新世紀エヴァンゲリオン-if-

 第四部 Bパート


 「葛城、俺は君を愛している。昔から、今も、そしてこれからもずっと……」

 「葛城、俺と結婚してくれ」

 加持とミサトは見つめ合っていた。そして、ミサトは返事の代わりに、加持と口づけ
 を交わした。

 『加持さん、無事だったんだ……良かった。でも、ミサトさんすごいな、あんな
 事を……』

 『ミサトさん嬉しそう。でもなんだかドキドキする。あ、あんな事まで……』

 う~~~う~~~う~~~!」

 『ミサトー! 加持さんから離れなさいよ! シンジ、レイ、離しなさい!!』

 影から二人を見ていた三人だったが、アスカが飛び出しそうになったので、シンジ
 とレイが気を利かせてアスカを押さえつけ、口を塞いでいるのである。

 「ん? よう! 三人とも、元気だったかい?」

 「や、やだ。三人とも見てたの?」

 「加持さん、無事だったんですね。良かった」

 「あれ? シンジ君は俺が何をしてたのか知ってるのかい?」

 「いえ。ただ、ミサトさんがずっと泣いてたから、加持さんに何かあったのかと
 思って、それで心配してたんです」

 「そうか……。葛城、俺のために泣いてくれたのか」

 「ちょ、ちょっとシンちゃん、何言うのよ。私は別に、こんな奴の事で泣いてたん
 じゃ無いわよ!」

 「美しいご婦人に涙を流して頂けるとは、男として光栄だな」

 「だから、違うって!」

 「どういう事なの、加持さん。何かあったの?」

 「ああ、俺は少し危険な任務についてたんだ。それで、一般的には、俺は死んだ事
 になってたのさ」

 「そうだったんですか」

 「それで最近見えなかったんだ」

 「アスカ、君のお見舞いに行けなかった事は、本当にすまないと思ってる。アスカ
 が入院して、ひどい状態だったのは知ってたんだが、俺も自分の命が危ないような
 状態だったし、皆を巻き込みたくなかったんだ。すまない。 ……だが、シンジ君
 がいれば何とかなるだろうと思っていたから、心配はしてなかったけどな」

 「シンジがぁ~? 加持さんはシンジの事、買いかぶりすぎよ。シンジなんて、
 本当に情けなくて頼りにならないし、加持さんに比べて全然カッコ良くないし……」

 「悪かったね、頼りなくて」

 「あ~ら、本当の事じゃない」

 「アスカ、碇くんはそんな事ない。ちゃんと私の事守ってくれてる」

 「ありがとう、綾波」

 「何よ、すぐレイはシンジの事かばうんだから!」

 「ははは。相変わらずアスカは素直じゃないな。本当はそんな事思ってないんだ
 ろ? 現に、そうして元気になったのは、シンジ君のおかげじゃないのかい?」

 「そ、そりゃそうだけど。ま、少しは感謝してやってもいいわよ」

 「まっ、アスカがそこまで言えりゃ大したもんさ」

 「ところでシンジ君、しばらく見ないうちに、随分と成長したようだね。男の顔に
 なってきてるよ」

 「僕がですか? 自分じゃ全然そうは思いませんが」

 「こういう事は、しばらく会ってない人の方が良く分かるもんさ。ジオフロント
 まで侵入した使徒から逃げず、自らの意思で戦う事を選んだ時から、シンジ君は
 少しずつ変わっていったんだよ」

 「人は、何か困難に直面した時、逃げずにその困難に正面から立ち向かう事を心に
 決めた時、その困難には既に勝ってるんだよ。結果として成功しようが失敗しよう
 が、確実に心の中では何かが変化している。シンジ君の場合、それが自信に繋がっ
 てるんだろうな」

 「自信……ですか」

 「ああ、シンジ君は立派な事をやったんだ。俺はあの時戦ったシンジ君の事を尊敬
 してるんだ」

 「ぼ、僕をですか?」

 「もう~! 加持さんはシンジの事褒めすぎよ。それに、私やレイだって、あの
 使徒と戦ったわよ。……負けちゃったけどね」

 「もちろん、君たちの事だって尊敬してるさ。だが、考えてみてくれ。失礼な言い
 方だが、君たち三人の中で、シンジ君が一番気が弱いだろ?」

 「ええ、まあ」

 「だからこそだよ。あんな絶望的な状況の中、シンジ君は逃げなかった。気の弱い
 人間なら、逃げても全くおかしくない状況だったのに、だ。気の弱い人間が、使徒
 に向かって行くのは、普通の人の何十倍もの勇気が必要だ。その勇気を出し、戦う
 事を選んだシンジ君だからこそ、俺は尊敬しているのさ」

 「そうね。あの時、シンジ君はもうエヴァには乗らないって言ってたのに、ネルフ
 に帰ってきてくれて、初号機に乗ってくれた。そして使徒を倒してくれた。シンジ
 君が来てくれなかったら、今頃どうなっていた事か……」

 「ま、あれを倒したのはシンジなんだから大したもんよね。それは認めてあげる
 わ」

 「ほんと。碇くん、すごい」

 「そ、そうかな。でも、あの時、僕が逃げなかったのは、加持さんが励ましてくれ
 たからで、僕一人じゃ、きっと何も決められなかったと思います」

 「それは違うよ、シンジ君。俺はきっかけを与えただけだ。全てを決めたのは、
 シンジ君自身だよ。シンジ君、気が弱いのと臆病な事は同じじゃない。君は逃げて
 はいけない時を知っている。自分が何をすべきなのかを、ちゃんと分かっている。
 それを実行するだけの力がある。簡単なように見えても、それはとても困難で、
 大変な事なんだよ。シンジ君は、それができたんだ。もっと自信を持てばいい。
 君は大した男なんだから」

 「はい、ありがとうございます。加持さん」

 シンジにとって、あの時助言を与えてくれた加持は、自分がなりたい大人の一つの
 姿だったので、その加持に褒められて嬉しくなっていた。

 「ん? ところで綾波君はなぜこんな時間にここに?」

 「あ、あの、私も碇くんと一緒にここに住んでるんです」

 レイにとって、加持と話をするのはこれが初めてだったが、
 『シンジの事を褒める人 = いい人』
 の図式がレイの頭の中にあるようで、加持の事を安心できる人だと思ったようだ。

 「え? そりゃまたどうして?」

 「私は一人でいるのが寂しくなったんです。だけど、碇くんと一緒にいると楽しい
 し、落ち着けるし、とてもいい気持ちになるんです。だから、ミサトさんに無理
 言って、一緒に暮らさせてもらってるんです」

 「そうだったのか。で、どうだい、シンジ君と一緒に暮らせて?」

 「はい、とっても幸せです!」

 「あ、綾波」

 ムッ!

 「ははは。まいったねこりゃ。そこまではっきり言ってくれるとはね。こりゃアス
 カも、うかうかしてられないな」

 「……しかし、こんな美女三人に囲まれて暮らしてるなんてうらやましいな、シン
 ジ君は。替わってもらいたいくらいだよ」

  全くだ。炊事、洗濯などをしなくてはならないが、『シンジと替わりたいか?』
  というアンケートを取ったら、何人くらいが替わりたいと思うだろうか?

 「じゃあ、加持さんも一緒に住みましょうよ」

 「ん?」

 「レイが引っ越して来たとき隣の部屋と繋げたから、まだ部屋があいてるの。ね、
 そうしましょうよ!」

 「そいつはいいね。葛城、俺を養ってくれるかい?」

 「何バカ言ってんのよ! そんな事できるわけないでしょ!」

 「だめか? いや~残念だな。ヒモは男のロマンなんだが」

 「バカな事言ってないで、さっさと安全な仕事見つけなさい」

 「へいへい」

 「あの、ミサトさん。加持さんと結婚するんですか?」

 「け、結婚たって、別に今すぐってわけじゃないのよ。加持君が安全な仕事を見つ
 けて、ちゃんと私を養えるようになってからの事なんだから、まだ随分と先の話
 よ」

 「でも、将来は結婚するんでしょ?」

 「ま、まあね、そのつもりだけど」

 「おめでとうございます、ミサトさん」

 「おめでとうございます、ミサトさん」

 「…………」

 「あ、ありがとう

 ミサトは真っ赤になっていた。

 「三人とも、俺たちの結婚式には出てくれるんだろ?」

 「ええ、もちろんです」

 「私、結婚式って初めて」

 「……………………」

 「どうしたアスカ? アスカは出てくれないのかい?」

 「私は……」

 『どうしたのかな、私…… あんなに加持さんとミサトの結婚を嫌がってたのに、
 今は嫌がってない。むしろ、祝福する気になってる。どうして……?』

 そんな事を考えながら、ふとシンジを見る。すると、シンジと目が合ってしまい、
 慌てて目をそらす。

 『バ、バカ! 何を考えてんのよ私は!』

 「ま、しようがないわね。加持さんがそこまで言うなら、出てあげるわよ」

 「本当にいいの? アスカ」

 「だって、ミサトにとってこれが最後のチャンスじゃない。私が嫌がって、ミサト
 が『いけず後家』にでもなったら一生ネチネチ言われそうだもの。仕方ないから、
 認めてあげるわ」

 「ず、随分とトゲのある言い方ね。若さゆえのゆとりかしら……」

 ミサトは、こめかみの辺りをヒクヒクさせていた。

 「やーねー。ひがまないでよ。私はミサトの事を心配して言ってるのよ。まっ、私
 が若くて美しいのは事実だけど」

 「ほ~、つまりアスカはシンちゃんがいるから、もう加持君は必要ないわけね?」

 アスカのイヤミに対して、ミサトも少し意地悪く言い返した。

 「な、何でそこでシンジの名前が出てくるのよ!」

 「あ~ら、違うの? 私はてっきり、将来シンちゃんと結婚しようと思ってるから、
 私と加持君の結婚を認めたんだと思ったんだけどなぁ~」

 「そうか、俺はもうお払い箱か」

 「もう! 加持さんまでそんな事言わないでよ! 何で私がシンジなんかと結婚
 しなきゃいけないのよ!」

 「じゃあ、アスカはシンジ君と結婚する気はないのかい?」

 「当ったり前じゃない!! どうして美しい私がわざわざ好き好んで、こんな
 情けないやつと結婚するのよ! 常識で考えたら分かるじゃないの」

 「そっか、アスカはシンちゃんと結婚する気はないか……。
 良かったわね、レイ

 「はい!!」

 レイは、実に屈託のない笑顔でそう答えた。


 <つづく>


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