隠しを外してみた。すると、綺麗に真ん中
から割られたスイカが目の前にあった。
「私、成功したの?」
「そうだよ、一発できれいに割れたよ。良かったね、綾波」
「うん、ありがとう! 碇くんのおかげね!!」
レイはよほど嬉しいのか、ピョンピョン跳ねている。初めてのスイカ割りに成功
した事もあるが、シンジが協力してくれた、というのが大きいらしい。
「ミサト、次、私がやるわよ。文句ないわよね」
「いいわよ、別に。どーせダメって言ってもやるんでしょ」
「とーぜんよ。シンジ、しっかり指示しなさいよ!」
「分かってるよ、アスカ」
「じゃあ、アスカはスイカ割り慣れてるみたいだから、十回まわってね」
「えー!? 十回も? 目が回るじゃないのよ」
「だーいじょうぶよ。シンちゃんがちゃんと教えてくれるわよ」
「まぁ、それもそうね。じゃあいくわよ」 ぐるぐるぐるぐる……
『うう。さすがに目が回る』
「で、どっち行けばいいの?」
「そこで逆立ち!」
「いーや、その場でホームラン打つんや」
「棒高跳びも捨てがたい」
「アスカ、とりあえずちょっと右向いてからまっすぐ歩いて」
「右ね」
「そう、それから……うぐっ!?」
シンジが次の指示を出そうとした時、ミサトがシンジの口を両手で塞ぐ。
「んーんーんーー!」
「ちょっとシンジ、これからどうするのよ?」
「まっすぐやー」
「違うわアスカ、そっちは海よ」
「その場で砂に潜る!」
「あースイカがテレポートした」
「私はシンジに聞いてんのよ! どっちよシンジ!?」
しかし、シンジはミサトによって口をふさがれているので、『んーんー』と
しか言えなかった。
『何よ、シンジったらレイには教えたくせに私には教えないつもりなの……』
ヤケになったアスカは、その場で棒を振りかざす。
「あー違うよアスカ、まだ振っちゃだめだ!」
ミサトはようやくシンジから手を離した。
「え、シンジ?」
「右だよ。前向いたまま右に四歩。そう、そこで振って」
「とりゃーっ!!」
アスカもレイと同じく、一発でスイカをしとめる事に成功した。
「ふっ……この私にかかればスイカなんて一発よ。ほーほほほほ!」
「ミサトさん、恐ろしい事やめてくださいよ。もし今のでアスカが外してたら、
スイカじゃなくて僕の頭が割られてますよ」
「あり得る話ね」
「うーん、アスカならやりかねないわね。ま、いーじゃないの。アスカも成功したん
だし」
「……いつか、ミサトさんに冗談で殺されそうな気がします……」
「まーまー、そんな事より早く食べましょう。せっかく冷えてるんだから」
そう言ってスイカを適当な大きさに切り、全員に手渡す。
「私が割ったスイカなんだ……。おいしい」
「私が割ったやつもおいしいわよ」
「確かにうまいけど、惣流の割ったスイカは、かなり飛び散ったな」
「ほんと。敷いてあるビニールからはみ出したのもかなりあるね」
「何よ? 私が馬鹿力だって言いたいわけ?」
「いやーうまいスイカやなーケンスケ」
「まったくだね」
そう言って、二人は慌ててスイカを食べる。
「……根性なしね。突っ張る度胸も無いのに絡んでくるんじゃないわよ」
「どうリツコ、加持君のスイカは?」
「おいしいわね。そこらで売ってるやつよりよっぽどいいわね」
「ほんとですね。私もこんなにおいしいスイカなんて久し振りです」
「でしょー」
ミサトは自分の事のように嬉しがっていた。
「あれ? 碇くん、スイカ食べないの? おいしいよ」
「何? シンジ、あんたスイカ嫌いだったの?」
「いや、そんな事ないよ。スイカは大好きだよ」
「じゃあ、何で食べないのよ?」
「それが……なぜだか分からないけど、スイカ見てると体が震えるんだ……。
何か良く分からないげと、スイカが恐いって言うか……」
「スイカが恐い? 変わったやっちゃなー」
「あ、もしかして」
「何か心当たりでもあるの?リツコ」
「ひょっとしてシンジ君、十二使徒の事思い出してるんじゃないのかしら?」
「え? 十二使徒ですか?」
「ああ、シンジが飲み込まれたやつ」
「そう言えば、アレって丸くて縞々だったわね」
「中、赤かったですし」
「え、そうなの? 僕、あの時の事良く覚えてなくて……」
「ま、確かにスイカと十二使徒、似てなくはないわね。でもシンジ君、そういう事
は早めに克服した方がいいわよ。勇気を出して食べてみなさい」
「は、はい」
そしてシンジはスイカを手に取り、じーっと見つめる。
『逃げちゃだめだ……逃げちゃだめだ……逃げちゃだめだ……』
……大げさだな。
ぱく。
シンジが食べるのを全員が見つめる。
「うん、おいしいや」
「克服できたようね」
「良かったわね、碇くん!」
「うん、ありがと、綾波」
「何や、単純やな、シンジは」
「何よ、そー言うあんただって、ネバネバ糸引くものが嫌いになったんでしょ」
「あー、あれ以来ワシは納豆がますます嫌いになったわ。あれは人間の食いもんや
ない」
「トウジも納豆食べれば克服できるかもね」
「あんなもん食うくらいなら、ネバネバ嫌いでおる方がマシや」
その言葉で、全員が明るく笑った。もう、誰の心にもわだかまりはなかった。
「さーてシンジ、スイカも食べた事だし、特訓を再開するわよ」
「え、もう?」
「当たり前じゃない。シンジだって早く泳げるようになりたいでしょ?」
「それはそうだけど……。もう少し休まない? ほら、僕、まともに泳いだ事
なかったから体がだるくて……」
「そうやって甘えてるから、いつまでたっても泳げるようにならないのよ。ほら、
行くわよ!」
「アスカ、碇くん疲れてるみたいだし、少し休んだら。今日はここに泊まるんだし、
時間もたくさんあるんだし」
「まったく、レイはそうやってすぐシンジを甘やかすんだから……。でも、ま、
レイの言うように時間はたっぷりあるし、泳ぐだけが海の楽しみじゃないのも確か
ね。……そうだシンジ、この辺り結構景色いいし、散歩してみない?」
「うん、いいよ」
「じゃあ、私も」
「そうね、確かにこの辺りの海岸線は景色がいいし、散歩には最適ね。私たちも行き
ましょうか、リツコ」
「いいわね。アスカの言うように、泳ぐだけが海じゃないものね」
「せっかく来たんや。ワシらも散歩に付き合うか。な、ケンスケ、イインチョ」
「別に構わないよ」
「私もそれでいいわよ」
「じゃあ私たちはこっちに行くから」
そう言って、アスカはシンジを引っ張って行く。
「あ、待って! 私も行く!」
当然レイもついてくる。
「アスカ、せっかくなんだし、みんなで散歩しましょうよ」
「えー!? これだけ大勢でゾロゾロ歩くのー?」
「別にいいじゃないの、賑やかで。それともアスカ、私たちがジャマなの?
シンちゃんと二人っきりになりたいとか思ってるわけ~?」
「べ、別に……それなら好きにすればいいじゃない」
「ええ、そうするわ」
『ミサトめ~、さっそく妨害してきたわね~。何とかしてミサトの気をそらさないと
いけないわね』
『ふふふふふ。アスカ、何かやるんなら私の目の前でやってもらわないとね。目の
届かない所で何かされたら面白くないものね』
その後、シンジ達は周りの景色を楽しんだり、色々な事を話したりしながら歩き、
今は松林の中を歩いている。セミの声がうるさいくらいに響いて、自分の足音も
分からないくらいだった。
なお、この時ペンペンは、楽しそうに海で泳いでいた。子供達がペンペンを見つけて
捕まえようとするが、海の中で人間がペンギンに勝てるはずもなく、ペンペンに
からかわれるだけだった。
「……すごいセミの声ね。少し恐いくらいだわ」
「え? イインチョ、何ぞ言うたか?」
「うん、セミの声がすごいねって言ったの」
「ほんまやなー。こないにすごいんはワシも初めて聞いたわ」
「……あれ? 碇くんは?」
「え? あれ、シンジのやつ、どこに行ったんだ? 今までいたのに……」
「あ、アスカもいない。どこに行ったのかしら? 今までここにいたのに」
「いかんなー。団体行動をとっている時に二人だけいなくなるとは。これは問題
だな」
「案外、シンジのやつ、どっかその辺で惣流に押し倒されとるんとちゃうか?」
「え!?」
「もー鈴原、何バカな事言ってんのよ!?」
「いえ、アスカならやりかねないわね」
「そうね、可能性は否定できないわね」
「わ、私、碇くん探して来ます!」
「よっしゃ、ワシらも行こか。手分けして探すんや」
「そうだな」
「ええ」
「リツコ、私たちも行くわよ」
「もちろんよ」
こうして、シンジとアスカの大捜索が始まった。
シンジとアスカはどこへ行ったのか!?
アスカの「シンジ攻略計画」は発動されるのか!?
次回、Iパート、ついに海編最終回!!
乞う、ご期待!!
<つづく>