「碇くん、しっかりして! 碇くん!!

 「ちょっとシンジ! 目を開けなさいよ!!

 二人とも涙目になっている。

 しかし、誰が呼び掛けても、シンジは目を覚まさなかった


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 海 編 Gパート


 「ちょっとリツコ! どうしよう、どうしよう……」

 ミサトはただオロオロしている。もちろん、トウジ達も殆どパニック状態だった。

 「落ち着きなさいミサト。発見が早かったし、水も殆ど飲んでないようだから、
 水さえ吐かせればすぐ気が付くはずよ」

 そんな時、横たわるシンジの腹に、ペンペンがふざけて飛び乗った。

 グエ!

 カエルを踏み潰したような声と共に、シンジは水を吐き出し、意識を取り戻した。

 「ペンペン偉い! 良くやったわ。今夜はお刺身フルコースよ!

 「?」

 ペンペンは良く分かってないようにミサトを見ていた。

 「う……ん。あれ? 僕は……?」

 「碇くん! 良かった、良かった! もう目を開けないのかと思った。ほんとに
 良かった」

 「全くもう! 心配かけんじゃないわよ、バカシンジ」

 アスカは、口調こそ厳しいものの、レイと同じように嬉し涙を浮かべていた。

 「……そうか、僕は溺れたのか……」

 「シンジ、泳げんのやったらそう言えばええやないか。別に海でのうても良かったん
 やから」

 「でも、せっかくみんな楽しみにしてたんだし。それに、泳げるようになってるかも
 知れないって思ったから……。ごめん、みんなに心配かけちゃって」

 「まぁ、とにかくシンジ君が無事で良かったわ。一時はどうなるかと思ったわよ」

 『ふ~。相変わらずシンジは人騒がせね。でも、ま、無事で何よりだわ。シンジを
 失うわけにはいかないもんね。……あ、ちょっと待って。これってシンジ攻略計画
 2-1『溺れたシンジを人工呼吸で助けるの絶好のチャンスだった
 じゃない!? どーして気付かなかったのかしら。こういう時のためにあんなに計画
 立てたのに~。こんな千載一遇のチャンスを逃すなんて~』

 とアスカは悔しがっていたが、もしシンジが溺れているのに冷静にそんな事を考えて
 いられるのなら、シンジの事を本当に好きではない、とミサト辺りからツッコミが
 入ったであろうから、アスカにとってはこれで良かったのであった。

 「シンジ、立てる? 今から泳げるように特訓するわよ」

 「え? 特訓!?」

 「そ、男子だってプールの授業あるんでしょ。十四にもなって泳げない事ばれたら
 恥ずかしいじゃないの。だから特訓よ」

 「? どうして碇くんが泳げないとアスカが恥ずかしいの?」

 レイは素朴な疑問をアスカに投げる。

 「い、いいじゃないの、別に

 「?」

 「レイ、女心とは微妙なものなのよ。好きな人が泳げないと自分も恥ずかしいもの
 なのよ」

 「そういうものなんですか、赤木博士?」

 「そういうものなのよ、レイ」

 「じゃ、じゃあシンジ、行くわよ

 アスカはリツコに指摘されたのが恥ずかしいのか、シンジの手を引き、さっさと海に
 向かった。

 「ちょ、ちょっとアスカ。そんなに引っ張らないでよ」

 「あ、私も特訓手伝う」

 レイもそう言って後を追う。

 「ほな、ワシはちょっと体焼かせてもらうわ」

 「僕もそうする事にするよ」

 「あ、じゃあ私もそうする」

 「ミサト、私たちどうする?」

 「そうね。一応保護者なんだからシンジ君が溺れないように監視する事にするわ」

 「ビールでも飲みながら、でしょ?」

 「ま、ね。太陽の下で飲むビールは格別よ。シンジ君たち見てると面白いだろうし」

 「そうね、じゃあ私も付き合うわ。パラソルでも借りて来ましょう。ミサトはビール
 持って来て」

 「OK、任せて」

 そう言って、二人は酒盛りの準備を始めた。

 その頃、シンジはレイとアスカに両手を持ってもらい、バタ足の練習をしていた。
 既に三人とも足の立たない所まで来ている。

 「ふ、二人とも、絶対に手を離さないでよ」

 シンジは今溺れたばかりなので、相当水に対して恐怖心を持っているようで、真っ青
 な顔で、二人の手をしっかりと握っている。


 そして、しばらく沖に出た頃……。

 「じゃあレイ、そろそろ行くわよ」

 「ほんとにいいの、アスカ?」

 「大丈夫よ、二人もいるんだから」

 「え? 何、何の話?」

 シンジが不安そうにそう聞くと、レイとアスカは一斉にシンジの手を離した。

 「うわ! ちょ、ちょっと何を!?」がぼがぼ

 「いいシンジ。シンジが泳げないのは、昔溺れた恐怖が体に染み付いていて、筋肉が
 ガチガチになってるからよ。だから水の中に入ると体が思うように動かなくなって、
 また溺れるのよ。でも今は、私やレイがそばにいるんだから安心しなさい。溺れそう
 になったらすぐに助けてあげるからリラックスすればいいのよ。だいたい、人間の
 体はもともと浮かぶようにできてるんだから、そうやってもがいているうちに、自然
 と泳げるように……ならないわね」

 二人の目の前で、シンジはブクブクと沈んでいった。

 「い、碇くん!?」

 レイは慌ててシンジを助けようとする。しかし、シンジは無我夢中で、『溺れる者
 は藁をも掴む』のたとえ通り、手直にあったもの-この場合レイ-にすがりついた。

 「ちょ、ちょっと碇くん!? そ、そんなにくっついたら私も泳げない!」

 いきなりシンジに抱きつかれた動揺と、体の動きを封じられたため、レイも溺れ
 かける。

 「こら、シンジ! どさくさに紛れて何やってんのよ!!」

 「え? え? ……うわ!? ご、ごめん綾波!

 水への恐怖よりアスカの方が恐いのか、シンジは自分を取り戻した。

 そして、レイに抱きついている事に気付いて慌てて離れる。そしてまた溺れる。

 そして今、一番手直にある藁-この場合アスカ-にすがりつく。

 「こ、こらちょっとシンジ!? な、何すんのよ!?」

 レイ同様、アスカもいきなり抱きつかれ動揺する。おまけに体の自由を奪われた上、
 運悪く波を被り、海水を一気に飲み込んでしまった。

 「ガボガボ! ゲホゲホッ! ゴホゴホッ!!」

 シンジとアスカは二人仲良く沈んでいく。

 「碇くん! アスカ! しっかりして!!」

 レイは溺れかけた二人を、今度は後ろから助け、何とか砂浜まで連れてきた。

 「ゲホッゲホッ!」

 「ゴホッゴホッ。あ~死ぬかと思ったわ」

 「ねぇアスカ、こういう事はやっぱり足が付く所から始めた方が良くない?」

 「そ、そうね。こっちまで溺れる所だったし。でもレイ、あんた海初めての割には
 泳ぐのうまいわね。溺れている人間を一度に二人も助けれるなんて。あ、そっか、
 ネルフのプールで良く泳いでたんだ」

 「うん。それに、水中生活長かったし」

 「へ?」

 「あ、ううん、何でもないの。それより、碇くん大丈夫?」

 「ゴホ、ゴホ。う、うん。ゲホ。僕は大丈夫だよ。ありがと、綾波」

 ・
 ・
 ・

 「しかし、ほんまあの三人見とったら飽きんわ」

 「全くだね。被写体には事欠かないね」

 「ちょっと二人とも、アスカや碇君が溺れてるんだから、助けようとくらいしなさい
 よ」

 「あー大丈夫大丈夫、綾波も惣流もそばにおるし、ミサトさん達もちゃんと見とる
 ようやし。それに、ヘタにワシらが手ぇ出したら、かえって惣流に恨まれかねん」

 「大丈夫だよ委員長、ほんとにやばそうな時はちゃんと助けるからさ」

 「まぁ、それならいいんだけど……」

 そんな事を話していると、ミサトから声が掛かる。

 「はーい! みんな、私の所に集まって」

 「ん? 何や、ミサトさんが呼んどる」

 「何だろう?」

 「行ってみましょ」

 「ミサトさんが何か呼んでるみたい」

 「碇くん、アスカ、大丈夫? 歩ける?」

 「うん、大丈夫」

 「何かしら、ミサトのやつ」

 こうして六人は、ゾロゾロとミサトの所に集まってきた。

 「何ですか、ミサトさん?」

 「うふふふふ。夏の海と言ったら、これしかないでしょ。スイカ割りよスイカ割り」

 そう言って、ミサトは見事なスイカを取り出した。

 「スイカ割り?」

 「ああ、レイには教えてなかったわね。スイカ割りっていうのはね、砂浜に置いた
 スイカを目隠しして割るというゲームよ」

 「随分とあっさりした説明だね、アスカ」

 「じゃあ、どう詳しく説明しろって言うのよ?」

 「ふ。甘いわねアスカ。そもそも、スイカ割りの起源は、古代中国まで遡るのよ」

 「ちゅーごくぅー? なんかいきなりうさん臭いわね」

 「そして、スイカ割りとは、暗殺者が自らの技術を磨くための修行の一つだった
 のよ」

 「はあ?」

 「考えてもみなさい。目隠しをする事によって暗闇と同じ状況を作り、スイカの
 微かな気配を感じ、一撃で破壊する。これらは全て、暗殺者に必要な事でしょ。
 時の権力者の目をごまかすために、一見遊びに見えるようなやり方で修行してたって
 事ね。それが時が経つにつれ、一般人の娯楽として定着していったのよ。だから、
 あなた達パイロットにはうってつけの遊びと言えるわね」

 「そうだったんですか。随分と歴史があるんですね。……分かりました、一生懸命
 やります」

 「綾波、今の話は信じない方がいいと思うよ」

 「え? そうなの碇くん?」

 「そうよレイ、ミサトの言う事は四割が嘘で六割が口からでまかせなんだから。
 下手に信じるととんでもない目にあうわよ」

 「ま、ま、楽しけりゃ何でもいいじゃないの」

 「それにしてもミサトさん、見事なスイカですね、これ」

 「でしょー。これ、加持君が届けてくれたのよ」

 「え? 加持君が作ったスイカなの? へー、加持君こんな趣味があったのね」

 「前に食べさせてもらったけど、結構おいしいのよ」

 「あら、それは楽しみね」

 「ミサト、私食べた事ないわよ。一体いつ食べたのよ?」

 「僕も」

 「私も食べてない」

 「え? そ、そうだったかしら? まぁいいじゃない別に。今から食べられるんだ
 し……」

 「ミサト、シンジ君たちに隠れて、こっそり加持君と会ってるわけ?」

 「べ、別に隠れてるってわけじゃ……」

 「隠さなきゃいけないような事してるって事よねーミサト」

 「う。さ、さー始めるわよー。誰がやる? あ、そーだレイ、スイカ割りした事ない
 んでしょ。やってみなさいよ」

 「え? あ、はい。やってみます」

 『逃げたわね、ミサト』 (リツコ、アスカの感想)

 「それじゃあレイ、始めるわよ」

 「はい」


 ・ ・ ・


 さ~て、来週の「海編」は、

 レイちゃんスイカ割り初挑戦』

 アスカ様スイカと大ゲンカ』

 シンちゃんはスイカが苦手?』

 を、お送りする予定です。楽しみに待っててね~!


 <つづく>


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