新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第四部 Cパート


 「じゃあ、アスカはシンジ君と結婚する気は無いのかい?」

 「当ったり前じゃない!! どうして美しい私がわざわざ好き好んで、こんな
 情けないやつと結婚するのよ! 常識で考えたら分かるじゃないの」

 「そっか、アスカはシンちゃんと結婚する気はないか……。
 良かったわね、レイ。

 「はい!!」

 レイは、実に屈託のない笑顔でそう答えた。

 「え? 綾波、それって……」

 「ちょっとレイ! あんた何ハッキリ答えてんのよ! 私はただ、そんな
 先の事、今すぐ決められるわけないって言ってるだけでしょ!」

 「おいおいアスカ、それは今言ってたのとは随分と意味が変わってくるぞ」

 加持は、実に面白そうにそう言った。その横ではミサトがニヤニヤしている。

 レイは、アスカの言う事が急に変わったので、シンジを取られないように、そっと
 シンジの腕に抱きついていた。当然、そんな事をすれば、綾波の胸の感触がシンジ
 の腕に伝わってくる。

 シンジは慌てていた。

 「あ、あの、綾波。ちょ、ちょっと、その……ム、ムネが……

 くぉらレイ! シンジに抱きついてんじゃないわよ! 離れなさい」

 「いや」

 「な、何でよ!?」

 「アスカ、さっき『碇くんと結婚する気は無い』って言ったじゃない」

 「あ、あれは言葉のあやよ。とにかく離れなさい!」

 アスカはそう言って、シンジの別の腕を引っ張り始めた。レイも負けじとシンジを
 引っ張る。

 「ちょ、ちょっと二人とも止めてよ!」

 「やー、シンジ君もてるなー。うらやましいよ」

 「ほ~んと。シンちゃんもスミにおけないんだから」

 「葛城、この三人はいつもこうなのかい?」

 「そ~なのよ! もう見てるだけで面白くて面白くて」

 「確かに、毎日目の前でこれをやられたら、退屈はしないな」

 「でしょ~~~」

 「もうー! 見てないで助けて下さいよ。いてて! 痛い、痛いよ二人とも!」

 「あ、碇くん、ごめんなさい!」

 シンジが痛がるため、レイは慌ててシンジの腕を離した。結果として、シンジは
 アスカの方に引っ張られてしまった。

 「ふっ。レイ、どうやら私の勝ちのようね」

 「いいえ。今の場合、レイの勝ちよ」

 「そうだな。まさかこんな所で『大岡裁き』が見られるとはな」

 「? どういう事、加持さん。その『大岡裁き』って何?」

 「ああ。『大岡裁き』って言うのはな、江戸時代に、一人の子供に対して二人の
 母親が名乗りをあげたんだ。『自分こそが本当の母親だ』と言ってね。それを見た
 大岡という人が、『子供を両方から引っ張って、勝った方が本当の母親だ』と言っ
 て、二人の女性に子供の手を引っ張らせたんだよ。今の君達みたいにね」

 「すると、子供は痛くて泣きだしたんだ。その時、子供の身を案じて手を離した方
 が、『より子供の事を考えている本当の母親』だという事になったんだ。だから、
 今の場合、シンジ君の身を案じて手を離した綾波君の勝ちって事になるんだよ」

 「私がそんな日本の昔話を知ってるわけないでしょ。レイはその事を知ってて手を
 離したんじゃないの?」

 「私、そんな話知らない。ただ、碇くんが痛がったから手を離しただけ」

 「本当かしら?」

 アスカはレイを睨んでいた。

 「アスカ、ちょっと待ってくれ。この話は、もともと紀元前にエルサレムのソロ
 モン王が行ったとされる事が、世界各地で翻訳されて伝わっているものなんだ。
 ドイツにも似たような話があるんじゃないのかい?」

 「さぁ、私は聞いた事が無いけど……」

 「まぁまぁ、いいじゃない三人とも。今日は加持君が生き返ったお祝いよ。
 ぷわーーっとやりましょう! ぷわーーっとぉ!!

 「おいおい葛城、俺は死んでたわけじゃないぞ」

 「ま、いいじゃない! シンちゃん、悪いけど料理作ってくれる?」

 「ええ、いいですよ。僕も加持さんが無事だって分かって嬉しいです」

 「じゃあ、私も手伝う」

 レイがすかさずシンジの元に寄ってきた。

 「あ、そうだ、リツコにも知らせてあげなきゃ。きっとリツコも加持君が無事だと
 知ったら喜ぶわよ」

 「うまい事言っちゃって。それだけじゃないんでしょ? ミサト」

 「ん? どういう事、アスカ?」

 「またまた、とぼけちゃって。加持さんと結婚する事、リツコに自慢したいんで
 しょ?」

 「わ、私はそんな事しないわよ」

 「本当に? 絶対に? これっぽっちも思わなかったって言える~?」

 「う……。ま、まぁ、少~~~しくらいは考えたかな」

 「ほら見なさい。ま、いいわ。気持ちは分からなくはないから。じゃ、私はビール
 を買ってきてあげるわ。どうせ徹底的に飲むんでしょ。家にある分だけじゃ足りな
 いだろうからね。ほら、シンジ、レイ、あんたたちも手伝いなさい。どうせ料理の
 材料を買いに行くんでしょ?」

 「そうだね。じゃあ三人で行こう。アスカにビール持たせるわけにもいかないし」

 「当然でしょ。やっと分かってきたようね」

 「碇くんって、やっぱり優しいわね」

 「そ、そうかな」

 「え~いっ! いちいちイチャつくんじゃない!」

 「じ、じゃあミサトさん。ちょっと買い物に行ってきます」

 「あ、待ってシンジ君。はい、これカード。あなた達もジュースとかお菓子とか、
 好きなもの買ってきなさい。それじゃ、気を付けて行ってくるのよ」

 「はい、分かりました」

 そう言って、シンジ達三人は部屋を出ていった。そんな三人を見ていた二人は、
 少し真面目な表情になっていた。

 「あの三人も、明るく元気になったな」

 「ええ、本当に。でも一時はかなり酷い状態だったのよ、あの子達……」

 「ああ、その話は聞いている。葛城も苦労したんだろ?」

 「まぁね。でも、結局私はあの子達に何もしてあげられなかった。自分の事だけで
 精一杯だったわ……。保護者失格ね」

 「あんな状況じゃ仕方ないさ。あまり自分を責めない方がいい」

 「ええ、そうね……」

 「しかし、アスカがあんな風になって、明い三角関係を繰り広げているとはな。
 ドイツにいた頃からは想像もできないよ」

 「そうなの? でもアスカ、加持君にはなついてたし、良く笑ってたじゃないの」

 「あれは本当の笑顔じゃないさ。どこか作った顔だったよ。それに、なついてると
 言うより、年上の男に憧れていると言うか、自分を認めてくれる存在……父親を俺
 の中に求めてたんだろうな。家庭がうまくいってないようだったし……。なんだ
 かんだ言ったって、同い年の男の子がいいに決まってるさ」

 「リツコもそんな事言ってた」

 「アスカが葛城やシンジ君と一緒に暮らしたのは、アスカにとって良かったようだ
 な」

 「でも、最初は大変だったのよ。すぐにシンジ君とケンカするし、私とも加持君の
 事とかあってウマが合わなかったし……。でも、アスカが退院する頃には、随分
 とシンジ君と打ち解けたみたいね。加持君、知ってる? あの二人ね、キスした事
 あるのよ。それも二回も」

 「へー、そいつは知らなかったな。あのアスカがねー、二回も」

 「それだけじゃないのよ。シンちゃんたら、レイともキスしたのよ。おまけにムネ
 まで触ったらしいの」

 「それはそれは。シンジ君、見掛けによらずなかなかやるねー。しかし、あの綾波
 君がそんな事をねー。ちょっと信じられないな」

 「ま、胸を触ったのは事故らしいけど、キスしたのは本当よ。しかも、レイの方
 から」

 「そうなのか。綾波君はそういう事にまるで興味が無いように見えたが……。
 あの子も少しずつ変わってきているようだな」

 「ええ。レイもシンジ君との間で色々あったのよ。あの子達は、三人でいる事に
 よってお互いに刺激し合い、少しずつ変化してるのよ。特に二人にとって、シンジ
 君の存在は大きいみたいね」

 「そのようだな。しかしさっきも言ったが、一番変わってきているのは、シンジ君
 のようだな。確かにアスカや綾波君も随分と変わった。しかし、それはシンジ君の
 変化を受けての事だろ? 周りの人に影響力を与えるほど、シンジ君の心は強く
 なってきている」

 「そうね。確かにシンジ君は嫌な事から逃げなくなった。そして自分から、今では
 自分から他人と積極的に関わろうとしているようにも見えるわ。特にレイとね」

 「そのようだな。こりゃアスカも大変だ」

 「本当ね。アスカは素直じゃないから。周りから見ればバレバレなのにね」

 「ああ。……しかし、彼らが笑顔で過ごせる時代が早く来ればいいな」

 「ええ。もうあの子達を戦場に送るような事はしたくない。もう二度と、使徒なん
 か来なければいい。もう二度と……」

 ミサトは少し涙目になっている。そのミサトを、加持は優しく抱きしめる。

 「葛城も辛かったんだな。指揮官として、子供達を戦わせた事が……。だが、一人
 で苦しむ事は無い。これからは、その苦しみを半分背負う事にする。だから、葛城
 には笑顔でいて欲しい」

 「……ありがとう加持君。そうよね、私がしっかりしなきゃね」

 「ああ、それでこそ葛城だ」

 「じゃあ加持君、飲みましょ。シンちゃんがレイやアスカと何があったか教えて
 あげる。アスカとキスした時の秘蔵VTRもあるのよ」

 「おいおい、そんなもんまであるのかい? 覗きとは趣味が悪いな。しかも、録画
 までするとは……」

 「だって、あんまり面白そうだったから、思わずリツコに録画を頼んだのよ。
 リツコも面白がって、すぐ録画してくれたし。シンちゃんにとっても、将来いい
 思い出になるって」

 「問題のタネにならなきゃいいがな」

 「それはシンちゃんがどっちを選ぶかの問題ね。それに、レイもアスカも、お互い
 がシンちゃんとキスしたのを知ってるのよ」

 「それでいてシンジ君を取り合ってるのかい? こりゃ本物だな。……シンジ君も
 嬉しいだろうが、これからが大変そうだな」

 「さ、飲も飲も」

 ミサトは嬉しそうに加持を引っ張り、リビングに入っていった。


 その頃、シンジ達はいつものスーパーで買い物をしていた。ミサトのしつけがいい
 のか、ビールに合うような物ばかり買っていく。しかし、それらの物は、殆どが
 レイが食べられない物ばかりなので、レイ用に別の材料も買う。この辺りの細かい
 配慮が、いかにもシンジらしかった。

 「でもミサトさん、元気になって良かったね。今までどこか無理して明るく振る
 舞ってるみたいな所あったし、時々、すごく寂しそうな顔してたから」

 「そうね。よっぽど加持さんが生きてたのが嬉しいのね」

 「しかし、今日は見物ね」

 「? どういう事、アスカ?」

 「鈍いわねー。いい? 加持さん、ミサト、リツコ。この三人は大学の頃からの付き
 合いよ。その三人の内の二人、加持さんとミサトが結婚するって知ったら、リツコ
 はどう思うかしら? しかも、リツコは30過ぎてまだ一人だし。これは見物よ。
 ……血の雨が降るかもね。

 「た、確かに、ちょっと揉めそうだな」

 「? そうなの?」

 「いつかレイにも分かる時が来るわよ」

 「アスカ、あんまりリツコさんをからかわない方がいいよ」

 「分かってるって。私だって、エントリープラグにを入れられたくないからね」

 「は、ははは……」

 『リツコさんなら、やりかねないな……』

 シンジは少し恐くなった。

 その後、自分達のジュースやお菓子を買い、近くの馴染みの酒屋へ行く。中学生
 なのに、馴染みの酒屋があるというのも問題があるが、ミサトのお使いで良く来る
 ので、知らずに馴染みの店となっていた。

 先ほどのスーパーもそうだが、この辺りは被害も無く、疎開していた人達も徐々に
 戻ってきているので、結構店は賑わっていた。

 「アスカ、これはちょっと買い過ぎなんじゃないの? 家にだって、まだ随分と
 ビールあったんだし」

 アスカはビール箱を二箱ほどシンジに持たせていた。いくら何でも重いので、フラ
 フラしているのを、なんとかレイが支えている状態である。

 「何言ってんのよ。加持さんもリツコも、あのミサトと大学の頃から付き合ってん
 のよ。ミサト並に飲むに決まってんじゃない。これでも少ない位よ」

 「で、でも、こんなに沢山、どうやって持って帰るんだよ? 他にも、ジュースや
 お菓子も結構買ってるんだよ。とても一度じゃ運べないよ」

 「何情けない事言ってんのよ。男でしょ、しっかりしなさい!」

 「こんな時だけ男扱いするんだからなーアスカは。いくら男でも、これは無理だ
 よ」

 「それくらい、『気合』で何とかしなさいよ! それで駄目なら『熱血』よ!
 『根性』よ! 『ド根性』よ! ちゃんと『激励』してあげるし、倒れたら『復活』
 かけてあげるから」

 「……アスカ、ゲームのやりすぎだよ……。だいいち、こんなに荷物持って
 たら、『足かせ』がかかってるようなもんだよ。部屋に着くまで、随分と時間が
 掛かってしまうよ」

 「何よ。あんただって新ウルトラスーパーロボット大戦GX7
 やってんじゃないの」

 「でも、あれに『エヴァ』出ないのかな?極秘じゃなくなったんだから、出ても
 いいのに……」

 「何でも、次の『GX8』には出るかも知れないって、雑誌に書いてあったわよ。
 ATフィールドで7000までのダメージ防御できるんだって。でも、5ターンまでしか
 動けないって」

 「ま、決戦兵器だから仕方ないか」

 「? ? ? ?」

 二人のゲーマーの会話に、すっかりレイは置いていかれていたが、数日後、しっ
 かりハマっていた。


 ……と、そんな三人を見かねた店員がカートを貸してくれた。シンジはお得意様
 だし、人が良さそうなので信頼してくれたらしい。

 シンジ達は店員に頭を下げ、その店を後にした。

 「しかしいいなぁー。あんな美人のいとこがいるなんて……」

 「え? 俺はハラ違いの兄妹だと思ってたけど」

 「案外、赤の他人が同棲してるだけだったりしてな(笑)」

 「あははははは! そいつはいい、傑作だ!!」

 などと、店員達は明るく笑っていたが、実際その通りなのである。困ったもんだ。

 「でも助かったよ。カート貸してもらえて。本当にどうしようかと思ったんだ」

 「良かったね、碇くん。これも碇くんの人柄ね」

 「そ、そうかな……」

 「何言ってんのよ。ウチほどあの店の売上に協力してる所なんて無いでしょ。
 これ位のサービスは当たり前よ」

 「確かに。ミサトさんの飲む量はハンパじゃないからなぁ」

 「良く体壊さないわね」

 「あの料理を平気で食べるんだから、丈夫な体してんのよ」

 「なるほど」

 「妙に説得力あるわね」

 「でしょ」

 そして、三人とも明るく笑い合ったりしながら、部屋まで戻ってきた。カートは
 玄関の横に折りたたんで置いておき、荷物を運び込む。

 「よ、三人ともすまないね。せめて、これ位は手伝うよ」

 そう言いながら、加持はビールやジュースを冷蔵庫に入れていく。

 「ねぇ、シンちゃん。悪いけどおなかすいたんで、何か作ってくんない?」

 そう言うミサトは、既にただのヨッパライと化していた。リビングの上には、
 かなりの量のビールの空き缶が並んでいる。恐らく、その大半をミサトが飲んだの
 であろう。加持と再び一緒に飲めるのが嬉しいようで、いつもよりペースが早い
 ようだ。

 『なるほど。こりゃアスカの言ってた通りだ……。リツコさんも、きっとすごく
 飲むんだろうな……』

 「はい、分かりました。今から作ります。ところで、リツコさんはまだ来てないん
 ですか?」

 「んー。さっき電話したから、もうすぐ来る頃よ」

 その時、ちょうどチャイムが鳴った。

 「あ、リツコさん来たのかな?」

 そう言ってシンジは玄関に向かおうとした。

 「あ、いいわシンちゃん。私が出るから」

 ミサトは嬉しそうにそう言い、玄関に向かった。

 「は~~~い!!」

 「ミサト、どういうつもり? 用も告げずに『いきなり来い』だなんて……。
 おまけに朝っぱらからビールまで飲んで、一体何考えてるのよ?」

 「まあまあリツコ。とりあえず入って入って」

 「何なのよ。本当に……」

 ミサトはリツコを引っ張り、リビングまで連れていった。そこには加持が待ってい
 た。

 「よっ、リッちゃん。久し振り」

 「か、加持君!!」


 <つづく>


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