新世紀エヴァンゲリオン-if-

 海 編 Bパート


 「デモもストライキもないわよ! やっぱりアスカ、碇君とそういう
 関係だったんじゃないの! 碇君も碇君よ! アスカや綾波さんと同棲してるだけ
 でも不潔なのに、両方とキスしただなんて、一体何考えてるのよ!!

 「そうよね~、普通そう思うわよね~」 うんうん

 「ミサトさん~、面白がってないで委員長止めて下さいよ。僕が何言っても聞いて
 くれなさそうだし……」

 「ま、シンちゃんがレイとアスカにキスしたのは事実なんだし、同棲してるのも
 事実なんだし……洞木さんが言ってる事別に間違ってないでしょ?」

 「う……そ、そりゃあそうですけど……」

 ミサトは今の状況を徹底的に楽しんでいるようで、ヒカリをなだめる気は全くない
 らしかった。

 と、その時、後ろから声がした。

 「何や? 相変わらず朝っぱらから賑やかやな」

 『え? この声……鈴原!?

 ヒカリは一瞬で騒ぐのを止め、声のする方に振り返った。しかし、そんなヒカリ
 よりもアスカの動きの方が速かった。素早くトウジの元に行き、ジト目でにらむ。

 「あんた、今の話聞いてたの?」

 「な、何やいきなり?」

 「だから、今の話を聞いてたのかって聞いてんのよ! さっさと答えなさい!

 「ワシは今ここに着いたとこや。そしたらイインチョがいつものように騒いどるん
 で、また何ぞシンジがやったんかと思うたんや」

 「そう、聞いてないのね。それならいいのよ。じゃあヒカリ、後は任せるわよ」

 「え? ま、任せるって言われても……」

 いきなり『トウジを任せる』と言われて、ヒカリは慌てていた。

 「イ、イインチョ、久し振りやな……その……元気そうで安心したわ」

 「鈴原こそ元気そうで良かった。あ、足は大丈夫なの? 荷物持ってあげようか?
 どこか痛い所ない?」

 「ああ、ワシはこの通り元通りや。何の心配もあらへん」

 そう言ってトウジはジャンプして見せた。その姿を見て、ようやくヒカリも安心した
 ようだった。

 「あ、あの……今日は私まで誘ってくれて……ありがとう」

 「い、いや、こういう事は大勢おった方がおもろい思てな。……その、迷惑や
 なかったやろか?」

 「ううん、そんな事ない。私は嬉しいもの……。あっ

 「イ、イインチョ?

 二人はそのまま真っ赤になって固まってしまった。

 『ふー。ヒカリはこれで静かになるわね。それにしてもヒカリって……鈴原なんか
 のどこがいいんだろ……だわ』

 そんな事を思いながら、シンジとレイの元に来た。

 「ちょっとレイ、さっきも言ったけど、そういう事は黙ってなさい。ヒカリ一人でも
 あれだったのよ。これが学校だったら大騒ぎになってる所よ。ほら、シンジからも
 言ってやりなさいよ。それが一番効くんだから」

 「う、うん。あのさ綾波、そういう事は普通あんまり人にはしゃべらないものなん
 だよ。だから、人には言わない方がいいよ」

 「そうなの……。じゃあそうする」

 「ええ、そうしてくれると助かるわ」

 「碇くんと私だけの秘密ね」

 「私もいるわよ!」

 「あ、そっか」

 「全くも~。あ、ヒカリ達復活したようね」

 トウジとヒカリの硬直も解けたので、トウジはミサトに挨拶に行く。そしてその後ろ
 にヒカリも付いていく。

 「ミサトさん、今日はワシらの保護者としてついて来てくれるそうで、ほんま、
 ありがとうございます」

 「あら、いいのよ。気にしないで。それに鈴原君には随分と迷惑掛けてしまった
 から、これ位はさせてもらわないとね」

 「迷惑やなんて……。ワシはこの通り元通りになったんやから、ミサトさんも
 そんな風に言わんとって下さい」

 「ありがと、鈴原君。ところで、二人とも随分と仲良しさんね。いつからそんな仲に
 なったの? 興味あるわ~~

 ミサトに冷やかされた二人は、またしても固まってしまった。

 「……ミサトってあれが生き甲斐みたいね」

 「でも、からかうだけで、邪魔しようとしてる訳じゃないのよね、ミサトさんって」

 「悪意は無いみたいなんだけどね」

 「からかわれてる本人は、十分迷惑だけどね」

 『これはチャンスかも……。ミサトがヒカリと鈴原をからかってるという事は、
 私たちへのからかいが減るっていう事よね。これを利用すれば……。
 ふふふふふ。

 アスカは、ミサトの監視が薄くなる事を期待しているようだった。

 一方、ミサトにからかわれ、固まっているトウジとヒカリにとって、救いの神
 が現れた。

 「やあみんな、おはよう」

 ケンスケの登場である。そのおかげで、何とかミサトの冷やかしは止まった。

 「あ、おはようケンスケ……。ところで何、その格好?」

 「ケンスケ、ワシら海行くんやぞ。何やその山に登るような大げさな格好は?」

 「ん、変かな?」

 そう言うケンスケの格好は、トウジが言ったように、山登りでもするかのような
 大きなリュックを背負い、釣りに使うようなポケットのたくさん付いた服を着て、
 首にはカメラを複数ぶら下げ、手にはビデオカメラを持っている。そして、腰の
 ポーチの中には、フィルムやディスクがぎっしりと詰まっていた。

 はっきり言って、あまりそばにいて欲しくない格好である。

 「これでも持って行きたい機材の半分にも満たないんだよ。でも、今回は機動性
 を考えて、この格好になったんだ」

 「どーでもいいけど、あんたあんまり私たちに近づかないでよね」

 「分かってるさ。あんまり近づくと、いいアングルが掴めないからね」

 アスカのイヤミなど、全く通じていないようだった。

 「ミサトさん、本日は僕たちのために保護者を務めて頂けるそうで、お忙しい中、
 本当にありがとうございます」

 「いいのいいの、気にしないで」

 「いえ、そういう訳にはいきません。お礼と言ってはなんですが、この旅行の思い出
 の記念作り、つまり写真はこの僕、相田ケンスケ、相田ケンスケにお任せ下さい」

 「そう? ならお願いするわ」

 「はい、任せて下さい。モデルがいい上、僕の腕は完璧です。どこに出しても
 恥ずかしくないような、売れるような写真を撮ってみせます」

 「期待してるわよ」

 「はい、お任せ下さい!」

 『売るんだろうなぁ~~~』 (レイとミサト以外の感想)


 「さてミサト、みんな揃ったし、そろそろ駅に入りましょうか」

 「あ、待って。もう一人来るのよ」

 「え、誰なんですか? ミサトさん」

 「何言ってんのよシンジ、加持さんに決まってるじゃないの」

 「残念だけど違うわよ、アスカ」

 「え、違うの?」

 「ええ、加持君も誘ったけど、ちょっと用があるんだって」

 「用?」

 「ほら、加持君ってこれまであちこちの組識を利用してきたでしょ? だから結構
 うらまれてんのよ。で、今度ネルフの役職に就いたから、今までの謝罪を兼ねて、
 改めてネルフへの協力要請に走り回ってるのよ」

 「大丈夫なんですか?」

 「まぁ、ネルフと仲が悪いって言っても、実際に争ってる訳じゃないし、第一、
 ネルフと正面からケンカしようなんてバカな組識なんて無いわよ。だから命の心配
 は無いわ。せいぜい、イヤミ言われるくらいよ」

 「それじゃあ誰なんですか?」

 シンジがそう聞いたとき、その人物が現れた。

 「お待たせ、ミサト」

 「おっそいわよリツコ! 何やってたのよ?」

 「あ、赤木博士だったんですか」

 「仕方ないでしょ。私にだって仕事があるんだから。いきなり『海行くから用意
 しろ』なんて言われても、仕事の調整が大変なのよ。それをやっと片づけて来た
 のに、そんな風に言うんだったら私行かないわよ」

 「まぁまぁリツコ、そんなに怒らないでよ。毎日毎日、モグラじゃあるまいし、
 地面の下に潜ってばかりじゃ体に悪いわよ。たまには太陽の下で騒がなきゃ。
 そう思って誘ってあげたんじゃないの。それに、リツコだって本当は楽しみに
 してるんじゃないの? 私、その服見た事ないわよ。

 「い、いいじゃないの別に……。それに、そう言うミサトだってその服、私見た
 事ないわよ。ミサトの方こそ楽しみにしてたんでしょ?」

 「えへへ~。海なんてほんと久し振りだったもんね。たっぷり楽しまなくちゃね」

 「そうね。確かに久し振りね」

 「でも、ミサトさんと赤木博士が同時に本部から離れるなんて、良く碇司令が許可
 しましたね」

 「そうなのよ。私もそれが不思議なのよ。最初はね、せめてあなた達だけでも遊び
 に行けるように頼もうと思ってたのよ。『パイロットにも休暇くらい必要だ』
 とか何とか言って、強引に押し切ろうと思ってたの。そしたら、

 『パイロットにも休暇は必要だ。反対する理由は無い、行ってきたまえ、
 葛城三佐』

 って、あっさり許可されたの。かえってびっくりしちゃった」

 「私もそうなのよ。ミサトが本部から離れるのだから、私は絶対だめだろうと思って
 たのよ。そしたら、『問題無い。君も行ってきたまえ』ってな具合なのよ」

 「碇司令、最近変じゃない?」

 「そうね。何か悪いもんでも食べたのかしら」

 「ま、融通がきくようになった分、こっちは助かるんだけど……。あ、そうだ、
 あなた達、今回の旅行は『パイロットの疲れを癒す』という目的だから、交通費、
 食費、宿泊費、その他もろもろ全てネルフ持ちだから、思いっきり楽しんでちょう
 だい」

 「おっしゃ、さすがネルフ。太っ腹や」

 「さすが世界の組識。やる事が違うね」

 「あの、ミサトさん。私までそんなのに参加していいんですか?」

 「あ~いいのいいの。気にしないで洞木さん。私のお金じゃないんだから、気にする
 事なんてないのよ」

 「ミサトさん、ネルフって案外気前がいいんですね」

 「ほんと、今までこんな事無かったのに」

 「何言ってんのよ二人とも。私たちは修学旅行にも行かせてもらえずに、命懸けで
 戦ってんのよ。これくらいするのが当たり前よ。そうだレイ、あんた海の物は食べ
 れるの?」

 「え、ええ、お肉以外は何でも平気だけど」

 「よーし。それなら普段食べられないような、うーんと高いもんを食べさせて貰おう
 じゃないの。いいわね、二人とも」

 「ははは、そうだね」

 「ふふ、そうね」

 「ええ、そうしなさい。何たって全てタダなんだから。タダ! うんとおいしい
 もん食べなさい」

 『うふふふ。シンジ君たちが食べたかったって事で、私も普段食べられないような
 もんいっぱい食べちゃおっと。当然ビールだって飲み放題よね~。ああ、夜の宴会
 が楽しみだわ』

 ミサトは一人ニヤニヤしていた。

 「あの、ミサトさん。僕たち中学生だから、ビールは飲みませんよ」

 「え? ど、どうして私の考えてる事が……」

 「ミサトの考えてる事なんてすぐ分かるわよ」

 「いいですよミサトさん。『私たちが飲みたかった』って事にしておけば」

 「あ……あは……あははははは」

 「ミサト、すっかり見抜かれてるわね。全くどっちが保護者なんだか……」

 「ま、まぁいいじゃない。それじゃあみんな、行くわよ」

 そう言って、ミサトは駅に入っていった。シンジ達は笑いながら後に続く。

 なお、ゲンドウは『政府専用列車を手配する』と言っていたのだが、『大袈裟に
 したくないし、のんびりと景色を眺めるのも旅行のうち』とミサトが主張したため、
 一般車両に乗り込む事になった。

 もっとも、今、第三新東京市は戻ってきた人たちが引っ越しの後片付けなどに追わ
 れているので、外に遊びに行く人は殆どいない。そのため、殆ど貸し切り状態で
 ある。

 そしてシンジ達は席に座った。それぞれどこに座ったかというと、シンジを中心に
 左右をレイとアスカが固め、ミサト達は、そんな三人を見やすい位置に座っていた。

 列車が動き出すと、レイは嬉しそうに外の景色を眺めている。殆どこの街から出た
 事のないレイにとって、見る物全てが新しく楽しかったので、随分とはしゃいで
 いる。シンジがすぐ横にいるというのも大きいようだった。

 (何だかレイが幼児化しているような気がする……)

 シンジやアスカも、子供の頃に家族とどこかに出掛けたという記憶が殆ど無いため、
 嬉しそうにしていた。

 と、そんな時、アスカのお腹が小さく鳴った。

 「ねえシンジ。お腹すいたからお弁当食べよ」

 「え、ここで? 海に着いてからにすれば……」

 「私は今食べたいの。ねえいいでしょ、シンジ」

 「そりゃ、まぁ、いいけど」

 「あらシンジ君。お弁当持ってきたの?」

 「ええ、『こういう時にはお弁当持っていくもんだ』ってミサトさんが言うもん
 ですから」

 そう言って、シンジは持ってきたお弁当箱を取り出した。その弁当箱は、一人一人
 分けているのでは無く、おにぎりを入れた箱や、おかずを詰めた箱に分けられて
 いた。子供の運動会に親が持ってくる弁当スタイルだった。

 「さすがシンジ君、随分とおいしそうね」

 「良かったらリツコさんもどうぞ」

 「え、私も食べていいの?」

 「ええいいですよ。多めに作ってますから一人くらい増えても大丈夫です」

 「そうなの? じゃ頂くわ」

 「シンジ、僕たちの分は無いのか?」

 「え? あ、ごめん。作ってないんだ」

 「何や、白状なやっちゃな。シンジはもっと友達思いやと思うとったのにな」

 「なーにぜいたく言ってんのよ。あんたはヒカリに貰えばいいでしょ」

 「ん? イインチョも何ぞ作っとるんか?」

 「う、うん。サンドイッチ作って来たんだけど……食べる?」

 「さっすがイインチョやな。もちろん頂くわ。あ、でもそれイインチョの分やろ?
 ワシが食べたらイインチョの分がのうなるやんか。やっぱりええわ」

 「あ、いいのよ。ちょっと作る量を間違えちゃって、一人じゃとても食べきれない
 の。残しても悪くなるだけだから遠慮しないで食べて。相田君もどうぞ」

 「え? 僕もいいの?」

 「うん。ほら、たくさんあるから。遠慮しないで」

 そう言って、ヒカリは持ってきていたバスケットを開いた。中にはサンドイッチが
 たっぷりと詰まっていた。

 「おお~、こりゃうまそうや」

 「ほんと、さすが委員長」

 「どれどれ……。あらほんと、おいしそうね。でも、どう見ても一人分じゃない
 わね。……洞木さん、本当に間違えて作ったの?

 「え……あ……あの……その……

 ミサトのニヤニヤしながらのツッコミに、ヒカリは赤くなっている。もちろん、
 間違えて作ったのでは無く、最初からトウジに食べてもらいたくて作っているので
 ある。ケンスケの分まで作ったのは、ついで……というか照れ隠しである。
 ……ふびんだな、ケンスケ。

 ヒカリが赤くなっている意味にも気が付かないほど鈍感なトウジは、パクパクと
 サンドイッチを食べている。

 「いやー、しかしイインチョの作るもんは、いつ食べてもうまいなー」

 「え? ほんとスズハラ?」

 「ああ、ほんまや。なぁケンスケ」

 「うん、確かにおいしいね。ところでトウジ、その言い方だと、前にも委員長
 の手料理食べた事があるみたいだな」

 「え? あ、ああ。ワシが入院しとった頃、イインチョが弁当作ってくれてたんや」

 「へえトウジ、いつの間に委員長とそんな仲になってたの?」

 「ち、違うのよ碇君。これは、その……鈴原が『病院の料理はおいしくない』って
 言うから……その……。

 「ふ~~~ん」

 全員が面白そうにトウジとヒカリを見る。レイまで面白そうに見ている。そんな視線
 をごまかすようにトウジは口いっぱいにサンドイッチを詰め込み、喉を詰まらせた。

 「う!! うぐぐ!!」

 「あ、鈴原! はい、お茶」

 「す、すまん」

 ヒカリは嬉しそうにトウジの世話を焼いている。トウジもまんざらでもない様子
 だった。

 『ヒカリ……あんなに嬉しそうにして……。手料理を食べてもらうのってそんなに
 嬉しいのかな。私も何かシンジに作ってみようかな……。でも、こないだのカレー
 失敗したから、もう食べてくれないかも……。でも、あれはミサトが邪魔したから
 失敗したんだし、私一人で作ればちゃんとした物になるはずよね。……だけど、
 こんなおいしいおにぎり私には作れないし……どうしようかな』

 そんな事を思いながら、隣に座っているシンジを見る。

 すると、レイが予想外の行動に出ていた。

 「碇くん。はい、口開けて」

 「え? な、何、綾波?」

 「私が食べさせてあげる」

 えっ!?

 な!!

 「ほー」

 「あらま」

 ぬっ!

 何っ?!

 「綾波さん!?」


 <つまずく……もとい……つづく>


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