新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第四部 Eパート (最終回)


 ● 碇シンジ

 「……えーと、これで全部だな。水着は明日買えばいいし、一泊だからそんなに
 着替えもいらないし……」

 男が海に持っていくものなど殆ど無く、シンジの準備はあっさりと終わっていた。

 「でも海か~。子供の頃溺れて以来行ってないから、何年振りになるのかな。泳げる
 ようになってればいいけど……」

 シンジは溺れて以来、水泳の授業はいつも見学していた。そのため、今、自分が泳
 げるかどうかも分からなかった。

 「多分大丈夫だろう。毎日LCLに漬かってるから水にも慣れたし、あの頃に比べる
 と背も伸びたし、何とかなるさ」

 と、気楽に考えていたが、重大な事を忘れていた。

 海水の中では息が出来ない! という事を。

 果たして、シンジの運命やいかに!?


 ● 綾波レイ

 レイは、アスカから教わった事を書いたメモを頼りに、荷物をカバンに詰めていた。

 「……えーと、これでいいのかな。もう一度確かめてみよっと」

 そう言うと、カバンの中の物を全て出し、一つ一つ確かめながらカバンに入れる。

 そして、こんな事をもう三度繰り返している。

 「海……碇くんと一緒に海に行けるんだ。初めての海に碇くんと行けるんだ……。
 うれしい。私の事も誘ってくれるなんて、やっぱり碇くんって優しいな」

 「海ってどんな所なんだろ。どんな所でも、碇くんと一緒なら楽しいんだけど……。
 早く土曜日来ないかなぁ~

 レイは、シンジと海に行けるため、すっかり浮かれていた。そんな時、ふっ
 浮かれている自分に気付く。

 「ふふふ、私がこんな気持ちになるなんて、以前からは考えられない事ね。私も
 変わってきてるのかな? きっと碇くんのおかげね。碇くんが私を変えてくれてる
 のね。なんだかうれしいな……。以前、碇くんが遊びに来てくれてた時も、碇くん
 が来る日を楽しみに待ってたけど、今度は碇くんと一緒に遊びに行けるんだ。それ
 がこんなにもうれしいなんて、こんなにも待ち遠しいなんて……」

 「あ~あ、早く土曜日来ないかなぁ~。どうして明日もテストなんかあるんだろ。
 テストが無ければ明日から遊びに行けるのに……。待ち遠しいな……」

 「あっそうだ、早く寝てしまえばいいんだ! そしたら、目が覚めたら
 もう明日。明日も早く寝ればもう土曜日ね。うん、今日はもう寝ちゃおっと」

 そう決めると、そそくさとパジャマに着替え、布団に入ってしまった。

 『…………寝られない。どうして?』

 まだ九時前だし、海の事が楽しみで、全く寝つけないレイだった。

 『海の事考えてるから寝れないのかな。別の事考えてみようかな……』

 『そう言えば今日、碇くん、私の事綺麗だって言ってくれたんだ。私の事かわいい
 って言ってくれたんだ。……前にアスカの事は綺麗だって言ってたのに、私には
 何にも言ってくれないから、どう思われてるか心配だったけど……。うれしい。
 私の事、綺麗だと思ってくれてたんだ。私の事、かわいいと思ってくれてたんだ』

 『碇くんが私の事綺麗だと言ってくれた。碇くんが私の事かわいいと言ってくれた。
 碇くんが私の事……』

 その後、レイの頭の中はシンジのセリフがぐるぐると無限に繰り返され、結局、夜
 遅くまで寝られず、翌日のシンクロテストは寝不足で散々な結果だったという。


 ● 惣流・アスカ・ラングレー

 「……今回はこの水着で我慢するとして、問題は何を着て行くかね。やっぱりシンジ
 と初めて会った時に着ていた、思い出の黄色いワンピースにしようかな。
 結構海に合うし……。あ、でもあの服は風に弱いという致命的欠陥があった
 わね。シンジだけならともかく、相田のやつ絶対にカメラ持ってくるだろうし……
 う~~ん。ま、この私が着るんだから、何着ても似合うのは間違いないんだけど
 ね』

 『と、なると、今しなければならないのは、服選びより、あれね!」

 そう言って、アスカは机の上に置いてある一冊のノートを見る、それには、

 『シンジ攻略計画 -夏の海編-』

 と題が付けられていた。

 「夏の海と言えば、男も女も最も開放的になるはず。いくら奥手のシンジでも、
 私がうまくアプローチすれば……。ふふふふふふ……

 「ここんとこ、どーもレイにポイント取られっぱなしのしような気がするから、
 ここらで一気に挽回しておかないとね。そのためには、あらゆるシチュエーション
 に対応できるように、完璧な計画を立てなくちゃ……今夜は忙しくなりそうね」

 「見てなさいよレイ! この旅行で、シンジの心はアタシのモノ
 なんだから!」

 そう言って、燃えながら様々な計画をノートに書き出した。そしてその作業は夜通し
 行われたので、翌日のシンクロテストは寝不足で散々な結果だったという。


 ● 葛城ミサト

 「……う~ん。この水着とこの水着、どっちがいいかなー。これはちょっちシン
 ちゃんには刺激が強いかな……。やっぱりこれにしようかな。でも、これも捨て
 がたい。ま、この私が着るんだから、何着ても似合うのは間違いないんだけどね」

 ミサトがアスカに似たのか、アスカがミサトに似たのか、一緒に暮らしていると
 考え方が似てくるのか、二人は同じような事を言っている。

 「それにしても海なんて久し振りね、降り注ぐ太陽の下で飲むビールはさぞかし
 おいしいでしょうね。あ~楽しみだわ」

 「楽しみと言えば、レイとアスカね。あの二人がどう出るか……。アスカは何か
 企んでるようだし、レイも張り合うだろうし……ふふふ、面白くなりそう」

 ミサトは、本当にうれしそうに微笑んでいた。


 ● 鈴原トウジ

 「ミサトさんも来るやなんてワシは運がええんやな。せやけど、今回はこの足が
 目的やからな。この足がどこまで思った通りに動くか確かめなあかん。色んな泳ぎ
 を確かめなあかんな。それに、片方だけ色が白いいうんもカッコ悪いからしっかり
 焼かなあかんな」

 と、トウジは十四歳の少年らしく、健康な事を考えていた。


 ● 相田ケンスケ

 「ふっふっふっふっふっ……。綾波や惣流や委員長だけじゃなくて、
 ミサトさんまで来るなんて、何て僕は運がいいんだ。ミサトさんの写真なら一枚
 百円……いや二百円はいける。これは随分と利益が出そうだな。欲しかったあの
 カメラが買えるかも……。よし、カメラの調整をしっかりしないとな。これは
 今夜も徹夜だな」

 と、かなり不健康な事を考えていた。

 ちなみに、あまりにカメラの事ばかり気にしていたので、家を出る瞬間まで水着の
 準備をすっかり忘れていたのである。


 ● 洞木ヒカリ

 「……鈴原が私を誘ってくれたんだ。私の事覚えていてくれてたんだ……。
 足、大丈夫なのかな? 海ではずっとそばについてなきゃね」

 「そうだ! 鈴原にお弁当作ろうかな……食べてくれるかな……」

 というように、ヒカリもレイと同じく、恋する乙女モードに突入していた。


 

 「かき氷、何味おごってもらおうかなー」

 「碇くんが私の事綺麗だと言ってくれた。碇くんが……」

 「天気で攻める、生年月日で攻める、血液型で攻める、etc……。ふふふ、
 完璧な作戦ね。ふふふふふ……時々自分が恐くなるわね。でもこれで
 シンジは間違いなく私のものね」

 「ああ、ナンパされたらどうしよう。私には加持君が……」

 「徹底的に泳ぐ!

 「徹底的に撮る!

 「鈴原にお弁当……」


 それぞれの思いを秘めつつ、夜はふけていく。


 シンジは海に何を思う?

 アスカは海で何を企む?

 レイは海に何を感じる?


 そして土曜日、天気快晴。

 一同は、波瀾を予感させる根府川へと旅立った……。


 新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第五部 


 長い間のご愛読、そして応援ありがとうございました!

 加藤氏の次回作にご期待下さい!


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