新世紀エヴァンゲリオン-if-

 海 編 Fパート


 じゃ、じゃあ塗るよ、アスカ

 え、ええ……

 アスカは、自分から言い出した事とは言え、やはりかなり恥ずかしいのか、身体は
 赤くなり、緊張のため、カチカチに固まっている。もちろん、シンジはアスカとは
 比べ物にならないほどに固まっている。それでも、ぎこちない手つきで、何とか
 クリームを塗り始めた。

 そんな様子を見ていたトウジ達は……。

 「ケンスケ、何でや? 何でシンジだけこないにええ目に逢うんや。ワシは納得
 いかん。絶対に納得いかへん!

 「泣くなよ、トウジ。僕だって泣きたいくらいなんだから……」

 「あ、あの、鈴原……」

 「ん、なんや? イインチョ?」

 「だから……あの……私もクリーム……持ってるんだけど……。塗ってくれる……
 かな?」

 「ワ、ワシがか!?」

 トウジは、いきなりの展開に慌てていた。

 『ふ~ん。ヒカリ、今日は随分と積極的なんだ。久し振りに鈴原に会って浮かれて
 るのかな。それとも、私に影響されたのかな。まぁ、鈍感な鈴原に気付いてもらう
 には、それくらいしないとね』

 『あら、洞木さんなかなかやるわね。これは楽しみが一つ増えたわね』

 「い、嫌ならいいんだけど……」

 「べ、別に嫌っちゅう事はない。ま、まぁしゃあないな。イインチョにはサンド
 イッチの礼があるし。ワシで役に立てるんやったら手伝うわ」

 「あ、ありがとう鈴原。それじゃあお願い」

 「お、おう」

 トウジはクリームを受け取ると、シンジ同様、ガチガチになりながら、ヒカリに
 クリームを塗り始めた。

 ちょうどその頃、シンジの方はクリームを塗り終えた。

 「あの、アスカ、これでいいのかな?」

 「あ、ありがとう、シンジ」

 二人ともかなり恥ずかしいらしく、目を合わせる事ができないようだった。

 『う~ん、初々しいわねぇ~』

 『まさに青春ね』

 そして、シンジはレイの方へ向かう。レイの肌は、今さら日焼け止めクリームを
 塗っても遅いのではないかと思えるほど赤くなっている。もちろん、日に焼けた
 わけではなく、照れているのだった。まさしく、めざましい進歩と言える。

 じゃ、じゃあ、綾波、塗るよ

 う、うん。お願い

 シンジは、レイの肌に触るのはこれで二度目となる。ふと、最初にレイの胸に触った
 時の記憶が頭の隅をよぎる。

 『へ、平常心、平常心、平常心……』

 シンジは、呪文のように、そう唱えていた。

 アスカは、そんな二人を、予想していた事とは言え、やはり面白くなさそうに見て
 いる。

 『うーん……。まぁ、これは仕方ないか。問題はこれからね。ミサトの監視から
 何とか逃れないといけないわね……。ヒカリには悪いけど、ミサトの注意を引き
 付けといてもらおうかしら。ミサトもヒカリと鈴原の事、面白そうに見てるし……。
 何とかシンジと二人っきりにならなくちゃね。そのために色々と計画立ててるんだ
 から』

 アスカは様々な計画を思い浮かべ、シンジが自分のモノになる事を想像し、ニコニコ
 していた。

 そんなアスカの思惑も知らず、レイはシンジに日焼け止めクリームを塗ってもらって
 嬉しそうにしていた。しかし、その時ふと、アスカの水着が気になった。

 明らかに、自分の水着と比べると、身体を覆っている率が違う。

 『いいな、アスカの水着、あんなに背中が出てる。その分、碇くんにたくさん塗って
 もらってたし……。私の水着、首の後ろくらいしか開いてない……。

 そうだ! 水着を脱いで塗ってもらえばいいんだ!

 ……あ、でも、人前でハダカになっちゃいけないってアスカ言ってたし……。
 周りの人たちも、みんな水着着てるから、脱いじゃいけないのかな』

 このようにして、レイは一般常識を学んでいった。

 『今度水着を買うときは、アスカのようなやつにしよう』

 とりあえず、レイは水着を脱ぐ事を諦め、そう誓っていた。もっとも、脱ごうと
 しても、レイの動きを監視しているアスカが止めるのは目に見えているのだが。

 なお、この時ヒカリも、『次はアスカのような水着にしようかな』と考えていた。

 と、こんな様子を見ていたケンスケは、ある事に気が付いた。

 『ハッ!? この構図はっ!? 綾波と惣流はシンジにラブラブだし、トウジの
 やつはいつの間にか委員長とあんな仲になってる! ミサトさんとリツコさんは、
 シンジやトウジをからかう事に生き甲斐を感じてるようだし、僕なんて相手に
 しないだろうから……。僕一人、浮いてる!?

 そう気付いた時、ケンスケの心の中は、日本では消滅した『秋風』が吹いていた。

 『ふ、ふふふ、ふははははは!! そうか、そういう事か、作者
 僕にはこんな役しか充てないつもりだな! いいだろう、そっちがその気ならこっち
 にも考えがある。僕の青春はカメラだ。撮って撮って、撮りまくってやる。そして、
 利益は全て僕一人のものだ! トウジやシンジには何一つおごってやらん。欲しかっ
 たカメラや、自分のためだけに使ってやる!』

 ……すまん、ケンスケ。このキャスティングでは、どうしてもケンスケはこういう
 役になってしまう。ケンスケ用に新キャラを作ろうかとも思ったのだが、それやると
 自分の首を絞める事になるんで、今回は我慢してくれ。だが、心配するな。ケンスケ
 が主役の話を作るかも知れないという予定がある。その時まで耐えてくれ。

 ケンスケが暗い情熱を燃やしている間に、シンジやトウジはクリームを塗り終わって
 いた。ミサトやリツコは、シンジにクリームを塗ってもらっている間、散々シンジを
 からかっていたので、シンジは更に真っ赤になっている。

 「ありがとうシンジ君、助かったわ。そうだ、お礼に今度は、私がシンジ君に
 塗ってあげるわ。

 「え!? い、いいですよリツコさん。自分で塗れますから」

 「あ~らシンちゃん、遠慮しなくてもいいのよ」

 「ほ、ほんと、大丈夫ですから……」

 シンジはジリジリと後退するが、ミサトとリツコがシンジを追いつめていく。

 「シンちゃん、上司の命令は聞かなきゃだめよ。リツコ、取り押さえるわよ!

 「任せなさい!」

 「それ~!!」

 「わー!? ちょ、ちょっとミサトさん、やめて下さい!」

 「いまさらジタバタするんじゃない!」

 「そ、おとなしくしなさい。別に取って食おうってわけじゃないんだから」

 結局、シンジは二人に取り押さえられてしまった。はた目には、いたいけな
 少年を襲っている独身女二人組に見えなくもない。
 下手すりゃ犯罪である。実際、アスカの目には、犯罪行為に見えた。

 くぉら!! 二人とも何やってんのよ! それは私がやる予定
 なの!!」

 「じゃあ私も」

 アスカとレイが加わったため、さらに大騒ぎとなった。この時、ケンスケのメガネに
 黒いイナズマが走った……。

 結局、シンジは四人掛かりでクリームを塗られ、鼻血を吹き出し、倒れてしまった。

 「あ、碇くん、どうしたの? しっかりして」

 「ちょっとミサト、どさくさに紛れてシンジに何か妙な事したんじゃないで
 しょうね?」

 「別に、私は何もしてないわよ、ねえ、リツコ」

 「そうね。別に犯罪行為は何一つしてないはずよ」

 「自分の年令の半分以下の男に触るのは犯罪なの!」

 「何よそれ? そんなの誰が決めたのよ?」

 「今、私が決めたのよ。とにかく、これ以上シンジに触るんじゃないわよ、いいわ
 ね」

 「やーねー独占欲丸出しで……」

 「心が広い女じゃ無かったのかしら?」

 「う、うるさいわね。あ、こらレイ! あんたもシンジに触るんじゃないわよ」

 「どうして? 私、碇くんと同じ十四歳だから問題ないわ

 「だーかーらーーー」

 ・
 ・
 ・

 「いやーしかし、シンジ達見てると飽きんわ。よくあんなんで使徒が倒せたもんや
 な。ほんま、信じられんわ」

 「何言ってんのよ。アスカ達があんなに楽しそうにはしゃげるのは、世界が平和に
 なったからよ。そのためにアスカ達がどれだけ辛い思いをしてきたか、鈴原も知って
 るでしょ。だから、今までの分も楽しみたいのよ。……まぁ、アスカは随分と
 変わっちゃったけど、いい事よ、きっと」

 「まぁ、言われてみたらそうやな。シンジも前より元気になったようやしな。
 ん? ケンスケ、どうしたんや、そんなとこに突っ立って?」

 「……うるさい。トウジも敵だ」

 「はぁ? ……まぁとにかく、泳ぐとするか。おーいシンジ、大丈夫か? 泳げる
 か?」

 「う、うん。大丈夫だよ」

 「よーし、せっかく海まで来たんや。さっそく泳ぐとするか。惣流もええな?」

 「そうね。ミサト達と言い合ってても話が進まないし、私も日本の海で泳ぐのは
 初めてだし、そろそろ泳ぐとしましょうか!

 「よっしゃ! 決まりや! それー!!

 そう言って、全員海に向かって走り、飛び込む。そして、しばらく沖に向かい、
 泳いだ後、顔を上げる。

 「ぷはーっ! 海なんて何年ぶりかしらねー」

 「ほんと、大学出てから一度も来てないから、随分と経つわね」

 「海の水ってこんなにしょっぱいんだ……知らなかった」

 「当ったり前じゃないの、海水なんだから。LCLじゃないんだから飲むんじゃない
 わよ」

 「鈴原、足、大丈夫? 苦しくなったらすぐに言うのよ」

 「ああ、大丈夫や。ちゃんと動いとる。心配あらへん」

 「やっぱり海はいいねー。水中カメラも買うべきだったかな」

 それぞれに久し振りの海を楽しんでいる周りを、ペンペンが嬉しそうに泳ぎ回って
 いる。

 「……あれ? 碇くんは?」

 「え? そう言えばシンジの姿が見えないわね。どこ行ったのかしら?」

 「きっと僕たちを驚かそうと思って潜ってるんだよ」

 「シンちゃんが? そんな事を?」

 「シンジ君の性格じゃないわね」

 「あ、あの泡が出てるの、碇君じゃないかな?」

 ヒカリが指差したのは岸から少し離れた場所で、泡がブクブクと水面で弾けている。

 「シンジもアホやなー。息止めとかんと自分の居場所教えるようなもんやのに」

 しかし、皆が見ている間に、どんどん泡は少なくなっていき、そしてついには、泡
 が出なくなってしまった。

 「お、おい、シンジ!!」

 「ちょっと、シンジ!!」

 「シンジ君!!」

 全員、慌てて泡が消えた場所に向かい、潜ってみる。すると、そこには目を回して
 いるシンジが沈んでいた。

 全員でシンジを何とか砂浜まで連れて行く事に成功したが、シンジは気を失って
 いた。

 「碇くん、しっかりして! 碇くん!!

 「ちょっとシンジ! 目を開けなさいよ!!

 二人とも涙目になっている。

 しかし、誰が呼び掛けても、シンジは目を覚まさなかった


 この連載も、ここで終わってしまうのか!?


 <つづく> ……(?)


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